ロジスティクス・レビュー

第209号マクロ統計から見る物流システム機器の現状(2010年12月02日発行)

執筆者 久保田 精一
公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)顧客サービス部/JILS総合研究所 准主任研究員
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴 ・ 1971年熊本県生まれ。
    ・ 東京大学教養学部教養学科卒。
    ・ (財)日本システム開発研究所(シンクタンク)等を経て、現職。
    ・ 物流コストやロジスティクスの指標管理等、物流や地域開発等のテーマでの自主研究、委託研究、コンサルティング等を主に実施。

目次

1.はじめに

  日本ロジスティクスシステム協会(JILS)では毎年、物流システム機器生産出荷統計調査を実施しており、先ほど2009年度の調査結果が公表された。調査の結果、(容易に予想されるとおり)前年度の経済危機によって、物流システム機器の市場が大きく縮小したことが明らかとなった。
  この結果については既に業界誌等で報じられているとおりであるが、今回の経済危機は、一時的・循環的な景気低迷という側面もあるが、底流には、サブプライムローンに象徴される、米国の消費に依存した経済構造から、新興国主導の経済へという構造変化があると考えられる。
  従って、今後我が国の物流システム機器業界が経済危機前の成長軌道に戻るには、新たな経済環境に適応して行くことが求められると考えられる。そこで、本稿では、物流システム機器の市場環境を、ごく簡単にマクロ統計をもとに俯瞰してみることとする。
  (参考)http://www.logistics.or.jp/search/chart/mh/index.html

2.経済危機による機器市場への影響

  2009年度の物流システム機器の総売上金額は、2008年度比30.5%減の2706億5200万円となった(図表1)。 この金額は最大であった2006年度の4529億円と比べると、約6割の水準となっている。物流システム機器は受注から出荷までのリードタイムが長いため、2008年度のいわゆるリーマンショックを発端とする経済危機、それに続く設備投資抑制の影響が1年遅れで顕在化してきたものである。
  今回の経済危機は外需の低迷が特徴であり、倉庫業、運輸業等の内需産業への影響は相対的には小さかったが、我が国の物流システム機器は、物流業や卸・小売業などの従来型の物流領域への依存度は2~3割程度しかなく、電機や輸送用機器といった製造業への出荷割合が高いことから、外需低迷の影響をより強く受けている。
  とりわけ、半導体価格の落ち込み(現在は回復している)などを背景に、電機メーカーが設備投資を絞り込み、または生産設備のリストラを進めたため、クリーンルーム向けの売上金額が大きく落ち込み、総売上金額の低下の大きな要因となった。輸送用機器製造業への出荷も大きく落ち込んでおり、業種別に見ると「電機・精密機器」「輸送機器・部品」への売上の落ち込みが特に大きく、総売上高急減の最大の要因となっている(図表2)

3.縮小する国内需要

  2010年度に入ってからは、経済危機の影響も緩和され、特にクリーンルーム向けの受注が急速に回復してきている。しかしながら、国内の物流量自体が減少傾向を続けているなど内需が縮小傾向にあることから、国内市場への依存度が7割前後と比較的高い物流システム機器産業としては、成長軌道に戻るには至っていない。国内の需要動向を統計資料で見ると、国内の輸送トン数は少子高齢化や公共投資削減によって長期的に減少しており、01~08年度の7年間で15%も減少している(図表3)。 物流量の減少に加え、拠点の統廃合やアウトソーシングの進展等もあって、「輸送配送センター」「自家用倉庫」などの物流拠点の絶対数も減少していることがわかる(図表4、図表5)。これら物流拠点の数が減少すれば、各種設備の需要も減少することになると考えられる。
  なお、一時は不動産ファンドによる大型物流施設の建設が相次ぎ、2007年度には倉庫流通施設の最大の発注者となるなど隆盛を極めていたが、経済危機の影響から建設のペースが急速に低下しており、09年度の倉庫流通施設の建設受注額総額は、01~03年度頃の水準に戻ってしまっている(図表6)

4.海外での設備投資の増加

  製造業は、縮小する国内市場に対する設備投資を抑制しながら、今後消費市場としても成長が期待される中国、アセアン地域での設備投資を強化している。経済危機によって一時的に鈍化しているとはいえ、製造業現地法人による投資額は、08年度においても05年度を超える水準に達している(図表7)。 従って、これら日系企業による中国、アセアン地域での設備投資を取り込むことと、日本として地の利のある同地域での市場開拓が今後の課題として挙げられる。

5.欧米では成長が続く

  また、同じ先進国でも米国、EU圏では人口増加率、経済成長率が(日本と比較して)相対的に高い。実際に米国やEUの物流システム関連機器の統計を見ると、経済危機の影響から一時的な後退はあるものの、成長傾向にあることが見て取れる(図表8、図表9)。例えばEUの09年度の生産額は、対前年比では日本と同様に3割程度減少しているが、05年度比でみると7%の減に過ぎず、(図表1)で見た日本の状況とは大きな違いがある。

6.最後に

  以上のようなマクロ統計を踏まえると、国内においては物流量、物流拠点数ともに減少傾向にあり、物流システム機器の市場の伸びは限定的であると考えられる。国内市場は、今後、コスト削減といったメリットの分かり易い投資、環境・省エネルギーといった、社会的意義のある投資にシフトしていくのではないか。
  対照的に、アジア諸国への投資は不況下でもいち早く回復してきており、なかでも中国、アセアンへの投資が拡大を続けている。また、アジア諸国のうち韓国、香港、シンガポール、台湾等は、順調に経済成長を続けており、日本の1985年前後の1人当たりGDPに並ぶに至っている。
  日本では1970年が物流元年と言われ、70~80年代に物流の自動化が進展したが、上記のアジア諸国は、これから5~20年程度のスパンで、当時の日本の所得水準に達するものと予想される。それに伴い、物流の自動化ニーズが高まると考えられることから、物流システム機器の大市場に成長すると考えられる。

図表1 物流システム機器の総売上金額の推移

図表2 業種大分類別売上高の推移
(上:金額ベース/下:構成比

図表3 国内輸送トン数(自動車輸送)

自動車輸送(営業用・自家用)による貨物輸送トン数の推移。
出典:国土交通省「自動車輸送統計調査」

図表4 輸配送センター等の数

輸配送センターや車庫等の推移(民営事業所のみ)。
出典:総務省統計局「事業所・企業統計」

図表5 自家用倉庫等の数

自家用倉庫等の数の推移(民営事業所のみ、営業用倉庫を除く)
出典:総務省統計局「事業所・企業統計」

図表6 「倉庫流通施設」の建設工事受注額

資料:国土交通省「建設工事受注動態統計調査(年度)」
注記:民間のみ。

図表7 製造業の現地法人による設備投資額(国・地域別)

日本企業の現地法人による設備投資額の推移。
出典:経済産業省「海外事業活動基本調査」
なお、国・地域の分類方法は出典資料に依拠している。
ASEAN4はフィリピン、マレーシア、タイ、インドネシアであり、NIEs3は台湾、韓国、シンガポールである。

図表8 米国における物流システム関連機器の出荷額

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

出典:US census bureau, Annual Survey of Manufactures (ASM)
注:上図は産業車両全般を含むなど、日本の「物流システム機器生産出荷統計」とは範囲が異なる(広い)ことに留意されたい。

図表9 EUにおける物流システム関連機器の生産額の推移
(主要上位8カ国ベース)

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

注記:EU Prodcomによる関連製品の生産額を表す。
上図は産業車両全般を含むなど、日本の「物流システム機器生産出荷統計」とは範囲が異なる(広い)ことに留意されたい。

以上


(C)2010 Seiichi Kubota & Sakata Warehouse, Inc.


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