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マーケティング

第90号郊外型商業施設に対する立地規制への課題(2005年12月21日発行)

執筆者 三好 宏
福山平成大学 経営学部助教授
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1986年 株式会社中国銀行入行
    • 1995年 神戸大学大学院経営学研究科博士課程入学
    • 2000年 同課程修了  博士(商学)
      福山平成大学経営学部講師
    • 2004年 同大学助教授
    • 現在に至る
    研究テーマ
    • まちづくりと小売商業の関わりに関する研究
    著書・論文
    • 「商業者主導型まちづくりの課題と行政の役割」
      『経営情報研究 福山平成大 学経営学部紀要 経営情報学科篇』
      第9号、2004年、37 -49頁。
    • 「『まちづくり』における小売業が持つ二重性」
      『経営情報研究 福山平成大 学経営学部紀要 経営情報学科篇』
      第8号、2003年、103 -117頁。
    • 「商学から見た都市のマネジメント」(共著)
      『都市計画』 №222、1999年、 5-8頁。
    所属学会
    • 日本商業学会

目次

Ⅰ.はじめに

  平成17年10月、福島県において「福島県商業まちづくりの推進に関する条例」が制定された。これは、県が大型商業施設の立地を広域的な見地から調整しようとする条例である。周知のとおり、店舗面積1000㎡超の大型商業施設(店舗)の立地については、大規模小売店舗立地法(以下大店立地法)が適用される。しかし、今回の条例制定は、それとは別の観点で立地を判断する必要がある、と県が認識したことに他ならない。
  また、近年政府・与党においても、大店立地法も含めたいわゆる「まちづくり三法」の見直し議論が盛り上がっている。
  わが国のこうした動きの背景には、言うまでもなく中心市街地の空洞化がより一層進展しているという現実がある。中心市街地の衰退は、それ自身の問題が大きいと思われるが、一方で大型商業施設の郊外立地の影響も無視することはできない。明記されているわけではないが、福島県条例もおそらくは郊外型の商業施設に対する規制を念頭に置いているはずである。
  条例の施行は平成18年10月ゆえ、今のところ条例が有効に機能するかどうかは未知数である。しかし、報道等によると、他県の多くがその推移に注目しているらしい。そこで本稿は、福島県条例やそれに対する県民の反応等を手がかりに、郊外型商業施設への立地規制の背景やそれが持つ問題点等について、主にまちづくりの点から若干の考察をしたい。

Ⅱ.福島県商業まちづくりの推進に関する条例

  1.条例の概要
  福島県条例とはいかなるものか。県のホームページ等を参考にしながら簡単に紹介しておこう。
  まず、条例は前文と5章28条から構成される。その主な目的は、「環境への負荷が少ない持続可能なまちづくりや歩いて暮らせるコンパクトなまちづくりの考え方に基づき、特に規模の大きな小売商業施設 について、広域の見地から調整し、県民の健康で文化的な生活の確保に寄与する」ことである(前文、第一条)。
  手続き的には、商業施設を新設しようとする小売事業者が、まず「新設届出書」を知事に提出する(第九条)。県は、該当する商業施設の立地の誘導および抑制に関する事項を定めた「商業まちづくり基本方針」を策定(第六条)。市町村も県の方針に基づいた「商業まちづくり基本構想」を策定することができ(第七条)、それらや土地利用関係計画との適合から、県は立地の申請に対して意見を述べる(第十四条)。意見を述べられた事業者は、それへの適切な対応が求められ(同条の4)、それがなされなければ勧告を受けたり、それにも従わなかった場合にはその旨や氏名等を公表されたりする(第十五条の6、第十六条の3)。さらにその期間は、工事に着手することは認められていない(第十六条)。

  2.まちづくりの視点から見た条例の意義
  福島県条例の特徴並びにその意義を、まちづくり─地域に住む住民が、行政、事業者等と協力しながら、その地域をより快適で魅力的な場所にする活動─の視点で整理すると、次の4点をあげることができよう。
  第一に、需給調整ではなく、まちづくりの基本方針に従って立地を判断するということ。第二に、条例に、まちづくりにおいて県、小売事業者、そして県民の三者が、それぞれに協力しあわなければならないという条項を盛り込んだこと(第三条から五条)。第三に、県の意見、あるいは勧告に従わない事業者に対しては、氏名公表等ある種の罰則規定を設けたこと。第四に、事業者に毎年度、地域貢献活動の計画及び実施状況の報告を求めたことである(第十八条から二十一条)。特にこの第四の点は、商業施設は周辺地域の交通渋滞、廃棄物、騒音、環境問題等に配慮すればよいという大店立地法に比べ、より積極的な地域への関わりを求めており、まちづくりの視点からすれば評価できる項目である。

Ⅲ.立地規制の背景と各方面の反応

  1.立地規制の背景
  福島県がこの条例の制定に踏み切った理由は、『激流』(平成17年12月号)によれば、福島市、いわき市、白川市の中心市街地の空洞化が、核店舗であった大型店が撤退あるいは倒産により進んだこと。その一方で、大店立地法の制定以来平成17年3月までで、大型商業施設の新設の届出が48件あり、そのうち農地への立地が24件も占めるという状況がある。それらの大型商業施設はその市町村だけでなく、近隣の市町村にも影響が大きいため、県がその調整に乗り出さなければ、となったようである。特に条例の「歩いて暮らせるコンパクトなまちづくり」という表現が示すように、車に依存できない高齢者の生活への配慮というのも大きいようだ。

  2.条例に対する反応
  しかし、こうした条例に対して全ての人がもろ手を挙げて賛成しているわけではない。新聞報道によると、大手流通企業イオンは、特定の商業者を狙い撃ちにした、自由な経済活動を制約する憲法違反の恐れがある条例だ、という懸念をさっそく表明している。
  また、県の意図に反して、むしろ積極的に大型商業施設を誘致したいと考えている市町村も決して少なくない。誘致を働きかけるその理由は、①雇用機会の増大 ②買い物機会の拡大 ③固定資産税他税収の増大 が見込めるからである(矢作2005)。誘致によってそうした思惑が実現するかどうかはひとまず置くにしても、特に大きな産業もなく、企業・工場誘致もなかなかままならない地方の現状を考えると、そのように期待するのも決しておかしくはない。事実、報道によれば、福島県伊達町はイオン系のショッピングセンター出店に向け、都市計画上の用地変更を申請している。
  さらに、条例に対する県民の反応は非常に厳しい。福島県のホームページには、条例制定に先立って、原案「福島県良好な小売商業機能が確保された誰もが暮らしやすいまちづくりの推進に係わる条例(仮称)」に対して募集した県民の意見が掲載されている。そこには255の意見があるが、明確に県の取り組みに賛成しているのは全体の1割未満である 。県民の本音は、「暮らしやすいまちとは郊外の大型店のあるまちだ」、「郊外型の大規模小売店舗は駐車場も広く~大変便利であるため、出店を抑制すべきでない」、「中心市街地の衰退は自助努力不足他の要因もある」(一部筆者が省略して抜粋)等、郊外型商業施設を容認した発言が目立っている。

Ⅳ.まちづくりにおける郊外型商業施設の問題点

  1.立地規制の論拠
  これまでの話を整理しよう。まず、大型小売店舗、特に郊外型商業施設の立地に対する規制(もっとも、福島県条例は調整という表現を用いているが)の根拠はどこにあるのか。一般的には、次の3点が指摘される。
  第一に、郊外型商業施設の立地は、中心市街地の衰退を加速させるからである。中心市街地はいわば都市の顔とも言え、地域の文化や伝統が蓄積・継承されてきた場であった。それが崩壊してしまうのは資源の浪費だけでなく、一方で郊外の農地等の自然環境も破壊される。しかも、規模が大型になればなるほど、他の市町村の中心市街地、及び住民への影響も大きくなる。
  第二に、人口減少・高齢化時代を迎え、車依存の社会から脱却し歩いて暮らせるコンパクトなまちへの転換を指向する限り、車での来店を前提とし、近隣の小売商業を駆逐してしまう郊外型商業施設は、その流れに逆行する存在であると言わざるを得ない。
  第三に、郊外型商業施設は「スクラップ・アンド・ビルド」を前提としており、競争関係の中で常に閉鎖・撤退という因子を抱えており、そうなった場合、その後の地域に与えるマイナスの影響が懸念される。
  おそらく、福島県条例や政府・与党の「まちづくり3法」の見直し議論も、こうした考え方に依拠するものと思われる。

  2.規制の論拠の問題点とまちづくりに向けて
  確かにこれらの論拠は、全く的外れな考え方ではない。しかし、紹介した福島県民の反応を見る限り、この考えが大多数の人にすんなりと受け入れられるとは思いにくい。
  個人レベルで言えば、中心市街地が仮に寂れたとしても、あるいは郊外型の商業施設が空き店舗になったとしても、心情的に多少寂しさはあるかもしれないが、おそらく生活がそれによって極端に不便になると感じる人は少ないだろう。また、高齢者=弱者ではなく、元気で安全運転をしている高齢者も増加するのではないだろうか。いちいち反論を上げればきりがないのだが、こうした点を踏まえると、どのような郊外型商業施設なら受け入れられるのか、まちづくりにとって有効な存在となりうるのかを検討することの方が、よほど現実的な対応であると思える 。
  では、そのために必要なことは何か。その答えを導き出すのは容易ではないが、石原(2005)の指摘が参考になる。彼は、郊外型商業施設の立地がなぜまちづくりと呼ばれないのかという問いに、二つの理由をあげる。一つは、郊外型商業施設は、飲食、娯楽施設など集客に関する全ての機能を内部化し、それ自体が一つのまちを形成する。しかし、そのまちは、本来商業が持つべき外部への発展を閉ざした「独立した王国」であり、外部への開放性を指向するまちづくりとは異質の存在であること。二つは、競争によって撤退を余儀なくされる可能性があり、長期的にその地域に存在する「良質のストック」とはなりにくいこと、である。
  この指摘は、逆に言うとこれらの点を克服すれば、郊外型商業施設も十分まちづくりに貢献できる可能性を示唆している。
  この意味で、福島県条例に盛り込まれた地域貢献活動の義務化というのは、実効性に大きな課題があると予想されるが、それでも「外部性」、「長期性」問題をクリアーする一つの鍵ではないだろうか。地域に溶け込み、地域の一員としての郊外型商業施設である。

Ⅴ.おわりに

  これまで、福島県で制定された条例を手がかりに、郊外型商業施設の立地規制に関する問題を考察してきた。結局、福島県の条例がうまく機能するかどうかは、県が策定する「商業まちづくり基本方針」にかかっているように思われる。現段階ではその内容が明らかにされていないで、これ以上述べることはできないが、今後もこの動きに注目する必要は大いにある。

新聞報道等によると、店舗面積6000㎡以上とされる。
もちろん、賛成に比べ、反対だからこそあえて意見を寄せる人が多いのも事実だろう。また、表現の仕方で賛成、反対をはっきりつかみきれないものも多い。しかし、それらを考慮しても、総数の1割(25件)以上の明確な賛成の意見は見受けられない。
もちろん、福島県条例も立地を規制するのではなく、あくまでも調整するものであるので、こうした方向で活用される可能性も十分にある。

以上

《主要参考文献》
・ 石原武政(2005)「商業・まちづくりの時代」石原武政・加藤司編著『商業・まちづくりネットワーク』ミネルヴァ書房、所収
・ 矢作弘(2005)『大型店とまちづくり』 岩波書店
・ 『激流』2005年12月号
・ 福島県ホームページ(http://www.pref.fukushima.jp)
・ その他関連の新聞報道等多数



(C)2005 Hiroshi Miyoshi & Sakata Warehouse, Inc.

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