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グローバル・ロジスティクス

第261号海外企業の中国進出事例 (前編)(2013年2月14日発行)

執筆者 吉本 隆一
(公益社団法人 日本ロジスティクスシステム協会(JILS)
JILS総合研究所 所長 主幹研究員)

 執筆者略歴 ▼
  • 略 歴
    • 1980年法政大学大学院博士課程経済学単位終了。経済理論・財政論、PPBSを専攻。
    • 1983年から2005年まで(財)日本システム開発研究所。
    • 2005年から現職。
    主な研究開発実績
    • 国際輸送システムの調査研究(基盤整備、パフォーマンス分析、国際陸送制度)
    • 物流情報システムの標準化・調査研究・技術開発(ITS、AIDC、輸配送システム等)
    • 公共事業整備に伴う社会経済的影響評価
    • 立体道路整備、道路一体型物流施設整備等の複合的事業手法開発
    • 物流拠点整備・共同配送等、物流効率化・高度化事業手法の調査研究

 
※今回は2回に分けて掲載いたします。

目次

はじめに

  本稿では、海外大手企業の中国進出当初の事例をもとに、その失敗や成功の実例をふまえた教訓を紹介しつつ、中国経済の急速な変化をふまえた今後の課題を検討することとしたい。本稿の前半は、日用雑貨分野では国際的に有名なユニリーバとP&Gの両者が、中国市場展開でみせた対照的な企業戦略の事例である。いずれの企業も試行錯誤の積み重ねの上に今日があることを痛感させられる。
  なお、企業戦略や企業動向の紹介は、各種マーケッティング資料をもとにしており、原資料は、その時々の新聞記事やインターネット上の公開情報であり市場シェアなどのデータも各社の調査データである。このためデータには一部不正確な部分も含まれている可能性がある点をご容赦願いたい。

1 ユニリーバの中国市場展開

1)市場調査の実施

  ユニリーバは、戦前の1923年に上海に工場を設立し、「サンライト」や「ラックス」のブランドは、当時中国人にもよく知られていた。しかし、市場開放と共に1983年に上海リーバを設立して再進出した際には、リーバの石鹸ブランドの認知度はゼロであった。このため、市場調査を最初からやり直し、人口を含め正確なデータのない状況の下で、生活スタイル調査、人口データの見直し、消費支出構成等を独自調査し、人口集積度の高い都市を対象として工場の立地選定を行った。

2)法制度調査の実施

  また、再進出のための法制度調査も実施し、会社設立関係では、会社法はじめ21本の主要法規、土地管理法はじめ最低9本程度の法律、環境保護、税務関係、労働契約法、契約法や商標法などを調べ直した。ここでは省別の差異、制度と運用のギャップ、頻繁な制度変更に悩まされ、事業立ち上げの時間を浪費させられている。車両免許関連では予告無しの制度変更に伴って、1995年には年間6回も登録料を支払っている。

3)ユニリーバ傘下のアイスクリームメーカ、ウオールズの例:高い資材費・建設費

  アイスクリームメーカ、ウオールズの北京工場の例(1994年)を見ると、都心から南へ車で30分の工業団地に敷地面積52,000㎡の工場を建設(50年リース)したが、建設費は管理棟で1㎡当たり1千ドル、生産棟で1㎡当たり1500ドルから2000ドルを要した。機械設備は134万ドルを要し、人件費は安くとも資材費、建設費が高くついている。上海工場の例では、都心から60kmの距離で、敷地64000㎡に建設総額3750万ドルを要している。

4)現場での品質管理の重要性:冷凍倉庫の現場

  アイスクリームは厳しい温度管理が命であるが、冷凍倉庫に行ってみると、機械の横に座っている管理者は、規定温度まで下がると電源を切り、限界温度まで上昇すると電源を入れる作業をしており、マニュアルに反して品質管理よりも電力費の節減を優先していた。ここでは、現場での徹底した指導の必要性を痛感している。

5)流通販売網の整備

  販売面をみると、アイスクリーム販売用のワゴンがなかった。このため、1台600ドルのワゴンを購入し、その数は上海で14,200台に達し、販売業者に無償提供した。しかし、ワゴンの専用利用契約にもかかわらず、中身は他社食品の販売に利用されていた。つまり、ワゴン費用の損失に加えて、競合製品販促支援による販売機会損失という二重の損失が発生していた。

6)物流網の整備

  運送費は、1995年当時、ローカル業者の利用で1運行1890元(約23,000円)と決して安価な水準ではなかった。1km、13元から15元である。ドライバーの人件費は1週8時間・5日間で1700元(約20,000円)である。
  そのうえ、冷凍コンテナ輸送では、破損等の輸送品質問題が発生した。このため、1996年に、TNTとの契約に変更し品質管理を確保したが、実費+間接費8%、利益10%を支払うというコストアップになった。ユニリーバは、上記のように、品質確保のために自社独自のコールドチェーンを構築し、倉庫・トラック・露天販売網を構築した。この結果、高価格と過度の販促投資が経営状態を悪化させている。

7)人事管理

  工場従業員は、北京で正規雇用100名、夏期の季節雇用250名前後である。季節雇用は1996年頃で月400元(4,800円)、ライン管理者で月600元から800元、大卒管理者で1500元、大学院卒で2500元(3万円)前後といった水準であり、季節工は次期に再雇用される場合に1000元の奨励金が支払われ、その結果85%が再雇用されている。
  なお、当初、海外から優秀な経営者・技術者を中国へ送り込んだが、本社側の人員の高い人件費、中国事情に対する無知や現地従業員とのコミュニケーション不足といった課題に直面し有効に機能しなかった。

8)合弁方式での失敗

  ユニリーバは、競合他社に先駆けて中国市場への積極展開を急ぐために現地企業との合弁方式をとった。その結果、製品分野別の地元企業との合弁14社は、各社独自の生産・販売網を有している中国企業のネットワークを持ち、ユニリーバの製品に対して中国企業相互が競合状態にあった。また、欧州市場や日本市場での成功にもとづく高品質・高価格商品を提供し、低価格の中国製品志向の消費者需要とのギャップを埋めることができなかった。

9)再生への道

  この結果、1999年には、P&Gの売上10億ドルに対して、先行したユニリーバの売上は3億ドルという状況にあった。この状況に対して、本社経営陣は、巨大な中国市場の将来性を再認識すると共に、テコ入れの必要性を痛感した。
  まず、1999年から再編成に入り、持株会社設立・経営一元化、スタッフ現地化、消費者ニーズ対応を進めた。ここでは、中国市場が必ずしも単なる低価格指向でないことも確認しつつ新製品の投入を行い、リプトンの紅茶ブランドにこだわらず、緑茶市場にも参入している。
  さらに、2000年に研究開発部門を上海に設立、2002年には、ユニリーバ国際調達部門を上海に設立、6000人の中国人従業員の人事管理システムを一元化しモチベーションを向上させ、パフォーマンスの改善、転職率の低下による効率性向上を進め、あわせて経営管理情報システムも整備している。この結果、2002年の風呂用品での市場シェアは、P&Gのセーフガード17%に対してユニリーバのラックスは10%を確保している。

2 P&Gの中国市場展開

1)徹底した参入前の市場調査

  P&Gのマーケティング力は1920年代から有名であり、優秀な人材の育成とその産業界への貢献でも有名である。P&Gは、ユニリーバと同時期の1980年代後半からBRICs市場参入を計画し、中国語の話せる若い市場調査員を投入して1985年に北京と上海で大規模調査を実施した。つまり実際の製品投入の2、3年前から調査を開始した。しかも、市場調査の結果は、洗剤のグローバルブランドが中国市場では通用しないとの結論であり、このため本格的参入を再検討することになった。

2)漸進的な市場参入方式

  他方、中国の洗髪市場で、「フケ・かゆみ止め」シャンプーがないことを確認し、最初に、このシャンプー市場に製品投入することを試みた。まず、中国全土ではなく、上海、北京、広州の三大市場を初期ターゲットに選定し、ハチソン(香港)の支援を得て、広州石鹸工場を1988年に設立し、しかも、商品はチューブタイプではなく、消費者が購入可能な低価格化を実現するために、小型の使い捨て袋タイプのシャンプーを市場投入した。この商品が大ヒットし、通常シャンプーの3倍の価格にもかかわらず3年間で中国のシャンプー市場シェアで第一位を確保することになった。

3)中国全域の流通網整備に苦戦

  しかし、中国の人口の大半は、非大都市部に居住しており、全国市場展開のための流通網整備が不可欠であった。そこではローカルの流通業者、販売網に依存せざるを得ず、特に流通業者からの販売代金の回収に苦戦した。代金回収には120日以上を要することが一般的であったので、早期納金にはリベートを付与し、40日以上の遅納者のブラックリストを作成し、悪質業者の排除を図った。それでも事態の改善が進むのは1992年以降であった。この改善の結果、1999年には、週次代金回収を開始することができるようになった。

4)マーケッティング力の強化

  ふけ・かゆみ止めシャンプーの成功をふまえて、P&Gは、流通網を通じた詳細な市場ニーズの把握を徹底した。この結果、洗剤市場では、大型パッケージニーズが低いとみて小型化し、しかも新規洗濯機の販売時に無料サンプルを添付して、普及に成功した。
  1998年には、使い捨て紙おむつ、パンパースの市場投入を図った。ここでも、日米との消費者ニーズの違いを、トイレトレーニング、取替頻度、布おむつの利用等について調査している。
  2000年代初頭には、3500名の市場調査員を投入し、生活・職場を調査した。そこでは、どの製品を買っているかというシェア調査ではなく、どう使っているかを調査した。その結果、中国の歯磨きで、茶葉の虫歯予防効果信仰があることを確認し、茶葉入り歯磨きを市場投入し、次いでジャスミン歯磨きを投入して売上増に成功している。
  2005年には、2年の調査を経て、ようやく化粧品市場へ展開し、肌質・ファッションに応じた化粧品の新製品を投入すると共に、店舗でのビューティコンサルタントによる対面販売やカラフルな商品化を進めた。
  このようにP&Gは、丁寧な市場調査を進めつつ、既存ブランドにこだわらず、中国市場において確実な商品分野に新製品を投入しつつ市場開拓を行い段階的な市場展開を進めている。他方では、シェアの拡大に伴って、偽物対策が深刻化し、2005年のP&G推計値では、店頭商品の15~20%が偽物による損失を受けていると見なされている。また、TVのCMに対して消費者保護団体による誇大広告訴訟も相次いだ。

5)人材育成

  P&Gは、中長期的な人材育成にも熱心で、中国の大学内に教育研修コースを設置し、優秀者を米国留学させている。早くから現地化を進め、2005年には4000人の従業員のうち、非中国人は50人以下となっている。常に優秀な人材を輩出する立場にあり、女性の雇用・登用にも熱心である。

3 物流事業者の中国市場展開

1)概要

  外資系物流事業者の中国市場展開方法は、製造・小売に比較すると比較的簡単な構造になっており、最初は、中国政府による国策的な大企業(人民軍ベースの企業等)との提携を中心とした事業展開になっている。
  その後、中国市場における下請企業、実運送業者や情報通信システムや金融システムなどの関連サービス業の業界構造、優良事業者の存在などが明確になってくると、現地の大企業を介することなしに、関連企業との直接契約によるネットワーク構築を進め、現場管理による品質の向上や効率化によるコスト削減を進めるようになっている。
  物の生産・販売に対して、サービス業における外資系企業の現地化はどの国でも厳しい制約がある。それは、労働集約的産業であり、幅広い中小事業者から構成されていることと、歴史的に複雑な取引慣行が支配的な分野であることによる。

2)国際航空エクスプレスサービス市場の例

  国際航空エクスプレスサービス市場における外資系企業の動向をみると、以下のようになっている。
(1)DHL
  1986年参入、国際航空エクスプレス貨物サービス開始、Sinotranceとの合弁会社
  2001年 DHL-Sinotrans 同市場シェア36%、2004年、中国318都市カバー
(2)フェデックス
  1984年参入、1999年DaTian Air Service(天津)と合弁、深センで荷扱い施設整備
  2003年 中国220都市をカバー
(3)UPS
  1988年参入、Sinotransと代理店契約、
  2000年4月 米国から直行便認可、翌年週6機利用
(4)TNT
  2000年代初頭に支店拡大、2003年6月 Sinotransとの15年間の契約を終了
  Machplus Worldwide Express(北京)と契約
  従前、本市場は、EMS、China Post(中国郵便)の独占的市場であり、中国郵便は、全国中小都市までの配送網を有していた。しかし、外資系の参入で、2003年には上記4社で、国際急送便市場の80%をカバーしている。国内配送網も、中国鉄道の拡張に伴い、中国郵便のサービスも改善されたが、その市場シェアは、1995年の97%から2001年の40%まで低下している。
  外資系の設備投資力は大きく、2001年の上海浦東空港開港に伴い、DHLの時間処理能力は3千件から1万件に向上し、同年の北京空港の処理能力拡張で7トン/時が20トン/時に、3500件/時が5000件/時に向上している。
  さらに、2004年12月の陸送・倉庫事業の規制緩和にともなって外国企業の国内配送に独自の展開が見られるようになった。
  今後は、中国物流事業者や3PL事業者大手の、China Resources Enterprise、Haier Logistics、Sinotrans、COSCO Logistics、PG Logistics、Chic Logistics、Tempus Logistics、FOTON Logistics、Kerry EAS Logistics Ltd (KEAS)、Guangzhou HYC Logisticsといった企業や実運送会社、船会社、航空会社などとの幅広く多様な連携方式が展開すると考えられる。

※後編(次号)へつづく


(C)2013 Ryuichi Yoshimoto & Sakata Warehouse, Inc.

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