第386号 物流・流通を変革する武器RFID(自動認識システム)を考える。(前編)(2018年4月24日発行)
執筆者 | 髙野 潔 (有限会社KRS物流システム研究所 取締役社長) |
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執筆者略歴 ▼
目次
1.はじめに・・・。
私は、日本のバーコードの幕開け(1972年頃)に相模原にあるN自動車の補修・サービス部品センターでバーコードの活用を開始しました。
合計20~30万棚以上のパレット、バケットを保管する高層自動倉庫群の入出庫設定と梱包作業ラインの制御、川崎東扇島に建築した輸出流通基地でIBM80欄カードをバーコード方式に切り替え、入庫設定とライン制御に使い始めました。
最初に使用したH製作所のバーコードは、日本標準を各社が競っていた?時代で他社企業との互換性がなく、東扇島に搬入した自社(相模原)センターの梱包物の外装ラベルと各企業から直送して貰う輸出梱包物(外装ラベル)との互換性がなく、東扇島の現場で入庫設定する際に変換するシステムを取り入れるなど大変苦労しました。
さらに、9,600BPIが当時の通信速度の最速で、ユニーク性の番号化したバーコード情報(梱包物のデータ情報を引き出すコード)が唯一の頼りでした。バーコードの使い勝手を良くするためにH製作所のバーコードから統一(互換性のある)バーコードに切り替え、タッチ方式から非接触方式に変えることで精度と生産性向上を狙うことにしました。
当時、未だ普及していないと思われる非接触方式をH製作所とN電気精器の協力で現場での改善で本格導入することにしました。さらに、走行台車上の複数梱包物(パレット上に1~6梱包)のバーコードを同時読み取りするために、入庫設定情報を音声、画像認識などで読み取り、コード変換をコンピュータ内で行い、データを自動読み取りするシステム開発に試行錯誤を繰り返しました。今では考えられないことでした。
さらに、走行台車上のバーコードを非接触で自動読み取りするために互換性のあるバーコードラベルをプリント、自ら全ての商品に貼らなければならない時代でしたが、梱包数が多く国産のL/Pではスピードが遅くやむを得ず日製産業(現・日立ハイテクノロジーズ)にお願いして海外からL/Pを調達して貰ったものでした。
その時に、画像認識システム(流通業の棚割システム)で活躍していたK社勤務のS氏(IT系技術者)と知り合い、S氏がK社を退職、岡山県(本社)にある船舶用機器の開発・製造企業のIT部門(東京支店)に再就職、当時RFIDのリーディングカンパニーとして脚光を浴びていた「Liti」(株式会社先端情報工学研究所)とコラボしてRFIDの利用技術の開発に取り組んでいました。
私は起業した直後でしたが、RFIDの利用技術を経験したく物流分野の専門家として月数回、S氏達と利用技術の研究を重ねていました。物流実務で活用できる利用技術を実務で生かそうとしていた矢先、「Liti」が大きな負債を抱えて挫折、習得の機会を失ってしまいました。
近年、人手不足を背景に物流の合理化・生産性向上が注目されはじめています。全ての産業界において革命的な効率化をもたらすと≒20年前から言われていたRFID(自動認識システム)について記述してみたく思います。
2.RFIDとは・・・。
RFID(Radio frequency identification)とは、ICタグ、RFタグ、非接触タグとも呼ばれ、電波(電磁波)を用いて内蔵したメモリのデータを非接触(無線)で読み書きする情報媒体のことです。
電波が届く範囲であれば、タグが遠くにあっても読み取りが可能で、RFタグはICタグとアンテナが組み合わされたもので、リーダ/ライタが離れた所から無線でデータ(電波を電気に変えRFタグに記録して情報)のやり取りができるシステムです。高度情報サービスのツールとして期待される自動認識技術です。
タグや読み取り機などを含めたシステムの総称をRFIDといいます。現在広く利用されているバーコードの運用では、1枚ずつバーコードの読み取りに対し、RFIDは電波でタグを複数一括での読み取りができます。
3.RFタグの特徴
前述の如く、RFIDは、電波でタグを非接触で読み書きすることと、複数のRFタグを一気に電波を用いて読み書きすることができます。電波が届く範囲であれば、RFタグが遠くにあっても読み書きが可能です。
RFタグの特徴は、データの書き換えができること、汚れなどに強いこと、ある程度遮蔽物があっても読み書きができること、同時に複数の読み取りが可能なことが大きな特徴です。
RFタグの読み取り精度、距離、範囲などは、一概には言えませんが、用いる電波の周波数帯により、LF帯(中波帯 ~135kHz)、HF帯(短波帯 13.56MHz)、UHF帯(極超短波 900MHz帯)、マイクロ波(2.45GHz)に大別されます。
無線・電波が到達する距離は、アンテナの大きさや用いる周波数帯(電波の強さ)によって条件が異なりますが、一般的にLF帯(中波帯 ~10cm)、HF帯(短波帯 ~30cm)、UHF帯(極超短波 ~5m)、マイクロ波(~2m)と言われています。
アパレル業界などでは、商品にRFタグを貼り付け在庫・棚卸管理やレジ打ち等の効率化を図っています。(前述のLitiの得意分野でした。)
RFIDの技術を用いた身近な事例としてカードをかざして施錠・解錠などを行う入退室や交通カード(SUICA/ICOCA)など、人がリ-ダーにかざして用いるものと、流通業がレジ・検品・棚卸、在庫管理や流通量の調整などで効率化を実現できるもの、万引き防止などの効果も期待されています。工場での生産管理、図書館での蔵書管理など様々な場面での利用拡大が進んでいます。
4.RFIDの市場動向
産業界のRFIDの普及の鍵は、タグの市場価格の低下と言われていますが、企業が期待している価格帯には、まだまだ距離がありそうです。
カブドットコムの資料によりますと経産省は2025年までにセブン‐イレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ、ニューデイズの全ての取扱商品にRFタグを利用することについて、一定条件の下で各社と合意したと発表しています。
これに合わせて「コンビニRFタグ1,000億枚宣言」を策定、流通系が抱える人手不足、コストの上昇、生産性などの様々な課題を解決するために推計で年間1,000億個の商品にRFタグを貼付け、商品管理やサプライチェーンでの情報共有などを進めていく方針だそうです。
既にファーストリテイリングが運営するGUでは一部店舗で、セルフレジの導入が進み、レジの効率化や省人化、スムーズな会計が実現しているとのことです。また、オンワードホールディングスは検品などの作業効率を1/10に削減、経産省では2025年までにRFタグの単価を1円以下にし、貼付した商品をRFIDで管理できる環境条件を整備したいとしています。
関係各社もRFIDの生産、販売関連事業を拡大する動きを加速させています。大日本印刷は低価格RFタグの開発に着手、現在約10円台を2020年までに5円以下、2025年までに1円を目指すと発表しています。また、村田製作所は、RFIDのイタリアベンチャー企業「ID-ソリューションズ」を約20億円で買収したとのこと、そして、ソフトウェアを含むRFID導入の提案力を高め、事業強化の拡大を図ろうとしています。
上記のようにRFID事業の市場拡大が視野に入ってきているようです。今後も、官民ともにRFID導入に向けた動きが加速していくことが予想されます。
産業界のRFIDタグの市場価格の推移は低下が続いていると言われていますが、企業が期待している価格帯には、まだまだ乖離がありそうです。
MONOist(モノづくりスペシャリストのための情報ポータル)資料によりますとHF帯は2008年度で1枚当たり約86.5円、2017年度で約60.7円/枚、UHF帯は、2008年度で1枚当たり約64円/枚、2017年度には約27.8円/枚に下がると見込んでいます。
さらに、国内市場として2012年度から2017年度までの年平均成長率が8.1%、2017年度の国内市場規模は984億になると予測しています。
現在、RFIDの導入実績としてレジの効率化が進んでいるそうです。レジ打ちと支払いを分離したレジシステムの見直しが展開されそうです。
我が家が良く買い物に出かける大和市(神奈川県)中央林間にある大型スーパーが未だRFIDは、導入されていませんが、レジ打ち器15台、支払精算機19台を新たに設置しました。妻の買物中に実測しますとレジ打ち≒23秒/1人平均、支払精算≒15秒/1人平均(概算)で処理できていました。レジ打ちと支払精算の分離で処理が早くなり、レジ待ち行列が短くなりました。
確認した日のレジ打ち稼働台数は9台、現場を見る限りではレジ打ちの人員削減(▲6人)顧客のレジ待ち縮小、ストレス解消などでサービス性の向上が見てとれました。(あくまでも概算です。)
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