第387号 物流・流通を変革する武器RFID(自動認識システム)を考える。(後編)(2018年5月10日発行)
執筆者 | 髙野 潔 (有限会社KRS物流システム研究所 取締役社長) |
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目次
4.RFIDの市場動向 (続き)
次は、レジ打ちに代わりRFIDでレジの自動化、レジの無人化を進めるものと期待している所です。但し、バラ(単品)扱いも多く価格が安くアイテム数の豊富な鮮魚、野菜、果物、パン、etcの生活用品を扱うお店にとっては、RFIDの導入は、RFタグの価格が高く導入は至難の業と思われます。やはり、投資対効果をクリアできる商品付加価値を持ち合わせた流通企業からスタートするのが無難に感じます。最近の日経新聞(平成29年の12月頃)によりますとファーストリテイリングが展開するユニクロが1年以内に国内海外、約2,000店舗 全店に RFタグを導入するとの記事が掲載されていました。初期投資は数百億円に上る見込みとのこと、同社は、RFIDシステムを全店舗に導入することによって、瞬時に在庫管理を済ませ、店員を接客に回し、来店客には会計の待ち時間や欠品を少なくする効果で投資対効果を出すとしています。店舗へのRFタグの導入は、まずは入出荷検品、在庫検索、レジ精算、棚卸業務などのメイン作業の効率化・販管費の削減、防犯管理などへの活用から始まり、その後、店舗内での顧客購買行動の追跡に利用したい考えのようです。
上記の如く、課題山積に見えますが「バーコード」も、実用化までに時間こそかかったものの、普及のスピードは、関係者が“奇跡”と呼ぶほどの速さだったと言われています。バーコードの実証実験は国内でも1970年代からデパートなどで行われていましたが、規格統一の遅れやメーカーがコスト負担に消極的だったこともあって、実用化が進まなかったそうです。
突破口を開いたのがセブンイレブンだったそうで1982年、全店でバーコードに対応した新型レジが導入されました。バーコードを活用したコンピュータでの商品管理の実用化で小売業にとっては販売状況を即時に把握でき、メーカー側にとっても販売にあわせて生産調整ができるとのことで産業界全体に一気に導入が拡大しました。ユニクロの大規模なRFIDの導入により、産業界、取り分け物流・流通業界に弾みがつくことを大いに期待したいものです。
5.製配販をにらんだコード体系の標準化を・・・。
RFタグの活用は、全ての産業界において革命的な効率化をもたらすと20年前から言われていました。さらに国際的にも全産業の国際競争力の強化に繋がるものとして経産省も普及に常々バックアップをしてきました。その普及のカギは標準化と価格低減(RFIDシステム)が握っていると思います。数十年前に経産省が日本は、開放経済体制を取り、多くの日本企業が国際取引を行い、国際標準(上記の商品コード体系・標準化の必要条件を参照)でなければ「RFIDの標準とは言えない」さらに、RFID普及のためには、規格を国際標準にすることが不可欠と言っていました。私の拙い過去の経験からも、もろ手を挙げて同感します。商品コード体系の一元化、全産業の商品マスターの共通化などからも標準化が必要と考えます。輸出入を考えると世界共通のコード体系の一元化は必須条件と考えます。
特にコードの統一化の難しさは、絶対条件と考えますが過去の経験からの難しさを私も同感です。30年位前に化粧品・日雑卸の共同化に参加した際、各社の商品コードの一元化に頭を悩ませた記憶が強烈に残っています。同一商圏、同業種の地域卸の共同化で商品コードの一元化だけでなく、取引先(メーカー、小売業)の全てのやり取りするコードでインターフェイスする必要があり、DBなどの統一化が絶対条件でした。大変な苦労と心労を味わいました。
当時は、卸各社のアイテムは数万種類もありました。商品コードをメーカー、卸、得意先毎に各社独自の自社コードで管理していました。これらの関係企業(製配販)が同一タイミング(システムスタート時)で一元管理することの難しさを体感しました。その当時、JANコードの普及が始まったばかりの時期で卸各社の自社コードとJANコードが混載、一元化の壁を乗り越えるのに苦労しました。大手メーカー(ライオンやサンスターなど)のベテランの人達が商品名と自社コード(卸4社)の名寄せ(机上作業)で何ケ月も手伝ってくれました。何度もマスターの醸成を行い、やっと一元化にたどり着きました。
テスト&トライアル時にJANコードが登録されていない商品は、エラーが出た都度、メーカー、流通コードセンターなどに問い合わせしながら新設・変換を根気よく行いました。卸各社(4企業)の商品マスターは、JANコードと自社コードの並列で管理していました。自社コードがあれば困らない時代でしたが、標準化(物と商品コードの一元化)を第一義に考えました。メーカーとのやり取り、得意先との受発注、入出荷報告などは、全てJANコードに切り替えました。卸各社の得意先からの受注オーダーが全てJANコードの変換が済まないと在庫引当処理に入れず、逆に納品伝票(伝送データ含む)などの商品コードは、各社コードに変換することで取引先の業務に支障をきたさないようにする必要がありました。機を見て商品コードと商品名の一本化を図りました。
RFIDを活用したサプライチェーン、商品トレーサビリティ、海外企業との取引も含め業界を越えた一気通貫性を持つことが必須と考えています。現状のRFIDに関わる標準化の進捗状況などを理解していませんが、早い段階で製配販に関わる企業を束ねたRFIDの発展の妨げにならないよう大企業、中小企業、業種業態を問わず、バーコードのように誰もがコードを気にしないでRFIDシステムへのシフトが自然にスムーズに取り組めるようにコード体系の標準化を早く勧めて欲しいものです。
6.物流におけるRFIDの事例
非接触でデータの読み書きが可能で複数タグの一括読み取りができるといった利点から、物流管理のシーンでRFIDが活用されてきています。特定の業務に限定されますが入出庫時の検品や棚卸など、1件ずつチェックしていた情報を一括処理できるようになり、作業効率の改善が図られているようです。
さらに、パレット毎や商品ケース毎に貼られたRFタグを商品単位に貼ることで、工場~倉庫~物流~納品先の、どの過程に商品があるのか、納品先のどの棚に保管されたのかをいち早く追跡できるようになりました。また、倉庫内、納品先内では、一商品ずつ数えていた棚卸検品を一気に片づけることができるようになったようです。
上記のシステム構成は、パレットの個体管理を行うため全パレットにユニークな番号を持ったRFタグを装着、RFタグリーダーからの読み取り(ゲートの両側にアンテナ設置)、HOST系とのI/Fで在庫管理を行います。複数のアンテナを同時に制御する時は、マルチチャンネルRFタグリーダーでHOST系に転送します。(参考:前述の東扇島システムでは、複数バーコードの同時読み取りもICU制御で可能にすることができました。)
7.最後に・・・。
経済産業省は、卸売業や小売業の労働人口が2015年の1054万人から、2030年には20%以上少ない806万人に減るのではないかと試算しています。人手不足によるサービス水準の低下を防ぎ、生産性の向上を確保するために効率化手段を講じようとしています。経済成長期から少子高齢化を背景に多くの企業が人手不足に直面しています。さらに、人手不足を放置すれば、長時間労働がまかり通り、生産性は高まらず、持続的な成長はままなりません。そこで、人工知能(AI)やロボットを活用することで、人手不足に負けない効率的な働き方の実現を目指しています。
新たな事業にも繋がると思います。物流・流通業界にとっても労働力が減る中で非接触型のRFIDシステムが流通・物流業界全体に展開されれば、少ない労働力で物流・流通の絶対的な価値である「品質・精度、スピード・納期、ローコスト」の価値を高める絶好のチャンスになると考えます。産業界や市場は、人工知能(AI)やロボットなどに目を向けていますが、投資額が人工知能(AI)やロボットよりも少額で危険やメンテナンス費用も少ないバーコードシステムと同様に自動認識システム(RFIDシステム)を仲立ちに人を大事にする「人(作業者)と情報システムとマテハン」を融合した流通・物流システム(仕組み)を世界に先駆けて日本で展開したいものです。
以上
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