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物流コスト

第207号物流コストと在庫保有コスト(Inventory Carrying Cost)(2010年11月04日発行)

執筆者 久保田 精一
公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS) JILS総合研究所 准主任研究員
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1971年熊本県生まれ。
    • 東京大学教養学部教養学科卒。
    • (財)日本システム開発研究所(シンクタンク)等を経て、現職。
    • 物流コストやロジスティクスの指標管理等、物流や地域開発等のテーマでの自主研究、委託研究、コンサルティング等を主に実施。

目次

1.はじめに

  物流コストの管理・削減は、荷主企業にとって常に最重要なテーマであるが、近年の不安定な経済環境下で、在庫保有に伴うリスクがクローズアップされてきており、在庫削減を通じたコスト削減の取り組みが拡がっている。このような背景から、在庫保有に伴うコスト(以下、在庫保有コストと言う)の重要性が高まってきている。
  一方、物流コストの算定は大手荷主企業等を中心に広く普及しているが、在庫保有コストを定期的に算定・管理している企業は少ないと思われる。JILSで実施している「物流コスト調査」(*1)でも、物流コストに占める保管費以外の在庫保有コストの割合はわずかであり、そのような実態を反映しているものと思われる。
  日本企業の実態を鑑みると、現品管理だけでなく、需給調整等を含む広義の在庫管理活動のアウトカム指標ともいえる在庫保有コストを、物流コストの一部として捉えるのは確かに管理の実態に合わない面がある。一方、会社組織全体としてみると、後述するように在庫保有コストの額が決して小さくないことに加え、在庫水準と輸送費、保管費等との間にはトレードオフの関係があることから(在庫を一定以上に減らすと積載効率が低下して輸送コストが増えるなど)、在庫保有コストを物流コストの一部として捉えないことにより、物流コストの削減が優先されてしまい、全体で見ると非効率を生じている可能性もある。
  例えば、在庫保有コストが可視化されていれば、在庫を持たないよう直送化を推進した方が望ましい場合に、可視化されていないが故に輸送コストの削減が優先されてしまい、各ブロック拠点に在庫が配置されている、といったケースである。
  詳しくは後述するが、海外の文献によると在庫保有コストは一般的に平均在庫金額の20%程度とされており(*2)、これを前提とするならば、在庫日数が高めの業種(*3)の場合に、在庫保有コストが輸送コストを上回ることも十分に有りうる(下記例)。このような場合には特に、在庫保有コストが顕在化していないために、非効率が生じている可能性が高い。

【例】在庫日数が1.8ヶ月の場合の在庫保有コストと輸送コストの比較
売上高    100.0億円
在庫金額    16.7億円 ※在庫日数1.8ヶ月(仮定)
在庫保有コスト 3.0億円 ※在庫金額×20%
輸送コスト   3.0億円 ※売上高の5%(注1)×0.6(注2)

注1:JILS「物流コスト調査」によると、平均的な売上高物流コスト比率は
5%程度である。
注2:同調査によると、物流コストに占める輸送コストの比率は60%程度である。

  このような背景から注目される在庫保有コストではあるが、その算定方法については資料が少ないほか、算定事例やパラメータの設定方法、ベンチマークとなるデータなど参考となる情報が少ないという問題がある。そこで在庫保有コストの概要について以下に整理する。

2.海外調査にみる在庫保有コストの対売上高比率

(1)米国

  米国のコンサルティング会社であるエスタブリッシュ社では、毎年売上高物流コスト比率等のデータを公表している( http://www.establishinc.com からメールアドレス等を登録のうえダウンロードできる)。昨年発表されたデータによると、売上高物流コスト比率は8.48%であり、うち、輸送コストが4.12%、在庫保有コストが1.83%、保管コストが1.73%等であるとされている。ここでは保管コストは在庫保有コストに含められていないが、保管コストを含めた(広義の)在庫保有コストは売上高の3.56%に達することになる。なお、1.83%という在庫保有コストの根拠について、資料中では明確には説明されていないものの、同社発表の他の論文の記述によると、在庫金額に一定(20%弱)の率を乗じて求めているようである(*4)。

(2)欧州

  欧州ロジスティクス協会がATカーニー社の協力を得て欧州のロジスティクスに関する調査を定期的に実施している。2008年の調査によると、売上高物流コスト比率は7.3%であり、うち、輸送コストが3.5%、保管コストが1.8%、在庫保有コストが1.2%である。こちらも、保管コストを在庫保有コストに含めていないが、合計すると3.0%が広義の在庫保有コストということになる。
  このように、いずれの調査結果でも在庫保有コストがかなり高い値となっており、保管費を含めると売上高の3%を超える水準に達していることがわかる。

3.在庫保有コストの内訳

  在庫保有コストの内容は多岐にわたるが、「資本コスト」、「在庫サービスコスト(保険料、税)」、「保管コスト(倉庫料金等)」、「在庫リスクコスト(廃品・損傷・盗難リスク等)」の4つに分類されるのが一般的である(*5)。以下、それぞれの内容を見ていく。

(1)資本コスト

  「資本コスト」は、端的には在庫を保持するために拘束された資金に対する金利である。資本コストには、資金調達費用と機会費用という2つの側面がある(*6)。資金調達費用は、資金を調達するため、銀行へ支払った金利といった費用である。機会費用とは、在庫に拘束されている資金を他の用途に活用した場合に得られたであろう利益に相当するものである。
  いずれの場合も、「資本」には他人資本だけでなく自己資本も含まれる。そのため、資本コストを算定する際には、銀行金利等の負債コストだけでなく、自己資本コストも計上することが望ましいとされる。銀行金利等と異なり、株主に対する配当はある意味で義務的なものではないため、自己資本に対するコストは計上する必要がないようにも思えるが、一般に株式投資は配当が不安定であるうえ、倒産等の際の弁済順位が低いことから、投資家は割高なリターンを求めることになる。つまり、自己資本の調達に対しては、標準的な金利に一定のリスクプレミアムが上乗せされた金利となるので、一般的にはかなり高めの金利となるとされる。
  在庫保有コストの算定に当たっては、自己資本と他人資本のコストを合成して金利を算定する必要があるが、その際、海外では、WACC(Weighted Average Cost of Capital、加重平均資本コスト)を利用するのが一般的であるようである。なお、WACCのデータはBloomberg等からデータが提供されており、信用状態や株価に大きく左右されるが、米国の場合10-12%程度が標準的という(*7)。
  以上は資金調達費用についての議論であるが、機会費用の側面を考慮するなら、これを上回る効率の金利が適用されることもあり得る。例えば、会社が経営計画等で投下資本に対して高い利益目標値を掲げる場合などである(*8)。また、資金のアロケーション(他の投資プロジェクトに資金を振り向けること)が想定できる状況であれば、他の投資プロジェクトで得べかりし収益を機会費用として認識することもありうる(*9)。
  このように資金コストの金利は様々な方法で決定されるが、一方で、経営計画の変更など外部的な要因により在庫保有コストが大きく増減してしまうという問題がある。WACCについても、金融市場の動向、財務部門における資金計画の巧劣等、外部的な要因に影響されるという問題が存在する。

(2)在庫サービスコスト

  在庫サービスコストは、保険料や在庫に対して課される税金である。米国では、州によって在庫に税金が課される場合がある。これは、期末の保有在庫に対して課される税金であり、資産課税の一部である。余談だが、期末の在庫に対して課税されるため、当該州では期末に「Inventory Tax Sales」が行われることも多いという(*10)。また、税率は高くないとはいえ、課税を逃れるために在庫拠点を州外に移すといった悪影響が出る懸念から(*11)、課税を取りやめる州が増えているようである。

(3)保管コスト

  営業倉庫の賃借料、自家倉庫の運営費用等である。保管コストの算定方法については、通産省「物流コスト算定活用マニュアル」等でも示されているので、割愛する。なお、JILS「2009年度物流コスト調査報告書」(*12)によると、売上高に対する保管費の割合は0.79%であるが、ここには在庫金利等を含む「在庫費用」が一部含まれており、これを除くと0.56%となる。

(4)在庫リスクコスト

  陳腐化、劣化、損傷、盗難等のリスクに対応するコストである。
  このうち盗難や紛失は、棚卸の際、棚卸差異として明示され、会計上、一般的には棚卸減耗として費用処理されるため、その実績値を把握することは可能である。ただし、盗難や紛失の責任を倉庫管理者である物流事業者が負う場合など、実務上はこの限りでない。
  また、損傷により在庫品が売り物にならなくなった場合には、棚卸資産廃棄損などとして、損失(または費用)計上されることが多い。以上から、盗難、紛失、損傷については、手間を惜しまなければ会計上の費用を把握することは可能である。
  一方、陳腐化や劣化による損失(費用)の算定には、困難さが伴う。
  経年劣化や季節変化などによる陳腐化損の発生は、合理的な予測ができる場合もあると思われるが、景気サイクルによる影響、流行・嗜好の変化による影響などを予測するのは容易ではない。例えば電機製品の場合、需要期に向けてクーラーを作り溜めしていったところ、夏前になって景気が悪化して不良在庫になってしまう、というようなことがあり得るが、秋まで景気が維持できれば、そのような問題は生じない。このようなリスクを合理的に算定するのは難しい。
  これに加えて、会計上、金額把握が難しくなる背景がある。商品が陳腐化または劣化したとしても、在庫評価を見直すとは限らない。一般的には、売れ行き不振の商品、販売期限に近づいた商品があった場合には、値引き販売や広告宣伝等により、販売を促進することが多い(*13)。値引き販売の場合には陳腐化損が会計上は売上高のマイナスとして現れ、広告宣伝等の場合には販売費のプラスとして現れる。このような場合には在庫評価額に影響を与えないが、その際、在庫の陳腐化や劣化によるコストを算定するのは困難である。
  なお、飲料メーカーなどでは、商品の廃棄損等の費用を財務諸表に計上しているケースが多く、中には在庫金額に対して2桁の比率に達している企業も見られる。また、JILSでは棚卸資産廃損の金額を調査しているが(*14)、全業種平均では売上高に占める棚卸資産廃棄損の率が2.3%に達している。これらの比率だけみても十分に高いが、上述のとおり、実際には売上高のマイナスや販売費のプラス等として現れるコストがあることから、実際の在庫リスクコストはかなりの比率に上ると思われる。
  なお、以上では在庫の保有はリスクであることを前提としており、在庫は値下がりするものであると仮定されているが、実際には在庫の値上がり益が生じるケースも少なくないようである(**15)。とはいえ、減損会計の考え方から言っても、在庫保有コストの算定の際に、値上がり益を考慮することはない。

4.在庫保有コストの内訳(数値例)

(1)米国の数値例

  Supply chain logistics management(Bowersox et al.)によると、在庫保有コストは次の数値の範囲にあるのが一般的であるとされている。


Source: Donald J. Bowersox, David J. Cross, M. Bixby Cooper, ”Supply chain logistics management”  2002

(2)企業における算定例

  古い資料ではあるが、米国の大手食品メーカーであるGeneral Mills社が実際に自社の在庫保有コストを算定した資料がある(*16)。結果は下表のとおりであるが、トータルでは、在庫保有コストは在庫金額の16.5%になると算定されている。なお、資本コストは、機会費用ではなく、実際費用を用いているため、11%と比較的低い。また、在庫リスクコストのうち、損傷のみが対象とされており、陳腐化が考慮されていない点なども若干留意が必要かと思われる。


Source: William R. Steele, “Inventory Carrying Cost / Identification and Acounting”, NCPDM Annual Conference Proceedings 1979
※率は各拠点等における在庫金額に対する率であるため、横方向の合計は一致しない。

(3)日本の例

  日本資材管理協会の調査報告書「購買外注管理の実態調査結果と効率化」で、同会が実施した在庫管理費用の調査結果データが紹介されている。これによると、人件費が10.11%(平均在庫金額に対する率。以下同様)、設備費が3.33%、保険料が0.25%、運賃が1.75%、陳腐化費が1.82%、金利が9.66%、経費が1.89%、賃借料が0.39%であり、在庫管理費用の合計は29.20%に達するとされている(*17)。

(4)まとめ

  以上、3つの例を挙げたが、いずれも資本コスト(金利)が最大であり、かつ在庫保有コストの過半を占めていることがわかる。その他のコストでは、在庫サービスコストは米国のデータで見ても小さく、在庫課税のない日本においては、さらに小さくなると考えられる。保管コストは現状でも物流コストの算定対象となっているから、新たに考慮する必要はない。結局、資本コスト(金利)と在庫リスクコストを算定すれば、在庫保有コストの太宗を把握することができると言える。
  上記の例では資本コストがいずれも10%前後であり、端的にはこれに数%の在庫リスクコストが上乗せされるため、在庫保有コストは15%前後の数値に達することとなる。

5.その他の問題

(1)過小在庫に起因するコストの問題

  以上はすべて、在庫が多いことで発生するコストについての議論であるが、在庫が過小であることにより発生するコスト(機会損失)も考慮すべきである。品切れに伴う機会損失や物流コストの増大などがその代表的なものである。このような機会損失を在庫保有コストの一部であると捉える考え方は一般的ではないものの、無視することのできない側面であると思われる。

(2)品切れによるコスト

  品切れによるコストは、「①売り損じによって本来は得られたであろう利益(限界利益)」、「②(顧客が発注先を切り替えることで)将来的に失われる売上(による利益)」「③(サプライチェーンの途絶による)信用の失墜によるコスト」「④受注自体は得られたとしても、品切れに伴う納入遅れによって、余分にかかる輸送コスト」などが挙げられる(*18)。
  ただし、これらのコストはいずれも推計が困難であるという問題がある。①売り損じによる機会損失だけをとって見ても、品切れによって本来得られたであろう受注額を、正確に予測するのが難しい。一般に欠品した際には受注を停止するため、欠品商品の受注額を把握するのは困難である。

(3)製造コストとの関連(トレードオフ)

  品切れによるコストは、「①売り損じによって本来は得られたであろう利益(限界利益)」、「②(顧客が発注先を切り替えることで)将来的に失われる売上(による利益)」「③(サプライチェーンの途絶による)信用の失墜によるコスト」「④受注自体は得られたとしても、品切れに伴う納入遅れによって、余分にかかる輸送コスト」などが挙げられる(*18)。
  ただし、これらのコストはいずれも推計が困難であるという問題がある。①売り損じによる機会損失だけをとって見ても、品切れによって本来得られたであろう受注額を、正確に予測するのが難しい。一般に欠品した際には受注を停止するため、欠品商品の受注額を把握するのは困難である。

6.最後に

  以上、在庫保有コストの算定に関する様々な情報・問題点を整理してきた。在庫保有コストの算定は、海外では1970年代から取り組まれており特に目新しい問題ではないが、物流コストの削減が難しくなるなか、在庫削減によるコスト削減効果を明らかにする管理手法の意義は高まってくると考えられる。その意味で、本稿をご参考としていただければ幸いである。

以上


【注釈】
*1 JILS「物流コスト調査」については次のページを参照。
http://www.logistics.or.jp/search/chart/cost/index.html
*2 Donald j. Bowersox, David J. Cross, M. Bixby Cooper, “Supply chain logistics management”
なお、この場合の在庫保有コストには保管費が含まれている。
*3 事例では在庫日数として1.8ヶ月を仮定しているが、以下の文献によると、鉄鋼業、電機機械器具製造業などは2ヶ月程度の在庫回転期間となっている。
日本政策投資銀行、日本経済研究所「産業別財務データハンドブック2008」
*4 1970年代のNCPDMの会議で発表された同社資料では、”Inventory Carrying Charges : In this data base, we use 18% per annum.” といった説明がなされている。
*5 日本語の出典としては、中央職業能力協会編著「ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト ロジスティクス管理3級」など。
*6 マーチンクリストファー著、阿保栄司訳「ロジスティックス時代の物流戦略」
*7 例えば以下の記事など。
http://www.physicalsupplychains.com/Supply-Chain-Decision-Making-Factoring-the-True-Cost-of-Inventory_a564.html
*8 (*2)の文献など参照。
*9 William R. Steele , “Inventory Carrying Cost / Identification and Acounting”, NCPDM Annual Conference Proceedings 1979
*10 http://www.agecon.purdue.edu/crd/localgov/second%20level%20pages/topic_inventory_tax.htm
*11 http://aysps.gsu.edu/frc/files/Rpt_174FIN.pdf
*12 調査結果の概要は以下のHPに掲載している。
http://www.logistics.or.jp/search/chart/cost/index.html
*13 日用雑貨品メーカーへのヒアリング等による。
*14 JILS,「ロジスティクスの指標管理に関する調査報告書」
*15 監査法人、在庫評価コンサルタントへのヒアリングによる。
また、在庫評価益が在庫保有コストが上回る例について以下を参照(経済企画庁年次報告)
http://wp.cao.go.jp/zenbun/keizai/wp-je80/wp-je80-01202.html
http://wp.cao.go.jp/zenbun/keizai/wp-je80/wp-je80bun-1-2-20z.html
*16 William R. Steele, “Inventory Carrying Cost / Identification and Acounting”, NCPDM Annual Conference Proceedings 1979
*17 鈴木保男編著、日本資材管理協会発行「購買外注管理の実態調査結果と今後の効率化」平成4年12月
*18 マーチンクリストファー著、阿保栄司訳「ロジスティックス時代の物流戦略」 p89


(C)2010Seiichi Kubota & Sakata Warehouse, Inc.

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