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ロジスティクス

第228号ロジスティクス・リスク・マネジメントのすすめ(2011年9月20日発行)

執筆者 平居 義徳
(日本能率協会 ロジスティクス・コンサルタント・技術士)

 執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1961年(昭和36年)、日本能率協会コンサルティングに入社。以後、2005年(平成17年)まで45年間、ロジスティクスの実務コンサルティングに専従する。
    専門分野
    • 物流専業会社、メーカーおよび流通業で、「物流総合改革」「物流業務改善」「物流品質改善」「新センター計画」「センターレイアウト計画」「生産効率の改善」のコンサルティングに従事。
    主要な著書
    • 「わたしたちのIE」 (1974年) 日本能率協会刊
    • 「職班長のための新しい改善技法」 (1982年) 日本能率協会刊
    • 「たのしいIE」 (1983年) 近代経営社刊
    • 「改善学入門」 (1986年) 日本能率協会刊
    • 「やさしいIEのはなし」 (1987年) 日本能率協会刊
    • 「コストダウン50のチェツクノート」 (1989年) PHP研究所刊
    • 「物流コストダウン50のポイント」 (1994年) PHP研究所刊
    • 「やさしい物流改善の本」 (1994年) プロスパー企画刊
    • 「実例でみる物流診断分析」 (1994年) プロスパー企画刊
    • 「eヒントプログラムによる物流改善」 (2002年) JILS刊
    • 「物流改善ケーススタディ」(共著) (2004年) 日刊工業新聞社刊 など

 

目次


 

1.リスク10項目とは

  ロジスティクス事業では、多様なリスクが絶えず潜在している。それは、ときには会 社の存亡につながることであったり、大きな損失をもたらしたりもする大事である。
ところが、われわれは、毎日の受注処理やセンター業務、輸配送に追われ、”気にはし ていたが、その危機管理や対応は後回しにしていた” ということが多いのである。
リスクの具体的な内容・項目は、業種や扱い品の特徴、拠点立地などでちがってはいる が、通常、つぎの10項目に要約される。

(1)災害リスク

台風、地震、洪水、土砂災害、経年変化による建屋事故、近隣会社よりの連動事故な ど。これらは、いずれも、”今回は想定外でした” ではすまされないことである。した がって、毎年、これらの前提となる想定枠を見直すことが必要となる。

(2)労災・安全

物流業務では、事故が多い。保管品の荷崩れや設備への巻き込み事故、フオークリフト やカートによる負傷など予期しないことが発生する。このような労災は、ご本人、ご家 族はもとより、会社にとっても痛手である。また、これらのベースとなる「ヒヤリ・ハ ット項目と件数」も対策の積み上げには欠かせない。

(3)セキュリティトラブル

クライアント・取引先関連企業情報の流失とか社内マル秘事項、社員個人情報の漏洩は 発生後、その対応処置や法的制裁で長期にわたり、多大の損失を被る。

(4)コンプライアンス違反

労働基準法をはじめ関連労働法の違反、環境法規の背反、商品の有効期限、トレーサビ リティの法規制違反、社会通念でみた倫理違反、社内での各種ハラスメントは、訴訟や 法的処置で会社の信頼を著しく低下させる。

(5)環境問題への対応不足

昨今、要請されている「節電対応」や「廃棄物処理」「近隣周辺への悪影響」(騒音、塵 埃、夜間稼働トラブル、入出庫車による交通渋滞など)「場内の作業環境」問題がこれに 該当する。

(6)オリジナリティのPR不足

物流企業は、どこも独自の「特徴・売り物」を持っている。”当社はここが得意、これは ヨソにはない!” という特徴をもっと広く、もっと具体的に売り出すべきである。この ことは、上記のリスク項目とは異質ではあるが、「得られたであろう多くの利益を失く している」という意味で企業リスクのひとつなのである。ましてや、他社と差別化した 売り物のオリジナリティがないところは、これから先の企業継続が見込めないと自覚し なければならない。

(7)立ち上がりトラブル

新センターへの移設や新規事業の開始、新情報システム、業務システム、新設備の導入 などの立ち上げでは周到な準備にもかかわらず、なにかと初期トラブルがつきまとう。 それは、物理的に出荷不能という事態となったり、配送遅れ、物流品質ミスの多発で顧 客に大きな損失をもたらす。

(8)業務ピークへの対応不足

企業によっては、中元、歳暮期や新製品の全国一斉販売で平月の数倍、数十倍にも業務 量が増大する。ピークに対応する業務能力は、「スキルフルの要員数」「各工程・搬送 の設備能力」「それらをまかなえるスペース」「手配可能な配送車台数」などが要因と なる。業務量が物流能力を超える場合、顧客に実損をもたらし、信用低下により以後の 取引・売り上げに悪影響を及ぼす。

(9)物流品質ミスの多発

通常期にあっても、物流品質ミスは、その「処置費用」だけにとどまらず、「信用低下 による取引停止や売り上げ減」の巨額損失が発生する。
「物流品質ミス」の具体例としては、つぎのものがある。
・商品自体の保護
内外装の汚損・破損、商品の変形・変質、商品特性に応じた温度管理、防カビ、防錆、防振、静電気防止など。
・出荷・配送遅れ
顧客指定日時の遅れ
・品ちがい、数量ミス
受注品の誤品、誤量
・顧客よりの指図をミス
顧客より要請のあったシール貼りや仕分け分類ミス、一連ナンバー、ロットナンバー区分、出荷順位指図でのミス
・現品管理ミス
受託品の帳残と現物在庫数とのアンマッチ

(10)現場力の不足

安全はもとより、物流品質、業務生産性のレベルは、そこで仕事をするメンバーの現場 力、全員力で大きなちがいが出る。それは、リーダーの資質であったり、パート社員、 派遣社員を問わない全員への実務訓練の方法・ツールの工夫であったりもする。このレ ベルのちがいは、「機会損失のひとつ」として認識しなければならない。

2.リスク・カウントによる評価

  以上のリスク項目は、いずれも ”重要であるとは認識しているが、事前 にその痛みの程度は想定していない” というのが通例である。実際には、 トラブルが発生したのち、”こんなことなら、お金がかかってもその予防対 策をこうしておくべきであった” と痛感するのである。そこで、不幸にし てこれらのリスクが現実となった場合、各種の仮設前提のもと、”このこと で、これだけの損失が出る”という金額を、毎年(毎期)カウントすべきであ ると提言したい。
「損失」と云うと、人によってはマイナスイメージが先行し、立場によ っては、”そんな不具合は、できれば伏せておきたい” と思うのも人情で ある。そのため、「損失」ではなく、”これがなければ(あるいは減少すれ ば)、これだけ利益が増える” という「貢献利益」とみてもよい。
このような考え方で、「年商60億円のロジスティクス企業を仮設例とし てリスク・カウント」したものが、つぎの表である。

リスク・カウント算定例

これらの「貢献利益額」は、「リスク時の対応処置費用」よりも、「長期に亘る 信用ダウンでの利益減」(機会損失額)の方が圧倒的に大きい。くどいようだが、このよ うな不具合がなければ、当社はこれだけ、利益額をもっと増やせたという認識を 持つべきなのである。
そして、このような「リスク・カウント」の上で、今年度は”これに力を集中す る”との重点方針を決める。定性的な方針よりも、定量的な方針が全員にわかりやすく 浸透できることは言うまでもない。
また、全国に拠点が散在する場合は、各拠点ごとの「年間利益貢献額」を昨年対比 で算定できる。これは、今年、トップから重点方針として指図されたことを各拠点が その方向、その路線で”どれだけ、努力したか”という公平な努力結果の評価尺度とも なるものである。
以上が「ロジスティクス・リスク・マネジメント」の概要であり、ぜひ、活用されることを願うものである。

以上


(C)2011 Yoshinori Hirai & Sakata Warehouse, Inc.

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