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ロジスティクス ・レビュー

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Logistics

第484号  何故、世界的に物流が停滞しているのか:SCM視点からその要因を考えて見る(2022年5月24日発行)

執筆者  野口 英雄
(ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)

 執筆者略歴 ▼
  • Corporate Profile
    主な経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部
    • 1985年 物流子会社出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役)
    • 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)
    • 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立
      現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、
      (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    活動領域
      食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる
      :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊
      特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい
    私のモットー
    • 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている
    • ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う
    • 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない
    • 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる
    保有資格
    • 運行管理者
    • 第一種衛生管理者
    • 物流技術管理士

 

目次

1.世界的な物流停滞の諸要因として考えられること

  外食産業等における輸入冷凍ポテトの玉不足により、販売休止に追い込まれる状況がメディアで度々取り上げられ、それに対する消費者の反応も鋭い。国産品では容易に代替出来ない、商品としての一つの特徴を持っている。一説にはカナダ・バンクーバー港における水害により、港湾荷役機能がマヒしているためとか、コロナ禍による労働力不足も要因に上げられている。世界の主要港で貨物が滞留し、空コンテナの融通がつかないとも言われている。しかもロシアによるウクライナへの侵攻が始まり、一段と激動化する世界情勢にあって、需給調整や在庫配分といった基本戦略が妥当なのかどうか、ここで改めて見直していく必要があるだろう。航空輸送にも大きな影響が出てくる。

(写真:コンテナヤード)
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  背景として物流業界が抱える慢性的な人手不足や、昨今のエネルギー価格上昇等の影響もあるだろう。ここにきて目立つ製品値上げの要因として、必ず物流コスト上昇が挙げられており、しかしそれで物流業界が潤っているという状況でもない。かつてアメリカの流通事情を視察した時、物流業界のステータスは決して低くはないと実感したが、果たして日本ではどうか。物流の停滞やコスト上昇が社会的問題なら、基本的な国策として更に取り上げられてもいいはずだ。国民生活に密着する物流やロジスティクスについて、経済基本課題としてもっと俎上に載せていくべきである。
  政治家や官僚の皆さんの口から、サプライチェーンという言葉が結構発せられるようになったが、それは自ずと物流とは次元を異にする。単に物流と同義語であるとされているなら、甚だ言葉のお遊びである。今日の世界的な物流停滞の要因を、サプライチェーン・マネジメント(SCM)の視点で見ていく意味もあるだろう。それはもはや物流という単一機能レベルの話ではなく、ロジスティクスとしての課題、特に適正在庫の問題である。慢性的な供給能力不足も、SCMの進化レベルとして考えたい。在庫は勿論戦略的投資という意味合いもあるが、まずは平時における適正水準が常に維持されていなければならない。ここで戦争という新たな要因が加わり、困難な条件が一段と増大してきた。

2.未完成なSCMにおけるロジスティクス連鎖の途切れ

  物流とはあくまで物理的機能管理の話であり、一つは物流コストや効率として評価される。またシステムとして機能させていく必要がある。システムとは幾つかの物流要素が、同じ目的に向かって連動している状態である。そしてSCMの出発点は、まず各企業単位のロジスティクスである。それは企業内の全体最適化であり、物流はその中の一要素に過ぎない。ロジスティクスの要諦は情報を駆使した計画と統制であり、とりわけ需給管理がコアとなる。つまり需要と供給のバランス化であり、その結果が在庫である。これを如何に最小化出来るかが、企業活動に多大な影響を及ぼすことになる。
  在庫が過大であれば企業財務を悪化させ、食品であれば鮮度後退に繋がり、最悪の場合にはロスとなり環境負荷にも繋がる。需給管理に必要な情報はまず販売予測と、リアルタイムの在庫把握である。予測とはマーケティング部門の機能でもあり、ロジスティクス部門との連携が問われる。在庫は生産の各段階から、製品として販売拠点に戦略的に置かれるものもある。いずれも情報システムを駆使して、如何に迅速な需給管理に結び付けられるかが精度に直結する。そしてここでもう一つ重要なのが、グリーン・ロジスティクスとも呼ばれる、戻りの物流や環境対応である。

(図表1:需給管理のステップ)
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  SCMとは、流通に関わる全ての企業間でロジスティクスを連動させる活動で、一企業内だけでも困難な上に、利害が相反し易い異種企業間で行う難しさがある。管理連携には共通した目標設定が不可欠であり、これを共有化しもし管理範囲外に陥ったならば直ちに処置しなければならない。通常ではアウトソーシングが活用されることになるが、それは単なる丸投げではなく管理責任の分担であり、自ずと役割がある。そして今やこの管理連鎖を、グローバルに展開するということである。情報システムが重要な役割を果たすことは言うまでもない。需給管理を適正に行い、在庫やモノの移動を最小化させていく。

3.末端物流への過度な経営資源シフト

  ネット社会の進展により、ラスト1マイルと言われる消費領域物流ニーズは依然として衰えを見せることはなく、更に料理宅配が加わりますます活況を呈している。勿論消費者への利便性があり、コスト負担してもその価値が高いということだろうが、一方で環境負荷という問題も考えていく必要がある。宅配業界は上位3社にほぼ寡占化されてきているが、果たして各社の事業効率レベルが最大化してきたと言えるのか。物流SDGsについても真剣に取り組んでいく必要がある。各社毎の競争というレベルだけではなく、共同化という課題は未だ残されているはずだ。

(図表2:物流業売上高と宅配便シェア)
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  高サービスレベルは高価格ということなるが、それにしても業務用ニーズの小口混載業務である特別積み合わせ業の数倍という料金設定は、真に消費者志向と言えるのか。そのサービスを受ける側も配送日時指定や、不在時持ち帰りロス等を考え、低コスト化に協力すべきだ。利便性こそが最高のサービスと言えるのかもしれないが、そこには高コスト・環境負荷といった問題も内在されている。狭い道路に配送車両が堂々と駐車され、危険な場面を何度も目撃している。宅配こそが最優先ということではなく、産業インフラとしての資源配分も考えていかなければならない。
  物流の究極課題の一つは共同化ともされているが、この末端領域においても考えられないことはない。各社毎に配送ルート効率を極限まで上げ、積載率も一定のレベルに達しているとはいえ、未だ改善の余地はあるだろう。分担地域毎に更に配送密度を上げるため、流通チャネルに限定されることなく、複数温度帯一括物流も含め、再度アライアンスに挑戦すべきである。商品分野に限定せず、同一配送区域内であれば何でも混載する。生活必需品の一括共同配送ニーズも未だ有り得る。一方、商品を受け取る消費者側の体制作りも並行させていく必要がある。宅配ボックスや置き配はもっと普及させるべきである。

4.基本は更なるロジスティクスの取り組み強化

  前述したようにロジスティクスとマーケティングは経営として車の両輪であり、まさに経営管理レベルの取り組みとなり、究極は需給管理精度の向上である。物流管理部門を独立させるのではなく、マーケティング部門と一体化させた動きもある。逆に物流と同程度に考え、フルアウトソーシングした事例もある。自社はマーケティングに特化し、他業務はアウトソーシングというなら、極めて高度な管理が要求される。アウトソーシングしても自社でやるべきことはある。またコンペでアウトソーサーを選定する場合は、日常業務管理レベルや情報システム機能が特に重要な要素となる。
  需給管理はまさにマーケティングやマーチャンダイジングとの連携であり、物流部門だけで完結するものではない。需要予測とは自然波動と人為的な側面があり、予測精度を上げる手立てが無いわけではない。リアルタイムの在庫把握はまさにグローバルな拡がりとなり、アウトソーサーの情報システム機能に大きく左右される。ここでも究極のデジタル化(DX)が死命を制することになる。アウトソーシングはもはや不可避であるが、アウトソーサーの選び方、つまりコンペも重要な課題となる。日常の管理状況が可視化され、目標値が共有化され、直ちに処置出来るかどうかがポイントになる。単なる外注と、アウトソーシングは自ずと次元を異にする。プロバイダーの選定については、アウトソーサーとして前述した。
  逆にアウトソーサーとしての物流業は、顧客のマーケティングやマーチャンダイジングを良く理解しておかなければ適切な対応は取れない。3PLという業態は基本的にはノンアセット型で顧客ニーズに対応するものだが、この事業のコアはこの顧客対応と情報システム運営ということになる。海運業等のフォワーダーという業態はこれに最も近い。いずれにしてもマーケットインという姿勢が大前提になる。プロダクトアウトでは、真の顧客ニーズが掴めない。

5.グローバルSCMの展開で重要なこと

  日本の製造小売業(SPA)と言われる業態で、優れたグローバルSCMを展開している事例がある。製造から小売りまでを自社で一貫して管理するということは、むしろやり易いのかもしれない。製造拠点はもはや中国から更に別な国々へシフトされ、マーケットもまさにグローバルである。ロジスティクスがマーチャンダイジングとも連動し、旗艦店におけるリアル販売データが、需給管理に直ちに反映される。アイテムは限りなく絞り込まれ、それでも多くの商品ジャンルがあり、決して少なくはない。店頭においても顧客重視の姿勢が貫かれ、日本にもこのようなモデルとなる優れたケースが存在している。
  一方で世界における政治対立が深刻化し、中国の突出した動きがロジスティクス面でも様々な影響を与えている。巨大ハブ機能が設定され、また「一帯一路」というインフラ整備も進められている。このような動きが、グローバルSCMの運営にどのような与件になるかという見極めも必要になる。韓国においても巨大な港湾機能が整備され、日本はもはや国際ハブ機能を失いつつあり、外国で小分けされた貨物を受け入れるだけの役割に陥っているように見える。韓国の流通センターもまた巨大である。

(図表3:世界港湾のコンテナ取扱量)
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  このような情勢の中でリスクマネジメントがますます重要になっていく。それは優れて日常業務管理と経営レベルの両面で成り立つ。日常からリスクに対処する活動が重要であり、これが業務品質管理や改善活動である。そして異常事態が生じた場合、それにどう対処するかが経営としての危機管理である。日頃からの備えがなければ、絵に描いた餅になりかねない。またBCPと呼ばれる事業継続計画を考えておかなければならないことは、言うまでもない。物流業とは基幹産業であり、これを支える人々のステータスをもっと高めていく必要がある。

以上



(C)2022 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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