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グローバル・ロジスティクス

第115号アメリカ最新ロジスティクストレンド(2007年1月11日発行)

執筆者 鈴木 準
有限会社サン物流開発 代表取締役社長
    執筆者略歴 ▼
  • 学歴
    • 東京経済大学商学部卒業。
    • 産業能率短期大学生産管理科卒業。
    • 日本電子専門学校電子計算機科卒業。
    職歴
    • セーラー万年筆(株)経営企画室主任。
    • (株)長崎屋 物流部・電算部部長・システム本部副本部長。
    • (株)サン商品センター代表取締役社長。
    • (有)サン物流開発代表取締役。
      現在に至る
    講師
    • 専修大学講師・早稲田大学講師及び
    • 早稲田大学アジア太平洋研究センター講師経験
    • JILS 物流現地フォーラムコーディネーター 20年経験
    • 日経ビジネススクール講師
    • 文化ファッションビジネススクール講師
    • 中小企業事業団登録専門指導員経験。
    資格・所属団体等
    • 物流管理士、販売士1級、日本物流学会会員、国際物流管理士。
    その他
    • 海外物流視察90回、内外合わせて1,000施設視察。
    • 2006年 (社)日本ロジスティクスシステム協会 物流功労賞受賞
    連絡先
    • 事務所 〒135-0033東京都江東区深川1-1-2-701
      TEL.03-3642-3762
    • 住 所 〒274-0822千葉県船橋市飯山満町3-1761-105
      TEL.047-467-1077
    • メール sun_logi@nifty.com

目次

1.30年で追いつき追い越した日本

  私は30年間に渡り、内外1,000箇所以上の物流センターを視察した。2006年は、東南アジア、中国、ヨーロッパ、アメリカを訪問した。私の内外物流センター視察も、そろそろ幕の引き時が近づいた。その最大の理由は年齢だが、それを除くと、新しい発見が少なくなったことである。初めての海外物流センター視察は1973年、オイルショックの寸前であった。その時、私は物流界に足を踏み入れて間もないことであり、欧米で目にした光景は当時のヒット映画「2001年宇宙の旅」そのものであった。
  当時、アメリカのスーパーマーケット、マイヤーズではケースピッキングのオーダーマチック、エイボン化粧品ではピースピッキングのAフレーム、宅配便のUPSでは自動仕分機スピーカーソーターを見た。それは感動と感激の旅であった。
  それから約50回、アメリカを訪問したが、最近は感動するものがない。見すぎたことも感動が薄れた要因だが、最大の理由は、日本の物流の進化である。1972年に日本物流管理協議会と日本物的流通協会が誕生し、1996年に両団体が合併し、(社)日本ロジスティクスシステム協会となった。これらの物流団体が今までに養成した物流スペシャリストは8千人を数える。このような日本人の努力が日本人の国民性もあるが、今日、日本の物流が他の生産技術や経営管理同様、世界のトップクラスに躍り出たことが海外物流視察の魅力を減じたのである。日本がアメリカに負けるのは物流センターのサイズだけである。
  元ジョージア工科大学教授で物流コンサルタントのフレーゼル先生は、日本人は世界で最もロジスティクスに適している、と講演の中で語っていた。それは、日本人がOrderlyでFriendlyだからだそうだ。所謂5S好きということだろうか。

J.C.Penney の最新センターDallas


2.ROIを早める交代勤務

  日米欧のWMSは均一化し、どこを切っても同じ顔が出てくる金太郎飴になった。それは世界の物流関係者の努力により、物流テクノロジーとマネージメントが成熟したからである。また、物流に対する企業の評価が冷静になっている。かつては物流なくして企業の発展なしと云われた。今でも「まだ物流ですか」というある専門誌のコピーを目にするが、物流は企業の各種業務の一部に過ぎず、物流がどんなに進んでいても「商品とサービス」が顧客の支持を得られなければ企業の存続はない。物流はコストセンターであり「安く・早く・正確」であれば良い。
  私は物流現場の視察では予め質問を設定し、全ての訪問先に同じ質問をする。例えば「ROIは何年か」とか「時間給は」という質問である。ROIでは、答えは2~3年である。「2~3年で償却ができるわけがないでしょ」と云うと、示し合わせたように、出来なければ「やらないだけ」と答えが返ってくる。明日の100円より今日の1円ということだろうか。作業シフトの質問では、1日3シフト、24時間、364日の答えが多いが、実際は、オーダーピッキングなど主力の業務は2シフトで、荷受け、補充、メンテナンスなど1シフトで24時間センタの中で、誰かが働いていると言うことである。日本では通常1シフト、それもパートの1日6時間の労働時間と取引先が要求する高いサービスレベルで稼働時間が決まっている。従って、日本の物流センターの稼働率は低くなり、アメリカより投資回収が遅くなる。日本の流通では力関係で買手の求めるサービスレベルになるが、アメリカの場合は自社内物流で、仕入れから販売までの一気通貫の効率が追及されている。つまり、店の販売高によって、配送時間や回数を変える。日本の場合は卸に負担を掛けるので小売は何も考えない。

直しながら30年も使うAフレーム

3.自社でメンテナンス

  30年前、アメリカで目にしたことが今も見られるものがある。機械のメンテナンスである。センター内に、日本の町工場より大きい修理工場があることである。ボール盤、旋盤、溶接機、グラインダー、機械鋸、あらゆる工具があり、数人のエンジニアが24時間交代勤務で保守をしている。アメリカでは機械メーカーのサービス拠点から客先までの距離が長く、コストと時間がかかるからだと思う。
  日本ではセンター内の清掃は週1回清掃業者に委託し、毎日の終業後には従業員が掃除している例が多い。アメリカでは“Sanitarian”と呼ばれる清掃班が組織され、作業時間中もテナント社の自動清掃車が巡回し清掃している。企業による差はあるが大部分のセンターは床がピカピカに光り、チリさえ落ちていない清潔さである。日本ではよく見かけるパレットラックの最下段のパレット周りのごみの溜りを見ることは少ない。アメリカの物流センターの床は世界一きれいである。但し、歴史の古い食品卸のセンターは日本では見られない3K倉庫(暗い・汚い・危険)である。アメリカの建築材料は良くて安い。特に、コンクリート床の表面仕上げ剤は優れている。建築後2年の日本の物流センターと同じ年数を経過したアメリカのOffice Depotの物流センターを比較するとその差は歴然である。綺麗好きな日本人は物流センター建築について、インテリア、エクステリアも併せて研究すべきである。スゥエーデンには建築デザイン賞を授与された物流センターがある。

4.アメリカで5S

  2006年の米国物流視察で驚いたことはRadio ShackというAV家電チェーン店の物流センターで、“5S”のポスターを見つけたことである。日本で5Sを知らない物流マンはいないと思うが5Sとは「整理・整頓・清潔・清掃・躾」の頭文字“S”取った標語である。勿論、標語そのものは英語ある。女性のセンター長はトヨタから学んだと言っていた。タイ、台湾、中国では壁に貼られた5Sのポスターをしばしば目にするが、アメリカで見たのは初めてである。何でも世界ナンバーワンを自負するアメリカも、自動車生産世界ナンバーワンの座をトヨタに奪われそうになって目覚め、遮二無二に日本の経営哲学を身に付けようとする真摯な取り組み姿勢である。
  アメリカの女性の職場進出は日本を凌いでいるが、最近は大型トラックやバスのドライバーを見かける率は少なくなった。女性の職業運転手(全車種)の比率は12%である。女性の管理的職業の比率は46%だが、センター長の比率は5%くらいと推定する。最近のアメリカは男女の職業のすみわけが出来ている。事務系と医療系の女性比率は90%以上である。物流センターの男女比率はアメリカと日本では逆転する。アメリカの食品、日雑の物流センターは男性比率が高く、女性の現場要員が一人もいない。そのセンターの作業はPick to Pallet と言って、パレットローダーでパレットを引いて巡回し、ケースをピッキングする方式である。日本ではピースピッキングが多いから女性の作業者が多い。アメリカでも化粧品の物流センターは圧倒的に女性である。
  物流で、女性の活躍が目覚しいのは中国とタイである。タイでセミナーをやると出席者の30%は女性である。日本では3%以下である。中国の企業で物流のPTがあるとメンバーの30%は若い女性で外国の大学を出ている。

5.物流エンジニアリング

  ロジスティクスレビュー2004年第55号「ヨーロッパ・ロジスティクストレンド」で物流機器の時代変化について掲載しましたが、最近は世界の物流センターで日本に無い物流機器を見ることは難しい。WMSは同一化し、物流先進企業の入荷から出荷までの作業の流れは大差が無い。一昔前、日本では四半世紀前に「物流の遅れている企業は存続しない」とか「物流はプロフィットセンター」ということが言われたが、アメリカの企業は物流をクールに見ていると思う。物流が先進的であっても潰れる企業はあるが物流が悪くても商品とサービスが良ければ会社は潰れない。物流は総合科学であり、エンジニアリングと同じ比重で、マネージメントが重要だと思う。資生堂が日立物流にアウトソーシングする日本だが、移行時に初期トラブルを起こさない3PLは数少ない。初期トラブルを起こす会社はエンジニアリングも悪いが、それよりも、計画・管理のマネージメント力が不足している。
  アメリカは、企業の中における物流のステータスを人事、財務などと同じレベルで捉えている。日本は未だに物流を過大評価している。勿論、何か新しいことに熱中する日本人の国民性が、日本の物流を世界のトップクラスに引き上げたことは否めない。欧米と日本の物流センターの比較で、最大の違いは物流センターの面積である。物流エンジニアリング、物流のITでは日本が欧米を凌駕している。アメリカの場合、株主は配当性向の高いことを望むため、先行投資を嫌う。そこでROIの高いことが求められる。3PLが増加傾向にあるのはこのことと関連しているのではないかと思う。即ち、固定費の変動費化である。

6.意外と少ないアウトソーシング

  今、日本では流通業の物流センターを訪問するとセンター内の作業は全て3PLである。そしてトラックにその企業のロゴが描かれていてもドアの窓の枠には○○物流㈱とか書かれている。今回、アメリカの物流センター10社を訪問したが、センター内作業は全て自社運営であった。但し、運送については専門の運送業者を利用している企業が7社であった。
  しかし、ヨーロッパは3PLの利用が多い。特に元共産主義国は物流のインフラ整備が遅れているので、中、東欧に進出する西欧諸国の流通業は自国の物流専業者の協力を得て進出するからである。アメリカの場合、労働組合の圧力を逃れるために3PLを利用するがイギリスではASDA(ウオルマート)の労働組合が会社を制圧し、物流センターのアウトソーシングを防御している。

7.アメリカで流行、ボイスピッキング

  今回視察の物流センターで興味を引いたのは音声認識のボイスピッキングでメングである。の卸売業は大規模小売業に圧倒され、数年前にフレミングが倒産している。ウオルマートに卸売業の顧客である小売店が食われ、客がいなくなるからである。そこで、スーパーバリュウはアメリカ大手のスーパーマーケット、アルバートソンなどを買収し、小売業に転進した。
●スーパーバリュウの事例から
  今は無きフレミングと覇を競ったドライグロサリーの卸売業スーパーバリュウはスーパーマーケットである。店舗数2,656店、年商5兆2,800億円(2004)、アメリカのスーパー業界第二位、全米小売業界第七位の大小売業になっている。私が訪問したのはアラバマ州のアニストンにある要温度管理商品の物流センターである。顧客は従来の卸売業としてのスーパーマーケットと軍隊と直営店である。歴史の長い卸売業らしく建物は古く、内部は暗い。庫内は-20℃、-10℃、0℃、+10℃、常温に分かれている。庫内作業は自前だが輸配送は外部委託である。庫内作業はオーソドックスのピック・トウー・パレットだが、ここでは日本では見られない「Voice Picking」を見ることができた。ボイスピッキングとはマイク、イアホンを身に付け、音声認識入力を使ってサーバーと対話してピッキングする方式である。
  音声認識システムは1952年に米国のベル研究所の研究から開発が始まった。1978年には、日本電気がDP-100を販売した。私は1979年にアメリカのスレッシュオルト社の製品で自動仕分機に装着し、音声入力仕分けを実現し、1980年には日本電気製を導入した。現在、日本では日本のWMSメーカーC-net社が扱うインテル社製の「サイボグ501」と米国のヴォコレクト社の2製品が販売されている。
  私が始めて見たのは2001年、オーランドのディズニーランドの物流センターで実験中のものであった。アメリカでは要温度管理品のセンターで扱われている例が多い。音声ガイドのピッキングシステムは日本では十数年前に㈱プラネットがウォークマンを利用して製品化し販売した。最近では島津製作所が眼鏡のような超小型モニターをつけた”Data Glass”を販売している。
・ボイスピッキングの特徴は

ハンドフリー:両手が使える
アイズフリー:ピッキングリストが無いので見なくてよい
ピッキングのほかにたな卸しに使える
短時間で熟練
少ない初期投資

*初期投資と改善効果はメーカーで確認してください。

ボイスピッキング

・作業者の作業手順
①最初に個人コードをマイクに向かって発声する
②サーバーが認識し、確認を音声で作業者に通知
③音声で商品を保管するスロットのアドレスを送ってくる
④アドレスを音声でサーバーに返す。
ディズニーではアドレスのチェックデジット2桁をマイクに吹き込む
⑤数量が音声で送られてくる
⑥指定の商品を指定の数だけピッキングし、パレットに積んで、数量をマイクに向かって発声する
⑦1オーダーのピッキング終了後、パレットを引いて出荷ヤードのラベルプリンターに行き、個人コードを読み上げる
⑧ラベルが印刷される
⑨ラベルを荷物の1個に貼り、トレーラーに積む
*ボリュウムの調整、音声のスピード、聞き分け出来なかった言葉のリピートなども言葉で調整できる。

ピッキング後ラベル発行

  ピッキング方式はサプライヤーとユーザーにより異なる。また、ディズニーと日本で導入している日雑問屋はピースピッキング、アメリカはケースピッキングが多い。日本の物流品質は世界一高く、ppm(百万分の一)という言葉が使われるくらいだが、欧米のスタンダードはミスは千分の一である。
  しかも日本の物流はピース単位、欧米はケース単位である。なお、日本のピッキングミスは1万分の1以下である。従って、日本ではスキャナー付きハンディターミナルの利用が必要と思う。
  日本のメーカーの発表では、ピースピッキングで生産性はリストピッキングに比較して30%向上したそうである。スーパーバリュウでは冷凍または冷蔵倉庫のケースピッキングで10~15%アップ。何よりもよかったのはピッキング精度が大幅に向上したことである。これによりクレーム処理の時間が大幅に短縮した。メーカーによって違うと思うがスーパーバリュウの場合、作業者は1日1回55ワードと数字をボイスエンコーダーに登録するそうだ。一番心配だったのはヒスパニックだったが、今まで適合しなかった作業者は1人だけだったそうだ。
  スーパーバリュウのほかに、バドワイザーのウオルマート向けDC、音響。映像機器のラヂオシャック、食品卸売業の物流センターを回ったが、紙面の都合で、ここで終わらせていただきます。機会がありましたら、続編を掲載させていただきます。

以上



(C)2007 Jun Suzuki & Sakata Warehouse, Inc.

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