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グローバル・ロジスティクス

第217号グローバル展開のチェックポイント(2011年4月7日発行)

執筆者  吉本 隆一
(公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所 所長 主幹研究員)

 執筆者略歴 ▼
  • 略 歴
    • 1980年法政大学大学院博士課程経済学単位終了。経済理論・財政論、PPBSを専攻。
    • 1983年から2005年まで(財)日本システム開発研究所。
    • 2005年から現職
    主な研究開発実績
    • 公共事業整備に伴う社会経済的影響評価
    • 立体道路整備、道路一体型物流施設整備等の複合的事業手法開発
    • 物流拠点整備・共同配送等、物流効率化・高度化事業手法の調査研究
    • 国際輸送システムの調査研究(基盤整備、パフォーマンス分析)
    • 物流情報システムの標準化・調査研究・技術開発(ITS、AIDC、輸配送システム等)

 

目次


 

はじめに

  リーマンショック後の経済再編や円高の進行に伴って、改めてグローバル展開が求められ、生産・物流各分野での統廃合や業務提携等が話題を呼んでいる。企業のグローバル展開は、1980年代後半における米国への工場進出を契機に、冷戦体制崩壊後の中国やASEAN地域への進出から見ると、大手企業では、すでに20年の経験の蓄積が見られる。最近では、進出国が拡がり、国際経済特区立地から国内市場への展開、地元企業との連携へと展開している。他方では、今更ながらグローバル展開上の悩みや中国からの撤退例も聞かれる。このため、本稿では、欧米企業のグローバル展開の常識を教科書的に紹介したい。

1 グローバル展開のための基本的な業務の流れ

  貿易の本をみると、一般には、商品の売買なので、図1のように、輸出の場合は、相手国における市場調査を行い、その後は、輸出に必要な銀行口座や輸送手続きに入るという流れが紹介されている。

図1 国際取引の基本的な流れ

  他方、相手国への生産立地の場合には、図2のように、現地での企業設立から運営までの流れになる。一般に図2のような場合には、欧米への進出時では関連サービス業も充実しているのでお任せになり、中国や東南アジアへの進出では、経済特区や日本の海外援助で整備された工業団地での、いわば特別扱いの立地が中心であった。そこに付随して参加した物流事業者の役割も日本企業支援のフォワーディングサービスが中心であった。いわゆる生産コストの低い国への立地である。

図2 海外生産の基本的な流れ

2 戦略策定のための情報収集

  しかし、現地市場への展開になると状況は、様変わりする。欧米企業では、1990年代初頭の進出当時から、中国を将来の巨大な消費市場として見ている。ユニリーバの例でみると、同社は第二次大戦前の1923年に上海に石鹸工場を設立し、「サンライト」や「ラックス」の名前は当時よく知られていたが、その後、1986年に上海リーバを設立して再度進出する際には、しっかりした市場調査を行っている。リーバの石鹸ブランドの認知度や生活スタイル、あてにならない人口データの見直し、消費支出構成等を独自調査し、人口集積度の高い都市を対象として工場の立地選定している。それでも、その後、P&Gに圧倒的なシェア差をつけられ、厳しい競争に直面し経営戦略を見直すことになる。
低コストだけを頼りに立地展開する場合とは、基礎調査の水準が違う。本来、何をするにも情報が重要であり、敵を知り、己の正確な位置づけを知ることのない情報なき戦略が国も企業も敗退に導くことは、遠い昔から指摘されていることであるが、大名暮らしをしているとこういった基礎が忘れられがちである。今やインターネットを通じて必要な情報のかなりの部分を入手できる。問題は言語力や情報収集のセンス、活用の方法である。情報収集の目的や方法は図3のように整理できる。事業所統計がない東南アジアの国でも電話帳ウェブサイトの検索で産業集積の程度を確認できるし、事業所展開の規模で地元の大手企業がどこであるかと確認できる。その上、海外での電話帳ウェブサイトはURLや電子メールアドレス付きなので日本国内より情報収集にもコンタクトをとるにも便利である。一般情報については日本の場合、政府やJETROの提供情報が充実している。

図3 情報収集の枠組み

3 事業展開のチェックポイント

  外国へ工場立地し事業展開するには図4のような基本項目をチェックしておく必要がある。ただし、国や商社の支援を得て経済特区内工業団地等の立地を経験すると、こういった基本ノウハウに対する判断が安易になりがちである。一般の国内展開やローカル企業、地方政府との交渉・協議ノウハウは大変な労力を要する作業である。また、意外な盲点であるが、周辺住民感情もリスク管理の面では重要である。ある自動車部品メーカの社長は、立地選定にあたって広大な敷地の取得にあたって、地元農民の強制立ち退きの上で整備されたことを聞いて当該団地への立地を断念しているが、立地選定における賢明な判断基準の一例である。

図4 グローバル展開のチェックリスト

  中国でいえば、会社設立の関係では会社法はじめ21本の主要法規があり、土地および工場建設関係では土地管理法はじめ最低9本程度の主要法規を確認する必要があるし、環境保護、税務関係、労働契約法等の労務関係、契約法や商標法等の会社運営関連法規等をチェックする必要がある。国内での企業設立同様に、どこの国でも運用の詳細は、その道の専門家に委ねることが必要になる。そうすると、信頼できるコンサルタントや相談相手をどうやって探すかが最も重要になる。
  しかも、低コスト国の場合でも、工場立地で大変なことは資材費や製造設備は、極めて高くつくということである。ユニリーバ傘下のアイスクリームメーカ、ウオールズの北京工場建設の例では、都心から南へ車で30分の工業団地に敷地面積52,000㎡の工場を建設(50年リース)したが、建設費は管理棟で1㎡当たり1千ドルを要し、生産棟で1㎡当たり1500ドルから2000ドルを要している。さらに機械設備は134万ドルに達している。上海工場は、都心から60kmの距離にあり、敷地64000㎡で、建設総額3750万ドルを要している。
  そのうえ、従業員に対して品質管理教育を徹底したはずにもかかわらず、冷凍倉庫の現場に行ってみると、老人が機械の横に座って、規定温度まで下がると電源を切り、限界温度まで上昇すると電源を入れる作業をしており、品質管理よりも電力費の節減が優先されていたといった問題もあった。
  同様に、流通網の整備にあたってはアイスクリーム販売用のワゴンがないので1台600ドルのワゴンを購入し(上海で14200台)、販売業者に無償提供したが、専用の利用契約にもかかわらず、中身は野菜や他の食品の販売に利用されていたという問題も生じた。運用の改善、そのための人づくりが重要なのである。
  また、運送費は、1995年当時に、ローカル業者の利用で1運行1890元、1km13元から15元であった(現在1元は12円)。ドライバーの人件費は1週8時間・5日間で1700元を支払っていた。冷凍コンテナ輸送での破損等の輸送品質問題のために、1996年には、TNTとの契約に変更したが、そこでは実費+間接費8%、利益10%を支払っている。さらに車両免許関連では予告無しの制度変更に伴って、1995年には年間6回も登録料を支払っている。
  工場従業員は、北京で正規雇用100名、夏期の季節雇用250名前後であり、季節雇用は1996年頃で月400元、ライン管理者で月600元から800元、大卒管理者で1500元、大学院卒で2500元前後といった水準であり、季節工は次期に再雇用される場合に1000元の奨励金は支払われ、その結果85%が再雇用されている。

4 現地化のための人づくり

  グローバル展開のための人づくりには、本来は、中小企業の社長として起業する際に必要なノウハウの全ては必要になる。さらに、国内とは異なって、現地語の会話力や理解力に加えて、必要な情報を収集し、事業展開に必要なパートナー探しや地元企業、行政機関との交渉力も必要になる(図5参照)。

図5 現地管理者に求められる資質

  さらに、人件費が安い国といっても、現地での実務処理ができない日本人管理者をたくさん配置していれば収支が悪化する。このため、可能な限り早い時期に現地化することが必要になる。現地化にあたっては、相手国でのノウハウのスキル評価や教育訓練システムの内容などを把握し、職業能力評価基準をもっておく必要がある。さらに、現地化した後の日本本社との関係では、利益還元の仕組みを含めた管理指標が必要になり、同一基準でみるための会計手法やデータ処理方法の正規化が必要になる(図6)。
  グローバル展開にあたっては、こういった幅広い視点から各社の人づくり、相手国の人づくりのための足元を固めていくことが問われているといえよう

図6 現地化と管理手法のポイント

以上


(C)2011 Ryuichi Yoshimoto & Sakata Warehouse, Inc.

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