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WSセミナー

第366号 最近のロジスティクスの動向 ~人手不足・物流共同化・技術動向など~ (前編)(2017年6月20日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(流通経済大学 客員講師
株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

 

目次

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*サカタグループ2017年2月22日開催 第21回ワークショップ/セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回「最近のロジスティクスの動向~人手不足・物流共同化・技術動向など~」と題しまして、事例等を交えて講演いただきました「株式会社日通総合研究所 顧問 長谷川 雅行」様の講演内容を計2回に分けて掲載いたします。
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1.労働力不足

  本日のワークショップのタイトルは、「ロジスティクス戦略の新動向〜流通革新とこれからの物流のあり方を考える〜」です。私はその前段として、今どんなことが起きているかということを問題提起させて頂きます。答えは、物流学会でもご一緒させて頂いている、橋本先生にお願いしたいと思います。
  私の報告は、労働力不足から始まり、最近の物流技術まで、労働力問題を背景として全部繋がっています。ご来場者を拝見すると、荷主も物流会社も居られますが、皆さん人手不足で大変なのではないでしょうか。
  トランプ大統領の下で、これからの日本経済がどうなるか、為替がどうなるか、予測は誰にも分かりませんが、絶対に当たる予測は人口の動向です。日本では、1年間に約30~50万人の人口が減っています。50万人というと、地方の中核都市が毎年1つずつ消えることになります。少子高齢化で高齢者が増えていくとどうなるかというと、ワークショップの前に橋本先生と話していましたが、「産業界や学会を支える30~40代がいないと困るよね」ということになります。

図表:1.労働力不足
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  3月12日から準中型免許がスタートします。皆さん方の普通運転免許証は、最大積載量4トンまで運転できる人が大半だと思いますが、今の高校生は卒業して免許を取ると、通称4トン車の免許はとれません。
  「それではモノを運べない」ということで、警察庁へトラック協会、産業界が要望して許可されたのが 車両総重量7.5トンまでの、準中型免許です。警察サイドからは「安全についてしっかり教育しなさい」という条件がついて、準中型免許が許可されたのです。

図表:1(1)トラックドライバー不足に係る課題
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  トラックドライバーの不足について、少しお話したいと思います。ドライバー不足の課題として、長時間労働・低賃金があり、いろいろな統計を見るとドライバーの労働時間は年間2,500時間、普通の産業が年間2,000時間で、500時間くらい長いと言えます。
  給料も、他の産業では年収500万円位ですが、ドライバーは400万円位です。400万円は100万人以上いるドライバーの平均値です。つまり、少数の大きな運送会社と6万社の小さな会社との平均値です。
  私は平均値ではなく、中央値で見た方が実態感覚に近いと思います。例えばドライバーが100万人なら、給料の高い方から並べて真ん中の50万人目の給料が中央値です。私は、仕事上ドライバーに直接ヒアリングする機会があるのですが、実感として、中央値は300万円くらいではないかと思います。
  長時間労働については、今、厚生労働省は、「3ヶ月平均で80時間以上、直前1ヶ月は月100時間以上の時間外労働が原因で、脳疾患や心臓疾患を発症したら、『過労死』で労災認定」というガイドラインです。
  ドライバーは、月間293時間までの拘束時間が改善基準で認められています。労基法で定める週40時間労働では、月間の労働時間は176時間(1日8時間労働で月間22日)ですね。すると293時間の拘束時間ということは、時間外労働が80時間をはるかに越えることになります。
  私はトラック運送業の社長さんに、「お宅の会社のドライバーが、脳疾患や心臓疾患で亡くなったら、過労死で責任を問われますよ」と話して嫌がられています。
  労働力不足対策として、女性や高齢者も活用していかなければならなりません。そのためにはいろいろ準備が必要になります。例えば、女性や高齢者でも働けるような、物流の効率化・省力化、つまりパレット・コンテナによる標準化が必要になります。標準化は今まであまり注目されなかったのですが、最近は追い風が吹いています。なぜかと言うと、「パレット化して手積み手卸しをやめないと、ドライバーが来てくれない」という状況になっているのです。
  私は、ドライバーの長時間労働を減らそうという仕事のお手伝いをしています。食品メーカーや菓子メーカーでは、今までは10トン車1台で2,000ケース、手積み手卸しに各2時間かかっていました。それでは、ドライバーが来てくれないから、手積み手卸しを「パレット化しよう」と、真剣に取り組んでいます。

2.物流共同化

  図表では、左図では5軒の発荷主から5軒の着荷主にバラバラに配達すると、5×5=25台のトラックが必要です。これを、右図のように、例えばサカタウエアハウスさんが中央に共同物流センターを作り、「そこまで持ってらっしゃい。持って来てくれたら一緒に届けるよ」となると、5+5=10台になります。積載率は当然上がり、ドライバー一人当たりの輸送量が増えて生産性も上がります。
  労働力不足対策は、中長距離では、鉄道・海運の大量輸送機関にモーダルシフトする。一方、首都圏などのエリア配送では、共同配送が解決策です。
  現在、トラックの積載率下がっています。以前は約50%でしたが、最近は約40%です。これは、「10台のうち6台は空車」というわけではなく、「本来なら10個積めるところを、指定時間があるとか、ルートが決まっている等で、4個積んで走っている」というのが実態です。1人のドライバー、1台のトラックでできるだけ多くの貨物を運ぶことを考えると、共同物流が答えだろうと思います。
  喫緊の課題が、宅配便の再配達への取り組みです。先ほど、冒頭のご講演で田中社長が紹介された新聞記事にも、持ち戻り再配達で延べ9万人が無駄に働いていると出ていました。
  昨日、トラックドライバー長時間労働削減の仕事の帰りに、JR鶴見駅の改札の中に、宅配BOXがあったのです。会社帰りに受け取れるということでしょう。何んとそこには、フランス製の「PUDO」という宅配BOXと、その隣に真っ赤なマークの付いたゆうパックの宅配BOX「はこぽす」が設置されていたのです。貴重な駅構内スペースだから、何も2個並べる必要はなく1個にして「共同化」すればよいと思いました。
  こういった「囲い込み」が、物流の効率化についてのこれからの課題だと思います。

図表:2.物流共同化
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  国土交通省は、トラック運送の生産性向上に一生懸命取り組んでおり、先日セミナーがあり、私も聴講してきました。その中でも共同化や宅配再配達削減の話がありました。セミナーでは、自動車局貨物課長が「荷主さんも物流業者も一緒になかよく連携して、長時間労働削減に取り組んでください」と話されていましたが、私は「少し違うのではないか」と思ったのです。
  国交省の車両制限令では、車両高さが3.8mまでとなっています。しかし、「指定道路では、貨物は4.1mまでいいですよ」となっています。トラックのボディは高さ3.8mだけど、コンテナを積むなら4.1mまでいい。これは不合理で、「コンテナが高さ4.1mまでOKなら、トラックもボディ高さ4.1mまでよいのでは」というのが私の考え方です。恐らくコンテナは台数が少ないからよいが、トラック全部OKとなって増えたら困るということなのでしょうか。
  高さ30cm余分に積めるなら、ドライバーの生産性が、最大30cm分増えます。「パレットやロールボックスを使っている場合以外はダメ」とすれば、省力化が進みます。「パレットの厚さ144mm分の積載率が落ちるから」とパレット化していない荷主がいるくらいです。パレットやロールボックスなら高さ4.1mがOKとなれば、手積み手卸しが減ることが期待できます。
  高さ制限は、同じ国交省内部で相談してできると思います。「まず、省内でできることから改善していかないと、長時間労働の削減は実現しない」と、貨物課長の話から感じた次第です。
  図表は、各地における商店街の共同物流です。たとえば福岡の天神地区の共同輸送は、「イエローバード」(共同輸送の黄色塗装トラック)です。吉祥寺の商店街は、日通総研もお手伝いして、今東京都の「東京における地区物流効率化認定制度」に認定されましたが、共同集配送センターを活用し、共同集配送事業を行っています。
  図表は横浜・元町商店街の共同配送で、女性の方はご存知と思いますが、キタムラ・スミノ等の高級専門店があります。裏通りから商店街までの約60m離れた専用駐車スペースから納品しますが、ロールボックスで道路を店舗まで押して行きます。駐車スペースには屋根がないので雨が降ったら気の毒ですね。現在は、元町エコストリートとして「元町共同配送集配センター」を設置し、共同集配送事業を行っているのです。地域内の共同配送については、丸の内、大手町、有楽町エリアでも実施しています。

図表:横浜・元町商店街の例(元町SS会)
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  本日の会場である晴海トリトンスクエアや銀座・汐留などでは、館内物流の共同配送が進んでいます。図表は、銀座の東急プラザ内で実際に館内物流の事例です。新宿でも摩天楼スタッフとして実施しています。ドライバーがラストワンマイルを、いかに効率よく運んでいくかということを考えると、こういう形で一括してSBSさんがやらなかったら、平均積載率40%のトラックが集中して混んでしまってどうしようもなくなるわけです。それを東急プラザ地下でSBSさんが全部一括荷受けして効率的に館内物流を実施しています。業界用語で言う縦持ち作業ですね。
  日通本社ビルのある汐留シオサイトでも地下に荷受け・荷捌き場を作っており、地上ではなかなかトラックを見かけません。

図表:館内物流の事例
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3.国際物流

図表:国際物流
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  それでは今度は国際物流の話をします。国際物流というと「俺のところは関係ないよ、ドメスディック1本だから関係ないよ」「海外の話はめんどくさいよ」といわれます。
  私はこの図表を使って大学生にも話すのですが、「いやいや、そうじゃない」ということです。大学キャンパスの自販機で、お金120円を入れるとコーヒーがゴロンと出てきます。そこで、学生に「皆さんは、自販機の裏側にある流通経路を考えたことがありますか。それが、「国際物流で世界とつながっている証拠だよ」という話です。
(詳しくは、2017年5月23日発行ロジスティクス・レビューNo.364「グローバル・ロジスティクスの落とし穴」参考)

「図表:グローバル・サプライチェーンの例
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  今度は、輸出の話をしましょう。チリで産出された銅鉱石が、チリ~日本~中国~メキシコ~アメリカと世界を巡って、自動車になる話です。
(これも詳しくは、2017年5月23日発行ロジスティクス・レビューNo.364「グローバル・ロジスティクスの落とし穴」参考)
  図表のメキシコからアメリカの間に「壁を作る」と、トランプ大統領が言っています。今は、NAFTA(北米自由貿易協定)により、メキシコから無関税で輸出しています。関税を新たにかけるとメキシコが困るのではなくて、回りまわって、日本の自動車メーカー・部品メーカー・金属メーカーが困るのです。
  冒頭の講演で、田中社長が話されていましたが、今日の新聞に、「壁ができて貿易が滞ると関税が高くなる分、日本のGDPが0.6%下がる」と報じられています。2016年の日本のGDPが、全国民が頑張ってやっと1%上がったものが、一気に0.6%に下げられることになります。
  この図表は、サプライチェーン・マネジメントでいう最適地調達、最適地生産、最適地販売です。一番安いところから部品を調達し、一番コストの安いところで製品を作って、一番高く売れるとことで売ることがグローバル・サプライチェーンなのです。
  いま流行っているのはVMI(ベンダー・マネージメント・インベントリー)ですね。例えば、サカタウエアハウスさんの物流センター・倉庫があるとします。倉庫に入っているのは、最終の組立メーカーの所有ではなく、サプライヤーの所有です、組立メーカーは、「ウチの工場にあっても、部品はウチの所有じゃない。サプライヤーが所有している。ウチは使った分だけ、お金を払う(仕入れる)よ。だから、サプライヤーに在庫管理責任がある。欠品は許さないよ」というのが、VMIの仕組みです。
  私は、資材・購買関係の団体で、在庫管理のセミナーもやっており、ロジスティクス・レビューでも、先日、在庫管理について寄稿しました。VMIは「棚卸資産評価額と在庫管理責任を川上におしつける」ことではないかと思っています。
  国内については、銅鉱石からぐるぐる回って自動車になるまでを話しましたが、VMIは家電メーカー等でも実施しています。
  国際的なVMIで困るのが、非居住者在庫が認められないことです。国によっては、「会社(サプライヤーさん)が自国に住んでいないと、現地法人が自国にないと在庫を置かせないよ」ということがあります。
  WTOは、今年になって貿易円滑化協定(TSA)が発効して、簡素化・透明化が進みますが、非居住者在庫も普及拡大されるべきと思います。
  ロシアでは、非居住者在庫を認めないというわけではありませんが、ロシアの近くのフィンランドやポーランドに非居住者在庫を置いて、そこからVMIの形式で、つど国境を越えてロシアに供給している例が多いのです。
  3~4年前ウラジオストクへ国交省の仕事で行きました。ロシア極東海運(FESCO)という会社でロジスティクス部長が出て来ました。「何でも聞いてくれ」と言うので、ちょうど良いと思って「なぜロシアは非居住者在庫を認めないのだ」と聞いたら、「法的にはOKでも、事実上難しい」と明確な回答はありませんでした。海岸線から何メートルかは、国防上の見地から国(公団)が所有しているなど、ロシアはロジスティクスについては遅れているという印象を持ちました。

図表:調達物流(バイヤーズ・コンソリデーション)
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  輸入で最近増えているのがバイヤーズ・コンソリデーションです。図表は山九さんの資料です。バイヤーズ・コンソリデーションとは、買う方が現地で荷揃えして、コンソリデーションつまり混載を行うということです。1本のコンテナの中に海外メーカーA社、B社、C社の商品を詰めて持って来る。
  いろいろ調べてみたら、これを最初に始めたのはホームセンターのコメリさんだと言われています。コメリさんが安い商品をコンテナ満載で持って来ないと割に合わないけれども、「コンテナ満載になるまで待っていたら、お客さんがシビレを切らしてジョイフル本田など他のホームセンターへ行ってしまう」と、考えたのではないかと言われています。
  例えば、A社がコンテナ満載になるのに40日かかるとします。B社が30日かかります。C社は20日です。そうするとコンテナ仕立ては、それぞれ40日に1本、30日に1本、20日に1本ということなりますが、A~C社の商品を全部、例えば上海に集約・混載しコンテナ満載になったら、日本に送るということをすれば、今の40日がたとえば一番短い20日に合わせれば20日に1回(実際には2週間に1回くらい)になって、調達リードタイムが40日から14日になる。これがバイヤーズ・コンソリデーションによるメリットなのです。バイヤー(仕入れ担当者)に代わって、山九さんが「フォワーディングでやってあげます」ということです。
  山九さんは今度、ファミリーマートで取り扱う日本郵政のEMS(国際郵便)のフォワーディングを実施します。国際物流でも、今までみたいなロット(取扱単位)も変わってくるし、こうなると、手間がかかるのが通関なのです。通関が今まで1コンテナ1社の書類だったのがその中に2社3社積み合わせたから、当然インボイスなどの帳票も増えてきて輸出入手続きが煩雑になります。やはり、小回りの利くフォワーダーに任せた方が良いと思います。
  国際物流に関連した通関の話ですが、財務省は通関の考え方を大きく変えて、今まで通関士が書類を作って税関の窓口へ持って行ったものが、輸出入申告をNACCS(自動通関システム)に登録し、審査はABCの3区分となって、区分Aは直ちに許可、区分Bは書類検査、区分Cは税関員による貨物検査になります。
  NACCSに入力するだけであれば、「通関士が東京港や横浜港の税関へいかなくてもいいじゃないか」と考えて、今後在宅による通関業務が可能となるそうです。いま話題のテレワークです。子供さんを抱えた女性の方でも通関士の資格を持った方なら、在宅で、もちろんNACCSもセキュリティがありますから、「在宅通関士」を事前登録してIDとパスワードにより、通関業務が可能となるのです。「人手不足対策としては国交省より財務省の方が進んでいるのかな」と、ニュースを見てそう思いました。

※後編(次号)へつづく



(C)2017 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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