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グローバル・ロジスティクス

第319号 米国のロジスティクス動向 (2015年7月9日発行)

執筆者  吉本 隆一
(オフイス・ロン代表)

 執筆者略歴 ▼
  • 略 歴
    • 1980年法政大学大学院博士課程経済学単位終了。経済理論・財政論
    • 1983年から2005年まで(財)日本システム開発研究所。
    • 2005年から2013年2月定年退職まで日本ロジスティクスシステム協会、主幹研究員
    主な研究開発実績
    • 国際輸送システムの調査研究(基盤整備、パフォーマンス分析、国際陸送制度)
    • 物流情報システムの標準化・調査研究・技術開発(ITS、AIDC、輸配送システム等)
    • 公共事業整備に伴う社会経済的影響評価
    • 立体道路整備、道路一体型物流施設整備等の複合的事業手法開発
    • 物流拠点整備・共同配送等、物流効率化・高度化事業手法の調査研究等

 

目次


 

はじめに

  近年は、中国を中心とするアジア経済への関心が高い。しかし、我が国企業の海外売上高ではアジアの108兆円(2013年)に対して北米は74兆円、欧州は36兆円、合計110兆円規模(経済産業省「海外事業活動基本調査」2014年7月調査結果)を確保しており、今後の国際物流動向を検討する上で、依然として、三極経済の動向を無視することはできない。ここでは、最近の米国のロジスティクス動向を概観する。

1 社会経済動向

  世界経済は、リーマンショックからの順調な回復基調にあり、失業率も低下傾向にある。米国は、我が国同様に高齢化は進んでいるものの、年間100万人規模の移民と高い出生率を中心に年率1%程度の人口増が見込まれており、2025年には3億5千万人に達すると予測されている。日本や中国と異なり、生産年齢人口も増加が見込まれている。米国経済の基調は、この消費需要の回復、特に自動車販売や住宅需要の回復に支えられている。
  他方、米国貿易収支の改善に貢献するとみられたシェールガス生産は、2014年半ばからの原油価格低下に伴って、採算性が悪化し生産停止に追い込まれている。米シェールガス会社は、原油価格1バレル50ドル割れで採算性確保ができなくなるといわれており、昨年から、米シェールガス油井の閉鎖・生産調整が続いている。生産コストはサウジの3~4ドルに対して米シェールガスは60~70ドルといわれており、OPECは、米シェールガス潰しのための原油増産体制を保持している。

2 物流市場動向

  2011年の年間貨物輸送量は176億トンである(日本は49億トン)。貨物出荷量は、不況前の水準に回復した。米国では、貨物輸送トンキロにみる貨物量の推計は、近年行っていない。代替指標として旅客(自家用を除く)及び貨物の交通サービス指数を公表している。米国連邦運輸省が公表している交通サービス指標をみると、貨物輸送指数は、回復基調にあるものの、2000年以降、貨物輸送はGDPの推移よりも低い伸びを示しており、物量としての貨物輸送需要は低下傾向を示している(図1参照)。

図1 交通サービス指標(貨物指標)

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  また、リーマンショックに伴う輸送能力の縮小が行われ、その後の輸送量の回復に対して輸送能力の不足が顕著となり、輸送単価の上昇が見られ、輸送効率の向上が求められている(図2参照)。
  輸送能力の問題には、連邦自動車安全局(FCSA)による週運転時間の上限を削減する新しい労働時間(HOS)ルールの適用による影響もある。HOSルール変更の結果、輸送能力は2~5%減少し、生産性は2~10%減少すると見込まれている。この変更に加えて麻薬・アルコール検査と医療証明に関する新ルールの適用に伴い、有資格ドライバーの数はさらに減少すると見込まれている。ドライバーの新規採用や転職回避が難しくなっていることもあって、運輸業では約3万人のドライバーが不足していると見込まれている。

図2 貸切便(TL)需給動向

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  米国のCSCMP(Council of Supply Chain Management Professionals)が毎年公表している物流コスト調査報告書(第26回2015年版、2015年6月23日公表)をもとに米国の物流市場規模をみると、米国の物流コストの対GDP比率は、2014年で8.3%である。2007年の9.8%から2009年には7.8%まで低下したが、その後8%代に戻り、ここ5年間ほぼ横ばい状況にある。
  2014年の米国の物流コストは、1.45兆ドルである。CSCMPの物流コスト調査は、物流コストを、保管、輸送、その他管理費に3区分している(表1参照)。輸送費6割、在庫費3割の構成となっている。このうち保管コストは、我が国の保管費推計と異なり、在庫保有コスト(inventory carrying costs)を推計しており、在庫リスクコスト(陳腐化、盗難、損傷などによる損失)が含まれている。

表1 米国のマクロ物流費(2014年)

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3 西海岸の港湾紛争

  米国では、港湾と連携した鉄道によるインターモーダル輸送が有効に機能している。米国西海岸の港湾は米国の輸入の4割を担っており、最近では、我が国でも米国西海岸の港湾紛争の影響がみられた。各情報誌によると概要は以下のようになっている。
  港湾労働者で構成する国際港湾倉庫労働組合(ILWU)と海運会社などを代表する太平洋海事協会(PMA)との間で行われる米国西海岸の港湾労働者の賃金改定協議は、6年毎に行われ、2014年5月から開始された協議が紛糾・長期化し、2015年2月20日の新たな5ヶ年間の労働協約暫定合意によって終熄するまで、西海岸の29ヶ所の港すべてで週末、荷役作業が中断されていたが、9ヶ月間にわたる怠業(スローダウン操業)による混雑、滞貨の影響で1日約20億ドルの損失が発生しているといわれている。暫定合意以降も3月11日にオーランド港の荷役作業が1日停止した。港湾当局者は、貨物コンテナの停滞解消に6~8週間、正常化には数カ月かかるとの見通しを示している。2019年7月1日までの新協約は、一般組合員の投票(賛成82%)を経て5月下旬に合意された(5月26日、米国荷主協会ニュース)。
  2014年12月末時点でも10日程度の遅延が発生し、荷主の6割が東海岸経由の迂回輸送や航空便輸送を行い、暫定合意時点では、30隻以上の貨物船が海上で作業再開を待っていたようである。迂回の中心となるパナマ運河経由の東海岸向け海上運賃は上昇しており代替輸送網も十分に機能しない状況が見られた。C.H.ロビンソンのフォワーディング事業の例では航空貨物が2015年第1四半期で18.2%増加している。
  港湾の作業が滞った結果、単価が安く空輸などに振り替えにくい自動車部品、農作物や玩具、雑貨類などの輸送で大幅な遅れが出た。ジャガイモやトウモロコシ、リンゴなどが港から出荷できず腐ったほか、輸出用の肉が米国内で流通して値下がりするなど大きな影響が出た。米国の大手小売業は2015年の第1四半期の売上げは輸入品の不足に伴う減少が見られ、ウォルマートでは対前年比8.3%の減少となった。ホンダとトヨタ自動車の部品納入が遅れて米工場で減産したほか、日本でもマクドナルドなどのファストフードチェーンがポテトの販売を中断した。
  日本の11月の貿易統計では米国からの輸入が前年同月比3.3%減と6ヶ月ぶりに減少し、肉、野菜、果実、衣類・雑貨などが大幅に減った。米国への輸出も伸びが縮んだ。米国の2014年末の商戦では、小売り・ネット通販の大手は労使交渉による配達遅延の影響に備え、セール前倒しや在庫の積み増しで対応したようである。
  この結果、西海岸利用の代替ルートとして、スエズ運河経由や拡張工事中のパナマ運河の利用も再注目されている。ボストン・コンサルティング等の最近の影響評価(BCG報告書、Wide Open: How the Panama Canal Is Redrawing the Logistics Map、2015年6月16日公表)によると費用・時間の両面にみる総合評価で、ミシシッピー川流域地域の発着貨物を中心に、2020年までに東アジア・米国間コンテナ輸送の10%程度が西海岸利用から東海岸利用にシフトすると推計されている。

4 物流センター

  米国3PL市場は、2013年には1,464億ドル(A&A資料)と推計されており、リーマンショックから回復も早く、順調に成長し続けている。ただし、上位25社の過去5年間の売上合計は500億ドル以上減少しており、外部委託していたサービスの多くを荷主が内生化した影響を受けており、今後の成長は鈍化すると見込まれている。新規参入も多く、3PL事業者相互のM&Aも含めて競争の激化に伴う事業の再編成が続いている。
  米国のWarehouse Actは、農産物流通の安定性を確保するための農業倉庫を対象にした事業法であり、我が国のような包括的倉庫業法ではない。このため、倉庫業の概況は、統計上の定義及び調査会社の手法によって異なる数値が発表されている。米国センサスによる運輸倉庫業の州別集計をみると、2007年調査では個人営業などを含む総計(A調査)では約126万件、従業員を雇用している法人企業計(B調査)では約18万件となっている。
  その地域別分布は、カルフォルニア、テキサス、ニューヨーク、フロリダの4州で企業数の37%、事業収入の32%、雇用者数の28%を占めている。米国の倉庫施設は、ロサンゼルス・ロングビーチ港から東に広がる南カルフォルニアに集中しており、充実した交通基盤と豊富な労働力人口に支えられ、3PLが集積する「ロジスティクス・クラスター」を形成している。しかし、米国西部の物流拠点としての南カルフォルニアでは、その集積規模の大きさゆえに、高い土地代と交通渋滞に悩まされており、事業者は、南カルフォルニアに代わる代替地として費用対効果の高い別の地域を探し求めている。近年注目されている都市には、テキサス州のダラス/フォートワース、ネバダ州のリノ、ワシントン州の中心部にあるクインシー等がある。
  国内市場では、小売業の電子商取引市場の拡大が顕著であり、2014年には小売販売額の6%水準、2,370億ドルに達しており、2011年の4%水準から2ポイント増加している(米連邦統計局)。近年の電子商取引市場では、スマートフォン等のモバイル端末の利用が多くなっている。電子商取引市場の拡大の影響は、アマゾンの当日配送の促進に端的に見られる。この巨大なオンライン小売業の動向を受けて、最近の物流センターは、最良とはいえない業務環境や高い運営コストにも関わらず、カリフォルニア、ニューヨーク、ニュージャージのような大規模で主要な人口集積地に近接した地域へとシフトし、国内市場の大半の顧客への当日・翌日配送を実現しようとしている。急成長している電子商取引市場における多くの企業もアマゾンの動向を追っており、ニュージャージ、フロリダ、イリノイ、テキサス、カルフォルニアといった州での施設整備が進められている。アマゾンは4億ドルを投じて第4のフルフィルメントセンターをダラスに建設すると発表している。

以上



(C)2015 Ryuichi Yoshimoto & Sakata Warehouse, Inc.

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