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ロジスティクス ・レビュー

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マーケティング

第26号八ッ橋治郎「顧客起点のマーケティング・チャネル」『マーケティング・ジャーナル』,Vol.84,59~69ページ,2002年(2003年02月21日発行)

執筆者 藤田 健
山口大学経済学部助教授
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1972年 大阪生まれ
    • 1995年 大阪経済大学経営学部経営情報学科卒業
    • 1997年 神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了
    • 1998年 神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程退学
    • 1998年 山口大学経済学部助手
    • 2000年 山口大学経済学部講師
    • 2002年 山口大学経済学部助教授
      現在に至る
    担当科目
    • 流通論,マーケティング論
    研究領域
    • 製販統合,生・販統合システム
    主要論文
    • 「ジャスコ・花王のEDI導入の実証的研究――チャネル・パワー論批判の出発点として――」,第13回電気通信普及財団社会科学学生賞入賞論文,1998年3月。
    • 「定特分離のビジネス・プロセス」石井淳蔵・石原武政編著『マーケティング・インタフェイス』,白桃書房,1998年5月。
    • 「化粧品メーカーにおける生産システムの革新――延期-投機理論の視点による一考察――」『山口経済学雑誌』,第48巻第1号,2000年1月。
    • 「生産と販売の需給調整過程に関する一考察」『山口経済学雑誌』,第50巻第3号, 2002年5月。

目次

1.はじめに

本論文は、顧客中心主義という考え方にもとづいたマーケティング・チャネルを分析するために既存理論をレビューし、マーケティング・チャネル理論とロジスティクス理論の関係について論じている。分析対象となる理論は製販同盟論やSCM(Supply Chain Management)論であり、それぞれに共通した特質や理論研究の方向性が析出される。その後、顧客中心主義のマーケティングとサプライ・マネジメント機能が説明され、「チーム」という観点から顧客起点のマーケティング・チャネルのあり方が提示される。理論的検討の結果、明らかになることは、効果(適切な商品供給による顧客満足の上昇)と効率(最適在庫の徹底による流通コストの削減)を同時に実現しうるマーケティング・チャネルの姿である。

2.チャネル・リレーションシップと製販同盟

チャネルにおけるリレーションシップは、広義には製造業者と流通業者の製販関係全般を意味している。近年のチャネル・リレーションシップ研究では、特に、「双務的なリレーションシップ」が議論の対象となっている。ここでいう「双務的なリレーションシップ」は、高い環境不確実性のもとで、高い相互依存性をもった製造業者と流通業者が構築する長期的かつ友好的な組織間関係を指している。より具体的な分析対象は、「製販同盟(あるいは戦略的提携、製販統合、製配販連携)」と呼ばれる現象である。
理論的に見た製販同盟は、生産と販売の同時進行・同時調整へ向けたチャネル・リレーションシップの形態として捉えられる。基本的かつ伝統的に市場の不確実性に対する需給調整は、流通業者の保有する在庫によって行われてきた。しかし、製造業者が競争関係のなかで商品の異質性と多様性を高めると、大量生産を貫徹する限りにおいて在庫による需給調整は複雑で困難なものになる。そこで、製造業者と流通業者はこの問題を解決するために、新たな分業関係へと向かう。流通業者は、単品管理と多頻度小口配送を導入することで、在庫を需給調整の手段から一時的な通過在庫と位置づけるようになる。製造業者は流通全体の在庫を意識しつつ、正確な需要予測に基づいて弾力的な生産システムで需給調整を行う。製造業者と流通業者の間が実需情報によって調整されることにより、生産と販売は同時進行的に行われるようになる。

3.サプライ・チェーン・マネジメントの展開

続いて、物流面での理論と現実の展開に目を向ける。ロジスティクスは、物流の機能や領域を中心としながらも、さらに広い範囲の経営領域や機能(たとえば、顧客サービス、顧客維持、長期的収益性など)に対してアプローチを行う思想や技術である。わが国では、ロジスティクスは原材料の調達から完成品の販売に至るまでの物財の流れを全体として効率的かつ効果的に管理することだと理解されている。ロジスティクスの現実的な展開は、JIT(Just-in-time),QR(Quick Response),ECR(Efficient Consumer Response)などとして現れている。
JIT,QR,ECRなどの考え方は、顧客対応力の上昇によって持続的な競争優位を獲得する手法として統合化されたSCM(Supply Chain Management)概念へと発展している。SC(Supply Chain)とは、「原材料の確保から最終消費者に至るまでの財と情報の流れにかかわる全活動」と定義される。SCMは物流活動だけでなく、マーケティング,購買,研究開発,製造,財務などの様々な企業活動と関わっているため、ロジスティクス概念よりもさらに戦略性を高めた概念だと理解される。
SCMの対象は、①情報システムの活用,②適切な在庫管理,③良好な組織間関係の構築という3つの領域に大別できる。SCM理論は、先に取り上げた製販同盟論と共通した理論的特質と方向性を有していると考えられる。すなわち、SCMと製販同盟の研究は、共通の研究対象や目的を持つという理論的特質と、商流と物流を融合した理論展開を求められているという方向性の点で共通性を持っている。

4.顧客中心主義とサプライ・マネジメント

近年、顧客中心主義のマーケティングという考え方が登場している。顧客中心主義のマーケティングは顧客ニーズを出発点とし、ひとり一人の顧客ニーズを満足させることをめざしたマーケティング活動である。製品のカスタマイズに焦点を合わせるOne-to-Oneマーケティングとは、その発想が基本的に異なっている。
そもそも伝統的なマーケティングは、顧客の購買反応に働きかけるという意味でのデマンド・マネジメント機能を持っていた。ところが、企業が顧客中心主義のマーケティングを実行すると、企業のマーケティング活動は「サプライ・マネジメント」という色彩を強めていく。なぜなら、市場において顧客ニーズが多様化し、予測不可能な需要が発生すると、企業は不確実な市場環境下で迅速に対応するために、顧客を起点とした需要対応型サプライ・マネジメントを必要とするからである。
顧客中心主義のマーケティングは企業の価値連鎖をも大きく変化させる。伝統的な価値連鎖は、企業の資産や資源を製品やサービスに変換し、顧客に提供するチャネルを選択し、需要を創造することによって顧客に販売するという順序の活動であった。ところが、顧客中心主義のもとでの価値連鎖は、顧客ニーズを起点として、ニーズに適合したチャネルや製品を選択し、ニーズへの対応に必要となる資源や資産を投入し、コア・コンピタンスと資産を獲得することによって顧客ニーズの充足を目指した活動となる。つまり、顧客中心主義のマーケティングの導入によって、企業の価値連鎖は、顧客ニーズを起点として売れるものを供給するという「サプライ・マネジメント」型に変化することを示唆している。

5.顧客起点のチャネル・マネジメント

顧客を起点とするチャネルにおいて、チャネルを構成するメンバーは1つのチームにいるという感覚を持つ。ここでいうチームとは、相互に責任を持ち、同質の方法で共通する目的、成果目標へと向かう補完的な能力を有する少数のメンバーで構成される集団である。チャネルを構成するメンバーは、チームとしてのリレーションシップを構築することによって、消費者の問題解決にかかわるチャネル・メンバー間の強力な相互支援と迅速な顧客対応能力を獲得する。たとえば、チャネル内の製販企業がチーム・マーチャンダイジング(チームMD)などのパートナーシップを構築したとしよう。するとパートナーシップを結んだ企業同士は、チャネル内のコスト削減を実現するだけでなく、消費者へより高い価値とより大きな差異を提供する能力を産みだし、チャネル全体の競争優位性を獲得するだろう。
製販間における強力な協働関係(パートナーシップ)は、チャネル戦略面ですぐれた成果をもたらす。パートナーシップの目的は、チャネルの効率性を追求することよりも、チャネル全体の競争優位を高めることにある。パートナーシップに参加する企業は、チャネル全体の競争優位を獲得するために、他の参加企業の事業を深く理解するとともに、お互いに支援しあうことで関係を高めるように努め、相互の利益となる共通目標に向けて協働する姿勢を求められる。
企業が持続的な競争優位を獲得するためには、優れた製品を生産するだけではなく、顧客に対してより良い物流サービス(適品・適時・適量)を提供する能力も求められる。これらの能力を維持し続けるためには、チャネル全体の活動を包括するような統合的な観点が必要となる。製販同盟やSCMの概念の登場は、まさにチャネル全体を統合的な観点で捉えることの必要性を示している。
事実、これまでに見た三つの理論(製販同盟論,SCM論,顧客中心主義のマーケティング論)は、「マーケティング・チャネルが最終顧客を起点としてデザインされ、マネジメントされなければならない」という同一の方向性を提示している。そのため、チャネル・メンバーは、消費者の満足を高めるという共通目標を達成するために相互に結びつくパートナーとなり、双務的なリレーションシップを構築することとなる。

6.おわりに

本稿では、4つの理論を取り上げて、顧客起点のマーケティング・チャネルの理論的背景を論じた。

  • 製販同盟論は、生産と販売の同時進行と在庫の同時調整にむけたチャネル・リレーションシップを焦点として展開してきた。
  • チャネルの競争優位を獲得するための効果的なサプライ・チェーン(SC)の構築が求められている。
  • マーケティングは顧客を起点とした需要に対応するサプライ・マネジメントへ移行している。
  • 近年、マーケティング・チャネル管理は、最終顧客の満足を目指したチームによるマネジメントを必要としている。

これらの理論概念が登場した背景のひとつには、ITや情報通信における技術の発展がある。ITや情報通信の技術は、チャネル活動で発生する諸情報を組織間で共有することを可能にした。そのため、チャネル・メンバーは、消費者の購買に迅速かつ柔軟に対応するために様々な情報を共有し、有効に活用する必要にせまられる。その情報にもとづいた顧客対応能力の向上が、チャネル全体の競争優位性を高めるのである。各チャネル・メンバーは、チャネルの競争優位を獲得するために相互をパートナーとみなし、それぞれの役割分担に基づく双務的なリレーションシップを構築しようとする。その結果として構築される顧客起点のマーケティング・チャネルは、消費者の購買時点における実需情報を起点としてチャネルをデザインすることを意味するのである。

以上


【著者紹介】

八ッ橋 治郎(やつはし じろう)
1969年 東京生まれ
1993年 神奈川大学経済学部貿易学科卒業
1997年 早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了
2000年 早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得
2000年 愛媛大学法文学部総合政策学科講師
現在に至る
担当科目 マーケティング論
研究領域 マーケティング・チャネル、ロジスティクス


(C)2003 Takeshi Fujita & Sakata Warehouse, Inc.

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