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経営戦略・経営管理

第43号なぜSCM改革はうまく進まないか?SCM改革の課題と留意点(2003年11月07日発行)

執筆者 森川 竜行
カート・サーモン・アソシエイツ シニア・コンサルタント
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • (1) 小売業の店舗開発室に勤務し、店舗戦略/マーチャンダイジングを担当。
    • (2) 消費財メーカーの営業部/販売促進部に勤務し、マーチャンダイジング/プロモーションを担当。
    • (3) システムベンダーのITコンサルティング事業室/プランニングシステム部に勤務し、ロジスティクス分野のエンジニアリングを担当。
    • (4) KSAにて消費財メーカーや小売業のSCMプロジェクトを担当し、現在に至る。
    資格等
    • 中小企業診断士(商業)
    • 情報処理技術者システムアナリスト
    • 国際物流管理士
    • 日本物流学会会員 他

目次

1.はじめに

SCMについては非常に多くの方々がそのコンセプトを理解し、自社への適用を検討されている事と思う。取り組みの戦略的意義は大きく、また決して避けて通れないテーマだが、幅広い領域に関係を及ぼすコンセプト故、プロジェクトとしての難易度は高く、全ての取り組みが必ずしも成果をあげる事は出来ない。障害の要因は個別の状況により当然異なるが、ここでは「何を変えるか?どのように変えるか?」といったポイントについて、意見を述べさせて頂く。

2.「SCM改革で何を変えるか?」

2.1.IT

キャッシュフローの最大化をゴールとするSCM戦略では、売上最大化、コスト最小化を目指す仕組みづくりが不可欠である。そしてそれを支援するMD戦略として”EDLP”が、ロジスティクス戦略として自動補充や物流面の仕組みづくりが重要である。
EDLPは、低価格を一定に維持して安いイメージを打ち出す方策で、チラシを用いるハイロー戦略とは対極的な戦略である。その効果は、陳列・プライス変更等の店頭作業や本部バイヤー負担の軽減、またはチラシ広告費の削減等の直接的効果だけでは無い。意図的な波動が無くなる事から、実績データのパターンが抽出しやすくなり、需要予測精度が向上すると共に、これを用いてサプライチェーンの効率化が図られる。
小売業・卸売業における需要予測の精度向上は、その数値から計算される補充発注数量の精度と関連し、売り上げ・在庫問題の解消に結びつく。またメーカーにおけるそれも生産計画のインプットデータと関連する事で、売り上げ・在庫問題の軽減に役立つのである。
このように需要予測はSCMにおけるキーファクターだが、その予測はどのように行うべきであろうか?ロジックについては、過去の時系列データを平準化して商品固有のパターンを見つけ出す移動平均法や指数平滑法、販促商品と販促条件の各種因子との相関性分析から導く方法などがあり、商品特性や販売機会に応じた適応分野があるが、精度面では、インプットデータにも十分注目する必要がある。
小売業・卸売業における需要予測システムのインプットデータは、単品別売上情報と単品別在庫情報であり、売上情報だけでは不十分である。店頭で商品発注する立場に立って考えると、在庫の有無を一切念頭におかずに発注しないであろう事は明らかであるが、このロジックは自動補充発注システムにも当然活かされている。
またメーカーが需要予測精度を高める上でも、最終需要である店頭の単品別売上情報と店頭在庫量が必要である。理由は、在庫情報無しでは、「在庫が無い為に売り上げがたたないのか?」、あるいは「在庫があって商品が売れないのか?」が掴めない為である。このようにサプライチェーンにおいて精度の高い在庫情報は非常に重要であるが、単品レベルの自動補充発注システムを通してチェーン全体の効率化を図る為には、単品レベルの商品在庫数量・在庫金額を一対として日別に把握するシステムが不可欠となる。これを”リアルタイム・インベントリー・システム(RTI)”と呼んでいる。
メーカーの需要予測が小売側からの情報提供に基づくものである事は先述の通りだが、では情報共有のインフラにはどのような条件が求められるだろう?
①JAN値札、②EDI、③POSシステム、④JANカタログデータベース、⑤SCMラベルがその基本テクノロジーであり、また以下がそれを用いた運用イメージである。

図1

2.2. ロジスティクス

物流面で効率化を図るベーシックな方向性として、”検品レス化”という方向性がある。その仕組みは上図の店舗以外のフローが完成した姿であり、情報共有の基本テクノロジーがその基盤となっている。検品レスのメリットは大きく、仕入伝票の入力が不要となる、センター内入荷検品作業の効率化、センター内商品滞留時間の短縮、伝票レスシステムの基盤となる等の効果が期待でき、ロジスティクス・コストを大きく引き下げる。
またこれを更に発展させた形態として、”クロス・ドッキング化”という方向性がある。クロス・ドッキングとは、流通センターから在庫機能を排除して、仕分け機能のみとし、通過型配送センター化する事であり、以下の効果が期待できる。①検品作業の削減に加えて、入庫・ピッキング作業が不要、②仕入先が指定売価の値札やハンガーで納品する事により、流通加工作業が不要、③保管期間が無くなる事で、商品滞留時間が短縮化、④伝票レスシステム化の基盤となる等の効果である。この方式を採用すると指定値札やハンガーによる納品、店舗別プリパック等、メーカー負担も大きくなるが、サプライチェーンにもたらす効果は極めて大きい。そしてここでも先(図1)の基本テクノロジーが活かされる。

3.「SCM改革をどのように進めるか?」

3.1. プロジェクト・マネジメント上の留意点

大きな変革と成果を生み出すSCM改革は当然障害も大きくなり、高度なプロジェクト・マネジメントが必要となるが、プロジェクトを確実に推進する為には、フェーズに分けてそれぞれのゴールとタイムラインを明確化する必要がある。
SCMにおける業務改革系プロジェクトの場合、①改革プラン策定フェーズ、②新業務デザインフェーズ、③ロールアウトフェーズ”といった切り口が想定される。
またIT系プロジェクトの場合、①戦略情報化企画フェーズ、②情報化資源調達フェーズ、③情報システム開発フェーズ等の切り口になる。フェーズによって利用可能な技法やリファレンスは異なるが、PDCAを基本とする下記5つのプロセス(10ステップ)に沿った手順を遵守すべきである。

図2

立ち上げプロセスにおいては、創造的だが先が不透明な仕事に優秀な人をコミットさせる為にも、有力なプロジェクトスポンサーの存在が不可欠である。更に先読みと社内調整に優れたプロジェクトマネージャーを任命し、推進組織体制を決定後、”プロジェクト憲章”を発行して、プロジェクトの発足とビジョンを周知徹底する必要がある。
計画プロセスでは、”スコープ計画” が重要である。達成すべき事が不明確なプロジェクトは成功の確率が低くなる。明確なスコープに向かって、タイム、品質、コストを管理する事がプロジェクト・マネジメントの中心課題である。とは言えスコープを変更すべき必然性が生じる場合もある為、変更ルールを纏めた”スコープマネジメント計画書”を事前に作成しておく事も必要である。
また漏れの無い”アクティビティ定義”も欠かせないが、その為には、主要成果物の単位を中心にプロジェクトを分割し、主要成果物を更に中間成果物に分割、中間成果物をサブタスクに分解する”WBS(ワーク・ブレイクダウン・ストラクチャー)”の考え方を用いるのが良い。そして定義したアクティビティの依存関係を決め、所要時間を見積った後に、カレンダーやマイルスト、リソースやコスト面の制約を考慮し、スケジュールを定義する。またこのプロセスでは、予算、コミュニケーション、リスクマネジメント、組織・役割の計画も作成しドキュメント化する必要がある。
実行プロセスは、そのコントロールプロセスと並行して進められる。コントロールすべき項目としては、作業進捗やプロジェクトの品質面での定期的評価が実績報告としてなされるべきである。また、スコープ、スケジュール、コストの変更状況も常に管理される必要がある。そして最終の終結プロセスでは、結果の検証とあわせて、ドキュメント化によるプロジェクトのナレッジベース化が必要となる。

3.2. モニタリング/コントロールの仕組みづくり

サプライチェーン実施の目的は、消費者価値やキャッシュフローの最大化である為、ROAやGMROI等の財務指標は有効である。が同時にコントロールする事を目的としたモニタリング指標として、顧客満足度(CS)調査結果や、内部効率化を図るコスト指標を設ける事が望ましい。コストの掴み方としては、「最終的にお客に届ける商品・サービスが、顧客別・商品別に最適化されているか?」といった枠組みが必要であるが、この視点からコストを試算するには、”アクティビティ・ベースト・コスティング(ABC)”が有効である。ABCを用いれば、「どのプロダクトラインのどこのプロセスが問題か?」がわかり、現場管理に適用する事も可能である。また変革シナリオを検討する為の基礎データ入手にも役立つ。
ABCは様々なプロセスのコスト把握に適用可能だが、SCM改革においては物流センターへの導入が必須である。理由は、MD改革、IT整備、組織変革といったSCMに対するアプローチの多くの成果が、在庫も含む物流コスト削減として実るからである。
物流センターにABCシステムを導入すると、内部分析用資料が入手でき、P作業計画→D実施→C問題点把握→A改善サイクルをまわす事が出来る、仕入先や納品先等、外部交渉に必要な定量データが入手できる、設備投資・アウトソーシングの検討など、意思決定に要するデータが得られるといった効果がある。導入に際しては、現場リーダーとの十分な話し合いが重要で、これによってのみ例外アクティビティの確実な洗い出しや、作業者のデータ入力負担を考慮したアクティビティ範囲の設定、導入コンセンサスの醸成がもたらされる。
継続的なデータ収集に情報システムの整備は不可欠だが、この仕組みを根付かせる為には労務管理や業務プロセス上の変更も必要となる。 定着には”予測精度と改善モチベーションの継続的な維持・向上”が課題となるが、実現の為には現場管理者に部門毎の人員計画の権限と責任を委譲する事から始めるのが良い。現場管理者であれば生産性指標とセットで作業者人数を管理する事が可能である。即ち、月度予算と過去の工数・取扱量実績に基づき人員計画を作成、人員配置の予測精度を上げる事により予算を下回る人件費の達成を目指すのである。そして取り組み成果を人事評価にも連動させる事で現場管理者のモチベーション向上も狙うのである。

3.3. SCMデザインの考え方

ABCはモニタリング/コントロールに極めて有効であるが、演繹法的アプローチには”ダイナミック・プロセス・シミュレーター”と組み合わせる事が望ましい。
例として、DC型センターでABCデータを収集した改革チームが、次にクロスドッキング化しようと考えている場面を想定して欲しい。明らかに下記の条件は、どれも移行後のオペレーション条件を決める要素であり、結果的にコストに影響を及ぼす条件であるが、クロスドック化した将来のオペレーションコストの試算にあたり、ABCデータをどのように活用すべきであろうか? 設備の制約条件:ソーター利用時間や処理速度、キャパシティ、またはシューター間口数の制約。スペースの制約条件:入出荷バース数やヤードのキャパシティ。特に指定時間がもたらす影響も考慮した上での制約条件。作業者の制約条件:時間帯毎に採用可能な最大作業者数と最小数。
ダイナミック・プロセス・シミュレータは、各”アクティビティ”における所要時間のみならず、開始のトリガー、実行に要するリソース、前工程・後工程を定義出来る為、ABCから得られる工数見積もりデータに、他工程との関係やリソース面の制約を加味して、新プロセス移行後のアクティビティ工数を見積もる事が出来る。また”設備”や”スペース”の数量、キャパシティや、その設備・スペースを通過する商品量も定義できる為、時間帯毎に生じ得る設備面・スペース面の制約条件も計算の前提条件に取り込む事が出来る。
SCMをデザインする上で、時間軸に対して生じる波動とリソース面の制約条件は大きなファクターであるが、当該シミュレーターを用いれば、プロセスの相互依存関係を定義し、時間軸に沿ったダイナミック(動的)な検討が出来る点で有効である。

4. 最後に

「SCM改革で何を変えるか」の章では、SCM戦略の方向性における「リアルタイム・インベントリー・システム」「5つの基本テクノロジー」の位置づけを説明した。 それらは、コンセプトとして目新しいものではないが、ロジスティクスの先端的な取り組みもかかる基盤の上にこそ成り立つものであり、SCM戦略の重要なインフラである点を述べた。
「SCM改革をどのように進めるか」の章では、PDCAサイクルに沿った手法について説明した。「プロジェクト・マネジメント」はフェーズ毎のスコープを明らかにし、PDCAのプロセスに沿ってタイム、品質、コストを管理すべきものである。
また各社のSCM戦略のPDCAサイクルをよりスムーズにまわし続けて頂く事を願って、SCMのモニタリング(Check)手法「アクティビティ・ベースド・コスティング」と、SCMデザイン(Plan)ツール「ダイナミック・プロセス・シミュレータ」をご紹介した。

以上



(C)2003 Tatsuyuki Morikawa & Sakata Warehouse, Inc.

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