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第197号経営品質とSCMを考える(後編)(2010年6月3日発行)

執筆者 田中 孝明
サカタウエアハウス株式会社 代表取締役社長
    執筆者略歴 ▼
  • プロフィール
    • 神戸大学大学院 経営学研究科 博士前期課程修了。
    • ACEG (英国・ボーンマス校)、オタワ大学ELI修了。
    • 株式会社住友倉庫を経て、現在、サカタウエアハウス株式会社 代表取締役社長。
    • 福山平成大学 経営学部 非常勤講師,明治大学 商学部 特別招聘教授、
      文部科学省オープン・リサーチ・センター整備事業(経営品質科学に関する研究)研究分担者,
      神戸大学ビジネススクールMBAフェロー等を歴任/兼任。

前編(2010年5月18日発行 第196号)より
*サカタグループ2009年7月28日「第15回ワークショップ/セミナー」の講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回は2回に分けて掲載いたします。

目次

6.本年の日本物流学会・全国大会の統一論題


*画像をClickすると「物流・ロジスティクスにおけるCSR」http://www.logistics-society.jp/annai09.pdfの内容が見られます。(下段の緑色の矢印ボタンを押すとフルサイズで表示されます)
もう少し話を続けて参ります。
今年の日本物流学会の全国大会が9月に開催されるのですが、そちらでは今年、「物流・ロジスティクスにおけるCSR」というのが統一論題なっております。今日はCSRのお話自体はメインではありませんので、あくまでもご参考にという程度ですが、CSRの定義がこちらに書いてあります。「企業活動のプロセスに社会的公正性や倫理性、環境や人権への配慮を組み込み、ステイクホルダーに対してアカウンタビリティを果たしていくこと」となっています。そして今回の全国大会の中で指摘されているキーワードは、トレーサビリティとかサスティナビリティとかグリーン・ロジスティクス或いはCSR調達等ですね。こういったものが概念として紹介されています。
国連のイニシアティブで、規範として出されているグローバル・コンパクトやSRI(社会的責任投資:Socially Responsible Investment)の中でも、CSR調達というのが注視されてきていると思いますが、どうもこのCSRというのも、これからのロジスティクとかSCMを考える時に、大きく関係してくるのではないかと思っています。

7.経営品質とは(1)(2)



さて、今後のロジスティクスやSCM全体を捉える時に、何かよいコンセプトはないのだろうかという事ですが、ここでご紹介したいのが「経営品質」という考え方です。
今日は時間の関係で、経営品質とは何かについては詳しくお話はできないのですが、少しだけご紹介しておきますと、「経営品質というのは単なる製品やサービスの質を問題にするだけではない。組織活動全体を対象にする。或いは顧客視点からの経営全体の質を問う。」というような事が指摘されています。
また「経営品質賞」という賞が日本でも定着しつつあると言われていますが、ここで目指している方向性というのは、「パフォーマンス・エクセレンスの追求」であると紹介をされています。
スライドにありますように、4つの基本理念とか8つの具体的要素という事がこの中でも謳われていますが、ポイントは「企業や組織の再生の鍵は”持続的な経営品質の向上”にある」と謳われているというところです。この辺を要点として見ておかないといけないと思っています。この後の経営品質に関するスライドの説明は、時間の関係で飛ばします。

8.持続的な経営品質の向上に資するSCMとは?


ところで、先程ご紹介しました文部科学省の受託調査の中で、私自身が注視している、考察をしている事項が実は大きく3つあります。
1つは、ロジスティクス・サービス自体の質、ロジスティクス・サービスの中味についてです。これは絶対に注視しなければいけないと思っています。ロジスティクス・サービスですから、サービスの品質というものをきちんと捉えていかないといけない、評価していかなければいけない。いくつか考え方があるのですが、SERVQUALというような概念が提唱されています。
主にこの5つ。信頼性・反応性・確信性・共感性・物的な要素。この5つからサービスの品質というものを評価しよう、こういう考え方が提唱されています。また、サービスの品質には、KPIも関係してきます。KPIについては、例えば、JILSや流通システム開発研究所から「荷主KPI」とか「物流KPI」という言葉で、概念が提唱されています。加えて、先程も出てきましたが、やはりグリーン・ロジスティクスの実現と言いますか、これに関する取り組み。そういうものの質。これらが、ロジスティクス・サービスの質を考える上では重要になると思っています。まずこれらが1点目です。
2点目は、ロジスティクスやSCMに関する人材の育成です。この中でも3点。(1)組織としての学習の仕組み、(2)個人としての学習の仕組み、(3)サプライチェーンの上で他の企業と協働で、一緒にコラボレーションを組んで勉強していく、学んでいくというような仕組み。こういうふうなものがこれから大事になるのではないか、この辺りをきちっと見ていかないといけないのかなと思っています。
3点目ですが、組織間関係の質という事がスライドに書いてありますけども、例えば、サプライチェーン全体最適というような言葉がよく出てきますが、一体そのビジョンは誰が確立するのだろうかとか、あるいは、どういうふうに共有していったらよいのだろうかといったようなところです。また、最適というふうに言っても一体それを何で測るのか。例えば先程、國部先生にお話を頂いたマテリアルフローコスト会計、このようなものでサプライチェーンの最適というのを測っていくのだろうか・・・。これは私自身としての課題であり、いろいろ考えているところです。あとまた、利害調整の仕組みとかサプライチェーン全体としてのイノベーションの取り組み、このような事も考えていかなければいけないのではないかなと思っております。

9.まとめにかえて


最後になりますけれども、先程5年間にわたる「Global e-SCM研究」のプロジェクトに私も参画させて頂いたというお話をさせて頂きましたが、その中で見えてきたことの一つは、実はこれです。
プロジェクトの他の先生方との議論から導出されてきた事項なのですが、「唯一の理想的なSCMの形というふうなものはない。実際のSCMの姿は、個々の企業固有の”事業の仕組み”に他ならない」というのが、SCMの実態ではないかと思われます。
そうした優れた”事業の仕組み”-事業システムとかビジネスモデルというように読み替えてもよいと思いますけれども-これを策定していく。策定するだけでなくそれを完全に執行していく。そうする事によって、全社的かつ構造的な企業改革が追求され、その結果、企業の「パフォーマンス・エクセレンス」が実現する。現時点ではこのような事を、現在の経営品質の研究プロジェクトで考えている最中です。
では、”本来の意味での”SCMの概念を組み込んだような新しい事業システム、事業の仕組みというものを、どんなふうに作っていったらよいのだろうか。それを作っていく事ができれば、経営品質の向上も図れるという事になると思います。この、新しいビジネスの仕組みを実際問題として、どのように作っていったらよいのだろうかという事は、現在、他の先生方と一緒に研究調査を行っているところです。
最後に。『ドラッカーの遺言』という本。私もドラッカー教授の本は好きで、殆ど全て拝読しているのですが、これは2006年に出た本ですが、最後に少し次の文をご紹介して、次の増井にバトンタッチをしたいと思います。
この本の中で、ドラッカー教授が何を仰っているかと言うと、『”a new era”すなわち「新しい時代」に私たちは生きています。それは経済的に言えば、「金融を基盤とした世界経済」から「情報を基盤とした世界経済」への移行期です』。こういうふうなことを、まず述べておられます。続けて、この一文は、私も常に頭の片隅に置いているのですが、『議論すべきは「雇用(の輸出)」に対する不安についでではありません。』、『事業計画を立案し、設計やデザインを考え、マーケティングや研究開発に知恵を絞ること、そして自ら手がける必要のないものを選別してアウトソーシングすること。すなわち「戦略」を管理する経営構造の確立こそ、知識労働時代の最も重要な課題であるべきなのです。』このようにドラッカー教授は仰っています。
繰り返しますが、私も常にこの言葉を思い出して反復するようにしているのですが、私の、本日の諸先生のお話全体を繋ぐ”縦糸”としての話はこれで終了させて頂きます。ご静聴、ありがとうございました。

以上



(C)2010 Takaaki Tanaka & Sakata Warehouse, Inc.

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