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経営戦略・経営管理

第159号 事業システムとSCM ~グローバル環境におけるSCM戦略の方向性~(後編)(2008年11月6日発行)

執筆者 橋本 雅隆
(横浜商科大学 商学部 教授)
(一橋大学 商学部 客員教授)
    執筆者略歴 ▼
  • 略 歴 ・昭和30年生まれ
    ・1973年早稲田大学卒業
    ・早稲田大学理工学部工業経営学科卒業
    ・明治大学大学院経営学研究科博士前期課程修了
    ・現在
        横浜商科大学商学部教授
        一橋大学商学部客員教授
        日本物流学会理事
        博士(商学)

*サカタグループ2008年2月26日開催セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
前編(2008年10月21日発行 第158号)より

目次

6.海外生産と国内市場を繋ぐ仕組み

グローバル・ロジスティクス・ミックス
  グローバルSCMというお話をしましたが、要は生産コストを下げる為に海外において適地生産を行うのですが、生産コストが下がっても在庫リスクやロジスティクスコストがかかってしまったら元も子もない。或いは売れ行きのタイミングを逃してしまっては意味がないということですね。そこに何らかの工夫があるのですが、1つのやり方は、直流化です。
  グローバル化されていても生産出荷拠点を店舗とダイレクトに結んで、在庫を持たずに販売店舗にスピーディーに商品を投入するということ、そして、始めから売り方を決めてしまうこと。その起点となる発注情報の精度が非常に高いということです。だから、中国にそのオーダーを投げる段階で、何を何月何日どの店でどの棚に投入し、いつまで何枚売るか。さらには、想定した消化スピードを下回った場合、売価変更をかけるとしたらその幅は何%か、それでも売れなければ、店舗間移送をかけるか、ということが発注段階で全て決まっているということです。そういう高精度な情報で発注します。それも、1アイテムに対して少なめの発注ロットで出す。そして、サプライチェーンの中間では極力在庫を持たないで直流をしていく訳ですが、その間の輸送は、バイヤーズ・コンソリデーションをやってフルコンテナにして輸送効率を上げていくということが出来る訳です。そして売り切ってしい、追加補充はせずに次のデザイン企画に移行するというスピーディーなビジネスモデルになっているのです。
  事前にプロセスを制御することをフィード・フォワード・コントロールといいます。事例では、店舗での売り方というものを川上に情報として投げて共有しています。
  このようなグローバルなオペレーションの土台になっているのが、グローバル・ロジスティクス・ミックスです。先程申し上げたバイヤーズ・コンソリデーション。特定の輸入者の為に複数の発荷主の貨物を輸入者専用のコンテナに詰め合わせることで、輸送効率を高めて、CFSチャージ、運賃、通関諸費用が削減されるということです。
  もう1つは、その引っ張ってきたものを、先程の国内のTCでバラしてしまいますが、クロスドッキングということですね。これが仕組みとして併せられています。
  それから拠点の広域集約化というのは、例えば流通加工をする拠点は上海と青島で全部しています。VMIについては、これはいろいろな問題があって、冒頭に申しましたようなリスクの押しつけといったようなことも散見される訳ですが、重要なのはやはりそこで引き取る側がどういうふうな売り切る仕組みを持っているかということですね。買い手の側でリスクを吸収する仕組みを持っていることが前提になるのです。
  それに、ミルクラン集荷です。これは、今、日本の自動車メーカーが海外で部品を調達する際には、殆どミルクランです。それから非居住者在庫ですね。こういうものを上手く組み合わせているということです。
  つまりSCMやロジスティクスの定番的な手法はいろいろありますが、それがバラバラで使われていたら意味がないということです。これらを組み合わせて何をやりたいのか、という所をはっきりさせないとSCMの高度化は難しいのだろうと思っています。
  事例企業のグローバル・ロジスティクス・マネジメントは、混載化+スピード化という意図を持っています。要するに、売り場と生産拠点をきちんと結びつける仕組みをつくっているということです。換言すれば、確定情報によるグローバル・ロジスティクス・ネットワークの最適化ということです。

GLMを成立させるロジスティクス・ネットワークの形成
  SCMというのは、要は事業の仕組みの中で、サプライチェーンのプロセスというものを位置づけて組み込んで記述をしてみないと、そこの意図がはっきりしないのです。もう1つは、そこのプロセスをいくら書いてもこれはお絵かきにすぎません。その背景には例えばこちらの店側ではどうやって、どんな品目を、いつどのように売るのかという小売業態と言いますか、store formatがきちんとしていることが重要になってきます。
  そこには、きちんとデータが蓄積されているという前提があります。例えば縫製の仕上げだと生産品質ですね。ロジスティクスの方もやはり輸送品質というものがきちんと確立されていて、それを支える情報が蓄積されている。そのような、深いレベルの知恵というものが前提にあって、こういうものを繋いでいくのです。品質やコストがプロセスによって作り込まれていく。そしてこれが事業単位で出来上がっているのです。企業としては、このような複数のプロセスが積み上がっていると考えていくべきだろうということです。
ファッションビジネスの事業システム
  そうすると、例えばファッションビジネスにおける事業システムを戦略的に捉えますと、商品開発、海外生産と店舗での売り切る仕組み、そして、それをつなぐロジスティクスです。商品開発のプロセスとSCMのプロセスの両方を連動させる為に、グローバル・ロジスティクス・ミックス、バイヤーズ・コンソリデーションを中心とした仕組みと、売り切り・補充ということと、それを動かす為のフィード・フォワード情報というものが、戦略的にミックスされてこれが統合される。
  そうすると、安く商品を調達・供給するということと、内部で商品を開発して市場にどんどん投入するということが実現されます。戦略目標は一見これは相矛盾するのです。これを同時達成する為には、その繋ぎとして戦略ミックスというものが必要になってきます。そのようなことの実現の仕組みとして、SCMというものを考えていったら良いのではないかと思われます。

事業投資採算性のスキーム
  これは先程言いましたとおり、事業採算性が確保されていないと意味がないのです。この式は、有名なTOC(Theory of Constraints)のゴールドラットのROA(投資採算性)のメイクマネーです。そこではROAというのは、このような式になっています。

  分母は在庫+固定資産、分子は売上高-仕入高-業務経費です。
  これは、効率性と効果性の分子分母関係になるのです。効率を上げて在庫を少なくする、なるべく固定費を削減するという動きと、それから魅力ある商品をどんどんスピーディーに売ることによって、通過スピードを早くして、リターンとしてのマネーのキャッシュフローを大きくしていくということです。
  つまり、効率性と効果性の同時追究のフォーミュラ(方式)がある。この式に先程のChristopher,M.の3つのリードタイムの削減がどのように関わってくるのかと言いますと。例えばtime to market、短期化され、或いは多頻度の商品開発ということを行えば、商品の鮮度が高まり、売上高が上がります。それから、海外生産を行うことによって、コストを削減する訳ですが、その際にロジスティックスコストがかかってはいけないということで、混載・直流をしたり、流通加工の拠点を集約したり、ITを活用することによって、time to serve、つまり業務経費を削減していきましょう、そしてスピーディーに店舗に商品を届ける。さらに、変化に対するtime to reactを高める為に、あまりダラダラ売らないということです。売り切り不補充という、ファッションではそのような戦略があります。それによって滞留在庫の削減と、販売機会損失の削減を同時に減らすことによって、在庫を減らしている訳です。そして、ハニーズの例にもありましたように、物流や店舗の拠点投資を抑制するために、特積み貨物のネットワークの能力を活用したり、小売業のショッピングセンターへのテナント入居を行う。割り切ったビジネスモデルとメリハリのきいた投資は、経営環境の変化への対応も迅速に行うことを可能にする。このような事業の仕組み、すなわち事業システムを作り続けているということです。仕組みを作っていく経過が、良好な財務指標になって表れてくるということなのです。
  ですから、始めから意図してこのようなものを作っていくということが非常に重要で、繰り返しになりますが、投資採算性を上げるという目標とプロセスを変えるということと、事業の仕組みを作り変えるということは、本来同時に考えなければいけない問題だということです。

7.SCMの固有性の分析

グローバル企業の戦略研究
  これは国内事情だけではなくて、昨年の3月にZARA(スペインの服飾ブランド)を見てきましたけれども、ものすごく大きな物流センターがあるのですが、その物流機器自体は、はっきり言ってそれ程最先端の設備等は使っていないのです。ただ、店舗のリニューアルのサイクル、商品補充のサイクル(週2回)に、完全に生産と物流が同期化しているのです。その為の仕組みなのですね。店舗へのリードタイムを早め、1週間で届けるということをしております。始めから効率採算性を引き上げる仕組みを構築したり、効率性と特化性を同時に達成するスキームを構築するということなのです。
  ところが、いまひとつの大きな問題があります。今申し上げましたような仕組みは、ZARAやしまむらやハニーズにしても似たようなものだと。では、皆このままやればいいのか、真似をすればいいのか。それは競争優位性の意に繋がらないじゃないかということです。
  そこで、やはり事業システムというものが出てきます。つまり目的と手段というもの、このようなSCMを真似れば事業が良くなるという問題ではなくて、事業それぞれの性質があるということなのです。
  Suzanne Berger というMITの教授がいらっしゃいまして、彼女はグローバル化された優秀な企業をいろいろ調べてみると、やり方は多種多様だということです。これでなければならないというものは、実はないのだと言っているのです。
SPAの業務における機能分担と投資戦略
  実は私も研究をしている中で、例えばZARA、ユニクロ、ハニーズ、しまむらとなど、それぞれがその生産から販売までのプロセスの中で、自社で投資をして自社運営をしているのか、他社投資で自社運営をしているのか、他社投資で運営委託しているのか、商品・サービスを買ってくるのかというパターンをマッピングしてみると、やり方はバラバラになっていて随分違うのです。特に生産ラインに対する関わり方は、ものすごく違っています。店舗を自分で持っている所は皆共通ですが、そのほかのプロセスに対する関わり方はかなり違っています。

8.SCMプロセスに関する先行研究のレビュー

事業システムのアーキテクチャやSCMマッピングに関連する研究
事例研究1 株式会社ポイント
店舗・商品一体型の事業ブランド開発 PB中心・海外調達ながら延期的在庫コントロール
  この違いは何なのだろうということを検証します。この事例がポイントです。やはり財務データから見ると、近年良好な財務成果を出しています。分析してみますと、㎡当たりの売上高が非常に高いのです。そこが突出している特殊な事例です。ローリーズファームやグローバルワークなどのファッションブランドを展開しています。
事業の特徴
  ここの特徴というのは、ポジショニングが非常に上手いということが1つです。ベーシックカジュアルと百貨店ブランドの中間にポイントがあるのです。当社は高度ファッション関係という言い方をしています。
  そして、興味深いことは、当社は小売の店舗の業態(store format)を作り続けているということです。1店舗1億円で、100店舗100億円までいったら、これ以上絶対拡張しないという主義で、その小売業態の開発自体を彼等は製品開発(R&D)と呼んでいます。


  皆さんご存知とは思いますが、この店舗も例えば丸井に入っていたり、駅ビルの中に入っているブティック形式の店舗なのです。非常に店舗を綺麗にしています。
  そうするとどのようなことがでてくるか。
  勿論中国で生産して日本に引っ張ってきます。サプライヤーは専門商社を使って開発等をしているのですが、モノの引っ張り方が違うのです。一般のSPAというのは先程見ましたように、海外で作って海外で店舗別の仕分けをして直接店舗に搬入するのですが、ポイントの場合は、水戸と福岡の2カ所に物流センターを持っていて、そこで在庫を持っているのです。そして毎日納品するのです。翌日か翌々日には納品をする。つまり何かというと、比較的狭隘な店舗に極力在庫をおかない為に、毎日納品するというスタイルです。ですからコンビニのようなものです。毎日補充をする。そのバックヤードとして日本全国に2箇所のセンターを持っているというスタイルです。これはそうせざるを得ないですね。ハニーズ型も随分試行されていたようですが、かえって効率が悪い面があると仰っていました。どちらかというと、セレクトショップに近い動き方をしているということになります。ですから中国で生産をして日本で販売をするのですが、具体的な仕組みはかなり違ってきます。
  つまりこれは何かと言うと、同じSPA型の業態と言っても、あるいは直流を実際に行っても、国内に在庫拠点を持たざるを得ない。そういう事業システムになっている。だからそのようにするということです。やり方が違うのです。
  結果として、在庫回転率は非常に高くなり、営業利益率も高い。だから商品の鮮度も非常に高いし、トータルとしての在庫はそんなに持たなくて済んでいます。企画プロセスへのコミットメントを高め、国内のDCは自分で持ちますよというスタイルになります。自社企画商品の売り切りを行っているという意味ではSPAタイプの小売業ではあるが、パターンやストーリーが他とは違います。
事例研究2 株式会社ライトオン
NB(ナショナルブランド)中心に店舗で素早く売り切る事業システム経路依存性とプロセスによる問題解決
  もう1つは、株式会社ライトオンです。ここはご存知のとおり、ジーンズを中心とした会社です。ここは面白いことに、皆がSPAで儲かっているのでこの会社もある日SPAにしました。ところがSPAにして返って業績が悪化しました。数年前からこのやり方をがらりと変えて、NB中心に戻しました。但し、店舗在庫をなるべく圧縮するやり方を考えました。
事業の特徴
  つまりSPA化して、かえってストアのブランド力が低下してしまいました。滞留在庫が発生して売れ残りの値引きをして収益性が悪化しました。そこで、PB(プライベートブランド)率が一時70~80%まで上がったものを35%まで抑えました。
  国内NBメーカー共同のPB20%は持っていますが、「売れる仕組み」を導入します。つまり、後から言います仕組みを作った結果、業績が回復していきました。
事業戦略シナリオと事業システム
  ここでは5適と言って、適時、適品、適量、適所、適価。つまり、品揃え・陳列を適切にする。そして価格・店舗、それから時期・ロットですね。こういうものをやるんだという経営課題、目標を挙げて、それに応じたシステムを1つ1つ開発していきました。


売価変更アラートによる売上、在庫、粗利の適正化
  具体的にどういう仕組みを開発したのかと言うと、例えばこのようなことです。売価変更アラートというものが立ち上がるようにしました。店舗からのフィードバックが今まで非常に遅かったのです。最初に商品を投入する時に、時間の経過と共に売上がどのように上がっていくのか。このようなカーブを最初に描いてしまう。そして実際にPOSデータと比較して、これが少し計画よりも下がっているとなると、ここでアラートが発生します。計画値の何%なら売価変更をかけましょう。それでも上がらなければ、店舗間移送をやりましょう。逆に想定よりも消化スピードが早ければ、早期に補充をかける。
  商品の投入段階で販売に関するアクションを全てメニュー化して決めているということ、売り方のフォーマットが決まっているということです。そしてこれを行うことによって、業績が急回復しました。
  つまりメニューとしては、売価変更・店舗間移送・在庫圧縮・返品というメニューがあって、実際の店舗での売れ方と最初の計画値との比較を早急に行い、アクションを起こします。売れすぎている場合は、即出荷をする。最終的に売れなければ、この場合はNBですから返品をかける場合もあります。でも返品率は非常に低いそうです。
  つまりこれは、プロセスの中では、この店舗在庫を圧縮する為の業務プロセスとロジスティクスのネットワークが完全に連動している訳です。
  その場合、ライトオンでは、あえてバックヤード在庫というものを持って、国内のNBメーカーの商品はTCで店舗まで引っ張ってくるというやり方になります。
事例の事業システムの整理
  そうしますと、その事業システムというものがこのように整備されてくると、実はデザイン機能やブランドや属性とかというものが、それぞれ特徴があって、物流の仕組みもそれに応じたものになっていくのです。
  同じようにSPA的なことをやっていても、そこへの関わり方というのはかなり違いが出てきます。これが逆に固有性と言いますか、競争優位性の源泉になっているという見方もできる訳です。
事業システムとSCMプロセス
  私が繰り返し申し上げていることは何かと言いますと、サプライチェーンというのは事業システムとの構造の中で見ていかなければいけないということです。それを私は製品とプロセスと組織の3層構造でこれを描きます。

  このようなプロセス・アーキテクチャという位置付けをSCMの中でしていくと、競争優位性というものが見やすくなってくるし、そういういろいろな経営目標に対するアクションも取りやすくなってきます。


ダイナミック事業システム・モデル
  結局は投資採算という意味で、顧客価値を実現して、それを上手い循環によりそのプロセスを作り直していったり、そこの組織支援能力に投資をしていくということです。このような投資と回収の循環のシナリオというものが出来てくると、事業というのは発展をしていくのだと思います。これを私はアーキテクチャと申し上げているのですが、SCMをそのような目で、非常にユニークなものとしてご覧いただくと何か面白い発見があると思います。
  本日はご静聴、ありがとうございました。

以上

  本研究は、講演者が数年にわたって、共同研究を行ってきた成果に負うところが大きいことを付言させていただきます。共同研究者は、小林二三夫氏(横浜商科大学)、加藤孝治氏(みずほコーポレート銀行)、今井利絵氏(関東学園大学)です。ただし本講演の趣旨、内容は講演者である橋本に責任があります。



(C)2008 Masataka Hashimoto & Sakata Warehouse, Inc.

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