ロジスティクス・レビュー

第357号 在庫管理と経営戦略(1) (2017年2月9日発行)

執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)
    執筆者略歴 ▼

  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

目次

  筆者は、ここ数年、荷主企業の資材・購買担当者を対象に、在庫管理の研修講師を務めており、物流事業者ではなく荷主の観点から「在庫」を見る機会が増えた。
  そこで、荷主から見た在庫管理と経営戦略について、何回かに分けて述べたいと思う。
  孫子の兵法に「己を知り、敵を知る」重要性があるが、敵(荷主)の考え方を知って提案セールスすることも、己(物流事業者)にとって必要な方策と思う。

1.在庫管理で物流コスト削減~JILS物流コスト調査から

  公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会では、毎年「物流コスト調査」を実施し、その結果を公表しているが、同調査の調査項目の一つに「実施した物流コスト削減策」と「効果のあった物流コスト削減策」がある。

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  「実施施策」と「効果のあった施策」の差は、目につきやすい無駄と、それの実施の難易度、見えにくいが効果のある施策との差であるとも考えられる。また、物流コスト削減への取り組み程度の差や、それぞれの業界・業態あるいはサプライチェーンの影響も考えられる。
  同協会の「2016物流コスト調査報告書」を見ると、両項目とも第一位に「在庫削減」が掲げられている。
  これにあるように、「在庫削減」、つまり過剰・不要な在庫を削減することが、物流コスト削減に最も効果のある施策である。在庫を削減することにより、物流拠点の数や規模を削減することができ、さらに倉庫や物流センター内での作業生産性も向上する。

2.経営における在庫管理の重要性

  荷主各社の貸借対照表を見ると、総資産に占める棚卸資産の割合は、一般的に製造業で12%、流通業で7%前後ある。製造業の場合は、原材料や仕掛品もあり、製造期間が長いため、棚卸資産の比率が大きい。
  在庫品が多いと、

資本の固定化、運転資金の欠乏
在庫品の陳腐化、値下げによる損失、価値の減少
在庫関連費用(保管費・取扱費)の増大


などが経営に影響を与える。

  企業経営で、最も重要なのは、「利益」ではない。いくら損益計算書上で「利益」が出ていても、キャッシュが足りなければ、 「勘定合って銭足らず」で、「黒字倒産」してしまう。
  最も重要なのは「キャッシュ」である。たとえ赤字経営でも企業の血液であるキャッシュさえ回っていれば、倒産(心筋梗塞)にはならない。
  キャッシュフロー経営が重視される由縁である。
  キャッシュフロー経営と在庫の関係では、在庫の増加は、資金を食ってしまうので、キャッシュフローを減らしてしまうし、売れるまでは資金が回収できない。
  できるだけ少ない在庫で売上を確保して、キャッシュフローを向上させるような「在庫管理」が求められる。
  かつては、在庫(原材料や仕掛品・製品)も「資産」だと評価されていたが、今や「金食い虫」とされている。
  キャッシュフローを向上させるために、投資した資金が、現金となって戻って来るまでの期間(キャッシュ化速度)であるCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の短縮を、各企業が進めている。
  CCCは、運転資本を1日当たりの売上高で割って算出し、運転資本を稼ぐのに何日かかるかを見る。運転資本は「在庫金額+売上債権額-仕入れ債務額」なので、在庫や売掛金の回転を速くして、売上高に対する運転資本を減らす。CCCが短いほど資金効率=経営効率が高い。従来の在庫回転率や在庫日数よりシビアな管理と言えよう。
  一般に製造業の場合は、原材料を買い付けて生産・出荷して、販売代金を手形等で回収するので、CCCが長くなる傾向にある。流通業の場合は、仕入れた商品を右から左に売って、日銭が入るので、CCCは短い傾向にある。

表1 CCCの計算方法
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3.在庫削減によるCCC短縮

  今、「永守経営」として注目されている日本電産グループは、ともすればM&Aが注目されるが、CCC経営も同グループの強みの一つである。CCCを短縮するには、在庫や売掛金を減らし、買掛金を支払うまでの期間を長くすればいい。ただ、買掛金の支払期間延長は仕入れ先との問題もあるので、在庫と売掛金を圧縮する方が望ましい。
  売上げを現金ではなく、手形で回収した場合は、手形のサイト分だけCCCが更に延びる。たとえば、トラック運送業者の例では、製造業からの運賃支払いは長期の手形であることが多い。ところが、流通業からの運賃は月末締め・翌月末の銀行振込みと、CCCの観点からは有利である。
  日本電産グループのCCCは、2012年3月期の85日が2015年3月期には70日を切った。在庫については、製品在庫はグループ各社の営業部門、仕掛品在庫や原材料在庫は製造部門と責任を明確にしている。原材料では、グループ企業ごとに原材料在庫回転日数が30日を超える企業には、ジャスト・イン・タイム化を促進する等、日本電産の財務部門が支援しながら改善を重ねた。それが、日本電産に買収された企業の業績が、急改善する理由の一つでもある。

4.在庫が企業を食い潰す

  今日の企業経営は、利益を確保するのに、企業の保有資産をどれだけ有効に活用したかが重視される。
  その指標がROA=Return On Asset「総資産利益率」で、売上高利益率とともに、総資産売上高比率を上げて、つまり会社の資産(カネ)を回転させて、利益を上げようという考え方である。
  在庫は貸借対照表上の流動資産であるから、在庫が増えるということは、分母の総資産が増えて、ROAを引き下げてしまい、経営効率を悪化させることになる。

表2 ROAの計算方法
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  在庫を余分に持つことは、危険である。

資本の固定化、運転資金の欠乏
在庫品の陳腐化、値下げによる損失、価値の減少
在庫関連費用(保管費・取扱費)の増大


が、今のこの時点でも各社の経営を圧迫している。
  在庫を1億円もっている会社であれば、年間1500~2500万円の在庫関連費用がかかっている。したがって、5~6年で在庫金額を食いつぶすということになる(実際には、在庫は毎年回っているので、5~6年も滞留することはマレであるが、なかには10年近い在庫もある)。特に、資材倉庫・製品倉庫が工場内にあれば、保管費が外部流出しないので、在庫関連費用の認識が薄い。
  また、在庫はB/S(貸借対照表)の「棚卸資産」で計上される一方で、在庫関連費用はP/L(損益計算書)の「保管料」「販売管理費」「一般管理費」などで計上され、双方を突き合わせて比較されないので、「在庫費用率」は分かりにくい。放っておけば、在庫が企業を食い潰していく。

5.在庫管理の事例

  冒頭で述べたように、在庫管理セミナーの講師を務めていると、受講者からの質問や相談を受けることも多い。また、それ以外にも、荷主・物流事業者の工場・物流拠点などを訪れた際に、同様の機会が多い。
  そこで、幾つかの事例をご紹介したい。

(1)委託生産先の在庫管理
  下請企業に委託生産している場合に、原材料は元請企業から無償供与する場合も多い。この場合、元請企業に所有権があるので財務上の棚卸資産管理が必要となるが、そのための在庫管理も委託先に任せている例は多い。
  医薬品製造業A社では、下請企業のB社に医薬品の委託生産をしている(このような医薬品製造業は多い)。委託生産先には原材料を供給しているが、原材料の微細な配合作業や、A社の品質基準が厳しいためか、B社からは「不良品が多く、検査の結果、原材料の7割相当しか、製品化できない」状態である。
  「オシャカ(不良品)の割合が多いので、困っている。委託先の在庫管理はどのようにしたら良いか」と、A社資材担当者から相談を受けた。
  そこで、「不良品は引き取っているのか」と尋ねたら、「引き取ると、我が社で廃棄処分をしなければならないので廃棄コストがかかる。そこで、廃棄もB社に任せている。B社が排出事業者なので、マニフェストも取り寄せていない。期末には原材料在庫の報告を受けて棚卸資産として計上している」との回答だった。
  「私は医薬品の製造・流通は詳しくないが」と述べて、「言葉は悪いが、預かった原材料を『転売』されても、今の状態では分かりませんね」と言ったら、A社資材担当者の顔色が変わって、「わかりました。委託先の在庫管理を徹底します」と答えた。
  この事例は、委託先の在庫管理というより、委託先管理そのものである。
  下請企業に入り込んで、生産状況などをチェックして、ムダ取り・改善に取り組むことは、自動車製造業などでは当たり前のことであるが、業界によっては、未だ委託先管理が不十分なのであろうか。

(2)不要在庫の処分
  不要(動)在庫処分については、棚卸資産の減額処理など、悩ましい問題もある。
  一般に、不良(動)在庫としては、

過剰在庫 たえず使用されている品目であるが、標準在庫量をオーバーしているもの
流用在庫 陳腐化している、あるいは、劣化しているけれども、ほかに流用できるかも知れない在庫
長期保管在庫・陳腐化在庫 新製品が開発された、あるいは、寿命が来たために陳腐化したもの
劣化品在庫 長期に保管していたために錆や変色、固化など、品質が劣化して、使用不可能になった在庫


があり、名称は、各社バラバラのようである。
  PLS(プロダクトライフサイクル)上で寿命が来た「陳腐化在庫」、品質が劣化して使用不可能となった「劣化品在庫」が多いようである。
  かつては、荷主から物流業者に対して、旧型モデルの「押し付け販売」の要請もあったたが、最近は「独禁法」の優越的地位の濫用や、賞味期限・使用期限などコンプライアンス上の問題から減ったようである。
  不要在庫の処分については

不要在庫の定義の明確化
不要在庫の原因
不要在庫処分の基本的な考え方


を社内でルール化・共有化することが必要である。
また、手順としては、

不要在庫を早く発見すること
購入先への返却、売却、他への転用活用、破棄などの処分方式を速やかに決し、処分すること
不要在庫の再発防止策を検討し、実施すること
コンプライアンスに注意(廃掃法など)


が挙げられる。
  ここでは、在庫処分とコンプライアンスの事例を紹介する。
  日用品・雑貨製の製造・販売業であるC社は、決算見通しが良いので、この際に不要な製品在庫を処分して、特別損失とすることを考えた。そこで、廃棄物処理を委託する方向で検討に入った。
  C社の製品には消臭剤等の化学品もあり、処理ができるのは近県では、S県の山間部にしかない。そこで、処理業者までのトラック輸送を委託することにした。
  いろいろ調べたら、どのトラック運送業者でも運べるのではなく、廃棄物の収集運搬の許可事業者でないと運べないことが分かった。年度末でもあり、収集運搬許可事業者が見つからない。
  仕方ないので、許可のない事業者に委託する案も出されたが、コンプライアンス上の問題もあるので、ふだんは取引のないD社に委託したら、私有コンテナで廃棄物輸送している車両を回してくれた。
  当初の予定通り、決算日前に廃棄物処理業者に不要在庫を搬入することができた。

(3)見える化オフィス
  これは、倉庫・物流センターの在庫削減ではなく、間接部門であるオフィスの在庫削減である。
  コンサルタント企業E社では、かねてからトヨタ生産・物流方式の導入を指導している。
  2016年12月5日号の日経ビジネス誌でも特集記事が掲載されているが、生産・物流という直接部門だけでなく、ホワイトカラーという間接部門でも生産性向上・業務効率化が叫ばれている。
  そこでE社ではショールームを兼ねて、自社オフィスを「見える化オフィス」とした。
  具体的には、「進行中の業務の見える化」(詳細は省略)と、「オフィス在庫の徹底的な削減」である。
  オフィスには、文具や消耗品・パンフレット・教材等、各種の在庫がある。それら在庫を削減すれば、資金繰りの向上やスペースの有効活用を図ることができ、探す時間のムダがなくなり、労働環境の改善にもつながる。
  最近は製造業でも、直接財だけでなく、包装材料・副資材等の間接財や、その他消耗品(ユニフォーム等)の在庫削減に取り組む事例が増えている。
  E社では、まず各人が使用する文具について、デスクの引き出しに型を嵌めてしまい、1個・1本しか入らないように変えた。ケチケチ運動ではなく、ボールペン1本すらムダに持たないということである。
  次に、教材・用紙・パンフレット・マーカーなど、セミナーで使うものも、オフィスには最小ロットしか置かない。最後のロットには、発注先や発注ロットを記載したカードが付されている。最後のロットに手を付けた者は、発注カードに従って発注する。
  まさにオフィスにおける「かんばん方式」であり、誰でも分かる「見える化オフィス」である。筆者も都内にあるE社の「見える化オフィス」を見学した際には、間接部門のカイゼン事例として感嘆した。

  以上の3事例は、倉庫・物流センターの在庫削減事例を期待した読者には、物足らないと思うが、このような発想の転換や取り組みは、倉庫・物流センターでも、重要ではなかろうか。
  次回以降、本題の在庫削減策についても、読者と一緒に考えて行きたいと思う。

以上


(C)2017 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.


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