第338号 Ⅲ.ロジスティクスはアウトソーシング出来るのか:3PLはそれを受託するビジネス?―ロジスティクスのコアは需給管理:マーケティングとの連動― (2016年4月19日発行)
執筆者 | 野口 英雄 (ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表) |
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目次
- 1.マーケティングとロジスティクスは車の両輪:需要の創造と市場への充足
- 2.委託側としてのコア業務:管理基準の設定とメンテナンス
- 3.受託側としての責任:管理状況の見える化、業務分担
- 4.3PLとは何か:卸売業~フォワーダーがそれに近い業態
- 5.条件整備しなければビジネスにならない:不公正な商習慣是正等
1.マーケティングとロジスティクスは車の両輪:需要の創造と市場への充足
それはどちらが上位・下位という概念ではない。前者が需要を創造する活動だとすれば、後者はそれを商品やサービスとして具現化し市場に充足する仕組みである。一般的にマーケティングは6Pの要素が必要とされ、それは商品開発・価格設定・流通チャネル・広告宣伝・販売促進・販売物流である。夫々の単語の頭文字をとり、チャネルだけはプレース(場所)と置き換えられている。綿密な需要予測・競合状況等の市場分析が行われ、実行される。
ロジスティクスは原材料調達に始まり、生産・販売・物流という企業内全体最適化を追求し、それには回収・廃棄・再利用等のリバース・ロジスティクスも含まれる。さらには環境対応としてのグリーン・ロジスティクスも必須の課題である。また企業内全体最適化だけでは完結せず、外部取引先との企業間管理連鎖としてのサプライチェーン・ロジスティクスが前提となる。このような広範囲かつ政策的な業務を、本当に3PLへ委ねられるのか。
そのコアである需給管理は情報を駆使した計画と統制であり、経営管理そのものである。最も重要な情報は需要予測であり、リアルタイムの在庫把握である。ところが企業はマーケティングに特化し、後はアウトソーシング出来ると考えているようだ。だからコスト追求だけの経営となり、資本主義が歪んできている中で経営改革が進まない。産業構造のサービス・ソフト化が進行しつつあっても、この両輪の重要性は何ら変わらない。必要情報の把握と、関連部門における共有化が基本となる。
2.委託側としてのコア業務:管理基準の設定とメンテナンス
これを敢えてアウトソーシングするなら、まずマーケティング施策とロジスティクスの連携を組み立て、ロジスティクス・ネットワークと情報システムに落とし込む。マーケティング・マインドも含めアウトソーサーとしての3PLを選択し、その目的を充分に伝える。アウトソーサーはその理解に努め、尚かつ不特定多数の顧客に対応出来る体制を整える。当然のこととして顧客側のマーケティングが理解出来なければ、ロジスティクスを代行すること等不可能だ。これがコンポーネントサービスとの違いである。
ネットワークが決まったら夫々の管理基準を設定し、管理状況を見えるようにしておく。基準値は時々刻々と変化するものであり、これを的確にメンテナンスしアウトソーサーに指示する。フルアウトソーシングするというのは委託側の責任を放棄するものであり、任せるとしてもその範囲が限定されるはずである。例えば補充発注の場合、発注点や補充量のメンテナンスは日々出荷量の変化から可能でも、それ以外の与件は明確に受託側に伝える必要がある。
委託先の業務全般について、業務品質管理が充分に行き届くかどうかの見極めも重要である。それは日常業務リスク対策でもあり、さらに危機管理対応に連動していかなければならない。セキュリティーを考えれば、要冷品以外でもクローズドシステムによる運営が望ましい。3PLとは一般的にノンアセット型の運営であり、これをコンポーネントサービスに委託する仕組みも充分に見ておく必要がある。採算確保のため単にコミッションを取るだけの構造であれば、危ういと言わざるを得ない。
3.受託側としての責任:管理状況の見える化、業務分担
アウトソーサーとしての大前提は委託側へのリアルタイムでの情報提供であり、管理状況の見える化である。これを基に原因解明行われお互いの責任分担が明確化されなければ、力関係では問題が全て受託側に帰すことになりがちである。例えば欠品が生じた場合には商品ペナルティーが課せられ、その基礎になる納価か売価では倍近い開きがある。業務委託契約でこれらを具体的に位置付け、それに合理性がなければいつでも変更出来るようにしておいた方がいい。
業務の遂行は顧客毎の専用システムと、共同配送による汎用システムの二通りがあり、前者の場合は当然コストの弾力性が低下する。後者は個建て料金を前提とした変動料金制であり、これは顧客にとって大きなメリットとなる。但しその業務運用には一定の制約があり、標準化された範囲内での対応ということになる。共同配送を運営する事業者はそのサービスレベルを可能な限り高める必要があり、これが他社との競争力の源泉になる。
3PLの位置付け
それには情報システム対応力や業務品質管理のレベル、そして危機管理能力等も含まれる。そして何よりも重要なことは顧客マインドを磨くことである。顧客のマーケティング施策が分からなければ、業務遂行は難しい。顧客相互は厳しい競合関係にありこれを同一システムで運用するということは、その信頼が充分に得られていなければ成り立たないことは言うまでもない。これが3PLとしての必要要件であり、多少の情報武装化を進めた共同配送とは訳が違う。
4.3PLとは何か:卸売業~フォワーダーがそれに近い業態
以上のように考えてくるともはや商物分離による物流システム運営から、商物一体となった複合的な業務運営が必要になる。それに近い業態は在庫責任を持つ卸売業であり、在庫リスクは持たないが業務全体を一気通貫でしかもノンアセット型で運営するフォワーダーが該当するだろう。フォワーダーの料金建ては輸出入手続き等も含めて物量による課金体系とする場合が多く、極めて広範囲でリスクも大きくなる。
3PLの料金建ては商品通過額の歩率(%)という形態で、これ自体物流原価とは乖離している。しかも一気通貫で、契約期間内の条件変更を含むみなしというものである。受託側は勢い下請けを歩率方式で起用して、コミッションを確保するという形態になりがちである。適切な採算設計もせずに、とりあえずの利益を確保しようとするのは余りにも安易である。
これを顧客に業務提案しコンペによる選択を受けるという厳しい場面に曝されるが、この場合に依頼側からの充分な情報開示を受け、適切な業務設計を行うという運営がどこまで行われているか甚だ疑問である。評価する側は提案された料金歩率だけを見るということになりがちだが、そこに至るプロセスでは膨大な作業が必要になる。単なる見積書提出とは次元が異なり、真摯な検討に対しては何らかのフィー設定が必要となるべきだ。新規業務立ち上げや教育訓練等に伴う初期費用も充分に加味しなければならないが、これらも当然コンペにおける横並び比較で評価される。
5.条件整備しなければビジネスにならない:不公正な商習慣是正等
サプライチェーン運営の中で、在庫責任の所在が特に重要である。それは品質管理分担と同じはずである。日本では店着バイイングという、小売業物流センター到着ではなく、そのさらに先の店舗納品確認を以て商品所有権が移転する。納品業務を効率化するためにノー検品という運営も行われている。つまり物流センターの在庫は未だベンダー側の管理下にあり、当然品質管理責任もある。センター業務は物流事業者や卸売業に委託されており、これが実質的な3PLである。ベンダー側からセンターフィーを徴取し、小売業は差益を確保している。本来は実費負担のはずであり、現在公取委による優越的立場によるものかどうかの調査が進められており、解明が期待される。
収受料金が商品通過額の歩率で、物流事業者が国交省に提出する原価計算書ではこの方式は認められていない。このような非互換性では事業者の採算確保も難しく、行政としての片手落ちではないか。認可料金が自由化されたとはいっても物流市場では未だ厳然として存在しており、この矛盾は解決されなければならない。物流リソースの需給バランスから、それもいずれ改善されると考えるのは幻影であろう。
物流事業者も業界としてのステータスを上げ、荷主と対等な立場でビジネス競争を展開出来るようにしなければならない。アウトソーシングは荷主自身の業務設計との競争であり、コスト・品質・マーケティング支援等々で優れていることが証明されなければ、コンペには勝てない。その前提は変動的なコスト設計であり勢いノンアセット型の業務構造になるが、最低限の自社リソースを確保しておかなければいざという時に対応が難しい。3PLという言葉が先行する時代はもはや終わった。真の意味でのロジスティクス業務運営代行の真価が問われている。
以上
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