第358号 沖縄への生鮮サプライチェーン考察:コスト高は当たり前ではない(2017年2月21日発行)
執筆者 | 野口 英雄 (ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表) |
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目次
- 1.離島への生鮮食品供給:コスト・品質・スピード
- 2.商品別のバラバラな対応:パイプラインを太くする
- 3.鮮度維持は意図されているか:コールドチェーン体制
- 4.重要なリスク対策と危機管理:イレギュラー時の対応
- 5.社会インフラとしてのサプライチェーン:供給サイドの責任
1.離島への生鮮食品供給:コスト・品質・スピード
昨年晩秋に5年ぶりで沖縄への旅に出掛け、スーパーで見た生鮮野菜類が余りにも高いので驚いた。その年は全国的に天候不順が続き高値だったとは言え、茨城産キャベツが一玉500円、埼玉・群馬産ネギが一本200円以上では、生活者の負担も大きいはずだ。ゴーヤも一個200円程度と、産地なのにこれも高い。当地では台風の影響が特異的に少なかったらしいが、それでもこの値段である。
離島だから物流コストが掛かるとは言え、関東に比べ小売価格が5割以上も高くなるのは、供給システムに課題があるのではないか。更に店頭に並べられていたレタスは褐変が生じていて、とても商品とは思えなかった。ゴーヤ以外に地場産生鮮野菜の代替品はあるか、レタス等を通年で生産する植物工場はないのか。そして仕向け地は、東京だけではなくもっと近い場所はないのか。沖縄は水産・畜産物は豊富にあるが、農産物は自給が難しいだろう。
生鮮野菜は生活必需品であり、離島の人々にとってはその価格や品質は大きな問題であるはずだ。もちろん地産地消が望ましいが、全ての地域でそれができるわけではない。他の工業製品であれば、そんなに大きな価格差は付けられないだろう。思いつくままに課題を述べてみたい。韓国では水耕栽培によるパプリカの寒冷地通年栽培が行われており、日本に多くが輸出され高いシェアを獲得している。もちろん国際複合一貫輸送として、完璧なコールドチェーンシステムが備えられていることは言うまでもない。
2.商品別のバラバラな対応:パイプラインを太くする
現状では基本的に、商品群別のサプライチェーン運営になっているだろう。その中でも生鮮食品は日配であるため、各サプライヤーが別々に対応しているはずだ。これを一つのパイプラインに乗せて運用し、場合によっては飲料・医薬・日用雑貨品等も含めて考えていく。競争は店頭で、供給は共同でという理念は今でも基本のはずである。現地では限りなく在庫を持たないようにする。つまり無在庫型の運営であり、需要予測精度向上や売り切りが前提となり、販売と物流の連携が必須となる。
輸送手段は船舶が中心のはずだが、場合によっては航空混載便も利用する。那覇空港はアジア各国向けの大型ハブとしての整備が進められており、生活必需品はそのベースカーゴとなっているはずだ。危機管理に柔軟に対応できるよう、輸送手段は複合化しておく必要もある。輸送コストは長距離大ロット逓減のメリットを生かしていく。ちなみにゴルフバッグは往きが船便で4日目に届いたが、帰りは航空便で1日短縮され、料金には特段の差はなかった。
仕向け地も1,500Km以上も離れた東京だけではなく、充分な品揃えが可能な大阪や福岡も考えられるだろう。場合によっては鹿児島ではどうか。但し毎日便があることが前提になる。そして沖縄との往復輸送を考えると、その選択肢も限られてくる。航空旅客輸送も、東京便は大型機使用で便数も多いので、キャンセル待ちでも乗れるという状況のようだった。
3.鮮度維持は意図されているか:コールドチェーン体制
生鮮食品のもう一つの重要な課題は、鮮度と衛生管理である。野菜であれば産地でまず予冷を行い、後の流通工程は温度が一定に維持される必要がある。つまり密閉型の低温施設を使った流通ということになるが、まず卸売市場では殆どがそうなっておらず、小売店のバックヤードも基本的には解放型だ。これではコールドチェーンにならない。話題の東京豊洲市場は巨大な低温施設となっているらしいが、その前後の工程も考えていかなければ意味がない。
そして加熱せず直接口に入るものは衛生管理が重要であり、密閉型流通が基本になる。流通全般で危害から守るフードディフェンスという概念も、外気と遮断されていなければそのリスクを防止することはできない。これはサプライチェーン運営の中でも必須の課題となっており、だから常温流通でも密閉型を意図しているケースもある。流通工程で危害が加えられた事例はもちろんある。
野菜の鮮度低下によるロス率は全体の30%程度にも上ると見られており、これを最終価格に上乗せしていると考えれば、消費者は如何に高い買い物をしているかということになる。自然を相手にしたビジネスではサプライチェーン運営等できるわけがないとされがちだが、ITの活用等でそれをカバーする試みも行われている。それは需要予測や生育管理等である。産地の予冷施設は国が莫大な補助金を投入して整備された経緯があるが、充分に機能しているとは言い難い。
4.重要なリスク対策と危機管理:イレギュラー時の対応
日配商品では最終商品検査判定を待たずに先行出荷させ、異常が判明したらその所在を突き止め、流通を停止させるという運営が行われている。もちろん鮮度を維持するため、在庫を持たない究極のロジスティクス運営で難易度が非常に高い。これがトレーサビリティーの真の意味であり、単に生産地や生産者の履歴追跡だけではない。また離島向けでは輸送のリスクも発生し、その代替手段が常に必要になることは前述した。
日常業務で発生するリスクを予め想定し、その発生確率を下げる活動がリスク対策である。現場改善活動による予防や、迅速なリカバリー等を考えておく。その手を打っても異常事態は必ず発生し、それを如何に短時間で修復させるかという経営マネジメントが危機管理である。全社の部門間連携が必須となる。これらの社会的責任やコストロスも甚大であり、これを極小化させなければならない。
自然災害の発生は幾度となく経験しているはずだが、その都度新たな課題が発生する。それはもう物流次元での対応ではなくロジスティクスという視点が必要になるが、政府・自治体にはそのような概念がない。ロジスティクスの要諦は情報を駆使した計画と統制であり、そのコアは需給管理である。その場合の情報とは需要予測や、リアルタイムの在庫把握である。ましてサプライチェーン運営という広範な対応ができるはずもない。災害復旧も基本は同じである。そしてリスク対策と危機管理という基盤の上に、BCPという体制が初めて成り立つ。
5.社会インフラとしてのサプライチェーン:供給サイドの責任
各社が単独でサプライチェーンを構築するだけでは、全国をくまなく同一サービスで運営していくことは難しい。地理的ハンディ等があるケースでは、国や自治体が主導し共同化に取り組む必要がある。これは社会インフラ作りであり、民間のビジネス競争だけでは空白になりがちなところを、公的側面からカバーしていく。共同配送とは旧くて新しいテーマであり、民間ベースだけでは中々進まない。ドラーバー不足から、取り組まざるを得ないという動きもでている。
それはコスト・品質・スピードをどこまで標準に近付けられるかで、生活者の負担を少しでも軽減する取組みである。ナショナルブランドであれば地域による価格差は余りないはずであり、トータルの採算でカバーする努力も必要である。もちろんその前提はコストダウンであり、リスク最小化ということになる。低温物流では365日・24時間のフル稼働に近付けることで、単位時間当たりの固定費を下げることも可能だ。もちろん複合的な事業組み立てが前提になることは言うまでもない。しかしこれにも人手不足という難関が立ちはだかり、省力化・無人化技術等が必須となる。
サプライチェーン運営ではもはやアウトソーシングが不可欠となるが、これも単なる丸投げではなくアウトソーサーとの機能分担を前提とした、基幹技術にしていかなければならない。不公正な商習慣是正等の条件整備も重要である。最後に農産物は伝統的に多段階流通となっているが、これもTPPに関連して改革のメスが入れられようとしている。農業は自然相手の不確実なものでやりようがないということではなく、テクノロジーを駆使した管理可能なビジネスにする必要がある。その根底となる概念がマーケティングとロジスティクスである。前者が顧客に対する市場の創造活動だとすれば、後者はそれを商品として具現化し、市場に供給していく仕組みである。
以上
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