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物流コスト

第138号物流コスト削減策について(2007年12月18日発行)

執筆者 久保田 精一
社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)
JILS総合研究所
研究員
    執筆者略歴 ▼
    略歴
    • 1971年熊本県生まれ。
    • 東京大学教養学部教養学科卒。
    • (財)日本システム開発研究所(シンクタンク)等を経て、現職。
    • 物流や地域開発等のテーマでの公共団体からの委託研究、民間企業のコンサルティング、自主研究などを数多く実施。

目次

  社)日本ロジスティクスシステム協会(JILS)では、毎年「物流コスト実態調査」を実施している。当メルマガ第131号では本調査から物流コストの推移などをご紹介したが、今回はその後編として、コスト削減策についてご紹介する。
  荷主の物流部門が抱える課題は様々であるが、やはり、物流コストの削減が最大の関心事という企業が多いのではないだろうか。コストの削減は直接的に利益の増加に結びつくことから、物流コスト削減を重視するのは当然であろう。しかし、物流コスト削減策は一通り実施済みという企業も多く、コスト削減への新たなアイデアを求めている方も多いのではないだろうか。
  本稿では以下、コスト削減策の実施状況をご紹介するので、自社のコスト削減活動への参考としていただければ幸いである。

物流コスト削減策の実施状況

  図表1は物流コスト削減策の実施状況である。図中の数値は、各物流コスト削減策を実施した企業数を表す。複数回答で調査しており、206社が延べ1,692の削減策を実施している。平均すると1社が8種類のコスト削減策を実施している計算になる。
  実施した企業の多い順にコスト削減策を記すと- ①積載率の向上、②在庫水準の削減、③保管の効率化、④アウトソーシング料金の見直し、⑤物流拠点の見直し -の順である。この5項目は過去数年の調査でも上位にランクインしており、継続して関心の高いテーマであると言える。このうちのいくつかの削減策を取り上げて、もう少し細かくみてみることにする。

図表1 物流コスト削減策の実施状況


*画像をClickすると拡大画像が見られます。

積載率の向上によるコスト削減

  輸送コストは物流コストの6割弱を占めており、コストダウンの必要性が高い。また、小ロット化、多頻度化の進展は輸送効率の低下につながっており、積載率向上のための対策が必要となる。
  積載率の向上には様々な手法があるが、大きく分けると次の5パターンに分類される。①製品規格や包装の見直し、②物流サービスの見直し、③物流ネットワークの見直し、④輸送方法の見直し、⑤積載方法・積み付けの改善。データを詳細に分析すると、機械系メーカーでは「包装や梱包の見直し」や「輸送容器の見直し」、原材料・素材系メーカーでは「大ロット化」、食品系メーカーでは「輸配送の共同化」に取り組むケースが多い。これに加えて「混載化」や「帰り便の有効活用」は多くの業種で取り組まれている。積載率の向上は、製品規格や包装の見直しといった設計レベルから積み付けの改善といった現場レベルまでの幅広い視点で取り組まれている。

在庫水準の削減によるコスト削減

  在庫削減はキャッシュフローの改善だけでなく、コスト削減の面でも効果が大きい。そのため、在庫削減を通じたコスト削減に取り組む企業も多い。在庫削減手法も様々であるが、上位5項目は以下のとおり。①死蔵在庫の整理・処分、②アイテム数の整理、③在庫拠点の集約化、④生産リードタイムの短縮、⑤販売予測精度の向上。このうち、「アイテム数の整理」に取り組む企業が増えているのが最近の特徴である。また、「生産リードタイムの短縮」、「生産の小ロット化」など生産の見直しが、電機系メーカーなどで進んでいる。また、食品系メーカーでは、「需要予測精度の向上」などの取り組みが進んでいる。なお、いうまでもなく在庫の問題は物流部門以外に起因するものが多く、他部門と連携した取り組みが必要であろう。

物流拠点の見直しによるコスト削減

  拠点見直しの中身は、主として拠点の統廃合である(図表2)。拠点の統廃合を進めることで保管コストや拠点運営コストを削減できるのはもちろんであるが、輸送の直送化が進むために輸送コストも削減できる場合が少なくない。なかでも、工場直送化に取り組む例が業種を問わず多い。このように、直送化と拠点の統廃合をセットで考え、トータルコストを削減するのがポイントとなっている。また人口減少や高齢化による需要減少に対応するため地域拠点を統廃合する例、小ロット化に対応するために拠点を共同化する例も多いようである。

図表2 拠点見直しの種類


人員削減や非正規雇用化の流れが転換か

  コスト削減策の実施状況を経年比較してみると、いくつかの傾向が浮かび上がる。
  もっとも顕著な傾向は、コスト削減のために人員削減を進める企業が、近年、著しく減少していることである。2003年度までは「人員削減」が主たるコスト削減策となっており、拠点閉鎖と人員削減によりコスト削減を図る企業が非常に多かった。その後は人員削減を行う企業は減少したものの、社員の非正規雇用化(具体的には、契約社員やパート社員等の活用)により、人件費を抑制する傾向が続いた。ところが昨年度から、非正規雇用化を行う企業も減少に転じている。景気の回復や若年労働力の不足等の影響からか、人員削減や非正規雇用化の流れが転換期を迎えたのかもしれない。

ロジスティクス視点でのコスト削減

  近年、「アイテム数の整理」に取り組む企業が増えている。アイテム数の絞り込みは営業面ではデメリットがあるものの、輸送の大ロット化、保管効率向上、在庫削減等が促進されるため、物流コストの面ではメリットが大きい。いうまでもなく、アイテム数の削減は生産や企画等の他部門と協力して取り組まなければならない。一般的に言って、物流は生産部門、営業部門、企画開発部門等の他部門の活動の結果として生じるものである。このような、いわば物流の上流工程から改善しなければ根本的な物流の効率化は難しい。特に輸送や保管など物流部門で取り組めるコスト削減は限界に達しており、「ロジスティクス視点」での取り組みが求められている。

デフレ下でのコスト削減とインフレ下のコスト削減

  「物流をアウトソーシングし、委託先は入札で決定する」といった手法でコスト削減に取り組んできた企業が多い。数年前までのデフレ環境下では、競争原理の導入による単価切り下げがコスト削減の有効な手段であったと思われる。
  一方近年、材料や原油価格の高騰が続いており、雇用環境の改善もあって、コストアップが続いている。価格に完全に転嫁するのは難しい環境にあり、今後も物流コスト削減の必要性は高まるであろうが、インフレ傾向下では、従来のような単価切り下げによるコスト削減がうまく機能しないことが予想される。今後は物流システムの見直しなど全体最適視点でのコスト削減策が必要となると考えられる。
  数年来、荷主企業が物流機能を低下させる傾向が続いていたが、今後はロジスティクス人材の育成を含め、各社のロジスティクス機能の強化が求められることになるかもしれない。

  なお、調査結果のより詳しい内容は、JILS会員研究会で主として会員企業向けに報告させていただいている。また、本稿のうち調査結果の解釈や予測を述べた部分は個人的な見解である。

以上



(C)2007 Seiichi Kubota & Sakata Logics, Inc.

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