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グローバル・ロジスティクス

第120号2010年までの中国に於ける物流動向を占う(2007年3月20日発行)

執筆者 岩見 辰彦
東京倉庫協会 専務理事
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1940年(昭和15年)生まれ
    • 1963年(昭和38年)慶應義塾大学経済学部卒業と同時に三井倉庫株式会社入社
    • 東京、大阪、福岡、北九州の国内営業所勤務を経て、国際部へ転任、1985年‐86年 米国駐在員としてニューヨーク勤務、帰国後、 国内業務を経て再び国際部勤務となり、1992年‐93年 中国駐在員として第1回目の上海勤務、93年-99年の間は、国際輸送事業部並びに役員付、営業部に所属、1999年‐2001年6月まで再度の上海勤務を経て、定年退職し現在は東京倉庫協会専務理事。
    所属団体など
    • 日本貿易学会会員、日本物流学会会員、国際商取引学会会員
    著書
    • 『中国税関実務マニュアル』成山堂書店出版
    • 『最新 中国貿易・税関実務の詳細解説&実践マニュアル』日本能率協会総合研究所

  中国は、2006年から第十一次五ヵ年計画に入り、2006年後半に部門別の計画要綱を出すに至っている。多くの計画内容は、一口で言えば“量”から“質”への転換を目指していると考えられる。全体をカバーする「国民経済と社会発展の要綱」の中では、その重要任務として、

1. 国として優先する領域と重点区域への財政政策の強化
2. 省エネ型と環境にやさしい社会の建設の奨励と中国ブランドの創造並びに税収政策改革
3. 国として集中して行う重点領域と重点区域への投資政策の強化
4. 対外貿易と外国投資利用では、産業の更なる強化と改革並びに重点領域と重点区域への産業政策の強化
5. サービス産業の発展の更なる促進
6. 対外貿易の成長方式を転換し、貨物貿易、サービス貿易政策を強化する
7. 外資利用の質の向上を図り、外資政策と管理政策を強化する
8. 中国企業の対外進出戦略を促進し中国の対外投資政策を強化する

があげられている。

  物流面では、中国が成長を続けていることは衆目の一致するところであろう。もっとも、“物流”という言葉が一般化したのはせいぜいこの10年程度であり、それまでは“物流”と言う言葉はほとんど使用されていなかった。“ロジスティクス”と言う用語が浸透するに伴い、この言葉を示す用語として、“物流”が浮上したわけである。ちなみに、ロジスティクスを中国語に置き換えれば“兵站”と言うことになり、これでは実態を示すことにならない。それはさておき、成長率については“物流”数字そのもののベースがこれまで低かったことから、成長“率”が高いのではないかと言う見方もあろうが、中国側の分析では物流総額の成長は2010年まで年平均16.7%程度の成長を続け、額としては2010年には約90兆人民元(約1350兆円)と2005年と比較して倍増するとの予想がなされている。

  しかし、現状の中国物流のボトルネックはどのようなものであろうか?

  一つには、供給力が依然として不足していることである。例えば、1991年から2005年までの間、貨物運送量の年平均成長は10%前後に過ぎない。

  二つには、物流コストがGDPに占める割合がいわゆる発展国家のそれと比較して高いことである。中国では18~19%前後であるが発展国では10%前後とされている。最もこの点については、中国の地理的条件が欧米と比較して厳しいことは無視出来ない。

  三つには、中国の物流規模は相当に大きいが物流総費用は却って低いことである。例えばアメリカでは貨物の総運送量は158億トン(2002年)であったが、同時期の中国と比較すると僅かに6.7%多いだけである。しかし、物流総費用面では9100億ドルで、これは中国の3.3倍と言われている。2004年でもアメリカの物流総費用は1兆150億ドルで中国の2.8倍である。このことは、物流業務に於ける付加価値が依然として低いことを意味している。

  以上のことは、物流活動の水準が未だ低く、現代の高頻度・多品種或いは小ロットの流通形式に対応することが依然として難しいことも表している。
  第十一次五ヵ年計画に於いては、現代物流業務を全力で発展させる具体的な計画と目標を示している。即ち、「現代物流の管理技術を広め、企業内部の物流の社会化を促進し、企業の物資購買、生産組織、製品販売とリサイクルのシステム化のオペレーションを実現する。専門的な物流企業を育成し、3PLを積極的に発展させる。物流の標準化体系を作り上げ、物流の新しい技術の開発を強化し、物流の情報化を推進する。物流インフラの整合性を強化し、大型の物流ハブを建設し、区域性の物流センターを発展させる」とされている。

  インフラ整備の面から見れば、

1. 港湾の整備は、先ず、石炭・石油・鉱石などの基幹物資の専用埠頭建設とコンテナ埠頭の建設の促進である。具体的には、秦皇島、唐山、天津等の石炭バース、大連、青島、寧波等の原油バースの建設と改造の促進であり、上海、天津、青島、深圳、広州、アモイ等のコンテナーバースの整備とフィーダーポートの整備である。一方で、三峡ダムが稼動した長江を“黄金水道”と位置付け、内陸の河川水運を進め、長江航路と港湾の連係を強化する。
この結果、例えばコンテナー取扱量は2005年の約7600万TEUから2010年には、1億TEUに達するとの予想がなされている。
2. 高速道路面では、2010年までに2.4万キロの建設を進め、総延長キロは6.5万キロに達し、これにより中国の高速道路の基本的な骨組みが完成し、中国の高速道路網計画では、更に今後の30年弱以内に北京を基点とする7路線、東西を縦断する18路線、南北を縦貫する9路線、総延長が8.5万キロを目指している。
主要区域、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀地区では都市間高速道路網を形成し、また、高速道路と主要コンテナー港域とのアクセスの充実も図ることも目指している。

  これらを実現する為に、中国は、“全国現代物流発展部隊全体会議”と称する機構を組織し、中国全体の物流発展に対する意見統一を行い、更に同様の組織を各省レベル等へも拡大し、これまでの縦割り体制、地域的な閉鎖性を打破し、現代物流の発展に必要な総合的な管理体制とメカニズムを形成しようとしている。このパイロットプランは、これまでの過積載取締りに於いてある程度実践されていると筆者は見ている。
  また、物流産業への参入のハードルを下げ、多元的な投資ルートを通じて、中国国内と外国の資本が物流インフラへ参入することを促進し、鉄道、港湾、複合輸送等のマルチな物流接続ポイントを強化し、一方で物流園区、物流中心、物流情報プラットフォーム等の公共サービスの充実も支援して行くこととされている。特に情報化は先進国と比較して中国の物流業に於いては著しく立ち遅れている部門であり、国が率先して取組む必要があると認めている。

  当面の課題は、どのように具体化して行くかであり、この為には企業の登記の簡素化、財政或いは税収面の優遇、公共料金、乱収費に象徴される正当とはいえない費用、北京、上海等大都市圏の市街地へトラック乗り入れ規制問題等々は喫緊の問題とされている。
  物流の向上は中国の国民経済発展にとって重要な地位を占めるに至っている。物流が滞ることは、即ち、物資等の流通が滞ることであり、その結果として、農村部と沿海部の格差は更に拡大し、一方で、沿海部にはエネルギー不安をもたらす結果となる。特にエネルギー問題では、鉄道輸送、沿海輸送の占める地位は大きく、エネルギー輸送を優先せざるを得ない実情から、コンテナー輸送を含む一般貨物の輸送が後回しにされる事態が、現実に2006年に発生している。

  これらについては中国政府も十分に把握している点であり、それ故に“物流”がクローズアップされ、今後の更なる発展が期待され、また、実現する為の新たなステップを中国が踏み出している。

以上



(C)2007 Tatsuhiko Iwami & Sakata Logics, Inc.

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