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第420号 海外生産の在庫管理Ⅰ(2019年9月17日発行)

執筆者 山田 健
(中小企業診断士 流通経済大学非常勤講師)

 執筆者略歴 ▼
  • 著者略歴等
    • 1979年日本通運株式会社入社。1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、荷主向けの研修・セミナーに携わる。2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。
    • 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。中小企業診断士。
    • URL:http://www.yamada-consul.com/

 

目次

1.進む海外生産

  今回から3回に分けて、海外生産と在庫管理の在り方について考えていきたい。いまさら在庫管理手法というのもいささか気が引けるが、理由は日本の製造業の海外生産比率が着実に上昇している一方、海外生産においてこれまでの在庫補充、管理の理論をそのまま適用することには難があるからである。
  まずは海外生産の状況をみてみたい。


図表 1 我が国海外生産比率の推移(出所:経済産業省「第48回海外事業活動基本調査」)
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  図表1は直近10年間の海外生産比率の推移である。リーマンショック時に若干減少したものの、以降はほぼ一貫して上昇している。2017年の国内法人ベースの海外生産比率は25.4%、海外進出企業ベースでは38.7%である。ほぼ4割が海外で生産している計算になる。ただ、この数字はあくまでも国内法人全体の平均である。特定の産業に焦点を当てて別の視点かみると状況はまた違ってくる。


図表 2 主要製品の輸入浸透度(出所:財団法人家電製品協会「家電産業ハンドブック」、経済産業省製造産業局繊維課)
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  図表2は家電やアパレルなど、身近な製品の輸入浸透度である。
  電気冷蔵庫、ルームエアコン、電気洗濯機、電気掃除機など身近な家電の輸入浸透率は、おおむね65%~85%。早くから海外生産が進むアパレルは97%を超えている。
  ここで海外生産比率と輸入浸透度について簡単に説明しておきたい。海外生産比率は製造業の「現地法人売上高÷(現地法人売上高+国内法人売上高)」で算出される。つまり企業グループ全体売上の何割が海外での製造に依存しているかを示す。これに対し、輸入浸透率は「輸入量÷(国内生産量+輸入量-輸出量)」で算出される。国内で流通する対象製品の何割が輸入に依存しているかをあらわす。DVDや液晶テレビの輸入浸透率が100%を超えているのは、輸入した海外生産品の一部が輸出に回されて輸出量が国内生産量を上回っていることを意味する。
  極論すれば、おそらくを除けば身の回りの商品で国産品を探すことの方が難しい。

2.伝統的な在庫理論

  これほどまでに海外生産が進んだ我が国の産業において、はたしてこれまでの在庫理論は通用するのであろうか。ここで教科書に出てくる在庫理論を整理しておこう。


図表 3 発注点法による在庫管理
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  図表3は代表的な在庫管理理論である「発注点法の考え方である。
  発注点法は、あらかじめ設定した発注点まで在庫が減少したら、在庫補充を行う管理方式である。この際、発注してから入荷するまでの調達リードタイム中に出荷する量を予測し、入荷時にあらかじめ設定した最大在庫となるよう補充量を決定する。
  この方式により出荷と補充を繰り返していくことによって、在庫は図のようにのこぎりの歯のような軌跡を描いて増減を繰り返す。忘れてならないのは、平均的な出荷量に対し、予想以上に出荷した場合のバッファーとして一定の安全在庫を保有することである。適切な安全在庫を保有することで欠品の発生を最小限に抑えることができる。最大在庫という上限を設定することで過剰在庫の発生も防げる。


図表 3 発注点法による在庫管理
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  最大在庫、発注点在庫、安全在庫、平均在庫(適正在庫)などの算出式は図表4のとおりである。計算式を解説するのは本稿の主旨ではないので、詳しい説明は省略するが、ポイントは調達リードタイム中の「出荷日数」である。毎日出荷がある商品なら問題ないが、2日に1回や3日に1回など、間欠的に出荷される商品も少なくない。「出荷日数÷出荷可能日数」を乗じて、調達リードタイム中の出荷確率を加味することで過剰な発注を防ぐことができる。安全在庫の計算も同様である。

3.在庫理論は使えるか

  それでは海外生産品において、こうした在庫理論は有効なのであろうか。
  実は筆者自身、伝統的な在庫理論の一部に手を加えた理論を発信する機会も多かった手前、いささかばつが悪いが、結論からいえば海外生産品に在庫理論を適用するのは相当無理があると言わざるを得ない。
  最大の理由は調達リードタイムの長さである。そもそも在庫理論は調達リードタイムがせいぜい2~3日から1週間程度の国内生産品を対象としている。メーカーであれば製造リードタイムの短い食品や工場に在庫を抱える製品の流通倉庫、そして卸や小売りのようにオーダー翌日に納品される業界などである。いわば発注してから日数単位で調達が可能な製品である。
  これに対し、中国や東南アジアでの生産の場合リードタイムははるかに長い。たとえばベトナムのハノイから東京まで海上直航便で最短1週間程度かかる。これに生産リードタイムや輸出入通関などを含めると、発注から入荷までに2カ月程度かかることも珍しくない。
  現地の協力工場の生産ラインの稼働状況によっては、生産が発注通りにいかないこともある。SPA(製造小売り)のように専属工場でコントロールが可能な場合は別として、製造リードタイムがその時のラインの空き状況に左右されることが多い。また、輸送効率を上げるために、製造ロットを海上コンテナに満載できるよう調整することもある。
  このようにリードタイムが長く、調達ロットなどが不安定なため、発注点などを利用した厳密な補充はあまり意味をなさない。
  リードタイムが長くなると、調達リードタイム中の出荷のブレも大きくなる。保有すべき安全在庫量も増える。調達ロットが本来必要な量以上に増減したのでは、最大在庫を設定する意義も薄まる。
  厳密にいえば、調達期間が長くなると出荷のブレはプラスとマイナスで打ち消しあい、期間全体では少なくなるはずである。しかし、在庫理論では日単位での管理を基本としており、欠品を避けるためマイナスのブレもプラスとして計算している(2乗して√で戻している)。このため、出荷のブレが必要以上に大きく安全在庫に反映してしまう。

4.海外生産で頻発する過剰在庫と欠品

  このあたりの事情を、かつて筆者が関係した中堅オフィス関連用品メーカーA社の事例で紹介しよう。A社は、メーカーといっても国内生産は部品類などごくわずかで、8割以上の製品を中国やベトナムなどの協力工場への委託生産に頼っている。
  A社では、前項で指摘したとおりの在庫管理上の課題を抱えていた。過剰在庫と欠品である。次々と入荷する製品在庫が倉庫の通路まであふれ、入出荷作業もままならない。一方で欠品も少なからず発生しており、顧客からの深刻なクレームを招いていた。欠品といっても、在庫配置場所は作業担当者の記憶頼りでロケーション管理も行われていない状況では、在庫が本当にないのか、見つからないだけなのかの判別もつかない。誤出荷も少なくない。
  海外生産による製造コスト低減によって価格面での競争力はあるものの、このままでは現場オペレーションをはじめとした物流が足を引っ張って顧客離れを起こす可能性があることは明白であった。
  原因は、発注担当者の無計画な製造発注にあった。在庫計画は、前年の出荷実績をもとに、経験と勘によって作成していた。欠品や過剰在庫への関心もそれほど高くはない。
  これに、生産、物流および販売の慣習が複雑に絡み合う。生産面では、協力工場がこまめな小ロット生産を歓迎しない傾向にあるため、担当者レベルでは販売動向と直接関係しない大ロットでの発注をしがちであった。また、一般的に輸出地での船積みが代金決済の条件であるため、協力工場は生産したら極力早期に船積みをして代金回収をしようとする。国内の倉庫が満杯だからといって、輸出地での在庫保有も難しい。
  物流面では、海上コンテナの積載率を上げて単位当たり輸送コストを低減させるため、必要以上のロットでの発注を行う傾向もみられた。たとえば本当に必要な量が40㎥であった場合でも、海上コンテナを満載にするため7㎥の製品を追加してしまう、といった具合である。
  国内の商慣習もやっかいである。納品先である大手の販社やネット通販会社は欠品による販売機会損失を極度に嫌う。一部のネット通販では、独自に算出した販売予測数値を示し、それに対応できる在庫保有を要求する。仮に予測数値通りに在庫が確保できずに欠品を起こせば重大なクレームとなる。その一方で予測通り販売されなかったといっても、在庫を引き取ってもらえるわけではない。この商習慣のもとではA社の営業マンは欠品を何よりも恐れて在庫を厚めにもとうとするのは当然である。A社内でも欠品に対する発注担当への風当たりは強くなる。
  こうして、生産、物流、販売のどの側面をとっても在庫を減らそうとするインセンティブは働かず、むしろ、ひたすら在庫を増やす仕組みとなっている。その結果が倉庫の混乱である。
  これらを短期間に一気に解決する方法は残念ながら見いだせない。出血している患者には止血をしなければならないように、優先すべき課題、すぐに実行できる課題から手を付けていくしかない。
  A社の場合、まずは早急に在庫を減らして(適正化して)、倉庫への在庫吸収と在庫スペースの確保、まともな作業を行うための最低限のロケーション管理の実施、が急務であった。

5.客観的な需要予測と適正な調達計画の作成

  在庫適正化に向けて実施すべき第1は「客観的な需要予測」である。こういうと、「需要予測なんて当たるわけがないのでやるだけ無駄だ」と反論されそうである。たしかにある面ではその通りであるが、では「やるだけ無駄」かというと実はそうでもない。「やり方」によってはそれなりに意味があるし、精度は上がっていく。
  需要予測が「当たるか、当らないか」の視点だけで評価すれば、たしかに無駄かもしれない。そうではなく、予測した数値が「どれだけ外れたか」「それはなぜか」を検証して、次の予測に反映していくことが重要なのである。その意味からむしろ需要予測に対する考え方を根本から変えて、「需要予測は外すためにやる」と考えた方がいい。
  そして、はずれ具合とその理由を検証するためには、需要予測を客観的な手法にもとづいて行わなければならない。経験と勘だけで行っていたのでは、なぜその予測数値が算出されたのか、なぜはずれたのかを検証しようがないからである。
  在庫適正化への第2は、「適正な調達計画の作成」である。客観的な需要予測の結果をもとに、まずは本当に必要な量、必要な時期を「適正に」算出して調達計画を作成するのが基本である。その上で、その量、その時期に調達できない原因、理由があればそれを追求、明らかにしてその解決策を考え実行していく。すぐには解決できない場合は、極力望ましい条件で調達できるようさまざまな調整を行う。この活動の繰り返しで調達計画の精度が上がっていく。
  いわばこの2つは、適正在庫を実現するための基盤を整備しようという取り組みである。基盤となるべきは、客観的に得られた数値に基づき、一定の手法で導き出した数値でなければならない。
  もちろん、高価なソフトなどを購入すればこうした対応はそれほど難しくはないのかもしれないが、一部の企業を除きなかなかハードルは高い。精度は高くなくても、もっと簡易的に誰でもできる方法も必要であろう。
  そこで次回から、筆者が実際に手がけたEXCELによる需要予測と調達計画作成のための簡易的な手法を紹介していきたい。

以上



(C)2019 Takeshi Yamada & Sakata Warehouse, Inc.

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