第162号3PLビジネスおよび物流情報化の新潮流 ~流通センター業務のアウトソーシングと物流管理システムの最新事例~(後編)(2008年12月16日発行)
執筆者 | 増井 秀典 サカタウエアハウス株式会社 執行役員 システム研究所 所長 サカタインフォ株式会社 取締役副社長 |
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*サカタグループ2008年2月26日開催セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
*文中の敬称は省略しております。
*前編(2008年12月4日発行 ロジスティクス・レビュー第161号)より
目次
Ⅳ.3PLビジネスにおける今後の方向性
1.お客様の要望から見えるビジネスの方向性
「3PLビジネスにおける今後の方向性」ということで、私共の視点を踏まえながら整理し、説明したいと思います。
荷主企業は、これまで「物流品質を向上したい」「物流コストを削減したい」というのが中心で3PLへの対応・依頼を行ってきたわけですが、最近は言われるのが「継続的にコストを削減し続けたい」という話です。単純に今のコストが高いから下げるといったことではなくて、継続的に下げていくということです。これに対して、3PLとしては、どのようにお客様と継続的にお付き合いをしていく、或いは新しいお客様を獲得していくのかを考える必要があります。また、お客様とのパートナーシップの構築が非常に重要になってくると思います。単純に値下げ等だけをやっていたのでは、結局は最終的に破綻してしまいますので、そうならないように相互に利益を享受するような契約が必要になってきます。
2番目に、物流費の変動化です。例えば個建料金が挙げられ、1人いくらといった単価から作業当りの単価、1個いくらといったような請求によって変動するようにしたいといったことがあります。このようなことはよく言われるのですが、そうするとやはり論理的な物流費・分析能力等といったものが3PL側には当然必要になってきます。
3番目に、同じような変動化ですが、比率料金があります。物流費を固定して出荷金額に応じて何%で対応して下さいというような形式です。比率の場合、波動が非常に多いお客様が多くあります。そういった中では、作業人員は、柔軟になおかつ安価に確保できるマネジメント力が必要になってきます。
4番目に、厳格な契約の締結です。これはお客様の方からも言われますし、私共も当然必要だと思っているのですが、当然きちんとした価格設定の取り交わしを行っていくことになってくると、3PL側としては契約書の作成能力と交渉・締結能力等が必要となってきます。
5番目に、法令遵守・CSRです。企業の社会的責任というものですが、この徹底ということです。最近、お客様の方からは、少し言い過ぎかもしれませんが、いかなる理由があっても法令遵守或いはCSRを最優先したいと言われるくらい、今この点を重く見られているということがあります。やはり3PL側としては、それに対して対応できる意識・認識というものが必要ですが、それをサポートできるようなITの能力が必要となってくると考えています。
2.ゲインシェアリングについての考察
先程少し申し上げましたが、パートナーシップという話の中で、ゲインシェアリングという言葉を聞かれたことがあるかと思いますが、これについても、お客様からお話が出ています。
これまで、物流会社は、顧客から物流コストを下げるように要請されると、ただ努力してコストを下げるだけというようなパターンが多いのですが、ゲインシェアリングというのは、利益が出たらそれを相互で享受するという考え方です。結局このようにしていかないと、「コストを下げる」という形だけにしていくと、先程言いましたように、関係性が破綻してしまいますので、パートナーシップというものが非常に重要になってくるのではないかと私共は考えています。
日本ではこのゲインシェアリングを行っている会社は話としては聞くのですが結構少ないのが実情です。何故少ないかということですが、やはり厳密に契約を締結するということが、まだまだ日本の中ではそれ程多くはないということが1つあると思っています。例えば、基本契約や業務委託契約という契約を結ぶ中で、このようなことを含めた契約はなかなか実現し難いというのが、今の日本の実情かと思います。
一方で、先程アンケートの中で物流コストの中味が良く分からないというお話をしましたが、結局この辺りのことが分からないということもあるので、判断がつかないということがあるのではないかと考えています。
こういった契約の部分やコストを掴むといった事をきちんとやっていかないと、なかなかゲインシェアリングは実現しにくいと思っています。一方、翻って私共としては、こういったところをきちんとやらなければいけない、という認識で今動いています。
3.企業はどのような課題を持っているのか(再掲)
ここでアンケートですが、先程少し話をしましたように、「3PLの評価を行いたい」「3PLの見直しを行いたい」というお客様も結構いらっしゃいます。
3PLとしては、受託しても常に比較評価されている、或いは契約解除というリスクが伴うということがあります。
4.3PL企業の評価を考える
では、3PLがビジネスを続けていく為には、どのようなことを考えていかなければならないかということを整理したいと思います。
私は、約5年間、コンサルタントをやっていたのですが、実はその時も3PLの評価や3PLの見直し等、実際に「メーカーの3PLを変える」ということも行ってきました。その時にどのようなことを評価していたかということをお話します。
物流のプロセスのレベルは、オペレーションのレベル、プランニングのレベル、戦略のレベルと3つのレベルに分けた時に、オペレーションの部分でいくとサービス力、対応力、システム能力、提案力、管理能力があるわけです。
例えば、システムであれば、それを変えていく時に現状保有のシステム、荷主が要望する情報項目(KPI)へ対応、或いは提供可能なのかということがあります。特に、私がコンサルタントをやっていた時に出ていたのは、大きな地震があった時に災害やトラブルに対応できるのか、しかも早く対応できるのか、非常な物量波動があった時にそれに上手く対応できるのか、3PLを変えるにあたって庫内のサービスは同じ位できるのか、サービスレベルは維持・向上できるのか、といった点を評価してきました。
また、提案能力としては、自分達の立場に立った提案をずっとやり続けてくれるのか、そもそも物流の管理方法や管理能力というものは今と比べてどうなのか、最終的には将来自社のビジネス変化に対して対応し続けられるのか、といったところを評価してきました。
私共も含めてですが、3PL企業は、例え契約に至っても常に評価されているということを認識していくということが、大事だと言えるのではないかと考えています。
Ⅴ.3PLビジネスの潮流と新展開を考える
1.物流子会社の買収・売却
次に、今後の3PLビジネスの潮流と新展開ということですが、最近、ニュース等でもよく耳にされておられることですが、日立物流が資生堂の物流子会社を買収されるということで非常に話題になっています。
また、他にも郵政事業会社が三越の物流子会社の株式を取得されたという話や、IBMの物流子会社であるIBMロジスティクスが安田倉庫に売却されたこと。また、通販のムトウがハマキョウレックスに物流部門を売却された等といった話が、昨年、挙がっています。
日本には、物流子会社、いわゆるメーカー系物流子会社が800社位あり、売上高の合計が3~4兆円あるというように言われており、企業規模を拡大したい3PLにとってはまさに「埋蔵金」だということが言われており、企業規模を大きくしていく過程において、こういった物流子会社の取り込みということが今後も出てくると思っています。大きな3PL会社はより大きくなるという傾向になるのかと考えています。
2.共同物流によるビジネスの拡大
ビジネスの拡大という観点で考えると、共同物流センターというものが、これから注目されるのではないかと考えています。
これまで、共同配送はよくあるのですが、例えば、メーカーや卸の倉庫を一緒にすることなどによってメリットを出していくといったことも、今後のビジネスでは出てくるのではないかと考えています。
一部、大手の3PLでも実施されているケースがありますが、いわゆる共同化・標準化等です。情報通信においても流通BMSが進められており、標準化を進めようという機運が高まっています。
そういった中で、企業も物流で競争するのではなくて、商品で競争するという形に変わってきており、今後益々、3PLが役立てる部分があるのではないかと考えています。
3.物流業界の枠組みと今後
ここでは物流業界の枠組みと今後ということで整理をしていますが、ここで言うコンポーネントは、従来の物流業、単体機能的なことを指します。そして、パッケージャーは、いわゆる3PL的なところを指しています。
最近になって少し出てきたのは、この中間的なところです。例えば、郵政事業会社とローソンが新聞誌上では、総合的提携という言い方をされていますが、こういった隙間を狙ってきているという部分が新しいビジネスとして注目すべきと思っています。
それも含めてですが、業界全体が非常に変化してきており、競争も激しくなっている、というのが現状かと思います。今後は、4PLやLLP、或いはコンサルタント的なところが、物流業を取り込んだ形で動いていく、或いは更に進化していくと、合弁会社的なところになっていくのではないかと見ています。
Ⅵ.物流管理システムの最新事例
1.開発の背景
私共では、自画自賛になるかもしれませんが、「物流会社にシステム化が必要」と言われるかなり以前の1972年から、システム化に取り組んでいます。1992年には、IBMのAS400を導入し、その間いろいろな所でシステムを開発しながら現在まで進めてきたのですが、現在オープン系の物流システムを開発しています。その背景は、先程ありましたお客様への対応強化を掲げていますが、同時に、システムを維持していく上においては、やはり人材の確保が必要であり、それを補いつつ、お客様の要望に対する開発速度を上げていくといったことを考えて進めています。また、更には、そのシステムをパッケージソフトとして外販するということで、新たなビジネスとして進めています。
2.システムの特徴
さて、新しい倉庫管理システムということで、昨年末にリリース致しましたが、これまでのシステムと変わっている点は、必要な機能をモジュール単位で組み合わせて使用できるという点です。
これまでの倉庫管理システムは、パッケージソフトとして、セットを一体で買わなければいけなかったため、不必要な機能もたくさん搭載している、ということがあったのですが、弊社のシステムはモジュール系で機能を区切っていますので、必要な機能を付け加えていく、或いは業界毎のテンプレート的なところを用意して、必要な機能のみを搭載できるということを特徴としています。このようなところは考え方として、新しいのではないかと思っています。
3.導入事例(1) ~システム構成・機能概要~
いくつかの事例がありますが、その中で中堅中小の倉庫会社の事例を紹介します。
二次元コードを使って、在庫管理・入荷管理・在庫管理・出荷管理を行う仕組みです。このシステムを導入する前は、どこにどの商品があるのかよく分からなくなるということで、お客様が商品管理に非常に困っておられました。二次元コードを利用した背景ですが、同じ商品・品番でも付加情報が存在する一方、固体管理を行う必要があり、JANコードだけでは管理できないため、ハンディターミナルを使って運用することにより、複雑な商品管理を簡単・正確に行うことを実現しました。
4.導入事例(2) ~機能説明① 起動~
ここでは、どのような画面があるのかを簡単に紹介しているのですが、当社のシステムは、インターネットエクスプローラから起動するような形になっていまして、ユーザーに非常にわかりやすい形になっています。
こういったパスワードやユーザーの管理を行うことにより、誰がいつどのようなオペレーションをしたのか、といった履歴を正確に残すようにしています。
4.導入事例(2) ~機能説明② 初期画面~
こちらは初期画面ですが、メニューが左側にツリー型に並んでいて、必要な機能が一覧で右側に表示されるようになっており、機能選択が容易になっています。
4.導入事例(2) ~機能説明③ 履歴検索~
こちらは、最近トレーサビリティということで、履歴を残すことが非常に大事になってきていますが、誰がいつどのようなオペレーションをしたのかということも含めて、履歴を正確に残すということ、そして、この表示の仕方は、お客様の要望によって変更できるといった形になっています。
4.導入事例(2) ~機能説明④ Excel連携機能~
もう1つの特徴としては、Excelとの連携があります。この機能は、AS400等という汎用機の仕組みでやっていますと、欲しい時に欲しいデータは、なかなか現場で取得できないケースが多くあります。
しかし、この仕組みで対応すると、ここに検索して出た情報を現場にてExcelで簡単に取り出せます。そして、更にそれを使って分析が出来ます。このあたりが弊社の倉庫管理システムの特徴となっています。
さて、最後に紹介したシステムですが、実は鉄道情報システム株式会社様と協業でお仕事させて頂いており、3月4日から3月7日のリテールテックJAPAN2008のJRシステム様のブースでデモをご覧いただけるように進めています。また、9月9日から9月12日の国際物流総合展2008の弊社ブースでもデモをご覧頂けます。お時間・ご興味ございましたら、是非弊社ブースの方にご来場頂きたいと思います。
本日はご静聴ありがとうございました
【註】
*Excelは、米国Microsoft Corporationの米国及びその他の国における登録商標です。
*IBM及び、AS400はIBM Corporationの米国及びその他の国における登録商標または商標です。
その他記載の会社名、製品名は、それぞれの会社の商標もしくは登録商標です。
以上
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