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経営戦略・経営管理

序論 第2号サプライチェーンの再構築-ネットワークとサスティナビリティ-

執筆者 田中 孝明
株式会社サカタロジックス 代表取締役
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1960年大阪市生まれ。
    • 神戸大学大学院 経営学研究科 博士前期課程修了。
    • ACEG (英国・ボーンマス校),オタワ大学ELI修了。
    • 株式会社住友倉庫を経て,現在,株式会社サカタロジックス 代表取締役。
    • 明治大学 商学部 特別招聘教授。
    主な資格
    • 修士(経営学)
    • 環境審査員補(ISO14000S)
    • 物流技術管理士(運輸大臣認定)
    • 倉庫管理主任者
    所属学会等
    • 経営情報学会
    • 現代経営学研究所(NPO法人)
    • 日本物流学会

目次

Ⅰ.はじめに

時代はいま、歴史的な転換点にある。フォーディズムに代表される近代資本主義社会から、ポスト資本主義社会や知識社会などと呼ばれる新たな時代へ移行しつつあるとの議論がある。情報技術の進展、経済のグローバル化、仕事のソフト化・サービス化、失業問題や環境問題の増大など、企業をとりまく経営環境は、いま、急激に変化しつつある。
こうした時代の変化の波は、「物流」にも大きな影響を与えている。ジャストインタイム物流、多頻度小口配送の進展、国際物流の活発化など、ロジスティクスの分野でも大きな構造変化が起こっている。輸送や保管といった機能に限定されていた従来型の物流は、生産者から消費者へのモノの流れを効率的かつ包括的に繋ぐ、ロジスティクス・システムへと変貌しつつある。さらに今日、ロジスティクスは経営戦略そのものであり、また向後は、社会システムの一翼を担うといった指摘がなされている。ロジスティクスの概念は、今なお拡大・統合しつつあるのである

Ⅱ.バリューチェーンからサプライチェーンへ

1.バリューチェーンとロジスティクス

80年代後半より「物流からロジスティクスへ」という言葉が提唱されたが、この背景には、バリューチェーン(価値連鎖)概念の台頭がある。ポーター(1985)は、企業内部の活動は互いに連結関係を有しつつ、全体として買い手のための価値を創造しており、この連結関係をうまく管理することができれば、競争優位に立てると指摘する。つまり、競争優位を獲得するには、企業のバリューチェーンを個々の部分の集合としてではなく、ひとつのシステムとして管理する必要があると主張するのである(PP.35-49)。
ここに、従来、企業活動の単なる一部分として捉えられていた「物流」は、生産や販売などの諸活動をも加味した一連の企業システムとしての「ロジスティクス」という概念へと進化したのである。POS、VAN等の情報技術の活用とも相まって、ロジスティクスの時代は主として社内全体の効率化がはかられた。しかしながら、元来企業活動は他の組織との関係性を有しながら行われるものであり、社内最適化の視点の限界が指摘されるに至ったのである。ここに登場するのが、サプライチェーン(供給連鎖)の概念である。

2.サプライチェーンとネオ・ロジスティクス

90年代後半に入り、原材料の調達から製品の販売やマーケティング、顧客までを包括し、流通チャネル全体の効率化や最適化を目指そうとする動きが高まったが、この背景にあるのが社外のバリューチェーン、すなわちサプライチェーンの概念である。物流の分野でも、このサプライチェーン概念の台頭を受けて、供給先・メーカ・販売先・顧客までをトータルに捉えた、新しいロジスティクスを確立しようとする取り組みが始まった。西澤(1997)は、こうした動向を「ネオ・ロジスティクス」の時代と呼び、従来のロジスティクスの時代とは一線を画して捉えている(P.26)。
サプライチェーンは、流通チャネル全体最適化を目的とするものであり、そのために、企業間の連携の方法・仕組みが鍵になるが、これを達成する手段として脚光を浴びたのが、製販同盟やアウトソーシングである。つまり、サプライチェーンは、企業内および企業間のロジスティクス関連活動の戦略的統合に特徴があるということが言えるのである。

3.サプライチェーンとは何か

矢作(1994)は、サプライチェーンとは「生産から販売に至る円滑なモノの流れを首尾一貫して作り上げるための統合化されたロジスティクス・システムのことである」と定義し、
それは「伝統的なロジスティクス・システムと区別される」と指摘する。そしてオリバーとウェバーの主張をもとに、サプライチェーンと従来型ロジスティクスが異なる点は「組織・システムの統合、戦略性、在庫圧縮機能」の3点であると分析している(P.95)*1。つまり、サプライチェーンにおいては、調達から販売に至る生産・流通活動を担う各組織、各部門が、あたかも単一組織のように連携しており、機能的にも一つのシステムとして統合されている。そして「供給」が、各々のコストや市場シェアに強い影響を及ぼすという戦略性が、各組織、各部門において認識されており、加えて、情報の共有や蓄積を通して、在庫調整が図られると主張している。

Ⅲ.サプライチェーンと戦略的提携

1.戦略的提携の背景

サプライチェーンでは、企業間連携の方法・仕組みがキーになり、その特質として戦略性やシステムの統合性などが挙げられることは、先に触れた通りである。こうした観点から西澤(1997)は、サプライチェーンは、戦略的提携(ストラテジック・アライアンス)の重要手段であると考えられるとの指摘を行っている(P.27)。
戦略的提携は、80年代の米国でしばしば用いられるようになり、近年日本においても、製販同盟や物流共同化などの説明に用いられるなど、広く認識されるに至っている。戦略的提携の概念が米国で登場してきた背景には、80年代の不況により、規制緩和やアンチトラスト法の適用が緩和され、企業提携の実施が比較的容易になったことや、情報技術の進展により、企業間の情報共有や交換が促進されたことなどが理由として挙げられる。とりわけ、ウォルマートとP&Gの製販同盟のケースが戦略的提携のモデルとして喧伝され、その意義や成果がわが国の業界関係者に強い関心を呼び起こしたことは記憶に新しい。

2.戦略的提携の意義

バワーソックスほか(1992)は、「戦略的提携とは、複数の独立した組織体が特別な目的達成のため、緊密に協力し合う意思決定をしているビジネス関係をいう」と定義し、その本質は「協力関係づくりにある」と指摘する(P.268)。そして、提携の特徴は「一種の相互信頼関係」であり、「提携する二つの組織体は、互いに協力関係をつくるべく努力しながら、リスクと報酬とを分かち合うのを理想とする」と言及している(P.269)。
一方、戦略的提携が衆目を集める以前から、企業提携(アライアンス)の概念自体は、よく知られていた。矢作(1994)は、組織間関係論における企業提携として、合弁事業、技術・業務提携、水平的結合、異業種提携、垂直的提携などを指摘しているが(P.324)、とりわけ、水平的結合や垂直的提携などは、従来より物流の分野で見られる水平的共同(複数の卸売業での共同配送等)や、垂直的共同(メーカと卸売業らが実施する共同配送等)などに見られるものである。つまり、昨今の「共同化」の提唱も、こうした企業提携の観念に新たな統合の観点が加わった、戦略的提携の一つであると考えてよいだろう。

3.ECRとサプライチェーン

以上、戦略的提携の概要を振り返ってきたが、ロジスティクス分野での戦略的提携は、93年の米国のFMI(Food Marketing Institute)の年次大会報告をきっかけに、ECR(Efficient Consumer Response)という呼称で概念化する努力が払われた。
カート・サーモン・アソシエイツ・インク(1994)は、ECRとは「消費者により高い価値をもたらすことを目的として、ディストリビュータからメーカーまでがお互いに緊密に協業する戦略」であり、供給システムに属する各企業が「それぞれの社内の効率でなく供給システム全体の効率を考える」ことにより「システム全体のコスト、在庫量、設備資産を削減することができる」と指摘している(P.1)。
こうしたECRの定義は、前章で述べたサプライチェーンの定義と極めて類似しており、この意味からも、サプライチェーンは、ECR、すなわちロジスティクス分野における戦略的提携の重要な手段として捉えることができると思われる。

Ⅳ.サプライチェーン再構築 -ネットワークとサスティナビリティ-

1. サプライチェーンの課題

阿保(1993)は、戦略的提携の問題点として、協調の不足や組織上の障害などを指摘する。そして戦略的提携は、今後、因襲的な「系列」から、民主的でイコール・パートナーシップを尊重するような「調和型自律分散」システムとしてのサプライチェーンを目指すべきであると主張している(P.98)。また阿保(1996)は、サプライチェーンは、「需要者が消費後あるいは使用後に発生する廃棄物の処理・ロジスティクスを大きく見落としている」と指摘し、還流をも視野に入れた「循環型ロジスティクス」の重要性を強調している(P.25)。
つまり、今後のサプライチェーンには、供給システムが「閉じた系」とならないよう、参加主体の自律性や他とのオープンな関係性を確立していくということと、サプライだけでなくリバースの視点も加味し、社会全体の最適化を考えていくことが求められているのである。ここに登場するのが、オープン・ネットワークとサスティナビリティの概念である。(尚、本章を含めた本論文全体を鳥瞰したのが、下記の表4-1である。)

表4-1 ロジスティクス・マネジメントと基礎理論の変遷・展望

出所:阿保(1996),P.31を一部修正加筆

2.オープン・ネットワークの重要性

須藤(1995)は、ネットワークとは、様々な主体が「自由に交流し、自らの個性と創造的行為を開発し発展させながら、社会システムを新たな次元での統合性の獲得に向けて創造的に変化させるもの」であり、そこには「ネットワークの複合化」、つまり、参加主体が複数のネットワークに重複して参加することにより自律性を保持することが重要であると指摘している(P.6)。また国領(1995)は、コンピュータ・ネットワーク時代における経営の要点は、「外部資源を有効に活用する経営」であり、従来型の経営から新しいタイプの経営への転換を「囲い込み型経営からオープン・ネットワーク経営」への転換であると主張している(PP.1-2)。
このように、サプライチェーンが抱える「閉じた系」などの問題解決には、オープン・ネットワークの観点が重要であり、向後、それに向けたネットワーク・マネジメントの確立や、CALSやECなどの実現を目指した情報技術の活用が望まれるのである*2。

3.サスティナブルな社会に向けて

サプライチェーン概念の台頭や、それに伴うロジスティクスの進展は、われわれの生活に種々の便益をもたらしてきた。しかしその一方で、自動車・船舶・航空機などの物流機材の増加は、地球温暖化や大気汚染、オゾン層の破壊などの一因にもなり、また物流のグローバル化や過度の多頻度小口配送などは、交通渋滞や騒音など、われわれの社会生活に新たな問題を創出している。
ここで注目すべきは、サスティナブル・ディベロップメント(持続可能な発展)の概念である。これは「将来の世代が彼らの要求を満たす能力を危うくすることなく、現在の要求を満たすことができる発展」と定義され、いまだ種々の議論はあるが、地球環境問題を考える上での共通のキーワードとして使用され始めていることには注目すべきである*3。
つまり今後は、社会や地球環境に配慮したロジスティクスの視点が求められているのであり、そこにはサプライチェーンからサスティナブル・ロジスティクスへの概念の展開が必要である。そして、こうした概念を踏まえることによって初めて、社会システムの一環としてのロジスティクスが確立でき、社会に真の価値をもたらすことが可能になると考えられるのである。*4

以上


【注】
*1.詳細は、Oliver,R.K.and Webber,M.D.,“Supply-chain Management:Logistics Catches up with Strat- egy”,M.Christopher(ed.),Logistics:the Strategic Issues,Chapman & Hall,1982.を参照のこと。
*2.例えば、ネットワーク・マネジメントについては、伊丹敬之「ネットワーク・マネジメントの枠組み」 『マネジメントファイル’93』NTT出版,1993年.などに詳しい。
*3.サスティナビリティの概念は、ノルウェーの女性首相ブルントラントを委員長とする「環境と開発に関 する世界委員会」が1987年に提出したレポートに登場し、その後、1992年にリオデジャネイロで開催さ れた地球サミット(「環境と開発に関する国連会議」)にて合意された「環境と開発に関するリオ宣言」により、広く知られるようになったものである。(月尾嘉男編『サステナブル社会への道筋』東洋経済新報社,1996年.)
*4.例えば今後、LCAや社会環境会計などが重要な視点になってくると思われるが、具体的な取り組みに ついては、筆者にとっても今後の課題である。


【引用・参考文献】

  • 阿保栄司『ロジスティクス革新戦略』日刊工業新聞社,1993年.
  • 阿保栄司『成功する共同物流システム』生産性出版,1996年.
  • カート・サーモン・アソシエイツ・インク,村越稔弘監訳『ECR:流通再編のリエンジニアリング』NEC総研/アメリカン・ソフトウェア・ジャパン,1994年.
  • 国領二郎『オープン・ネットワーク経営』日本経済新聞社,1995年.
  • 須藤修『複合的ネットワーク社会』有斐閣,1995年.
  • 西澤脩「供給連鎖管理によるロジスティクス・コスト管理」『企業会計』Vol.49,No.5,1997年.
  • バワーソックス,D.J.ほか,宇野政雄監修『先端ロジスティクスのキーワード』ファラオ企画,1992年.
  • ポーター,M.E.,土岐坤ほか訳『競争優位の戦略』ダイヤモンド社,1985年.
  • 矢作敏行『コンビニエンス・ストア・システムの革新性』日本経済新聞社,1994年.


(C)Takaaki Tanaka 1998 & Sakata Warehouse, Inc.

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