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物流人材

第486号 高度物流人財になろう(前編)(2022年6月21日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社NX総合研究所 経済研究部 顧問)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

 

目次

1.はじめに

  企業の経営資源として、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の4つが挙げられる。さらに「時間」も加えられることが多い。M&Aによる企業買収は、前者の4経営資源を手っ取り早く獲得するために「時間を買う」ことでもある。
  このうち、最も重要な経営資源は「ヒト」ではないかと筆者は思っている。「モノ」「情報」「時間」は「カネ」で買えるが、「ヒト=人材(財)」は「カネ」では買えるとは限らない。
「限らない」と言ったのは、「時間」同様に「カネ」でスカウトすることが可能でもある。
  また、ヒトの「価値」は財務諸表には表れない。損益計算書の「人件費」ではないかと言うが、それは原価・コストという見方で、「人減らし=人件費削減」の発想である。10人の人件費は財務諸表に表すことができても、10人の「人材としての価値」は財務諸表には表すことができない。「企業はヒトなり」と言われる理由の一つである。
  最近では「人的資本」として、人間が持つ知識やスキルなどを資本とみなす傾向にあり、企業が保有する「人的資本」の開示を求める動きが世界各地で進んでいる。EU・アメリカ日本では、2022年内にも開示ルールをつくると報じられている(2022年2月18日付 日経新聞)。
  同記事によれば、「『人的資本』は教育や訓練などで蓄積され、生産性向上やイノベーション創出につながり、優秀な人材を確保・育成できるかが企業の競争力を大きく左右する」ことになる。
  一方で、企業は保有する人材のスキルを高めるべく、リスキリング(学び直し)を進めている。社員側でも、さらなるスキルアップや、副業・転職に備えてリカレント(学び直し)に意欲を持ち、勤務先へのリスキリング支援の要望も強い。
  あるアンケートでは、「日々必要とされるスキルは変化しており、スキルや知識をアップデートできる機会は大切だと思う」や「社員のスキル習得を支援する企業は新しいことに挑戦する柔軟性があり、競争力も高そうだと感じる」という若手社員の声もある(2022年4月20日付 日経流通新聞)。
  企業として、優秀な人材の確保・育成のためには、社員のリスキリングが必要な時代になったと言えよう。
  物流業の現状を振り返ってみると、①人件費率の高い労働集約型の産業である、②ITやDXなどにより構造改革・経営改善が求められている等のことから、優秀な人材の確保・育成が重要な経営課題となっていると言えよう。
  一方で、国は「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」で、「高度物流人材の育成」を主要な施策の一つとして掲げている(2項参照)。
  そこで、読者の方々には、「高度物流人材」を一歩進めて「高度物流人財」になって頂こうと思い、少しでもそのお手伝いをしたい。
  なお、「人材」(human resource)と「人財」(human capital)の違いを説明すると長くなるので省略させて頂く。

2.高度物流人材について

  2021年6月に閣議決定された「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」(以下、「大綱」という)では、前大綱(2017年度~2020年度)に引き続き、「今後取り組むべき施策」の一つとして「高度物流人材の育成・確保」を掲げている。
  大綱では、高度物流人材を、物流DXの実現のため「物流現場の課題を正確に把握するとともに、グローバル化の状況も踏まえながら物流産業の今後の進むべき方向性を俯瞰的に捉え、先進技術等も活用した物流業務の革新のための企画・提案ができる人材」と位置付けている。また、国土交通政策研究所では、「全体の視点から物流の効率化と高付加価値化を図るための企画・提案ができる人材」と考えている(図1参照)。

図1 高度物流人材のイメージ

(出所:国土交通政策研究所「物流分野における高度人材の育成・確保における研究」2021年6月)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  高度物流人材の育成・確保のKPIには、以下の2指標が掲げられている。

①大学・大学院に開講された物流・サプライチェーンマネジメント分野を取り扱う産学連携の寄附講座数 50 講座(2021~2025 年度)

②物流に関する高度な資格の取得者数 4,451 人(2017~2020 年度)→6,000 人(2021~2025 年度)

  このうち、①は前大綱にはなかった新規のKPIであるが、大学・大学院の学生・院生が対象なので、ここでは省略する。
  ②について前大綱では、4,247人(2013年度~2016年度)→4,700人(2017年度~2020年度)とされていたものを大幅に引き上げている。

(1)物流関連の資格

  物流関連の資格にはどんなものがあるだろうか?
  筆者が、興味半分で調べたところでは、物流関連には以下のような専門資格があるようだ(代表的なもの。順不同。認定機関などの詳細は省略)。

①自動車運転免許、②フォークリフト運転技能者(クレーン等も要資格)、③危険物取扱者、④倉庫管理主任者、⑤運行管理者(貨物)、⑥技術士(包装・物流)、⑦包装管理士(輸送包装・生活包装)、⑧ロジスティックス・MH管理士、⑨通関士、⑩国際複合輸送士(JIFFAが認定)、⑪国際航空貨物取扱士(IATA/FIATAの資格で通称「ディプロマ」)、⑫海技士(貨物船など大型船舶。航海・機関)、⑬貿易実務検定(A~Cの各級)⑭3PL管理士((一社)日本3PL協会が認定)など。

  物流専門の資格ではないが、従業員50名以上の事業所には必置となる衛生管理者(国家資格)や安全管理者(所定講習の修了者)がある。
  これらの資格を取得することで、関連の業務に就くことができるとともに、就職・転職・昇格等に生かすことができる。

(2)物流に関する高度な資格

  大綱では、物流に関する高度な資格として、(公社)日本ロジスティクスシステム協会(以下、略称の「JILS」)が認定する「ロジスティクス経営士」「物流技術管理士」、厚生労働省所管の特別民間法人である中央職業能力開発協会(以下、略称の「JAVADA」)が認定する「ロジスティクス1級」「ロジスティクス管理2級」「ロジスティクス・オペレーション2級」を対象としている(以下、「高度物流人材」は、この5資格を指す)。
  大綱のKPIは、これら5資格の年間取得者数による。
  なお、大綱ではKPIの対象とされていないが、上記(1)-⑥の「技術士(包装・物流)」や、(一社)全日本トラック協会が認定している「物流経営士」(運営は、東京都トラック協会・愛知県トラック協会)も十分に高度な資格であると、筆者は感じている。
  国際的な物流・ロジスティクス・SCM関連の資格としては、世界最大のSCM専門団体であるASCM(Association for Supply Chain Management, 本部=アメリカ・シカゴ)が認定しているCPIM(Certified in Planning and Inventory)・CSCP(Certified Supply Chain Professional)・CLTD(Certified Logistics, Transportation and Distribution)の3国際資格や、ISM(Institute for Supply Management)が認定するCPSM(Certified Professional in Supply Management)が知られており、日本国内にも有資格者がいる。

3.JAVADAのビジネス・キャリア検定(ロジスティクス分野)

  高度物流人材のうち、JILSの2資格は、例えば「物流技術管理士」であれば、約半年かけて、18日間の講義日数のうち14日以上出席して、前期・後期2回の受講レポートを提出し、さらに客観試験・論文試験・面接試験を受けなければならない。
  誌面の都合もあるので本稿では、資格取得にあたって日常業務への負担が少ない、ビジネス・キャリア検定(ロジスティクス分野)を説明する。JILSの2資格については、参考資料8を参照されたい。

(1)職業能力評価制度とビジネス・キャリア検定

  職業に必要な能力を職業能力というが、職業能力については、例えば、経済産業省では「社会人基礎力」などと示している。
  各職業能力について、国(厚生労働省)では職業能力開発促進法(以下、「職開法」という)に基づいて職業能力評価制度(以下、「評価制度」という)を設けている。
  評価制度とは、「業種別、職種・職務別に、業務を遂行するのに必要とされる能力を整理・体系化した職業能力基準に基づき、その基準を満たしていることを評価する仕組み」であり、業界や職業別に求められる能力要件が明確になり、企業における従業員教育や個人の能力開発の指針となり、習得した能力を客観的に評価することや把握することを可能にするものである。
  国の評価制度は、職業能力を適正に評価するための基準である「職業能力評価基準」(以下、「評価基準」という)と、労働者がその基準に達しているか否かを判定する「技能検定制度」(造園・金属プレス・菓子製造など技能系を対象とした136職種を対象とした国家検定制度)、「ビジネス・キャリア検定制度」(事務系を対象とした公的資格試験=能力評価試験)がある。
  両検定制度は、分野・部門別かつ能力(等級)別に細区分されていることから、企業としては労働者の職業能力評価等に採用しやすく、労働者としては職務遂行能力の証明等として使うことができる。
  検定の合否水準となる評価基準は、厚生労働省が定める公的な職業能力の基準で、業種横断的な事務系職種のほか、ものづくりからサービス業まで56業種について整備されており、このうちロジスティクス分野でも倉庫業・運送業とマテリアル・ハンドリング業(整備順)が整備されている。
  評価基準では、労働者の職業能力をレベル1~4に区分している(表1参照)。

表1 評価基準におけるレベル区分の目安 <例:事務系職種>

(出所:厚生労働省ホームページ)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  上記「技能検定」「ビジネス・キャリア検定」では、個々の労働者のレベル到達度を「試験」という方法で確認する。
  ロジスティクス分野では、レベル4がロジスティクス1級に、レベル3がロジスティクス管理2級とロジスティクス・オペレーション2級に、レベル2がロジスティクス管理3級とロジスティクス・オペレーション3級に、レベル1がロジスティクスBASIC級に相当すると言えよう。

(2)ビジネス・キャリア検定(ロジスティクス分野)の概要

  「ビジネス・キャリア検定」(以下、JAVADAに倣い「ビジキャリ」と略す)は、JAVADAが職開法に基づいて、厚生労働省の評価基準に準拠して「職務を遂行する上で必要となる専門知識の習得と実務能力の評価を行うこと」を目的として実施している試験であり、ビジキャリ合格者は公的資格と認定されることになる。
  ビジキャリは、①人事・人材開発・労務管理、②経理・財務管理、③営業・マーケティング、④生産管理、⑤企業法務・総務、⑥ロジスティクス、⑦経営情報システム、⑧経営戦略の8分野について、評価基準のレベル1~4に相当するBASIC級~1級まで(一部未実施の分野があるので合計43科目)設定されている。
  全科目とも同一日に全国各地で実施され、直近は、2022年2月実施の2021年度後期試験である。
  試験内容は、以下の通り、各分野とも共通しており、受験資格は定められていない(「実務経験が〇年程度」とされている)。また、「下位級を取得していなければ、上位級を受験できない」という制約もない。

1)BASIC級
①仕事を行ううえで前提となる基本的知識を基に仕事の全体像が把握でき、職場での円
滑なコミュニケーションを図ることができる(例えば、新入社員、内定者、就職希望者、
学生)。
②出題形式: 正誤形式で70問
③試験時間: 60分

2)3級
①職務全般に関する幅広い専門知識を基に、担当者として上司の指示・助言を踏まえ、自
ら問題意識を持ち定型的業務を確実に遂行することができる(例えば、係長・リーダー
等を目指す人、または担当職務を的確に遂行できることを目指す人)。
②出題形式: 4選択肢からの択一形式 40問
③試験時間: 110分

3)2級
①職務に関連する幅広い総合的な専門知識を基に、グループやチームの中心メンバーと
して、創意工夫を凝らし、自主的な判断・改善・提案を行いながら業務を遂行することが
できる(例えば、課長・マネージャー等を目指す人、またはシニア・スタッフ)。
②出題形式: 5選択肢からの択一形式 40問
③試験時間: 110分

4)1級
①企業全体の戦略の実現のための課題を創造し、求める目的に向かって効果的・効率的に
働くために、一定の専門分野の知識及びその応用力を活用して、資源を統合し、調整す
ることができる(例えば、部門長、ディレクター=取締役相当職を目指す人)。
②出題形式: 論述式 3問
③試験時間: 150分

  計算問題や事例問題等もあり、各分野・各級とも受験者は「時間が足りない」と感想を述べている。

図2 「ビジキャリ ロジスティクス検定」リーフレット(表面)

(出所)中央職業能力開発協会(JAVADA)ホームページ
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

5)ロジスティクス分野の検定
  ロジスティクス分野のビジキャリは、所管の厚生労働省以外に、経済産業省・国土交通省も後援している。
  2007年にロジスティクス管理とロジスティクス・オペレーションの各2・3級が開始、2015年にBASIC級、2017年に1級と拡大した。開始以来13年で受験申込者は増加傾向にあり、2020年度は9千人を超えている。
  このうち、BASIC級・1級は年1回、2・3級は前期(8月)・後期(2月)の年2回開催されている。
  「高度物流人材」の対象は、1級、ロジスティクス管理2級、ロジスティクス・オペレーション2級であり、その概要は以下の通りである。

①試験範囲(図2参照)
ロジスティクス管理2級(概要)
  「物流の概念と物流管理」「在庫管理」「物流システム管理」「物流コスト管理」
  「物流情報システム」
ロジスティクス・オペレーション2級(概要)
  「包装・荷役・MH・保管」「輸配送システム」「国際輸送」「物流センター計画」
  「物流センターの管理と運営」
  なお、1級の受験資格・試験範囲は定められていないが、「当該試験分野の2級に合格している方、または同等の能力を有している方を想定している」(JAVADAのホームページ)ことから、試験範囲は両2級を合わせたものと言えよう。

②標準テキスト・過去問題
  JAVADAでは、受験者が独学できるように分野ごとに標準テキストを発行している。上記試験範囲の各項目については、ロジスティクス分野の標準テキストで学ぶことができる。
  2022年現在の標準テキストは第3版(2017年発行)で、物流・ロジスティクスの最新動向を取り入れて、概ね5年ごとに改訂されている。
  また、各分野の過去問題については、JAVADAのホームページに掲出されているので、後述のように受験対策の参考となる。

③認定受験講座
  JAVADAのホームページでは、JAVADAが認定した受験講座も掲出されている。
例えば、15年目を迎えた(一社)マテリアルフロー研究センター(JMFI)の受験講座の受講料は110千円(3級)~130千円(2級)であり、それだけ費用と時間を掛けても「資格を取りたい」という需要があると言えよう。
  1級以外は択一式なので、(一社)日本倉庫協会のように会員サービスとして、e-ラーニングで受験講座を開催している例もある。
  ロジスティクス・ビジネス誌(直販・年間購読)でも、ロジスティクス管理2級対策講座を連載している。
  その他、ビジキャリの概要は、ロジスティクス・ビジネス誌2021年7月号の特集「物流を学ぶ」第5部に、「ビジキャリ ロジスティクス検定 年間9千人が受験する裾野の広い公的資格」として、各級における望ましい実務経験年数や合格率などが紹介されているので参照されたい。

(3)ビジキャリの特色

1)費用が安く自由に学べること
  最低限必要な費用は、「標準テキスト代+受験料」だけである。また、自由な時間に独学で学ぶことができる。「自由な時間」には、通勤・移動の鉄道・バス車中も含まれる。ただし、標準テキストの500g超(筆者が実測)が携行の難点である。
  標準テキストは各級1冊であり、内容も価格も「標準」的である。図表も多く、自分の知識の整理にも役立つと思われる。筆者も若い物流マン(ウーマン)から「仕事について、良い参考書を」と言われたときには勧めている。

2)受験資格に制限がないこと
  また、受験資格に制限がない(望ましい「実務経験年数」は示されている)ことは、受験料さえ払えば誰でも受験できるということで、広く門戸が開かれている。
  会社として、従業員の職業能力評価のために、受験を勧めている(指示している)例もある。図2のリーフレットを見ると、ビジキャリを受験・資格取得することを「活用」している企業が約40社列挙され、他にも多くの企業が「利用」とされている。「利活用」し易いのも受験資格に制限がないことが寄与していると思われる。
  また、下位資格を取得していなければ上位資格を受験できないという制限もない。BASIC・3級を受験せず、いきなり高度物流人材である1・2級を受験することも可能である)。

3)一般的な受験対策が可能なこと
  ビジキャリは各分野とも、正誤形式・択一形式あるいは論文形式による筆記試験のみである。このうち、正誤形式・択一形式(マークシート)は、受験テクニックに慣れた受験者には有利という点は否定できない(衛生管理者や運行管理者でも同様のことが言える)。
  また、JAVADAのホームページでは過去問題が公開されているのも、受験対策として有利と言えよう。

※後編(次号)へつづく


(C)2022 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.


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