第335号 これからのドラック系業務と物流を考える。(2016年3月10日発行)
執筆者 | 髙野 潔 (有限会社KRS物流システム研究所 取締役社長) |
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執筆者略歴 ▼
目次
1.はじめに。
先日、焼津市の不動産業の方から磐田市に土地約1,500坪、建物約500坪、駐車場70台の商業施設、工場、住宅の多い生活道路に面した広い居ぬきの物件が出ましたとの連絡を頂きました。早速、私の知り合いのドラック系の開発部に連絡した所、数社より紹介を受けているとのこと、さらに、隣接地に同業他社があり、見送った物件とのことでした。ドラック店舗の出店場所の取り合いの熾烈な戦いがあることを知りました。ドラッグ系を巡る競争激化は、同業他社のみならず既存の小売業との競争激化が予測され、特に医薬品の販売に対する規制緩和の動きを受けドラッグ系以外にもインターネット通販やコンビニエンスストアなどで医薬品を販売するケースが生まれはじめています。また、食品スーパーなどでも高齢化や食に対する健康意識の高まりを受けて、健康機能性食品の販売を強化する動きが出てきています。一方、少子高齢化や買い物弱者の問題といった市場構造の変化により、多くの課題が発生しています。また、平成25年6月に閣議決定された『日本再興戦略』などでは、健康寿命の延伸に向けたセルフメディケーション(自己治療)の推進が提起されています。ドラッグストアとしても小売業の立場から、消費者のセルフメディケーションに貢献できるために果たすべき役割を考え、競争激化を勝ち抜くために物流部門と店舗部門が融合した時代の先取りが求められています。
2.ドラック系店舗の現状
急成長するドラックストア-協会は15年前に活動を開始、医薬品販売については、販売登録員制度を導入、医薬品のネット販売、ドラッグ系市場の急速な拡大など、相次いで社会的な注目を浴びています。ドラッグストア協会の会員(164社)の総売上高は5兆円規模になっています。薬局から販売商品を増やし、チェーン化による各社の旺盛な店舗展開、M&Aなど、積極的な事業展開が続いています。さらに、OTC(大衆薬や市販薬)とも呼ばれる一般用医薬品。軽い病気やけがをしたときなどに、処方箋(しょほうせん)がなくても薬局や薬店で買える身近な薬です。私たちが便利で安全にこれらを利用できるようにするために一般用医薬品(大衆薬や市販品)の販売ルールが設けられています。
このルールが見直され、平成 26年6月12日から、インターネットでも販売・購入することができるようになりました。(これは、健康関連商品を扱う日本最大級の通販サイト、元ケンコーコムの前社長(後藤さん)のご尽力があったればと思っています。そして、ドラッグストアは、医薬品・日用品・ペット関連商品・食品などを中心に販売していますが、さらに取り扱う商品を増やし、スーパーや百貨店業界のシェアを奪うほどの勢いがあります。それらを数値で見てみると業界の成長は顕著で、95年の業界売上高5,000億円から今では、約5兆円規模と約10.0倍になっています。ドラック系店舗の売上&利益の追求を流通・物流分野を巻き込んだ変革の波がうねり始めています。
3.ドラック系店舗の動向
ドラッグストアが積極的に取り組んでいる事業戦略は、各社マチマチですがドミナント形式による出店戦略などが中心で各社独自の事業展開を行っています。M&Aと新規出店を積極的に行っています。少子高齢化の流れの中で、お客様の健康ニーズが高まり、ドラッグ系の上位企業 による積極的な出店、価格競争が激化、改正薬事法に基づく登録販売者制度による他業種の参入が徐々に始まるなど、厳しい経営環境の中で、各社のグルー プ化を活発に行い、業界内の再編がさらに進むものと思われます。こうした状況を踏まえ、ドラッグ系各社は、より多くのお客様が来店しやすい利便性の高い店舗開発や安心して買い物ができる店作り、高齢化社会を見据えた専門性の強化、及びローコストオペを支える様々な仕組み作りなどの課題に取り組んでいます。出展候補物件を中心に半径500m圏に約3,000世帯以上、居住していることを目安として、出店エリアの拡大、利便性を兼ね備えた積極的な店舗開発、M&A及びフランチャイズ店による全国展開、他業種との提携や新業態の開発などでの事業拡大、既存店舗のスクラップ&ビルド及び改装により活性化を図ろうとしています。企業規模拡大に向けた人材の確保と育成、情報システムの強化を図り、高齢化社会を見据えた健康に関連する専門的なノウハウの向上、マーチャンダイジングの精度向上を図っています。調剤薬局、医療モールなどへの積極的な新規出店を行う計画が旺盛ですが、医師不足が壁となり、医療モールの強化が計画通りに伸展していないようです。
さらに、企業規模の拡大と共に本部が各店舗全体を網羅する管理の改善・強化で販管費の削減を狙っています。素早い売り場改善、棚替え(棚フェイス)の改善を図り、売れる店づくり、人件費をはじめ、事務経費の削減につなげています。今後の課題は自動発注との連携、棚割を可視化し、速やかな売れる店づくり、店舗業務の改善に結びつけることです。
さらに、よりよく店舗レイアウトを管理することで、商品仕入管理、坪効率管理、店内生産性管理などの棚フェイスを起点とした改善方策を模索しています。
4.一括物流(納品)とセンターフィ
日本には昔から卸売業があり、流通業界の中で商流、物流の結節点として機能してきました。メーカーの特約店政策の結果、日本には、米国で言われるフルライン物流の卸売業は存在(20年位前に菱食などが食品、日雑、菓子などの実証実験を試みた経緯があります。)せず、化粧品・日用雑貨、食品、医薬品、ペット、ベビィ用品などのカテゴリー卸から小売業が商品を調達するのには、全ての卸と取引をする必要がありました。荷受け、店頭検品など、卸毎に繁雑な作業を行っていました。これが小売業のロジスティクス戦略の起点となりました。現在は、物流だけを一元化した商物分離を実現した納品形態の一括納品物流が主流になっています。小売業の戦略は、販管費の削減を策定する基本として、商品戦略、仕入・販売戦略、ロジスティクス戦略、店舗戦略という4つの基本的なマーケティング戦略を進めたいと考えています。さらに、小売業の物流センターであっても、そこにある商品は小売業の在庫ではなく、小売業の仕入れ価格は店頭引き渡し価格であり、店頭で商品の受け渡しが行われ、所有権の移動と共に仕入先から小売業に決済が行われるのです。そこで、物流センターを小売業が運営していても物流センターコストは商品原価に入ることになり、そのためにセンターフィなどの問題が発生するのです。小売業の物流センターには、仕入先から商品を入荷し在庫を置くDC(在庫型)センターと仕入先から商品を入荷し、検品、仕分けして小売店舗へ納品するTC(通過型)センターの2つのタイプがありますが、DC、TCそれぞれにメリット、デメリットがあり、業種業態によって適した方法を選択しています。商品回転率が速い食品と比較して回転率の遅い日用品は、ほとんどがTC型の物流センターで運営しています。回転率の早い商品はDC型、遅い商品はTC型で取り扱うことが望ましいと言われています。例として、食品スーパーは、仕入先で店舗別の仕分けをした状態で一括物流センターに配送される事前店別ピッキング型(TC)が多く、ドラッグストアは、商品の取り扱いアイテムが多いため、総量納品で物流センターへ納品し、物流センターにて仕分ける総量納品型(TC)が主流です。一括物流センターでの作業負荷(コスト負荷)により当然センターフィを変える必要があります。
5.ドラック系の新しい物流の役割
物流機能の方向性は、営業数値の改善のために物流システムのみの改善に焦点を当てずに、店舗オペレーションの変更や商品取引の商慣習の打破などに重きを置き、物流センターと言う考え方から「MDセンター」と言う位置づけで顧客サービスを重視した物流機能の方向性を考慮することが重要です。 具体的には、各店舗は、商品をお客様に売るだけ、各店舗での必要な店内作業は、物流センターで一括処理することで店舗の販管費の削減に物流による寄与を第一義と考えることでした。店舗業務を最小にする役割が物流センターの責務として取り組む時代が目の前に来ているものと思われます。 ①生産性管理を基準にした店舗毎の物流センター内の最適な作業員割付(人員計算:人時生産性)と配置組み立て。②物流センターの入荷、センターの出荷(各店舗入荷)における先入・先出し(賞味期限順)管理。③必要配送車両台数の策定(配車支援):店頭納品ノー検品、過去の納品実績を加味した月水金、火木土のエリア配送、シフト(朝、AM、PM、夜間)毎のカゴ車台数から配送車両台数、配送費予算の策定。④自動化、無人化システムの導入:ロボット化、自動入出庫、自動ピッキング、流通加工の効率化、庫内自動搬送、店舗納品ラベルの自動作成・自動貼付、ケース品の自動検品、個口数(オリコン・ケース)の自動作成、配送エリア(コース)別自動仕分け,etcなど駆使して物流側の究極の生産性の向上の実現で、店舗業務は、顧客の対応(商品販売)、棚フェイスの設定、品出しのみで究極のミニマム化した販管費を実現するために店舗オペレーションの簡素化、合理化が物流部門側に求められています。店舗側の意を組んだ様々な店舗オペレーションと物流の融合が進むものと
思われます。一括物流(納品)センターと店舗の関係は、車の両輪の如く機能しなければ成り立たない役割(店舗を支える物流機能)に進化していくものと思われます。
6.店舗を支える物流機能を考える
ドラック系店舗は、大手、中堅を問わず、差別化が難しくなってきています。物流を通して本部、各店舗の事務経費、店内作業工数の省力化などを重要ポイントとして、販売管理費の削減を目指し、商品価格への転化などを第一に納品物流と店舗運営を一体化させ、物流部門を店舗効率化サポートセンターとして位置付けることが肝要です。具体的には、各店舗は、商品をお客様に売るだけ、各店舗で必要な店内作業は、物流センターで一括処理することで店舗の販管費の削減に物流が寄与することを一括物流センターの役割分担に繋げる方向性が強く出て来るものと思われます。勿論、労務の対価は店舗側から物流側に支払うことが大前提です。店舗オープン前納品(夜間、または早朝)、店舗オペレーションを簡略化するために店内通路(カテゴリー)とゴンドラ(什器)毎の納品形態(台車、荷姿)別の集荷により、顧客の買物の邪魔をしないように店舗オープン前に品出しを全て終えるようにすることで納品時間の短縮(改善)、品出し作業などの店内作業の効率化に寄与します。さらに、店内作業は、女性主体の職場であり、オリコン重量などを意識した女性向け職場づくりに取り組むことが肝要です。ユニットコントロールとしては、販促什器と販促物を各店舗にカゴ車にて同期配送することで店舗側の速やかな販促準備ができるようにします。店舗間商品の移動もゾーンエリアを意識したスピーディな作業ができるように店舗間移動システム(仕組み)の構築が肝要です。さらに、現金問屋が取り扱う商品(データなし納品)を手書き伝票で取り扱えるようにします。さらに、返品管理の煩わしい一切の作業(各店舗~一括物流センター経由~取引先)を一括物流センターが担います。さらに、取引先、並びに店舗納品の誤納品のミス率が目標の許容範囲(例えば3/10000以下)の場合は、ノー検品にするなどで作業工数の省力化を図ります。そこで、老若何男女、誰が作業してもミスを発生させないシステムづくりが肝要になってきます。さらに、店舗作業の基本的な取り組みとして店舗のPOS情報などを物流センターと共有し、高回転商品の自動発注(毎日発注・毎日納品)、該当商品在庫の維持管理。ラッピング販売の包装作業、特定商品の盗難防止シール、盗難防止磁気シールの添付作業、特売商品の皮むき作業などの一時加工作業などを物流側で担います。特に、前述しましたが高回転の在庫型(DC)アイテムは、発注から納品までのリードタイムを短縮すべく、毎日発注・毎日納品で予測発注を廃止します。通過型(TC)アイテムは、商品回転率の低い商品を取り扱います。一括物流センターは、DC/TC混合型でサービス性とローコストを享受することが第一義と考えます。そして、日本の悪しき慣習?である帳合制度の打破で、商品調達コストの削減(メーカーとの直取引の推進)にチャレンジするために在庫型センターとすることで、商品調達コスト(商品仕入価格)の低減、またDC型の商品構成を増やすことにより、納品リードタイムの短縮、キャッシュフローの改善を図っていくことができます。PB商品を一括物流センターに保管・管理することで本部(店舗)、並びに物流センターの調達コストの削減が図れますが、長期在庫にならぬように本部(営業)との密接な連携が重要だと考えます。また、店舗近隣住民への生活環境への配慮のため消音台車、ハイブリッド車の導入を配慮したいものです。情報サービスとして、店舗人時生産性計画を策定、納品物量に応じた各店の売り場作業人時(発注データの物量より策定)を割り出し、各店の人員計画に反映します。さらに、本部~各店舗、各店舗~各店舗間のメール便を物流センター経由、商品配送便で運航します。各店舗からの売上代金の回収(安全上避けたいとのドライバーの声あり)も工夫する必要があります。前述しましたが、作業工数の削減から自動発注システムの導入にも取り組みたいものです。先ず、季節指数の低い商品から実証実験(女性品、文具、家電、家庭用品など)を行いたいものです。定温商品管理にも力を入れたいものです。チョコレート、坐薬、ローヤルゼリーなどの低温が義務づけられている商品を品質保証することが重要です。売り上げに寄与すべく無店舗販売、特注品の受け付け、カタログ販売、etcの検討、さらに商品部・商談室、商品部・分室を物流センター内に設置、これは、取引先の増加、店舗数の増加に伴い、商品部の人員の増加と共に仕入先の利便性などの対応策を講じておく必要があります。そして、各店舗に情報提供している商品情報の作成を担う販促、企画室などを物流センター内に設置したいものです。それから、レジ袋、備品、貸与品などの物流センター内での保管管理を行い、店舗への配達などを集約したいものです。新店商品の搬入対策も怠りなく行いたいものです。重要なものとして、営業数値の改善があります。物流センターをMDセンター化するメリットを生かし、各店舗の生産性向上を目指します。さらに、納品時間と納品物量の確約で各店舗の人員の省力化を図ります。そして、店舗オペレーション(作業)の単純化、入社した社員、アルバイトなど、物流部門以外でも誰もがすぐに作業に取り組めるようにすることも必須条件です。また、一括物流仙田としても年末年始、棚卸時、トラブル発生時などの想定時以外に作業量がオーバーフロー(物量)するなどの緊急時に物流部門、店舗部門の相互協力として営業部門、商品部の社内体制を駆使できるようにしておくことが肝要です。
7.最後に。
日本では、高齢化がますます加速し、さらに若年層にも生活習慣病になっている人が増加しています。一般用医薬品の販売ルールの改定に伴い医療分野への注目が高まる中でドラッグ系が担う物流部門の役割は大きく社会的にもドラッグストア業界にも大きな期待が持たれています。消費者アンケートによりますと利用する際に重視するのは、年齢別にみると40代以下は利便性、50代以上では専門性を求める傾向が強いようです。若年層がドラッグストアを”コンビニ”感覚で利用し、高年齢層では、薬局とみなしているようでした。ドラッグストアは、従来のビジネスモデルから脱却し、地域密着の品揃え、ネット社会、少子高齢化の取り込み等々の独自の強みを生かした成長戦略が求められています。
その戦略は、利便性を強みとする「コンビニエンスストア型」、専門性を強みとする「専門特化型」、総合力を強みとする「オールラウンダー型」に大別されてきています。業界における今後の課題は、いかに市場の飽和や成熟化に対して、M&Aや独自のPB商品で事業規模の拡大を図っていくかです。そこで、物流部門も従来の早く、正しく、ローコストでの商品供給に加えて、ドラックストアのそれぞれの成長戦略に合わせた新しい店舗部門と物流部門が満足する相互協力(商品供給方式)の時代が来ています。さらに、高齢化時代の地域の弱者の身近な支援者薬を担って貰いたいと願っています。
以上
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