第349号 「物流の自動化・省力化を考える。」 (2016年10月6日発行)
執筆者 | 髙野 潔 (有限会社KRS物流システム研究所 取締役社長) |
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執筆者略歴 ▼
目次
1.はじめに。
人手不足が深刻化している物流業界では、運送業務や物流施設のリアル物流の様々な分野で省力化・自動化の取り組みが本格化しています。M食品大手は、2020年度をめどに全国約50ヶ所の物流拠点に庫内を自動で移動する無人搬送車を導入するとのこと、さらに、無人フォークリフトや作業用ロボットの導入の検討も始めているそうです。また、自動で荷物を出し入れする新たな自動倉庫システムの開発で、T社(大手産業車両)とT社(大手マテハン)がコラボして自動化システムに取り組むとことを発表しました。物流の自動化・省力化により単に人手不足の解消だけでなく中長期的には事業者の競争力を大きく左右する業界構造にも変革をもたらす可能性があるとの指摘があります。私も遠い昔に取り組んだコンピュータ指示による自動倉庫・自動走行台車・省力化システムの複数の利用技術の記憶を手繰り寄せ、これからの物流拠点(物流センタ-・倉庫)におけるリアル物流(実務)の入荷~出荷までの一気通貫物流とトラック自動運転を融合した自動化・省力化システムで高齢化、人手不足の軽減のきっかけを考えてみたいと思います。
2.物流業界の自動化・省力化の動き
物流業界では、人手不足が続く中、激しい競争を展開、人手を要する物流の作業を抜本的に見直し、自動化・省力化方向に舵を切り始めたようです。通常は、人間が歩きまわって棚に商品を入れ、棚から商品を探し出し、必要な商品を摘み取り(ピック)、梱包、発送・出荷を行っていましたが、これを自動化とコンピュータで入荷・入庫~発送・出荷の一気通貫型自動化・省力化システムの変革のスタートラインが整ったようです。最新鋭の自動倉庫を結節点としてフォーク、走行台車、コンベア、ロボットなどのマテハン技術をコンピュータで制御して物流拠点(物流センタ-・倉庫)の庫内物流業務の自動化を進めようとしています。例えば、ピッキングに伴う入出庫を自動で行うロボット倉庫、入出庫の自動化、立体的な高層保管棚で土地の有効活用、まさに自動倉庫の独壇場であるリアル物流の多岐多彩な自動化の動きが見受けられます。業種業態、取扱品の選別などで自動化システムの導入しやすい条件を付けて徹底した省力化で作業人員の70%以上の削減が可能との判断も出ているようです。さらに、新しい動きとして自動搬送台車がピッキング棚を持ち上げて指定の場所まで搬送することで作業員の移動が不要となる様々な分野の自動化が進み始めています。自動倉庫と組み合わせが実現するとさらに、面白くなりそうです。
3.輸送インフラとトラック自動運転の動き
トラックドライバーなどの人手不足と人件費の上昇が重荷になっています。事態を打開するために規制緩和、自動運転、ドローン、ロボットなどの研究・導入が進んでいます。道路状況をリアルタイムに把握出来るETC2.0 のシステムを活用することにより、特殊・大型車両のルート変更の手続きが自動化(2016 年1 月)できるようになりました。さらに、政府は、高速道路に直結した物流拠点を設ける検討を始めました。荷物を長距離輸送する際に中継拠点として活用しようとしています。例えば、東京圏と関西圏の中間点の静岡に物流拠点をつくり、東京からの荷物を静岡の物流拠点で引き継ぎ、東京行きの別の荷物を帰り便に載せる案を検討しています。これは、ドライバーの宿泊を避け、輸送時間の短縮で長距離輸送の負担軽減と人材の確保に繋がるものと期待しています。さらに、ドローンについては、千葉県や徳島県が国家戦略特区に指定され、荷物配送の実証事業が行われ、早ければ3 年以内に実現を目指すとされています。一方、トラック自動運転は、自動車メーカーやIT関連企業が技術開発を進めており、大型トラックの自動運転隊列走行の技術の早期導入を目指し、2020 年頃からドライバーの負担が段階的に軽減されていくとの見通しが掲げられています。将来的にはドライバーを全く必要としない完全トラック自動運転の実現も視野に入れています。規制緩和が、一部の地域で運用開始されました。
4.往年の自動倉庫の利用技術は、最新の自動化・省力化の原点です。
自動倉庫は、入出庫作業を自動化した倉庫で、クレーン、コンベア、自動走行台車などをコンピュータと連動させた入出庫に人手を要しない自動化・省力化システムです。またロケーションの設定、入出庫・保管と在庫管理においても人手と比較して数段精度が高くなります。コンピュータや自動走行台車の進歩とあいまって人口減、高齢化に伴いロボット(自動化)が注目される中で最新技術の自動倉庫と周辺マテハン、情報化システムの連動化で、今後ますます発展・普及していくものと思われます。規模が大きければ大きいほど、自動化・省力化で魅力ある成果が得られやすくなると考えます。多額の投資費用が必要で、費用対効果、投資回収率を試算することが必須条件、プラン毎に大まかなイニシャルコスト(設備投資額)とランニングコスト(人件費、エネルギーコスト、維持管理費・特に保守費用)などの試算を行い、投資対効果の見える化で取り組みたいものです。
入出庫を自動化した自動倉庫の事例をご紹介します。一ツ目の参考事例Aは、入出庫作業を16人で対応した自動車用パネル専用部品の自動倉庫システムです。取り扱い規模は、アイテム数≒2,200、保管棚44,160、クレーン16台、自動走行台車16台、ピッキング作業場16ヶ所があり、1日当たりの出荷量≒3,200~4,000パレット、入庫作業は、搬送台車上で入荷情報(BCR)を自動読み取り、フリーレーン、フリーロケで棚入、保管バランスを取りながら自動棚入、自動出庫(緊急、不定期、定期オーダー)後、庫外のピッキング作業台までパレットを自動搬送、そこで、オーダーに基づいた摘み取りピッキング、再入庫なしの出庫は、駆動CV経由で庫外に自動出庫、ピック残(端数再入庫)は、保管棚に自動再入庫、さらに、アイル間・アイル内配置換え、各レーン毎の引当優先順位をアルゴリズムで熟慮、流速管理を基本に全体最適を意識した入出庫作業を行っていました。入出庫作業が同時にある場合は、クレーン複合運転で入出庫を行い無駄のない作業を実施、さらに、梱包在庫の適正化を目指した輸送経路・路線毎の荷姿別梱包作業量を予測するシステムを導入、これは、夜間に裸品を搬出、昼間に機械と人手で梱包作業を行い、梱包完了品は自動でCVにストレージ、クレーン負荷を分散するため夜間に再入庫を行うシステムでした。
2ツ目の参考事例Bは、入出庫作業を28人で対応した小物部品の自動倉庫システムです。アイテム数≒10,000、保管棚≒49,000、クレーン28台、自動搬送台車16台、入庫はパレットでの自動棚入、出庫はクレーンに人が搭乗する有人オンラインピッッキングの自動倉庫でした。日本では数少ない有人自動倉庫でオーダー順に棚(ツービン方式)にピッカーを自動で移送、ピック後の実バケット(50Bのオリコンサイズ)は、後工程の梱包作業場にCV経由で搬送されます。同一アイテムで大量出庫の場合は、自動(無人)でユニット出庫を行い、庫外に搬出、オーダーに従い摘み取り後、梱包ラインに自動搬送します。物流の基本である人が物に、物が人に近づく典型的な効率の良い自動化システムでした。
3ツ目の参考事例Cは、小物自動車部品の自動化・省力化システム(自動倉庫)の一例です。ピッキング作業者が3名のバケット(50Bオリコンと同一サイズ)専用の自動倉庫です。保管棚≒103,000、クレーン台数24、登録アイテム数=100,000、1バケットに緩動品の在庫10アイテムを混載可能でフリーレーン、フリーロケで自在に保管棚を選択し、ピッキングは、3ヶ所の庫外にあるピックラインにクレーン+走行台車で自動搬出します。ピック残は、出庫と在庫バランスを加味して自動で再入庫、作業者は緩動品を扱う倉庫ですが歩行することなく入庫・出庫バケットを計6,000~8,000/日取り扱える能力の高いバケット専用の自動倉庫でした。全ての保管バケットにBCRを貼付、BCRとバケットNoを紐付けし、所在確認を自動コントロールできるシステムを導入しています。他にも3形状を扱うパレット自動倉庫と輸出専用のクレート自動倉庫などがありました。(事例D参照)
5.最後に。
これからの省力化・自動化への取り組みに対して物流業界の構造にも影響を与えるとの指摘も出ています。何度か触れましたが大規模な設備を導入するには投資資金と投資に見合うだけの取扱物量を確保することが重要なポイントだと考えます。自動化の進展で荷主獲得を巡って物流事業者間の価格競争がより強まるほか、荷主に提供するリアル物流の構築力・運用力の重要性が従来以上に必要になると思われます。大手事業者ほど有利になると考えます。荷主はローコストでハイレベルのサービス・品質を提供してくれる大手物流事業者にシフト、業界の大多数を占めるとされる中小物流事業者にとっては、集荷力の低下に加えて大手との競争力の格差が一段と拡大、さらに、中小・中堅物流事業者の仕事量の減少で人余りの分野が出て来ることも想定されます。大手物流事業者が自動化・省力化システムを導入することにより、中小・中堅物流事業者の受注する機会も減少、厳しい事業環境を余儀なくされる時代が来るかもしれません。事業環境の大きな変化を見据え、自動化などの投資力の拡大や集荷力の強化のための中小・中堅企業が3本の矢の如く結束し、自動化・省力化システムとロボットなどの導入で自動化に向けた複数企業によるアライアンスなどで、取り扱い物量を増やす算段と投資負担の軽減で日本の物流業界の中小・中堅企業のリアル物流(実務)の変革が図られることを期待したいと思います。
以上
(C)2016 Kiyoshi Takano & Sakata Warehouse, Inc.