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経営戦略・経営管理

第183号物流業界のブルー・オーシャン戦略(2009年11月5日発行)

執筆者 坂 直登
ロジ・ソリューション株式会社 技術士(経営工学部門) 取締役
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1973年 武蔵工業大学(現、東京都市大学) 工学部経営工学科卒業
                   扇興運輸(現、センコー)入社
    • 1978年 宅地建物取引主任者取得 42101
    • 1985年 技術士(経営工学部門)取得 登録番号18322
    • 1996年 経営戦略推進室 部長
    • 1997年 情報推進部 部長
    • 2005年 事業開発本部 副本部長(常務理事)
    • 2006年 ロジスティクス・ソリューション事業部 常務理事
    • 2008年 ロジ・ソリューション㈱ 取締役
    所属団体
    • 日本技術士会 会員
    • 技術士包装物流会 理事
    • 物流技術管理士他専任講師(JILS)
    • 物流環境管理士要請講座専任講師(JFFI)
    • 海外技術者研修協会専任講師(AOTS)
    • 日本物流学会個人会員
    主要著書
    • 『物流デザインハンドブック』共著(JILS)
    • 『物流管理』産能大通信教育用テキスト 共著
    • 『ロジスティクス・オペレーション2級』共同監修及び執筆
    • 『ロジスティクス・オペレーション3級』共同監修及び執筆
      ビジネスキャリア検定試験標準テキスト
    • 『ロジスティクス・オペレーション』共著(社会経済生産性本部)
      BC検定試験通信教育テキスト

目次

ブルー・オーシャン(*1)とは

  レッド・オーシャンとは今日存在する全ての産業を表し、過当競争で血を流しながら戦っている市場を指すのに対し、ブルー・オーシャンとは未知の市場で競争の全くない市場を指す言葉である。ブルー・オーシャンの日本での事例としては、1000円の理髪店QBハウスや任天堂のWiiなどが取り上げられている。物流業界の事例では宅配便などが上げられよう。ブルー・オーシャンも何年か経つと追従者が生まれてレッド・オーシャン化していく運命にある。従って新たなブルー・オーシャンの開発が必要になる。
  殺人や重罪が多発し、もはや警察の力だけでは収拾できないと言われていた荒廃したニューヨーク市を、やる気を失っていた現有警察勢力だけで2年も経たないうちにアメリカで最も安全な都市へ変貌させたのが、1994年に市警本部長に就任したブラットンで、その方法がブルー・オーシャン戦略なのだそうである。
  物流業界はバブル崩壊の1991年より国内貨物輸送量が20%も減少したのに、トラック事業者数が逆に50%も増大し、正にレッド・オーシャンの代表業界であり、そのブルー・オーシャン戦略について考えてみたい。

インターネットや携帯電話世代の消費行動の変化

  バブルが崩壊して以降、日本のほとんどの業界では売上を増大すべく低価格競争が中心になってきた。低価格競争に勝ち抜くために、メーカーは生産コストの安い国に工場を移転し、国内生産でも派遣労働者やパートやアルバイトの比率を増大させ、低コスト戦略を推進してきた。正社員についても年功賃金制度から成果主義に切り替え、多くのサラリーマンの年収も増加するより、むしろ減少するようになった。
  今後は輸出主導から内需拡大化が必要と言いながら多くの消費者は賃金の低下に伴い、購買力も低下している。若者がローンを組んでまで車を買わなくなり、若者の行動範囲が非常に狭くなっているという。車のローン代が月々の携帯電話代に切り替えられたという説も聞く。これでは各地に数多く出現した大型ショッピングモールは車による来店を前提としているので先が思いやられる。
  インターネットや携帯電話の普及で若者の購買行動が変化し、新技術が歳上に伝播すると共に、ネット世代がそのまま高齢化して、買い回り品のインターネット購買が社会に完全に定着していく。最寄品の惣菜も遠くのスーパーではなく、24時間開店している近くのコンビニに買いに行く人が増えているという。高齢者も70歳代は自転車や徒歩圏のコンビニやネット・スーパー、80歳代は食材の買い物代行を選択するだろう。これらが日本の流通構造を変え、物流構造を変える可能性がある。その改革のプレーヤーは、既存業界から生まれるのではなく、全くの他分野から生まれる場合も多いと言われる。

ブルー・オーシャン戦略と貧困層を顧客とするBOP企業の急成長

  BOPとは、Bottom of the Pyramidの略で、1日2ドル以下で生活している経済ピラミッドの底辺で生活している人々のことである。世界人口65億人の内、40~50億人が、このBOPに属するといわれる。これらの貧困層を顧客に変える次世代ビジネス戦略が今、注目され、「ネクスト・マーケット(*2)」と呼ばれている。これらBOP市場の経済規模は、2039年には、米、日、独を含む経済大国トップ6の経済規模を超え、BRICsの経済規模さえも凌駕するであろうとの論文も発表された。
  プラハラードに拠れば、これまで先進各国の企業は、これらの貧困層を顧客や市場としては全く考えてこなかった。これらの市場にアプローチした企業も既存市場向けの商品を多少リニューアルした程度で取組んだために販売に失敗してきており、やはり貧困層は顧客へは成り得ないと判断してきたという。これらの貧困層はブランド志向もないし、モバイルも使わないし、横方向のネットワークも無いという前提で商品開発が行われてきた。しかしこの前提は全く間違っていたという。360ml入りのシャンプーボトルは20ドルもするから買えないけれど、10セントの1回使い切りのシャンプーは、祭りや結婚式などのハレの舞台では、ブランド品を買い求めるという。気に入らないときには、ボドルで買っていないからブランドの切り替えが容易に行える。BOP市場ニーズに合わせた商品デザインと機能の設計が必要なのだそうである。
  偶然にも、このBOP企業として取り上げられた企業のひとつがブルー・オーシャン企業としての事例にも取り上げられている。それは「セメックス」という売上2兆円を越す世界第3位のメキシコのセメント会社である。貧困層にセメントを一般より低価格で売っているのではなく、一般より高価格で買ってもらっているという。貧困層から70人のグループを募り、毎月一定額の積み立てをしてもらい、ひと部屋分が増築できるセメントや建材を一式、会員に順番に届け、増築に対するアドバイスや技術援助も行う販売システムなのだそうである。グループ制にすることで積み立てからの脱落を防ぐと共に増築が完成すると町でささやかなお祝いのパーティを開くという。
  「ネクスト・マーケット」には、BOP企業としての成功事例が何社も取り上げられている。その際、物流システムも同時に開発する必要があるとの指摘がある。例えばカサス・バイアは、電子機器や家電製品、家具をBOP市場に販売している企業で、シアーズやウォルマートでさえ参入に失敗したブラジルで1200億円の売上を上げている。大量に安く商品を仕入れて、在庫を6ケ月分も抱えている商品もある。アマゾンの戦略のように売れ筋商品だけに絞るのではなく、ロングテールな商品も敢えて品揃えすることで集客を行う。
  メンテナンスコストの安いメルセデス社製のトラックを約1000台所有し、全ての配送トラックには社員の運転手1人と助手2人が乗車して配送品質を維持している。配送日指定への対応や服装など接客マナーの点でアウトソーシングでは配送品質が維持できないからという。
  北米売上最大のパン菓子製造販売会社は、メキシコの「ビンボウ」という会社で、大型スーパーが進出していないエリアにある69万ヶ所の販売店を2万5千台のトラックで配送している。
  これらBOP市場は、開発途上国が多く、先進国にあるような営業物流事業者がほとんど存在していないために、自家物流に頼らざるを得ないとも考えられるが、しっかりとした営業物流事業者の未進出ゾーンでもある。

物流業界のブルー・オーシャン戦略を考えよう

  物流は生産活動あるいは商流の派生需要だと言われているが、宅配便やゴルフ・スキー宅配便は派生需要ではなく、新規需要を創造したと言える。そのような便利な物流サービスが出来たので皆が利用するようになったのである。その意味で宅配便はブルー・オーシャンに成り得たのだと思う。物流業界に於いても新たな物流サービスの創出によって物流需要を作り出すこともできるということの意味は大きい。
  しかし新たな物流需要を作り出してブルー・オーシャン市場を開発するのは容易なことではない。派生需要であっても新たなビジネスモデルを作ることによってブルー・オーシャン市場を開発することもできる。例えば物流部門が需要予測をし適切にサプライチェーンの在庫をコントロールできれば、生産調整を生産部門に依頼することとなり、生産と物流の主従が逆転する。生産管理もプッシュ型からプル型にシフトしたメーカーも多く出てきており、物流が生産の単なる後処理工程ではなくなってきている。最終消費者や前工程からのプルに伴って補充生産を指示するのである。VMIも顧客が消費した分だけベンダーの意思で補充するシステムである。
  更に大型小売店などが実需データをその取引先に開示するようになれば、デマンドチェーンのコントロールを物流部門で行うこともできる。これらの高度な管理を行うためには従来の物流管理の範囲を超えた知識や技術とマネジメント力を必要とする。
  これらを3PLとして、事業展開すれば良いのではあるが、3PLと謳っても多くの3PL事業者の実態は元請と契約体系が同じであり、荷主への運賃料金の請求と実物流事業者への支払の差額であるマージン・ビジネスから脱却できていない。マージンである限り、荷主との関係は構造的にWin-Loseの関係になってしまう。3PL事業者が物流の効率化を進めれば、物流費総額が減少するので、3PL事業者のマージン絶対額はどうしても減少してしまう。荷主のみにメリットがあるシステムでは、Win-Winの関係は継続できない。
  マージン・ビジネスからマネジメント料としてのフィー・ビジネスへの切り替えや更に成果報酬としてのゲインシェアリング契約も必要である。これらが整って初めてWin-Winの関係になれる。このことが最も重要であることを3PL事業者も荷主も十分に理解していないように思う。フィーの水準決定については、物流KPI(重要業績評価指標)などによる成果連動型フィーにすることが望ましい。
  確かに今、我々を取り巻いている企業や商品の多くは、30年前にはほとんど存在しなかったものである。コンビニ、携帯電話とワンセグ、液晶TV 、インターネット、種々のカード決済システム、ネット通販、ネットスーパー、低価格コーヒーチェーン、ハンバーガーや外食チェーン、ビデオ、携帯デジタル音楽プレーヤー、DVD、デジカメ、電波腕時計、カーナビ、ハイブリッド自動車など挙げれば切りがない。
  種々の地元小売店は、コンビニやネット通販や大型専門店やショッピングセンターなどに駆逐されてきた。卸売業も合従連衡が続いている。町には中国製品が溢れている。このように産業構造が激しく変化していく時代には、業界の垣根を越えた新たな産業やブルー・オーシャンが生まれる可能性が増大する。そこに差別化と低コストを同時に実現することを目指した新事業がブルー・オーシャンと成りえる。
  プリウスの開発には、自動車の設計に携わった事のない人材を当てたことによって成功したというTVドキュメンタリーがあった。一般の電気自動車はエンジンの代わりにモーターを組み込んだ改造車であるが、慶応大学で開発したELiiCaは、8輪の1輪1輪それぞれに直接モーターを組み込んでいるので、従来の自動車とは動力伝達の構造が全く異なるという。従って将来の自動車産業の覇者には、従来の自動車メーカーでなく、電池メーカーなど他業界の企業が取って代わる可能もあるという。
  物流業界でもエスクロサービス、デビッドカードやファクタリングのような金融をも含んだ複合サービスも生まれているし、身の回りには意外にもブルー・オーシャン戦略やBOP戦略を応用していると思われる企業が散見される。業界のレッド・オーシャンの中で、もがき溺れるのではなくて、発想を転換してブルー・オーシャンを開発して行きたいと思っている。

以上


参考文献

(*1)ブルー・オーシャン戦略—–競争のない世界を創造する
著者 W・チャン・キム/レネ・モボルニュ
発行 株式会社ランダムハウス講談社 2005年6月
(*2)ネクスト・マーケット
著者 C.K.プラハラード
発行 英治出版株式会社 2005年9月


(C)2009 Naoto Ban & Sakata Warehouse, Inc.

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