第283号 物流品質管理の概念を変える:マネジメントの責任 -物流はロジスティクスに舵を切ったのか-(2014年1月9日発行)
執筆者 | 野口 英雄 (ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表) |
---|
執筆者略歴 ▼
目次
- 1.食品不祥事は何故繰り返されるのか:流通における品質管理の欠落
- 2.品質管理はQCサークルではない:業務改革に繋げる
- 3.SCMはコスト削減だけではない:TQMと重ね合わせる
- 4.危機管理~BCPに繋げる:日常業務リスク対策だけでは不充分
- 5.安全・環境対応:物流品質の基本要素
1.食品不祥事は何故繰り返されるのか:流通における品質管理の欠落
食品における偽装表示の問題がまた世論を賑わしている。今回は主にマーケティングの責任であるが、大きく見れば品質管理の課題である。品質と言えばモノ回りとコストに集約されていて、また流通段階における管理が欠落しているのが実状である。これはロジスティクスの課題とも言える。
(食品不祥事の形態とその背景)
・賞味期限切れ品使用:原料、商品(再表示)➝鮮度管理の不徹底
・回収商品再使用:再販売、使い回し、冷凍保存し再使用
・原料偽装:不正な原料使用、ブランド品以外のもの、国産と輸入品
・表示偽装:成分、アレルギー物質、有機栽培、表示ミス
・その他:異種ブランド混合(米等)、異物混入、微生物残存➝工程管理等
消費者のブランド志向もあるが、食品事業の低付加価値性を脱却させるため、安易な方法に走ってしまうことが背景にある。ブランドを守ることは品質維持そのものであり、これをアウトソーシングでしかも流通における他企業との責任分担が曖昧なままで、抜本的な改善がなされていないことこそが問題である。
物流における品質管理はその重大な責任の一端を担っており、もう一度基本概念を改める必要がある。まず製造工程のモノ回りやコスト中心の考え方を、さらに流通工程にまで拡げる。これは異種企業との管理連携が前提となる。そしてそこでは衛生管理やセキュリティー確保も必要となり、当然管理基準の共有化が求められる。それを示す商品の品質表示で、消費者向け個装はかなり厳しく規定されているが、物流業務に必要な外装になると甚だ曖昧なのが実態である。
食品における管理の一例を挙げれば、鮮度を維持するために検査判定前出荷というリスクが大きい運営が行われており、これは調達~製造~流通に至る一貫システムが大前提になっている。即ち製造後の微生物検査の判定結果を待たずに先行出荷が行われ、後に異常が判明したら製造ロットで当該品を特定し、その流通を止めるという運営である。つまり出荷トレーサビリティーが必須となり、これが機能せずに消費者に至ってしまうということも度々発生する。これは生鮮食品の在庫を持たない流通方式で、最も難易度が高いロジスティクス運営となっている。
2.品質管理はQCサークルではない:業務改革に繋げる
物流業務においてミス・トラブルが多発し、顧客に迷惑をかけることはもちろん、生産性や事業採算の低下が発生する。業務品質管理を強化することは経営として当然の流れだが、それは顕在化した「悪さ」を是正するという防衛的な一面になりがちで、もう一方で業務改革に繋げる能動的な側面が必要である。活動の方法論としてのQCサークルは当然有効であるが、それ自体が目的ではない。マネジメント主導のトップダウン活動が伴っていかなければ、改善のスピードも上がらずとても業革には繋がらない。
(品質管理の二つの側面)
・当り前品質:ミス・トラブル防止、生産性向上➝目標値を定めそれを維持する
QCサークル等の全員参加型活動
・魅力的品質:顧客ニーズの先取り、業務改革➝現状の仕組みを打破する
プロジェクト型活動・トップダウン
物流業務ではサービスという眼に見えない品質を向上させるので、データ収集による現状の定量化が不可欠である。これができなければ手探りで改善を行うようなもので、時間ばかりがかかってしまう。流通工程ではこれが非常に難しいとされているが、この「見える化」が活動の動機付けとなりその突破口になる。そしてもう一つはトップダウン活動との組合せである。現場の自主活動を期待するだけでは、改革には中々繋がらない。PDCAサイクルを回していきなり管理状態を作れと言っても難しく、データをとってチェック(C)から入った方がやりやすい。(図参照)
業革は経営としての変化への対応であり、一方品質管理は顧客に対し品質を保証するのが出発点で、これを具体的な方法論で進めていくことで業革という上位目的に繋げる。品質管理のもう一つの狙いは業務標準化であり、PDCAサイクルを回し続けた軌跡がシステム化の下地となっていく。システムという道具を先に導入して仕事をそれに合わせようとしても、現場のレベルが上がっていなければ難しい。
3.SCMはコスト削減だけではない:TQMと重ね合わせる
SCMの最大の目的は消費者の変化に迅速に対応することだが、ローコスト化に偏り、在庫圧縮やコスト変動費化・生産性向上ばかりが追求される。しかしこれに品質向上が伴わなければ意味がない。品質はまず製造段階で作り込まれ、それが流通を経て消費者の手に渡るまで維持されなければならない。場合によっては流通段階で付加価値の向上を図ることもある。これは利害の対立しがちな異種企業間の管理連鎖により成立するが、あくまでWin-Winの関係が前提である。
ところがここではアウトソーシングや不公正な商習慣等の思わぬ落とし穴があり、管理が欠落することがある。それは例えば小売業による店着バイイングの運用であり、物流センターに商品を納品しても責任の所在は移転せず、コスト負担や品質責任が店着までは未だ供給側にあるという運営である。問題が起きるとアウトソーサーやベンダー側の責に帰することになりがちだが、基本は機能分担でありこれを消費者まで繋げていかなければ目的は達成しない。そのゴールは店頭ではなく、生活者のいる場面までである。もう一度管理の機能・責任分担について、社会的合意を再構築すべきである。アウトソーシングも単なる丸投げではなく、委託側のコア管理が重要である。
この取組みはかつて日本企業の競争力強化に貢献したTQMに重なり、企画・間接部門も含めた全社的な品質管理である。もちろん経営者の質も問われる。その前提は経営としての方針管理であり、これが現場にもブレークダウンされてQC活動を支援する。方針や計画は読み切れるかどうかが重要で、もしそうでなければ事前の手当てが必要になる。業革とは自主活動の積上げだけではなく、経営がリードするものであることは前述した。逆に現場の力が鍛えられていれば、その実行がたやすくなる。トータルの意味は自社工程だけではなく、外部に委ねる社外工程も含めてである。
4.危機管理~BCPに繋げる:日常業務リスク対策だけでは不充分
ロジスティクスのレベルが向上すると、低レベルの在庫で高スピードの業務が行われるようになる。そのためには日常業務リスク対策が不可欠であり、さらには異常時の迅速な処置策を予め持っておく必要がある。大都市における停電や災害による交通網の遮断は発生の確率が高く、輸送手段ミックス等も考えておかなければならない。
(異常事態への備え)
・日常業務リスク対策:ミス・トラブル防止等、想定されるリスクに対し予め手を打っておく
➝QC活動レベル
・危機管理対応:それでも異常事態は発生し、それにどう迅速に対処するか
➝部門間連携、経営としての処置
・BCPへのリンク:事業継承計画、調達~製造~流通
➝危機管理体制の定期的メンテナンス・シミュレーション・トレーニング
危機管理の基本は指揮命令系統の確立や部門間連携と言われ、これも方針管理における重要な課題に位置付けられている。一度作り上げたその体制も適宜メンテナンスが行われていかなければ、いざという時に機能しない。東日本大震災でBCPが適合した事例もあるが、定期的なチェックが行われていたことがそれを支えた。この時の政府対応も災害復旧のロジスティクスであり、情報収集体制や最高指揮官としての首相の指揮命令等に疑問が残る。米軍による「トモダチ作戦」は見事なロジスティクスであり、原発の放射能漏れという重要情報を空母艦載機がいち早くキャッチしわが国にもたらした。また仙台空港にパラシュート部隊が降下し、滑走路を短時間で復旧させた。
5.安全・環境対応:物流品質の基本要素
物流品質の基本要素として、安全や環境対応も重要であることは言うまでもない。安全確保は特に一人業務としての輸送において、どう管理できるかが問われる。品質管理とはチームに限らず一人でもできる活動であり、基本原則をふまえればドライバーでも充分に可能である。そしてITという武器が使えるようになった今、一人業務だからできないということはない。
環境対応については、基本としての共同化・複合チャネル化をさらに推進すべきである。顧客毎に物流システムを構築するだけではなく、共通化できるところはそれを進めていく。その上にハードがあり、新技術開発が進められていけば効果的である。これらもSCMの重要な課題になり、応分の責任分担が必要になる。
QC活動の真髄は顧客に品質を保証することであり、この活動を通じて顧客マインドを磨き、市場・顧客起点の業務システム開発に繋げる。この意識改革が必要であり、流通を支え品質向上に寄与することが物流の使命でもある。ライフラインを支える物流は重要な役割を担っている。
以上
(C)2014 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.