ロジスティクス・レビュー

第50号人間関係が高意欲組織を作る(2004年2月26日発行)

執筆者 末吉 孝生
株式会社インタービジョン 取締役パートナー
    執筆者略歴 ▼

  • 経歴
    • 1960年 大分県生まれ
    • 神戸大学大学院経営学研究科(経営心理専攻)終了MBA(経営学修士)取得
    • マーケティング、人材開発を中心にコンサルティング、経営代行に従事
    • 株式会社インタービジョン取締役パートナー
    • NPOヒューマンサイエンス研究所主任研究員
    • 中小企業大学校関西校、東京校等講師(組織行動論、顧客心理行動論)
    主な論文、著作
    • 『プロジェクトマネージャーのためのチームマネジメント』(共著、PHP出版)
    • 『入門セルフ・コーチング』(共著、PHP出版、02年5月)
    • 「シャープのヒット商品開発の組織論的研究」(神戸大学ワーキングペーパー)
    • 「異質人材チームの知的生産性」(神戸大学ワーキングペーパー)

目次

  私は組織の人間関係をコンサルティングするというやや風変わりな仕事を生業にしています。組織の人間関係を心理学的に計測して、昔から言われている人間関係の良し悪しを心理的に診断し対策をこうじようという仕事です。今回は高い意欲を有した組織=高意欲組織についてお話しようと思いますが、端的に言って人間関係の良好な組織こそ高意欲組織だと言うことをお話したいと思います。

例えばこんな事例が私のごく周辺で起きます。すぐ右前に座っている上司が嫌で嫌でたまらなくて部下はついに右方向に首が回らなくなった。いくら整骨院、外科に行っても治らない。ついに会社に行けなくなってしまった、そうするととたんに治癒した……あくまでn=1の事例ですがよく聞く話です。このような事態は今までのマネジメントの範囲外ですので実際に重い症状になるまでは議論になりにくいですね。下の図はNTTデータで調べられたものですが(注1)人間関係が仕事の面白みという意欲に強く影響することを現しています。職場の人間関係がよいと大いに面白い、かなり面白いという意見が7割にもなりますが、一方人間関係がよくない場だと3割しかないというのですね。


上記の図に表れるような職場の人間関係が良いと仕事が面白いという状態をどのように実現すればよいのでしょうか。
人間関係と言えば昔から「割れ鍋に綴じ蓋」「似たもの同士」「ぼけと突っ込み」」といった漠然とした人間タイプ組み合わせで表現することが多かったのですがこられの類型化を正確に再現できれば人間関係ははっきりマネジメントの対象となるわけです。つまり意図的に高意欲集団を作る可能性が出てくるわけです。

1.動因と誘因が揃うと意欲がわく

意欲という言葉をやや専門的にお話をすると動因と誘因というものがあり、食欲でいえば「腹が空いている」(動因)しかも「ほかほかのご飯が目の前にある」(誘因)という関係が成り立つ時に最も高くなるのです。人間関係においても同様なことが言えます。ある人と周囲の人との関係でこの動因・誘因の関係ができあがる時に最もやる気は強くなります。
「自分はこんなことがやりたいしできる」(動因)と「ぜひあなたにやってほしい」(誘因)という関係ができればいいのです。これを専門用語で「人間関係が補完する」と言います。自分のできることやりたいことと、周りがぜひやってくれという関係ですね。
こういう関係の良さというのはリクツではわかるのですが、ではどのような時に「やりたい」「やってくれ」と揃った関係ができるのでしょうか。組織心理学者の小林惠智が1980年代に米国海兵隊で実験した研究成果から以下のような言い方ができると思います(注2)
人間関係に個性(個人の思考行動パターン)が大きく影響し、異質の個性の中で特定のパターンの組み合わせのみ高い生産性をあげる組織になります。簡単に言えば、お互いに持ち合わせていないものを持っている状態が尊敬と役割を生み出し長い良い関係の維持につながります。
私たちの過去の分析では

A「攻め人間」と「守り人間」
B「指示人間」と「協調人間」
C「やんちゃ息子人間」と「母親人間」

といった関係がお互いに尊敬しあい役割をまっとうする、とても意欲の高い関係になります(注3)。5人6人のチームの場合でも相互にこのような役割のある関係があるといいのです。
意欲が高い状態というのはそのベースにあるのは自分の能力(強み)を自覚し思う存分発揮できる状態にあるとも言えます。

2.A「攻め人間」と「守り人間」

まずは攻め人間と守り人間についてからお話しましょう。攻めとは積極的、行動的、冒険的といった形容詞が似合う人材ですね。このタイプは我々の日本企業の調査では約3割と決して多くない人材です。この「攻め人間」と協調的で慎重、継続的という形容詞が似合う「守り人間」の組み合わせはとても意欲の高い人間関係になるのです。
この守り型人間は7割と日本企業には多数分布しています。大企業ほど多いと調査結果もあります。
私はベンチャー企業に属しておりますが大半のベンチャーの経営者、経営陣だと攻め人間が多数を占めます。役員が攻め人間だけの会社の場合も多々あります。口悪く言うと、向こう水でやり放しで、新規の事業を思いついたら実行し立ち上げたばかりなのに放りだし他の事業に夢を描く…よく聞く話ですね。この人材に対して慎重で継続的な人材が組み合わさることで事業が安定発展していくのですがなかなかこの関係の重要性をわかってもらえませんね。でも事業運営上の役割をお互いに知りあい、役割は分担しあい、自分にないものがあり、自分のないものは任せる対応ができるといい関係になりますね。
よくホンダを創業した本田宗一郎と藤沢武夫やソニーを創業した盛田昭夫と井深大といった例が挙がりますがまさにこのことですね。ベンチャーで継続的に拡大した会社というのはこのコンビネーションがつきものなんです。
このコンビはいいことばかりではなく一歩間違うと貶し(けなし)あいになる関係とも言えます。守り人間は攻め人間のことを「むこうみずなヤツ」、攻め人間は守り人間のことを「ぐずなヤツ」とののしりあったらこの関係はもう持ちませんが、お互いの能力と必要性を自覚しあった時に高い意欲の継続する関係が生じます。

3.B「指示人間」と「協調人間」

  指示人間と協調人間も大事です。指示人間は日本企業の2割ぐらいいてこだわりが強く自分の価値観にもとづいて行動する人ですね。指示人間は日常会話に「こうすべき」「こうしなければならない」を連発します。
一般に年齢が高くなると指示人間傾向を強めますし、経営者や経営幹部を経験すると指示人間傾向を強めます。「こうしてくれ」と指示人間が言えば「了解です」と協調人間がいう感じが大事です。間違ってはいけないのは協調人間にとってある種の命令は苦ではなく心地良さがあるということです。信頼している人間にきちんとした指示をもらうというのはとても気持ちのいいことなのです。
指示人間の価値観に信頼を感じている協調人間によって運営される組織は結果的に業務の成果をあがりやすい組織ということができます。先に紹介した小林惠智の調査では上下に階層の少ないフラットな組織の場合に特に有効でした(生産性が向上しました)。

4.C「やんちゃ息子人間」と「母親人間」

最後に「やんちゃ息子人間」と「母親人間」の場合です。
やんちゃ息子というのは新しい物好きで既成概念にとらわれない自由な人間タイプですね。日本企業の中では2割強の方がこのタイプです。こういうタイプの人材には環境や周囲の人間を条件をつけずに受け入れてしまう母親型タイプの組み合わさることで両方の意欲が向上します。母親人間は5割強分布しています。大企業ではもっと比率が高いと思われる方もいらっしゃるでしょう。
やんちゃ息子は外で良いことも悪いことも起こしてきますからそれを受け入れて保護する役割の人材が必要になるわけです。母親型というのは女性だけでなく男性にも多いわけです。「オトコおばちゃん」と言われるような人で、このタイプの人材は世話を焼く相手がいることで活性化するわけです。ですから持ちつ持たれつの関係になるわけです。

ここまでは異質な人材の組み合わせについて語ってきたわけですが同じ個性タイプの関係はだめなのかというとこれも意欲につながります。でもはっきり言って限定的なのです。同じタイプだとすぐに相手の行動を分かりあうことができ一時的には意欲を喚起する関係なのですが、相手の嫌いなところも見えやすく関係決裂の危機をまねくことも多いのです。また同じタイプであるがゆえに限定的な思考、慎重でありすぎたり攻撃的でありすぎたり、同じタイプの組織というのは行きすぎになりがちです。

このようにある種の心理タイプが人間関係を形成しています。人間関係つまり組み合わせがうまくいかないと冒頭にあげた事例ように心身の異常がきたすこともあるわけです。つまり人間関係は職場ストレスと密接に関連しています。オトコおばさんのように周囲の環境をよく受け入れる世話好きな人材が世話をやく対象を失った状態が職場で継続するとストレスで介入的自虐的な人材になります。「おいおいそのやり方はおかしいぞ、俺がやっていた頃は~」と口うるさく「どうせ俺なんかお払い箱さ」となるわけですね。この職場ストレスも上記のような心理タイプで解析することができます。詳細は注2の参考文献をお読みください。

5.まとめ

人間関係の善し悪しが人材の意欲に深く関係していることは昔から言われていることです。長いつきあいがあれば自然にわかってくるものかもしれません。この人間関係を誰にでもわかる形で、はじめて出会う方でもわかるよう表現し職場の人間関係を把握することで高意欲組織を作ります。人材配置や採用やプロジェクト活動の組み合わせ、上司と部下の関係でこのような考え方を利用してみてください。
また今回は1対1の人間関係を例にしましたが原理的に同じ方法で多人数の組織の人間関係を分析することができます。多変量解析というやや高度な統計分析をおこない、結果を出します。注2の参考文献に詳しく記されています。

人間関係だけで果たして企業などの組織にいる人材の意欲を語っていいものだろうか。そう考える方もおられるでしょう。今回は人間関係に着目しましたが、要素としては人間関係を含め4つ考慮することでより深く検討できると考えています。(1)企業目標と個人目標の一致、(2)能力感(自分の能力評価)、(3)自己決定、(4)人間関係の4つを揃えて、人材の意欲を喚起すべきであると考えていますが、これら4要素の関係についてはまたの機会にお話したいと思います。


(注1)NTTデータ健康ポータルサイト「healthクリック」より
 http://health.www.infoseek.co.jp/library/0700/w0700022.html

(注2)インタービジョン総合研究所, 小林惠智『入門チームマネジメント―
6人で9人分の仕事をする組織最適化の法則 』( PHPビジネス選書)

(注3)攻め人間とか指示人間というタイプを私たちは簡単なアンケートで測定できるのですが、まずは皆さんに類型化された人間関係をイメージしてもらうためキーワードだけで表現しておきます。簡易質問表は注2の参考文献に入っています

以上



(C)2004 Kazuhiro Kishiya & Sakata Warehouse, Inc.


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