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第180号中小企業EDIの課題と国の取り組み 2009(2009年9月15日発行)

執筆者 藤野 裕司
株式会社データ・アプリケーション 営業本部 EDI/SCM企画推進 エグゼクティブコンサルタント
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1955年生まれ
    • 1979年 同志社大学卒業
      情報システム企業入社
    • 2005年 現職
    • 1980年代初頭より企業間データ交換に携わり、1991年より日本のEDI標準開発等を行う。
    • 現在、流通ビジネスメッセージ標準(流通BMS:流通次世代EDI)や通信プロトコル(ebMS、AS2、JX手順)などの普及に協力。
    • その他、コンピュータセンター運営、EDIの技術サポート経験をベースに、ユーザーの立場から考えるEDI/SCMを提言。
    • 企業や業界のEDIコンサルティング、論文執筆、講演などを通しEDIの普及に努めている。
    • EDI関連情報をブログ「EDI情報館」(http://www.ediblog.jp/)にて発信中。
    所属学会
    • 経営情報学会
    講演・論文・著書
    • 外部からの依頼による講演活動、110回。
    • その他、セミナーや小規模の説明会も実施。
    • 雑誌記事、論文等多数執筆。
    資格
    • 特種情報処理技術者

目次

はじめに

  1970年後半から始まった大手企業間でのコンピュータを経由するオンライン取引は、JCA手順(1981年)・全銀手順(1983年)の策定や通信回線の完全解放(1985年電気通信事業法制定)を経て、広く日本に普及するようになった。それは「EDI」と呼ばれ、標準化されたルールに則り企業間のコンピュータが人手を介することなく自動連携処理を行い、中小企業にとっても合理化の手段となるはずであった。しかし、導入費用が高額であったり、取引先毎に異なる端末を準備したり、安価であっても個別の手操作を要求される場面が増え、本来の業務以外のコストと人的負担が強いられるようになってきている。
  この問題に対処するため、国としても様々な取り組みを進めてきた。本稿では、そのなかでも直近2008年度の対応とその成果物である「中小企業EDI推奨ソリューションガイド」の概要、2009年度の取り組みについて解説する。ただ、2009年度については、執筆時点(2009年9月)ではあくまで「予定」であること、また国の施策とはいえ藤野が現在携わっている製造業を中心とした取り組みであることを、ここではご理解いただきたい。

1.中小企業にとってのEDIに関わる問題

  中小企業にとってEDIとは自らの意志で積極的に取り組んでいるものではない。どちらかというと、取引先からの要請でいたしかたなく対応する場合がほとんどである。というのも、EDIを導入することによりメリットが出るのは、総じて大手企業側だからである。
  そもそも、EDIを行うメリットの大もとは、コンピュータで処理するためのデータを、取引先からもらう所より始まる。つまり自社で行う入力もしくは入力補完作業の代行である(もちろん、それだけではないのは当然だが)。その取引先が大手企業の場合、相応のシステム環境と体制が整っているが、中小企業の場合、それが十分であることはほとんどない。なにもコンピュータに向かって小難しい操作をするより、手書きの伝票やFAXを使った方が簡単なことは言うまでもないのだ。それを敢えて強要(適切な言葉ではないが)するところから、様々な問題が生まれてくる。
  これを中小企業側の悩みという視点で書き出すと

システム導入にコストがかかる
導入しても運用が難しく使いこなせない
取引先毎に異なる方式を要求される
本来の業務でない作業に時間を取られる
先方からの要請にもかかわらず利用料が発生する
自社にシステムのわかる担当者がいない
有効なデータを提供すると言われても使える場面がない
自社にシステムを持っていてもコストをかけずに活用するすべがない
総合的に考えてもメリットが感じられない
しかし対応しないと取引が減らされそう

  このような問題は、インターネットの普及に伴い格段に広がる様相を見せている。特にWebEDIは、発注者/受注者共に大きな初期投資を抑えることできるため、爆発的な普及が進んでいると言える。
  しかし、それは小さな企業にとって悩みを増大させる結果となった。
  一方、この状況に国や業界もただ手をこまねいて見ているわけではなく、様々な取り組みを重ねてきている。
  以下に、近年行われたその取り組みを紹介しよう。

2.これまでの取り組みと課題

  国としては、毎年「中小企業のIT化促進」に関わる政策を打ち出し続けてきた。そのなかにはEDIに関する取り組みも多く見られる。ここ数年では、2006年経済産業省中小企業庁「中小企業戦略的IT化促進事業」では「EDIシステム等促進事業」が取り上げられ、これはその後も継続し公募が進められている。また、2008年に策定された内閣府IT戦略本部「IT政策ロードマップ」には、企業の生産性の抜本的な底上げ【総務省、経済産業省及び関係府省】として、「汎用的な企業間電子商取引基盤や中小企業向けオンライン版ソフトなど業務効率化のための基盤の開発等によるASP・SaaS等の汎用的なシステムの利用率の抜本的拡大」と明記されている。このあたりを見ても、国は積極的に中小企業向けEDIの普及促進に力を入れていることが感じられる。
  しかし、現実としてはそのような政策に関わりなく、前項のような問題が発生している。中には取引先からの本業の注文を受けるために利用せざるを得ない「営業ツール」と理解されているむきもある。つまり「自社に何のメリットもないが、注文を受けるためには利用する以外に方法はない。それに関わるコストは販促費用と見なす」という実態になっているのだ。
  これを受けて、経済産業省製造産業局素形材産業室は、中小企業の研究開発・創意工夫の意欲をそぐような取引慣行の改善を求めるべく2007年6月に「素形材産業取引ガイドライン(素形材産業における下請適正取引等の推進のためのガイドライン)」を策定、2008年12月にその改訂を行っている。これは、下請代金支払遅延等防止法(下請法)に基づくガイドラインのひとつである。ここでの改訂で注目すべき点は、「取引先に業界標準に準拠しない固有のEDI 導入を強いることは、『自己の指定する物や役務を強制して利用させる行為に該当する』おそれがある」、及び「例え業界標準のEDIメッセージに準拠していても、取引先に固有のシステム導入や人手による作業負荷を強制する仕組みの要求は『自己の指定するものや役務を強制して利用させる行為に該当する』おそれがある」という解釈が追加された。つまり、独自のEDIによる取引を強要することは下請法違反になるということである。
  これに呼応して、2008年度経済産業省商務情報政策局情報経済課事業「ビジネスインフラ研究会」では様々な提案がなされた。以下にその概要を説明する。

3.2008年度「ビジネスインフラ研究会」での検討

  「ビジネスインフラ研究会」は、これら中小企業にかかわるEDIの問題点に対して、今後の進め方について検討を重ね、その検討結果とそれに対する提案を2009年6月、最終報告としてとりまとめ発表した。それを簡単にまとめると、以下のようになる。
[ビジネスインフラ研究会最終報告書(要約)より抜粋。原典の意味を変えないため、年号表記を含め文章は極力原文のまま引用している]
(1) 新しい情報連携の必要性

業種や国境の枠にとらわれることのない新しい形の情報連携が必要
欧州のREACH規制や素形材産業分野の下請法ガイドラインなどの新しい規制に対応するためにも業種を超えた新しい情報連携が必要

(2) ビジネスインフラの提案

企業間でのデータ交換は必ず標準で行われること
標準の構成要素は、通信プロトコル・コード体系・メッセージの3つで、国内外で広く業種横断的に使われているものを利用することを新たなビジネスインフラの設立の要件として提案
要件を維持するために、要件の遵守と保守を担保する仕組みが必要

(3) ビジネスインフラの実現に向けたアクションプラン

多端末問題や多画面問題に悩まされてきた中小企業やサプライヤーを中心にビジネスインフラの構築を進めていく必要がある(3年で1万社が参加するビジネスインフラ)
次世代EDI推進協議会(JEDIC)と次世代電子商取引推進協議会(ECOM)のメンバーを中心に、①標準の策定、②標準の遵守を担保するための認定制度の構築、③標準の策定・遵守・保守のための組織の設立、④中小企業の参画を促すインセンティブと現在のサプライチェーンの新たなビジネスインフラへの移行方法の検討に着手
実証実験を通したビジネスインフラの先行導入
素形材産業取引ガイドラインの徹底した運用による多端末現象・多画面現象という我が国の情報連携の課題を解消
中小部材メーカーを含めたすべての企業が事業戦略の優位性確保の手段として利用できる「ビジネスインフラとしてのEDI」への進化を促す
3年間に1万社という目標を着実に達成するため、半年に一度のフォローアップを行う

(4) 将来検討すべき課題

ビジネスインフラは、そのメリットを最大限に生かすためには、保護に偏っている情報セキュリティや個人情報保護の考え方を見直す必要がある
情報の適切な利活用を進めれば、複数の中小企業が情報を共有することで大企業に相当する情報を保有することも不可能ではない。そのためには、情報の利活用と保護をバランスよく保つ仕組みが必要であり、現存する様々なルールの見直しを含めた包括的な議論が行われることを期待したい

4.中小企業EDI推奨ソリューションガイド

  また、上記の検討結果・提案を導き出すため、「ビジネスインフラ研究会」の下部組織として「中小企業EDI促進」という委員会が設置され(藤野が委員長)、具体的に中小企業におけるEDI普及のための問題点と解決策等の検討が進められた。ここでは、業界標準EDIを推進する主だった業界(*1:中小企業EDI促進委員会参加業界)代表が集まり、前述の「素形材産業取引ガイドライン」をもとにその解決策を探った。期間は2008年11月から2009年3月まで。まず、発注側企業が中小企業に対してEDIを求める場合の注意点等について検討を行っており、本件は2009年度以降も継続して進められる。その成果物は「中小企業EDIソリューションガイド」として発表する予定だが、この2009年3月末までの中間的成果として「中小企業EDI推奨ソリューションガイド」を公開した。これは、JEDICの報告書としてダウンロードできるようになっている。(*2:JEDIC報告書[付録1]参照)
  本書の構成は
090915-1
  その主だったところを簡単にまとめると、

「取引先にもとめるEDIの業界標準」とは、「連携指針制度」に基づくものもしくはCIIビジネスプロトコルとして登録されたEDI標準、それ以外としては国際業界団体と整合化した業界標準や業界内で広く認知されたEDI規格とする。
取引先業界が複数にまたがるときは、業界間での調整と合意が必要。今後はそのような場合を想定し、国際標準となったEDI共通辞書(*3:JEDIC報告書[解説1]参照)により整合性を確保した「業際EDI標準」の策定が重要となってくる。
中小企業に求めるEDIとしては「WebEDI」や「メールEDI」などがあるが、これも自社独自の方式を強要すると下請け法に抵触する恐れがある。双方に十分なメリットが出るように配慮することと、業界標準データを送受信できるよう準備しておくことが重要。
通信方式にはさまざまな標準があるが、個々の特性を理解し、取引先が選択できるような環境を整えることが重要。
企業間で直接接続することが難しい場合や既存のサービスを活用したいときなど、ASPを利用することが多い。この場合、取引先が複数のASPに接続するといった事態を防ぐため、ASP事業者はサービス内容や相互接続性について事業者同士で標準化を行い、ASP間における連携相互運用機能を実装することが望まれる。
その他、コード類の標準化やセキュリティ・認証にかかわる配慮、使用ソフトウェアのバージョンの違いや運用規約に至るまで、さまざまな考慮点がある。
中小企業にとっては、これらを克服するにも最低限のスキルが求められる。その場合には、EDIを依頼する側も支援等を考慮すべきである。

  となっている。

5.2009年度「ビジネスインフラ事業」での取り組み予定

  2008年度「ビジネスインフラ研究会」の成果を引き継ぎ、2009年度は一歩進めた「ビジネスインフラ事業」が立ち上げられることとなった。これは、経済産業省商務情報政策局情報経済課が公募を行った2つの事業から成り立っている。
  ①平成21年度ビジネスインフラ事業(業界標準EDI整備に関する調査研究)
  ②平成21年度ビジネスインフラ事業(ビジネスインフラの実現に向けた実証)
  この2事業は相互に連携し、中小企業が大手発注企業側から要請される「独自仕様のEDIによる多画面現象」の解消を目的としている。
  詳細は現時点(2009年9月)で公開できる状況ではないが、公募内容から抜粋すると、
[原典の意味を変えないため、年号表記を含め文章は極力原文のまま引用している]
  (1)平成21年度ビジネスインフラ事業(業界標準EDI整備に関する調査研究)
    健全な業界取引の遂行と産業界の競争力維持・向上に資する「業界標準EDI」の要件を検討し、EDI構成要素(メッセージ、情報項目、データ型、構文規則、参照コード)の業界共通の部分について整理し、業界共通EDIとして定義する。このようにして作られた業界共通EDIをもとに、EDI共通辞書
http://jedic.ecom.jp/dictionary/dictionary_download.html)等と突き合わせて、共通EDI部分と業界固有部分を分析するツールを開発する。
    次に、各業界の標準EDIを認定する制度及びその認定された「業界標準EDI」の保守・管理手順とその運用体制について検討する。これら検討結果については、国連CEFACTやアジアなどの関係機関にも発信し、国際連携を推進する。
    中小企業に向けには、業界標準EDIに基づくEDIソリューションガイドを作成し、首都圏及び地方各地で中小企業向けの説明会を行う。現状のEDI実施状況については、情報処理実態調査を中心とする統計調査で分析する。
    本調査研究で進める内容は別途実施される「ビジネスインフラ実証プロジェクト」との間で整合性をとるため、プロジェクトの仕様評価及び成果に向けた活動の調整を行う。
  (2)平成21年度ビジネスインフラ事業(ビジネスインフラの実現に向けた実証)
    上記「業界標準EDI整備に関する調査研究」で検討される「業界標準EDI」を実装し、実際に活用することで中小企業を初めとする多くの企業に提供するための仕組みを構築する。具体的な仕組みとしては、以下のようなテーマがあげられる。

不特定の中小企業向けにサービスを提供する既存のASP/SaaS/パッケージソフトウェア間の接続などを通じた汎用的な情報連携および企業間での情報連携に関する実証。
不特定の中小企業向けにサービスを活用した、利用者視点に立った情報連携および企業間情報連携に関する実証。
企業間情報連携の自動化を支援するツールの業界横断な仕組みとするための汎用化。および企業間情報連携に関する実証。

    とあり、これらはいずれも中小企業を含むASP/SaaS経由、もしくは直接接続による企業間連携を自動化するサービスやツールを提供することを目的としている。
    これら2つの事業を通して言えることは、国として単に中小企業を守るのではなく、中小企業のビジネスを阻害する要因を排除しIT化を促進することで、日本経済全体を活性化させるということだ。これは、一般的に言われる「バラマキ政策」や「大企業の言いなり」という姿勢とは異なり、ビジネス全体の底上げを図る有効な政策といえるのではないだろうか。
    この事業自体まだ公募採択が終わったばかりで、どのような形で進められるか定かではないが、2010年3月には概ねその成果が見えてくるだろう。

おわりに

  「産業及び経済の活性化は民間独自の力で」というのは、今では至極当然のこと。しかし、ことEDIの導入に関して言えば、「取引先に進められた」とか「国の政策だから」というような半ば「いたしかたなく」の流れで普及したことも現実としてはある。これからは下請法との兼ね合いもあるが、企業側にも「なんらかの圧力で背中を押して欲しい」という声が聞かれなくもない。そうした時に、国の指針が、具体的なガイドとなり導入の後押しになるなら、中小企業にとっても普及の弾みになるのは間違いないだろう。
  今年度の政策が、これで終わってしまうということはなさそうだ。さらなる進化と具体的な政策で、より一層の中小企業EDI促進の指針になることを期待していきたい。

以上


【註釈】

(*1) 中小企業EDI促進委員会参加業界

  • (社)電子情報技術産業協会
  • (社)日本電線工業会
  • (財)建設業振興基金
  • 石油化学工業会
  • カミネット
  • 共通XML/EDI実用化推進協議会

(*2) JEDIC報告書[付録1]
  JEDIC>活動報告>報告書>報告書一覧>発行年度21年 情報連携・共有部会報告書p.42:
  付録1 中小企業EDI 推奨ソリューションガイド
  http://jedic.ecom.jp/activity/report/Report_h20_2.pdf
(*3) JEDIC報告書[解説1]
  JEDIC>活動報告>報告書>報告書一覧>発行年度21年 情報連携・共有部会報告書p.61:
  EDI共通辞書概説
  http://jedic.ecom.jp/activity/report/Report_h20_2.pdf


(C)2009 Hiroshi Fujino & Sakata Warehouse, Inc.

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