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物流品質

第433号  物流診断のすすめ(2020年4月9日発行)

執筆者  中谷 祐治
(ロジ・ソリューション株式会社 常務取締役戦略コンサル事業部長)

 執筆者略歴 ▼
  • 略歴
      センコー株式会社にて、輸送ネットワーク、拠点立地、工場/物流センター作業など物流に関する各種コンサルティング、大手商社食品部門との共同プロジェクト、サードパーティーロジスティクス事業化企画、国内/海外事業の改善等を担当。
      その後、コンサルティング系サードパーティーロジスティクス会社、商社系物流子会社において国内外のコンサルティングやサードパーティーロジスティクス業務を担当。
      現在は、ロジ・ソリューション株式会社にて、幅広い業種の国内外の物流を中心とした改革/改善の支援などを担当。
    主な資格
    • 物流士
    • 第2種情報処理技術者
    • 初級システムアドミニストレーター
    寄稿/講演など
    • 「 間違いだらけの物流業務委託(パートナー選定・運用で失敗しないための鉄則)」日刊工業新聞社,2015年
    • 「基本がわかる実践できる 物流(ロジスティクス)の基本教科書」日本能率協会マネジメントセンター,2020年
    • 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 各種資格認定講座講師/委員 など多数

 

目次

1.物流診断とは

  「物流診断」と聞いて何を思い浮かべられるでしょうか?
  「物流の健康診断」といえば、なるほどとお分かりいただけるかもしれません。物流診断は、物流業務を棚卸し、改革/改善テーマを抽出して、その推進シナリオを作成するものです。
  日頃問題なく物流業務が行われていると、特に気に留めることがないかもしれませんが、物流の運営は生き物です。日々の業務内容も異なりますし、取り巻く条件も変化しますので、それに対応していくことが必要です。ダーウィンは「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。」との言葉を残しているそうですが、物流でも同じことが言えます。取り巻く環境を把握し、その時々に必要な改革/改善テーマを実施していくことが必要なのです。物流診断はそのために行うものです。
  物流診断を行うと、活動前に感じていた問題点や課題がその通りだったということも多くありますし、定量化ができていなかったものが数値化できて、施策推進ができるようになるということもあります。つまり、いままで少しあいまいだったところが「見える化」され、施策が進みやすくなります。
  このような活動について、すでに考えている課題に対するテーマを推進したほうが良いのではとお思いの方もいらっしゃるでしょう。確かにそのほうが早い場合もありますが、物流診断をしてみると優先すべきほかのテーマがあったということもありますし、何しろ全体をしっかり把握して検討していますので、やるべきテーマとその推進順序が明確となっています。よって、遠回りの活動のようですが、少し時間をかけても実は近道なのです。
  物流診断は、「現状把握」「改革/改善案の抽出」「改革/改善のシナリオ作成」3つのステップで進めます。この流れは、一般的な改善活動と変わりありません。この検討結果のアウトプットは、「現状把握結果」と「改革/改善テーマと展開のシナリオ」の2つです。「現状把握結果」は現状の事実を整理したもので、自社物流の全体像が分かるものですから、更新して行けば以降も活用できるものです。「改革/改善テーマと展開のシナリオ」は検討の結果をまとめたものです。自社もしくは委託先と改革/改善活動を進めていくための台本となるものです。

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2.物流診断の事例1

  物流診断をご支援した事例をご紹介します。最初の事例はある業務用食品メーカーの事例です。こちらの企業では、新規物流センターの開設や自社物流のアウトソーシングを中期の計画で掲げており、それに向けてまず物流診断を行いました。
  現状把握では、日々の入出荷や作業工数、それに対するコストなどを把握しました。工場内にある物流センターは、自社社員によるオペレーションで配送をアウトソーシングしている体制のため、隠れている自社物流のコストをしっかり把握することに注意を払いました。
  現状把握の中で挙がってきた問題点の一つが物流費増加の原因として、特別積合せ便(路線便)の支払いが増えていることでした。その原因を整理していくと、自社の積合せ便(自社便)の扱い件数が低下し、配送効率が低下していることがわかりました。これは、朝一の時間指定のオーダーが多く、自社便で配送できないものを路線便に委託していたためでした。そこで、路線便の支払い削減のためには、自社便の効率向上を課題として挙げて、どのような改善策があるか検討を進めました。その一つの施策が時間指定の緩和で、まずその実態をさらに把握することとし、時間指定している顧客に物流サービスに関するインタビューを行いました。ここでわかったことは、時間指定していない顧客や到着時間がある程度わかれば朝一でなくてもよいという顧客がいることです。そこで、営業担当に時間指定を最新の状況に更新してもらう、それをもとに配送体制を検討することとしました。
  この事例は、販売を巻き込んで進めたものですが、コスト削減のためには、他部署と協力して前提条件を変えてみたり「思い込み」を排除したりして、今までと違った視点で検討していくことが必要です。

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3.物流診断の事例2

  次は、冷凍食品メーカーの事例をご紹介します。こちらの企業は、コストダウンの切り口が知りたいというとてもストレートなニーズをお持ちで、そのために全体を見る物流診断を行うこととなりました。
  工場は、関東と関西にあり、季節波動が大きい商品を製造されていました。物流は、工場の近隣にある物流センターがメインの物流センターで、その他全国をカバーするために物流センターが複数ありました。
  現状把握では、工場の物流センター向けの出荷口が物流のスタートであり、ここから現場を見せていただくとともにいろいろ委託先の物流事業者にもお話をお伺いしました。これは現状把握の際のポイントですが、双方の話をしっかり聞いて正しく現状を把握するためです。実績データの分析では、波動が大きい商品ということもあり、年間のデータを分析し、その状況を整理しました。輸配送は、他の自社物流センターや顧客の物流センター納品が多く、大型トラックによる輸送が中心となっていました。
  現状把握の中でわかったことの一つは、輸送の単価が市況に比べてとても安いこと、一方積載効率が低いことでした。輸送コストは、1便当りの単価×台数で計算されることから、物流コスト削減のためには台数を減らすことが必要で、そのためには積載効率向上を課題として挙げて、具体的な改善策を検討していきました。積載効率を上げられない原因をいろいろお聞きし、それらをひとつひとつ制約と考えずにやり方を変えることができないか検討し、具体的なテーマに落とし込みを行いました。
  また、他の問題として、拠点間横持の輸送コストが非常に高額になっていることがありました。これは、関東工場のほうが新しく、生産能力が関西より高い状況でしたが、販売は関東より西方面のほうが多く、関東工場で製造した商品を西方面に輸送しているためでした。幹線便コスト削減を課題として、いろいろな改善策を検討していきました。その案の一つとして、関東で生産せず関西で生産するというものがテーマとして上がりました。そもそも製造を関西ですれば、幹線輸送自体をなくせるためです。その場合の生産能力のアンバランスについては、関西工場の製造時間の延長や外部生産委託、関東工場は生産委託を受けることで稼働率を維持するというアイデアで解消できないかという内容です。
  この案は、生産にかかわることでなかなか実現のためのハードルは高いですが、物流を効率化するためには、生産を変えて考えてみるという事例です。このように、物流を中心に、生産や販売もあわせて考えて、改革/改善テーマを考えていくことが必要です。

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4.物流高度化に向けて

  物流改善はどこでも行われていて、効率化が進んでいるのが一般的です。従って、「そろそろテーマがなくなってきた」という場合や「とことんやってきたけど実はまだやり残していることがあるのではないか」と考える場合もあります。このような状況で物流診断を実施する場合は、今までの枠を外して考えることがポイントです。
  また、その際現状をあるべきレベルに引き上げる改善だけでなく、現在をさらに良くする高度化テーマや、もっと大きな視点からの改革レベルのテーマも抽出して検討することも必要です。
  現在物流を取り巻く環境は大きく変化しており、今後もいろいろな新技術が登場し、いろいろなアイデアが導入されていく時代が来ています。このような時代の変化に、物流面でも対応していくために「物流診断」を実施することをお勧めします。
  変化できる者だけが生き残れる、そんな時代だからです。

以上



(C)2020 Yuji Nakatani & Sakata Warehouse, Inc.

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