第508号 物流コストの上昇を抑えるために (2023年5月23日発行)
執筆者 | 浜崎 章洋 (大阪産業大学 経営学部商学科 教授) |
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目次
- はじめに
- 1. 物流コストの構造
- 2. 物流コストの上昇を抑えるための方策①
- 3. 物流コストの上昇を抑えるための方策②
- 4. 物流コストの上昇を抑えるためのキーワード
- さいごに
はじめに
物流を取り巻く環境は、今後、ますます厳しくなると予想されます。物流2024年問題、人手不足、燃料費や電気代の高騰、人件費の上昇など、課題は山積みです。これらの課題を解決すべく、荷主の物流担当者、物流会社のみなさまは、日々、ご尽力されていると思います。このような状況のもと、確実に言えることは、「なにもしなければ、物流コストは今後、上昇し続ける」ということです。本稿は、荷主の物流担当者を対象に、物流コストの上昇を抑えるためには、なにをすべきかを整理したいと思います。物流会社の方々にも、ぜひ、お読みいただければと存じます。
1. 物流コストの構造
ご承知のとおり、物流コストは「単価×数量」に分解できます。単価は料率、数量は距離、工数、通過金額など、貴社が物流コストを管理している言葉に置き換えていただいても良いです。本稿では、便宜上、単価と数量という言葉で説明します。
単価とは、運賃(宅配便1個、10t車1台のチャーター料など)、賃借倉庫の坪単価、荷役作業の作業単価、包装資材の単価、パート・アルバイトの時給などと考えるとイメージしやすいと思います。数量は、出荷数量、輸配送のトラックの台数、保管・作業の倉庫の坪数、パート・アルバイトの人数などと考えるとわかりやすいと思います。
物流コストは、「単価×数量」なので、単価か数量のいずれかが上昇すると物流コストは増加します。また、単価か数量のいずれかが減少すると物流コストは減少します。
「単価」については、今後、上昇することはあっても、下落することはしばらくはないと思われます。その理由として、燃料費や人件費の上昇、安全や環境、適正な労務管理への対策の費用の増加などがあげられます。単価は上昇していくでしょうから、なにも手を打たなければ、荷主の物流コストが上昇することは、明らかです。
「数量」については、物流部門でコントロールできない「数量」と、コントロールできる「数量」があります。物流部門がコントロールできない「数量」は、販売量(出荷量)、在庫量(生産量、仕入量)など、営業部門や生産部門・購買部門など他部門の活動により変化する数量です。一方で、物流部門がコントロールできる「数量」もあります。輸 配送のトラック台数、物流センターの面積、作業員の人数や作業時間などです。
2. 物流コストの上昇を抑えるための方策①
「単価」が上昇している状況下において、物流コストの上昇を抑えるためには数量を減らすしかありません。ただし、出荷数量(販売量)を減らすと売上高が減少しますので、そういったことではありません。物流部門がコントロールできる「数量」を減少させること、具体的に言うと、無駄を省くことです。輸配送の積載効率や回転率を高めトラック台数を減らす、保管効率を高め倉庫の面積を減らす、作業改善により現場作業者の人数や労働時間を減らすなどです。つまり、地道な現場改善に取り組み、無駄を省くことです。多くの物流現場では、これまでも現場改善活動に熱心に取り組まれてこられたとは百も承知ですが、ここで改めて現場改善の重要性が増していることを認識いただければと思います。
3. 物流コストの上昇を抑えるための方策②
筆者は以前から、「日本の物流は過剰サービス」と認識しています。過度な時間指定納品、トラックドライバーによる納品先での付帯作業、誤出荷率〇ppm以下など、着荷主等の過剰な要求に対応しているなど、例を挙げればキリがありません。高度な物流サービスに見合う追加料金を発荷主や物流会社が受領しているのであれば良いのですが、日本の商慣習的に難しいのでしょう。高度な物流サービスに追加料金を受領できないのであれば、物流の数量を削減するために、現状の物流サービスを見直す必要があると思います。具体的な例を3つ挙げます。
【翌日納品を翌々日納品へ】
現状の取引条件は、当日受注したものを当日作業し、夕方に運送会社に渡して翌日の午前中に納品するのが一般的だと思います。このため受注見込みのトラックや作業員を予測して手配しています。これを当日受注したものを翌日に作業・出荷に翌々日に納品することで、確定した物量のトラックや作業員の手配ができるようになり、無駄が省けます。
【毎日納品から隔日納品へ】
物量が少ない取引先には、毎日納品ではなく隔日納品にすることで、一回あたりの物量が増加し、積載率の向上が見込めます。
【過度な時間指定の緩和】
指定時間通りに物流センターに到着しても、物流センターが混雑し、荷積みや荷降ろしまで待機しなければならないといったことが発生しています。国土交通省の調査では、トラックドライバーの一日の平均拘束時間は約13時間、そのうち約4時間が待機時間という結果が出ています。予約した病院やレストランで、1時間待たされたら筆者なら諦めて帰ると思います。日本のドライバーの皆さまの我慢強さに敬意を表します。効果がない時間指定は止めた方が良いのではないでしょうか。
上記は3つの例を挙げましたが、このように、これまで当たり前だったことを見直すことでも、「数量」を減らすことが可能です。
4. 物流コストの上昇を抑えるためのキーワード
筆者は物流を継続するために、次の4つが大事だと考えています。この4つは、物流コストの上昇を抑えるためにも役立つと思われますので紹介します。
1)標準化
標準化には2つの意味があります。1つは、規格、仕様、表示等を統一することです。パレットのサイズ、外装段ボールのサイズを標準化することで、一貫パレチゼーションやフォークリフトの荷役が可能になります。標準化のもう1つは、「誰にでも出来るようにする」ということです。ベテラン社員だけでなく、新人でも即戦力になるように、業務を単純化するとともに、マニュアル等を整備して誰にでも出来るようにするということです。ファストフードのアルバイトをイメージするとわかりやすいと思います。
1) 平準化
出荷の波動をできるだけ小さくすることです。これは営業部門の協力が必要です。例えば、営業が月末に押し込みで販売すると一時的に出荷量が増えますが、その後は反動で出荷量が減少し、出荷量の波動が大きくなります。波動が大きくなると、トラック台数や作業員の増減も大きくなるため物流コストは上昇してしまいます。
3)共同化
共同配送や在庫拠点の共同化など、同業他社や異業種と物流を共同化することです。納品車両の削減や、物量波動の抑制などの効果が見込まれます。また、排気ガス等の排出量の削減にもあり、環境負荷軽減にも役立ちます。
4)省力化
業務のIT化、自動化、機械化、ムダの削減などにより、できるだけ投入する経営資源を少なくすることです。今後は、物流ロボットの開発、AIの活用など、新しい技術の活用が多いに期待できる分野です。
上記4つのアプローチにより、「数量」を減らすことが可能です。また、「単価」の削減にも役立つこともあると思われます。
さいごに
今後の物流コストの上昇を抑えるためには、地道な現場の改善と、これまでの物流サービスを見直すことが必要です。外部環境のせいにして諦めるのではなく、いまこそ、我々物流関係者の底力を発揮するときではないでしょうか。
物流を持続させるために、引き続き、産官学の物流の関係者一同で、頑張りましょう!
【参考資料】
久保田精一・浜崎章洋・上村聖『物流コストの算定・管理のすべて』(2021年、創成社)
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