第210号改善・改革起点の活性組織形成(2010年12月14日発行)
執筆者 | 篠原 和豊 篠原ロジスティクスオフィス 代表 |
---|
目次
- 1.企業組織変化と物流改善
- 2.オペレーション層の改善活動による集団の形成と成長
- 3.物流現場と各層・各部門が連携する改善
- 4.物流改善とロジスティクス改革で風土を醸成
- 5.物流改善とロジスティクス・物流管理者の今日的課題
- おわりに
ロジスティクスと物流の違いは広く認識されるようになった。物流改善は輸送、保管、荷役等の機能やその組み合わせの改善、しくみはロジスティクス改革で実現との考えもある。他方で改善活動はメンバーのモチベーション向上、自立した個の創出、そして個と個の創発、誘発現象も引き起こし集団の成長を促すとする組織論からの見方もできる。
本稿では組織論の観点から現場作業層、物流リーダー層、企業経営層が創発と誘発作用を引き起こす主体として物流改善やロジスティクス改革と絡めた考察を試みたい。
1.企業組織変化と物流改善
企業はおおむね図1左のピラミッド型組織で構成され役割分担がされてきた。図1中央のようにトップの意思が各部門から各部署、構成員に段階を踏み伝達、業務執行される。現場からは報・連・相のようなボトムアップの逆の縦型の流れが併せて行われてきた。
図1.縦型組織とフラットな組織関係
これにプロジェクト型活動が図1右のフラットな補完システムとして加わった。
改善活動の視点では物流の時代においては工場の入出荷係や営業の出荷配送部署、あるいは独立した物流機能組織でも輸送、保管、包装、荷役、流通加工、物流情報という個別各機能の改善と強化が主たる課題として取り組まれた。例えばトラックの編成や積み付け方法、倉庫の確保や保管効率等、機能ごとの効率化、最適化主眼であった。
1990年代以降に急速に高まったロジスティクス的思考は縦型組織の中に横串を入れ組織間の連携を生むこととなる。組織間の壁の融解は物流部門各部署内に顕在化する矛盾を関係各部門にも発信し連携して矛盾解消にあたることを可能にした。これと相まってテクノロジーや通信情報技術の進化が物流改善の質を大きく変貌させることとなった。ロジスティクス的な思考がフラットな組織関係を生み飛躍的な改善力と改革力を生むこととなった。
2.オペレーション層の改善活動による集団の形成と成長
現場で解決できるか否かはあるにしても改善の起点は問題や矛盾を感知することからとなる。放任、放置された現場は痛みを苦痛として感じなかったり指示に従って動くだけとなっている。まずは感知力の蓋を開くことから改善がスタートする。
自分たちの職場を目で見て「不思議」という感覚を呼び戻す方法がある。そのためにはカメラやビデオで記録しじっくりと繰り返し観察する目を鍛えるのも一方法である。「あたりまえ」という感覚の異正常を「異常を異常と感じる」正常な感覚に戻すのが大切である。
(1)感知力を呼び戻す
現場で解決できるか否かはあるにしても改善の起点は問題や矛盾を感知することからとなる。放任、放置された現場は痛みを苦痛として感じなかったり指示に従って動くだけとなっている。まずは感知力の蓋を開くことから改善がスタートする。
自分たちの職場を目で見て「不思議」という感覚を呼び戻す方法がある。そのためにはカメラやビデオで記録しじっくりと繰り返し観察する目を鍛えるのも一方法である。「あたりまえ」という感覚の異正常を「異常を異常と感じる」正常な感覚に戻すのが大切である。
(2)人間特性と照らし合わせる
感知力を呼び戻せれば作業の「しやすさ」という人間特性に照らし合わせた取り組みが始まる。人の体躯からは「取りやすい、取りにくい。上がらない、上げにくい・・」等が評価される。視覚等の認知特性からは「読みやすい、読みにくい」といった表示の問題も出てくる。運動面では「歩く距離が長すぎる、上下差が大きすぎる」も感知して能力尺度と照合する。感知力は問題発見力ともいえ人間特性との照合で次の段階へ進む。
(3)改善を繰り返し現場力を高める
改善チームは物流現場の同一作業単位という最小集団となる。感知力の備わった個の集まりではあるが、そこには集団の知恵が結集される。集団を結節するまとめ役としてのリーダーを持つ。メンバーには気づく人、考える人、やってみる人などそれぞれが都度役割を自発的に行う。リーダーはメンバー間や他部門、上層との触媒としての役割も担う。従って改善チームはそれぞれが独自の意思により自律的に行動し必要に応じて他チームや管理者層とも自由に連携を図ることもある。集団内のメンバー間でもお互いを刺激しあい行動や知恵を誘発し合う関係である。(図2)
図2.改善チームの成長構造と組織間関係
3.物流現場と各層・各部門が連携する改善
既述の通り物流部門の悪さ加減の中に企業の多くの問題点が集約される。その意味から物流オペレーション現場での感知力が改善のスタートとなる。
(1)物流現場力
図3のように物流現場の改善チームで解決できない部門間、あるいは全社的課題は各層で共有される。全社戦略については経営層と物流管理者が経営の軸として、部門間課題については物流部門と関連部門の間でのプロジェクトにより解決にあたる。
物流現場力は全社戦略に基づく物流オペレーションを行う中での問題発見と解決の組織能力とも言える。従って、自分たちで解決できない制約を受けていることについても感知、分析し関係各層、各部門へ発信し連携して解決にあたる能力も含む。むしろ物流だけで解決できない問題点を強く発信することが求められる時代でもある。
図3.物流現場の問題を部門間、全社的に解決する構図
(2)各層の役割
物流改善・改革あるいはロジスティクス革新への各層の役割を整理したい。
① 経営層;
ロジスティクスSCM戦略、物流拠点配置設計、物流会社選定、物流組織編成等の決裁
② 物流管理スタッフ;
ロジスティクス戦略策定、物流拠点配置設計案策定、物流組織編成案作成、物流コスト分析と管理、物流会社選定案作成、物流オペレーション管理監督、物流現場・経営層・他部門間連携調整、物流人材育成
③ 物流オペレーション層;
実務遂行、問題発見と改善、自己能力養成
(3)疑似同一企業としてのオペレーション層
90年代後半から21世紀にかけていわば”日本型3PL”と呼ばれる様々な荷主企業とパートナー事業者の関係が形成されてきた。物流子会社も含めた自社内組織としてオペレーション層を抱えるよりも外部組織への実務委譲される形が大幅に拡大した。
ここでは荷主企業のロジスティクス物流戦略に基づきオペレーションは3PLあるいはアウトソーサー、リレーショナーがあたかも組織内メンバーとして担う。ここでのオペレーション層は問題点の感知や解決の役割は内部メンバーの時と変わらない。現場の指揮命令は委託された事業者のリーダーがあたり改善の主体は事業者側にある。荷主企業の戦略共有と上層組織と疑似同一化したオペレーション現場の実現が改善組織の条件となる。
4.物流改善とロジスティクス改革で風土を醸成
物流改善は経営層のロジスティクスについての深い認識、中軸となってプロセッサーの役割を担う管理層の現場実務から管理までの総合的知見と構想力や実行力、オペレーション層のポジティブな成長力が備わって進展する。
(1)組織三層の自己変革と改善
経営層は企業価値の向上のために戦略を策定し判断をする。そのための最も重要な資源・財産として人材の育成と組織編成を行う。開発・生産・販売に加えてロジスティクスの視点を備えることと現場に立脚することが経営層の変革のポイントである。そこからロジスティクスマネージャーの育成、物流現場のポジティブ化が開始する。すなわち経営層が現場に火種を創り、面を広げ三層一体の創発、誘発の組織実現が改善の端緒となる。
図4.改革土壌づくりと改革継続
(2)改善土壌へのしかけと流れ
経営層には企業としての強い風土作りが経営課題の中でも大きいテーマである。図4左の改革土壌づくりがその流れである。ロジスティクスは経営層の主たる戦略分野である。この思考を基盤として戦略の縦串を管理層から現場まで刺し込む。同時に現場に改善の核を移植する。具体的には感知する力を持つようなリーダー教育やメンバーの改善提案、現場勉強会などの場を作ることから開始する。このための指導的役割は社内コンサルとしてのマネージャー層や場合によっては外部に委ねて行う。
(3)改善改革継続の流れ
現場の感知力が高まると分析から改善の活動は飛躍的に進む。それくらい現場には潜在力があることもわかる。改善を繰り返すことで自部署にできることと他部署、他部門と連携しなければならないことも仕分けられる。外部連携事案はマネージャー層を触媒として必要部署と連携改善することとなる。又、重大な経営層の判断事項も上がることがあるが、三層が中枢神経で結ばれ改革テーマとして取り組まれる。結果、風土の醸成が進む。日常業務は現場層が自律神経で感知し実行する、戦略やボトムアップ情報は中枢神経がまとめ伝達する、重要な経営判断は脳部分である経営層にという組織が求められる。(図4.右)
5.物流改善とロジスティクス・物流管理者の今日的課題
3PLであるのかどうかの議論は別として物流のアウトソーシング比率は高くなっている。それに伴う管理者の物流改善への関わりを記したい。
組織的には図5のパターンが考えられる。
図5.物流オペレーションと管理系統
総委託型は改善提案も含めたすべてを委ねる。事業者側のコンサル担当がこれを提起する。荷主企業の管理者はそれを目利きし採否の決定をする。管理者は現場を熟知し幅広いロジスティクス資質を持ち事業者とプロ同士の関係を築くことが求められる。
業務委託型のパターンでは指揮命令は事業者のリーダーに委ねながらも同列の立場で荷主企業リーダーが一体化して取り組む。管理者は課題の吸い上げや他部門連携を司どる。
自社運営型では現場リーダーと社内コンサルも担う管理者が組織醸成を担う。
どの型であろうと管理者の期待要件は高く、総委託型ほど幅も広くなければならない。
おわりに
先の見えにくい経済状況の中、多くの企業が体質改善の一環としてグローバルロジスティクスや生産・物流拠点改変・配置、さらには物流子会社を含む物流事業者の各種M&Aや3PL事業の組み換えなども断行している。ここ数年の大きな企業の戦略的変革は経営層の英断実行だけでは実りは少ない。これを結実させるには足腰からの組織力強化が必須条件である。2010年代は地道な組織醸成が経営資源増大には欠かせない。
ロジスティクス、物流分野でも現場力強化は継続した改善活動なくして成り立たない。本稿の活性組織のフレームの考え方が少しでも改善組織の形成に役立つことを願いたい。
以上
(C)2010 Kazutoyo Shinohara & Sakata Warehouse, Inc.