ロジスティクス・レビュー

第28号バリューネット時代の中間流通の可能性(2003年03月20日発行)

執筆者 楢村 文信
プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク ECRネットワーキング・マネージャー
    執筆者略歴 ▼

  • プロフィール
    • 89年 神戸大学経済学部卒業。
    • 同年 P&Gファー・イースト・インク入社、広報部門配属。広報スーパーバイザー、広報マネージャーを歴任後、
    • 98年より ECRネットワーキング・マネージャー就任。
      以後エクスターナル・リレーションズ・ディベロップメント・マネージャー兼ECRネットワーキング・マネージャーを経て、ノース・イースト・アジアCBD IT-ECRネットワーキング・マネージャー 。
    • 学習院マネジメントスクールD&SCM(ディマンド&サプライ・チェーン・マネジメント)コース  オーガナイザー など。

目次

我が国では、60年代の大手量販店の台頭に伴う「流通革命」の時代に「卸不要論」という言葉が登場し、その中で卸売業という存在は流通の非効率性の元凶のように言われてきた。また、近年のSCM(サプライチェーン・マネジメント)が導入される中でも、中間排除という考え方が見られる。しかし、本当に中間流通業は日本の流通において不要な存在なのであろうか。であるなら、なぜ卸不要論が叫ばれ出して40年近く過ぎた今日でも欧米のようなメーカーと小売業の直接取引が主流にならなかったのであろうか。筆者が、自社の取引制度改訂に関わる中で行った中間流通に関する考察をこの機会に紹介させていただくことで、IT化が進む中での中間流通の可能性を考えてみたい。

1.日本の物価は本当に高いのか?

 中間流通が問題になる最大の原因は、中間で流通業がマージンを得ているため、消費者価格が高くなるという考え方である。しかし、実際にそうなのであろうか。内外価格差という観点で見たときに、海外の高級ブランドでは一時その価格差の大きさのために、日本の消費者が海外で高級ブランドを買い漁るという現象が見られた。この要因の一つは為替レートが、80年代に急激に円高に向かった中で、販売者側が価格調整を行わなかったためと推察される。それは、高級ブランドイメージを守る上で価格は重要な要素であり、価格を引き下げるという施策はとれなかったのであろう。

 では、そういった要素のない消費財業界ではどうなのだろうか。定期的な政府調査のため、若干古い資料だが平成11年度に行われた内外価格調査で主要都市の生活用品の価格比較を行った結果がこの表である。この調査によると、日用雑貨品に関しては日本の物価は必ずしも高いとは言えないのである。特に、下表にあるように日用雑貨品の一部は、東京が世界で一番安い。これらの商品は、ほとんどが卸流通経由である。従って、中間流通の存在が高い物価ということは単純には語れない。

2.中間流通は海外では存在しないのか?

 また、良く例にあげられるのが欧米における、メーカーと、小売チェーンの直接取引である。しかし、現実には海外でもホールセラーやブローカーという中間流通業が存在する。欧州では、市場全体においては、大手チェーンの寡占化が進んでいるがその一方で、チェーン小売業が自分たちと直接競合になり得ない、小規模小売店や外食産業向けにホールセール事業を行っていたりするケースもある。米国では、大手ホールセラーやブローカーへの集約や統合が進みながらも、IT活用しながら業務領域を拡大し生き残りを進めている。

3.流通における機能と構造

 中間流通の議論をする時に、商流の側面だけでなく流通システムとしての機能と構造にも目を向けなければならない。この視点が欠けていると安易に中間流通排除に走ってしまう。製品が生産される場所と、販売或いは消費される場所、流通の機能の一つがこの2つをどう結びつけるかにある。次に、生産の現場は生産性の観点からいうと、なるべく少量のアイテムを年間で安定的に大量に作った方が良い。一つの生産ラインで複数の商品を作ればコストは上昇してしまうし、かといって稼働率の悪い中で専用生産ラインを持つことはさらにコスト高になる。逆に、販売・消費の現場では多様なニーズに答えるために幅広い品揃えが必要となる。(もちろん、ブランド品のように希少価値のある少数の商品を扱うという方法もあるが、生活用品にはそのロジックは当てはまりにくい。)そして、店舗スペースの制約条件や有効活用を考えれば、品揃えの幅を増やすためには、在庫を持つ量を少なくした方が好ましくなる。

 そのために工場で生産された製品を、店舗に納品する前にどこかで一回取りまとめて、在庫・仕分けを行う必要がある。つまり、流通システムの全体構造を考えた場合に、どこか中間で生産側と販売側を調整する機能としての流通加工センターが必要と考えられる。これは日本に限らず、世界中どこの市場にあっても考えなければならない。例外として考えられるのは、一つの工場である店舗での扱い製品全てを作っているような場合である。

4.機能・構造の視点からの比較

 この流通加工センターの機能を誰が担っているのかという視点から日米欧の流通システムを比較してみる必要がある。欧米の小売業の場合は、この流通加工センターの機能を自社で所有している、或いは自社管理の元でアウトソーシングを行っているケースが多い。多数のメーカーとの直接取引を行って、効率性を上げるためには流通加工センターが必須となる。

 一方、日本の小売業のほとんどが、この流通加工機能を自社で持たず、卸売業の納品に関するサービスの中に包含される形で、卸売業から提供されている。これはアウトソーシングとは全く異なるものである。

 欧米の大手小売業のように、流通加工センターを自前で用意するとなると、採算性のとれる規模が必要となってくる。この採算性の目安は商品カテゴリーが決まっていれば年間取扱い金額で目安がたてられる。そこで、センターとしての採算性を考えた場合には、どれだけの店舗に対しての供給上の拠点となるかを考えなければいけない。となると、規模が実現できれば可能ということになるが、まだ考えなければならない問題がある。それは、センターから店舗への配送距離と配送量の問題である。土地コストや取得できる規模の問題から、日本の店舗は欧米と比較すると小さいものが多い。加えて、密集度の高さである。従って、在庫補充という意味では、少量を多頻度で、しかも短いリードタイムで求められるようになる。自社の多くの店をチェーン化し流通加工センターを設けたとしても、輸送距離が長く一回あたりの配送量が小さければ、輸送コストでセンターのメリットを相殺してしまう可能性がある。そういった問題を考えた時に、結果として地域ごとにまとめて卸売業を活用する方がメリットが生まれてくる。

 また、歴史的に見て日本は店舗規制の問題もあり、小売業の多くは有利な立地条件を持った場所を競争相手に先んじて確保し出店することを経営上優先してきた。経済が右肩上がりの環境下では、一店でも多く早く出店しようとしたのであろう。そのため、既存の取引卸売業がサービスとして提供する流通加工業務を自社で投資をして行えるようにするインセンティブが働かなかったと考えられる。

 他にも小売業にとっての卸売業活用のメリットは、MD面や決済、つまり支払いサイトの違いによる実質的には金融支援などという点でもみられる。こういった中で、小売業は卸売業を必要としてきたのである。

5.IT化が進む中で中間流通の可能性

 IT化の波の中で、逆に日本の卸売業には大きなチャンスが訪れようとしている。段階的には、市場が飽和する中で、マージンアップと利益確保のために、直接取引を指向する小売業は今後増えるとは考えられる。しかし、欧米のような直接取引型が主流とはならなかった中で、コアコンピテンスやアウトソーシングという考え方の中で卸売業を積極的に捉える見方も出てきている。実際に、現在業績を伸ばしている卸売業の多くは優れたロジスティクス機能を小売業に提供している。また、今後はMD面での支援機能の充実が卸売業の競争力のポイントとなると考えられている。

 日本という市場環境を考えれば合理的に見ても卸売業の存在に対しては肯定的な点が多くある。しかし、否定的な面も現実には存在している。サプライチェーンの中で製・販と比べて製・配・販となると一段階増えるため、企業間での業務の重複や調整コストがどうしても発生してしまうため、非効率が生じてしまう。事務・管理業務とコミュニケーションの量が増えてしまうのである。これらは、中間流通業を排除しようとする上でのインセンティブとなってしまう。しかし、ITの導入はこれらの問題に対しての解決策となる。ECRのエッセンスの一つは、ITを使い企業間のコミュニケーションを改善し、ミスをなくし、重複を排除することで効率性を高めようとすることにある。さらにインターネットを活用し、様々な取引パートナーとバリューネットを構成することでより大きな付加価値を実現することが可能になる。

 中間流通業としての卸売業が、ITを活用することで、小売業とメーカーとシームレスに業務が行えるようになることが理想である。そのためには、未だに多くの企業が抱えているレガシーシステムから、ネットワーク型でリアルタイム型へのシステムに切り替えていかなければならない。いわゆるダウンサイジングである。

 しかし、現実にこれを行うとなるとIT投資を行えるだけの体力が必要になってくる。オープン化によってこれまでとの比較で見ればハード・ソフトのコストは下がっていても、セキュリティや安定性など別の部分への投資も必要になる。さらに人材育成や、システム関係の人件費の問題も出てくる。ITによって産業界全体の生産性が平均的には改善されるため、競争において今までと同じ人数でより多く売上を生み出さなければならなくなる。それらの要因によって、規模実現のための合併或いは提携は避けることが出来ないであろう。

6.業種・業界を超えた競争

 また、IT化に関連する大きな課題は、異業界・異業種からの参入が容易になってきた点である。これまでは、一つには取扱商品の免許などによる規制や、メーカーとの関係性や、その業界独特のニーズに対する対応力などが障壁となって、業界、業種の壁が存在しており、徐々に崩れかけてきたものが、一気に変わっていくことになるであろう。食品で見れば、加工食品、冷凍食品、酒、そして菓子。大手は、これらをフルに品揃えし、小売業へのサービスを提供している。情報システムを活用することによって、これまでは担当者の経験によって培われた能力によって差別化が実現していたようなサービスは、システムとの競争にさらされることになる。管理業務によっては、人間が経験を積み重ねて熟練度を上げるのに要する期間よりは、データの蓄積することで誤差を減らすことが出来るようになる方が短くなっていくと考えられる。ロジスティクスの機能だけで考えれば、いわゆる物流業は、小売業からのアウトソーシングとしては競争相手となる。

 結論としては、卸不要論という見方は恐らく現実のものとはなりえないであろう。この考え方が間違っていたというよりは、このような考え方が提示されたことによって危機感をもった卸売業が今日まで様々な努力を行ったということで意義は認められる。しかし、中間流通業そのものは、製品を生産しているわけではなく、直接最終消費者に販売を行うわけではないため、今後も常に中間者としての付加価値を追求される。これを実現できる卸売業が有用であり、これが実現できないとやはり不要ということになる。

以上



(C)2003 Fuminobu Naramura & Sakata Warehouse, Inc.


このページのトップへ戻る