第177号デリバリー・クイック化の改革ポイント(2009年8月4日発行)
執筆者 | 平居 義徳 ロジスティクス・コンサルタント 技術士 |
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目次
1.リードタイムの課題
入荷から出荷・納品までのリードタイムは、つぎのように分類することができる。
・ | 発注品・入荷処理のリードタイム 着荷品の荷卸し、仕分け、検収、移動ののち入荷計上するまでの所要経過時間 |
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・ | オーダー処理のリードタイム オーダーエントリー業務や伝票・リスト、ラベル・シール、送り状の発行経過時間 |
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・ | 出荷業務のリードタイム 受注品のピッキング、検品、梱包、仕分け、積み込みまでのリードタイム |
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・ | 輸送・配送リードタイム 拠点間の転送やデポへの移送、ユーザーへの納品リードタイム |
ユーザーサイドから見て、これらが、要請水準に対し、”満足するレベル”であるかどうかが重要なリードタイムの課題なのである。
具体的に、これらのリードタイムが長いための損失(ユーザーおよび当社双方の損失)としては、つぎのことが挙げられる。
・ | 納品指定日時の遅れ 原材料や加工部品の場合には、納品指定日時の遅れによりユーザーの生産、加工、組み立てラインが停止する。(ときには、ペナルティが発生する) 消費財では、ユーザーの売り損じ・機会損失が発生し大きなクレームとなる。 |
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・ | 3PLでの事業開拓不能 リードタイムが長い物流事業体では、相対的に営業開拓力(商品力、アピールポイント)がなく、売り上げが衰退する。 |
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・ | リードタイムの課題は、業務効率化のテーマと一致する これは、当社にとっても、大きな利益源である。 |
そこで、ここでは「センター業務のリードタイム短縮」(クイック化)に特化し、その「課題と改革ポイント」についてレビューすることとしたい。
2.入荷品処理での対策例
いま、仮に朝7時の着荷品が荷卸し、仕分け、検収と入荷計上で昼前の11時までかかったとしよう。この場合の入荷業務のリードタイム実績は、「4時間」である。
多くの場合、この「4時間」の実態を調べると、その取引先分の入荷各工程の業務時間合計は(ロット数にもよるが)殆どの場合、一件あたり20%未満となっている。残り、80%ほどの経過時間は各種の事情による工程間の「一時仮置き」(滞留)の時間なのである。つまり、リードタイムが長くなる最大の課題は、この「一時仮置き」の累計時間であるということができる。
この実態を調べるためには、業務をおこなう人側からのものではなく、「取り扱う商品側」から(商品の身になって)の分析が必要である。
「仮置き」が発生する事情や背景は、それぞれのセンターで異なるが、そのケース・状況としてはつぎのことが挙げられる。
ここでは、青色で示したものがリードタイムの「課題」であり、赤色部分がこの課題に対する「対策代替案」(対策案の選択肢)である。
□ | 納入車の到着時刻とセンター始業時刻とのズレ | ||
・ | 入荷予定情報による早朝勤務、シフト制の実施 | ||
・ | 夜間荷受け体制の実施 | ||
□ | 商品荷受けゾーンから検品ゾーンへの移動(ときには、1Fから重層階へ) | ||
・ | 通過品、(入荷即出荷品、クロスドッキング品、スルー品)については、1Fでの完結処理方式(このためには、1Fの配置機能の変更が必要となることが多い)とする。 | ||
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入荷検収前での「納入先別」、「アイテム別商品仕分け」や 「1ケース1個もの」と「1ケースに同じアイテムの整数入り」「1ケースに複数アイテムの詰め合わせもの」の分類ならびに 「個数・数量検収だけでよいもの」と「サンプリングで内容品のサイズ、特性検査まで必要なもの」との区分 「フレッシュ入荷品をすぐに配送先別に仕分ける」ときの全アイテム完了までの滞留 |
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・ | 荷卸し段階での一次分類の実施 | ||
・ | 取引先での配送車への分類積み込みの要請 | ||
・ | 荷卸し場とパターン別検収ゾーンとのルール化(この内容品は、どこに卸すかの決め事) | ||
・ | 入荷ケースでの検収パターン表示の徹底 | ||
・ | 物量、形態、商品特性に見合った自動ソーター、仕分け設備、仕分けシステムの検討 | ||
□ | 入荷品の受付、商品仕分け、検収・検品、入荷計上、移動などの分業による各工程間の一時滞留 | ||
・ | 検収・検品パターンごとの工程統合(工程別分業をやめ、検収業務パターンごとの単独完結方式とする。) | ||
□ | 入荷ロットが一件当たりでNケースの場合、納品書(内容明細書)が入っているケースをさがす。 | ||
・ | 「納品書在中シール」の貼付ルールの徹底 | ||
・ | EDIによる検品体制の実施 | ||
□ | 緊急品と通常品の区別が不明確 | ||
・ | 発注・入荷の事前情報システムの構築 | ||
・ | 荷卸し時に識別できる表示法 | ||
□ | 小物・同梱品検収でのケース出しと検品アンマッチ時での再検収 | ||
・ | 同じアイテムで複数個の入荷品は、発注先でバンディングなどを要請する。 | ||
・ | 小物バラ出し専用検収台を工夫する。 | ||
□ | 検収時、誤品、誤量、汚損、破損や伝なし品などのイレギュラーで手間取る。 | ||
・ | 発注側や納入元と一体になった根源対策の検討 | ||
□ | 一日のなかでの時間帯別入荷量の波動や 日別、曜日別入荷量の波動(多アイテム、大量入荷のとき処理が遅れる) |
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・ | 入荷予定情報の早期連絡のネットワーク作り、発注、納入元との情報のリアル化 | ||
・ | 納品時間帯指定による業務量の平準化 | ||
・ | センター全体での応援シフト体制の見直し(要員の多能化が必要) |
3.出荷業務での対策ポイント
受注後の出荷業務についても、つぎのような課題と対策例が挙げられる。
□ | 単品ごとの在庫引き当てや品薄品の出荷優先引き当て、集約ピッキングリスト、専用伝票発行、流通加工指図書発行などで手間取る。 | ||
・ | 伝発業務でのネック改善 | ||
・ | クイック化のための専用ソフトの開発 | ||
・ | 伝発時間帯の見直し | ||
□ | ピッキングリストや送り状、必要なシール類、流通加工指図書、納品書などがその商品と一緒に流れないときの滞留(出荷指図だけを先行手配し、後工程で必要な帳票とドッキングする) | ||
・ | 出荷指図と必要帳票の同時発行と同時流し(このためには、単品での正しいリアル在庫管理と把握が前提となる) | ||
□ | バラ・ピッキングで手間取る。 保管ゾーン、サブ在庫ゾーン、同一アイテムの分散在庫よりピッキングゾーンへの補充遅れ。 ピッキング工程での移動(歩く・運ぶ)、指定品をさがす、付帯作業で時間がかかる。 |
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・ | 出荷量に見合うピッキング在庫量の検討 | ||
・ | 補充回数や補充時間帯の見直し | ||
・ | ピッキング業務の効率化(リストのロケ順別発行、アイテム配置・ロケの変更、集約ピッキングの可否、デジタルピッキングなどの検討) | ||
□ | ピッキング、出荷検品、梱包、仕分けなどの工程分業による仮置き。 一日のなかの時間帯で、分業する各工程ごとの負荷と能力に大きな変動がある。 各工程のイレギュラー処置で手間取る。 |
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・ | ピッキングとバーコードスキャン検品の統合だとか出荷才数グルーピングによる梱包ケースへのピッキング品の直入れなどの工程統合の可能性検討 | ||
□ | 別ゾーン、別フロアからケースものとバラ品が別個に出荷場に送り込まれるため、出荷先ごとに荷合わせをする。 アイテムごとの合計量で当日品が出荷場に纏め出しされるため、配送車別とか委託便ごとに仕分けをする。(または、ゴボウ抜きをする) トラック積み込み時、アイテム確認と個数検収で手間取る。 配送車の出発時刻、委託便の引き取り時刻と前工程の業務完了時刻のアンマッチ。 |
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・ | センター全体の同期化流し(便別出荷時刻に合わせた前工程のスケジュール化) |
センター業務については、リードタイムの短縮(業務のクイック化)という視点・切り口からみても、以上のように、まだまだ取り組むべき課題が多い。
これらの改革ポイントは、「センター業務の効率化」「物流品質の向上」とも合致する重要な全社改革テーマなのである。
以上
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