ロジスティクス・レビュー

第407号 宅配危機は物流コスト上昇につながるか?(2019年3月7日発行)

執筆者 久保田 精一
(合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表 / 城西大学経営学部 非常勤講師 / 運行管理者(貨物))
    執筆者略歴 ▼

  • 著者略歴等
    • 熊本県出身
    • 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒
    • 1995~1996年 国土交通省系独立行政法人
    • 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所)
      産業振興、物流等の調査業務を担当
    • 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所
      物流コスト、物流システム機器等の調査業務を担当
    • 2015年7月 独立

目次

  

1.はじめに

  物流コスト上昇の流れが依然として続いている。宅配業界で始まった運賃値上げは他のトラック業界に波及し、さらに最近では鉄道貨物の値上げにも及んでいる。この動きがいつまで続くのか、どの程度の値上げが起きるのか、実務上も非常に関心を呼ぶところである。しかしながら物流コスト上昇の定量的な分析はあまり行われておらず、特にネット上で入手可能な情報は、定性的な記事や個別企業の事例紹介に留まるものが大半である。そのような現状を踏まえ、本欄でも約1年前に物流コストの動向に関する記事を掲載した(注1)が、状況変化が急であることから、改めて最近の動向を確認しつつ、宅配危機に始まったこの動きがどのように展開するか、今後の見通しを考えてみたい。

注1:第377号 物流コストはこれからどうなるか (2017年12月7日発行)
https://www.sakata.co.jp/logistics-377/

2.荷主への影響

  物流コスト上昇の一義的な問題は、産業界全体にとってのコスト上昇がどのような影響を及ぼすかである。そこでまず、荷主業界への影響を見てみよう。
  なお荷主にとって物流コストの増減は、売上高に対する物流コスト比率の変動を通じて影響を及ぼす。もちろん中には数量当たりの物流コスト単価など、他の指標を重視している企業もあるが、やはり経営管理上重要なのは、利益率を翌接的に左右する「売上に対するコスト比率」である。よってまずはその推移を確認する。
  売上高物流コスト比率の推移のデータとしては、日本ロジスティクスシステム協会の「物流コスト調査」など利用可能なデータが幾つかあるが、ここでは前回に続いて経産省「企業活動基本調査」における「荷造運搬費」の売上に対する比率を見ることとする(注2)。なお、同調査は執筆時点では2016年度のものしか入手できないため、直近となる2017年度の動向は明らかではない。この点は後ほど企業の財務データで補足することとする。
  図表1は業種大分類別の推移であり、製造、卸、小売の動向を示したものである。このうち、卸売業においては上昇の傾向が見られるものの、産業規模としては圧倒的に規模が大きく、産業全体の傾向を代表すると言える製造業については、ここ数年目立った変化がない。
  さらに、製造業を生産財系と消費財系に分けて主要業種の推移を整理したものが図表2である。常識的には内需産業である消費財系の製造業の方が物流コスト上昇の影響を受けるはずだが、いずれも大きな差は見られない。
  このように現状では製造業の物流コストは依然として低位安定傾向と言えるが、このような傾向となる理由としては、製造業は卸や小売と比べると大ロットの幹線輸送が中心であることが挙げられる。すなわち製造業の物流は輸送効率がもともと高く、売上に対するコスト比率も相対的に低い。そのため、コスト上昇の影響を受けにくい構造だと言うことである。これに加えて、産業規模の大きい生産財や輸送用機器等では(米中対立の影響が予測不可能だが)目下のところは輸出が堅調であり、売価を引き下げるデフレ圧力が低く、このため、売上高に対するコスト比率が上がりにくいことも重要なポイントである。

注2:1年程度の短期間での推移を確認するには誤差が少ないこと、すなわちサンプル数が多いことが必要であり、その点で同調査が利用しやすいためである。ただし対象は物流コスト全体ではないことに注意が必要。

図表1 売上高に対する荷造運搬費の比率の推移(業種大分類)


図表2 売上高に対する荷造運搬費の比率の推移(製造業)

3.意外と安定しているコスト比率

  このように製造業では(統計上、少しタイムラグがあるが今のところ)コスト比率はそれほど大きく変動していないと思われる。ただし物流コスト上昇の影響が出やすいのは、小ロット・多頻度配送など物流サービスレベルの高いその他の業種である。その代表格は通販であり、激しいコスト上昇圧力に晒されているのは周知の通りである。その他の分野で特にコスト上昇圧力が強いのは、国内消費のデフレ傾向とサービスレベルの上昇圧力の影響を直接受ける消費財系の卸売業である。実際上記の統計でも卸売業のコスト比率はやや上昇する傾向が見られている。
  そこで消費財系の卸売業について直近の状況を確認することとしたい。具体的には上場企業の開示資料から物流コスト関連の費目を抽出し、売上高に対する比率の推移を整理することとし、このようにして作成したものが図表3である。ただしこれを見ても、コスト上昇のはっきりした傾向は見られない。限られたサンプルではあるものの、直近の2018年3月期にはすでにトラック会社から値上げ要請が行われていたはずだが、むしろ低下している企業もある。
  これは一例だが、このように比較的物流コスト上昇の影響が多いと思われる業種であっても、物流コスト比率への影響が顕著に表れる段階に至っていない。その背景には、次に述べるように、トラック運送の元請け各社の値上げが遅れ気味であることも影響していると思われる。

図表3 上場卸売業(食品、日用品等)の物流コスト比率推移
※各社有価証券報告書より作成。
※PALTACは「商品売上高」に対する比率。また、同社は2015年度にセンターフィーの計上基準を変更している。その他の企業でも会計基準変更の影響がある場合がある。
※有報に費目別の開示がない企業などは除外した。

4.トラック運賃の動向

  そこで次に、トラック運賃の動向を確認して行くこととしよう。
  物流コストの過半は輸送コストであり、そのほとんどはトラック輸送である。よって物流コストを一義的に左右するのはトラック輸送サービスの単価、すなわち運賃の動向である。なお前回の記事でも述べたとおり、輸送サービス単価について入手できる信頼性の高いデータは少なく、ここでは日銀の「企業向けサービス価格指数」をもとに整理することとする。
  図表4は、当該統計における主なトラック輸送関連のサービス価格(単価)の推移を示したものである。
  一見して目を引くのは宅配の値上げだが、これについては説明の必要もないだろう。なお、2017年度に大幅な値上げを行ったヤマト運輸に続き、日本郵便も追随して値上げを行ったほか、2018年度に入って以降もヤマト運輸を始め各社が運賃適正化交渉を継続している。よって当面、このトレンドが継続すると予想される。
  さて、宅配以外の「積合せ」「貸切」運賃の値上がりはやや緩やかであるが、うち貸切運賃は年率では2%程度の上昇が起きている。なお貸切運賃の値上げはスポット市場が先導しており、ウェブKITなどスポット市場の運賃の上昇率はこれを大きく上回っている。
  もう一方の「積合せ輸送」は路線便大手が牽引する業界であり、本来はトラック全般の動向を左右するコア領域であるが、(図からも伺われるとおり)値上げの動きはやや遅れ気味であった。直近の動向はマクロ統計では説明が難しいため、個別の企業事例から見ていこう。例えば西濃運輸を傘下に持つセイノーHDは、2017年度下期の運賃について前年比で2%程度の値上げに留まるとの見通しを示すなど(注3)、2017年度中は目立った値上げを実現できず、運賃交渉が難航していた企業が多かったようである。しかしながら、足下では人件費など運行原価が上昇を続けていた。このままでは採算割れとなる恐れもあったことから、2017年度末から各社とも本格的な値上げへと踏み出している。
  同じくセイノーHDについて見て見よう。同社は開示資料で輸送原価や単価の推移を公開しているため、それをもとに単価等を整理したものが図表5である。これを見ると2018年度第一四半期に値上げの動きを加速させており、前年比で8%程度の大幅な値上げを実現していることが分かる。

注3:日経2017/12/27「企業間物流も値上げ 福山通運10% 西濃2%」

図表4 各種輸送サービスの価格(単価)の推移

資料:日銀「企業向けサービス価格指数」
図表5 セイノーHDにおける単価、原価等の推移
資料:セイノーホールディングス開示資料より。原価の対象は「輸送事業」セグメント。
※傭車料等は、正確には傭車料・取扱手数料・外注費。端数調整のため小数点以下の値が異なる場合あり。

5.当面の値上げの見通し

  このように、路線便大手では値上げの動きが強まりつつあるが、しかし、トラック会社の立場で見るとこの値上げ幅でも十分とは言えない。同じ表から同社の輸送原価の推移を見ると、人件費(3.4%増、2018年3月期)、傭車費(同6.0%)を中心に大きく上昇している。一方、2017年度の値上げ幅が相対的に小さかったことから、2年トータルの値上げ幅は原価上昇を吸収する程度に留まっている(なおこの間、物量自体は減少していることに注意)。
  なお路線便中下位の企業はセイノーよりも値上げの動きは緩慢だが、原価上昇の影響はどこも同じであり、同じく大幅な値上げを迫られていると考えて良いだろう。本稿執筆時点(2018年8月時点)では統計に表れるほどのサービス価格の大きな上昇は見られないものの、このような状況を鑑みると、2018年度下期から値上げが波及し、トラック輸送全体で平均5%程度の(あるいはもっと高い)単価上昇が実現することもあり得るだろう。

6.今後の見通し

  以上で述べたのは概ね年度内の見通しだが、さらにそれ以降の見通しはどうだろうか。
  これは、①荷主への料金交渉が進展するかどうか、②原価の上昇がさらに進むかどうか、という2点にかかっている。
  まず荷主への値上げ交渉についてであるが、最近の値上げにより荷主の抵抗が強まっていることから、荷主の離反を抑えつつ同時に値上げを実現するのは容易ではない。そのため、値上げを実現するにはトラック会社にとって売り手優位の状況が続くことが必要であり、すなわち足下の貨物需要が堅調で、トラック不足が続くことが望ましい。
  これは②の原価の上昇が続くかどうかにもリンクしている。原価上昇の最大の要因はトラック不足であるから、貨物輸送の需給が緩和すれば、原価上昇圧力も緩和されるはずだからである。
  なお需給の見通しは困難だが、常識的に考えれば、貨物輸送の需要は全般的にやや緩和する方向に向かう可能性が高いと思われる。本稿執筆時点ではGDPは比較的堅調に推移しているものの、国内需要は一進一退である。中でも物流への影響が大きい建設投資は、賃貸住宅(貸家)向け投資が最近マイナスに転じるなど減速傾向が明らかになりつつある。オリンピック向けの公共投資が一段落する2019年度下期には、消費税の10%への増税がほぼ確実であり、それ以降の貨物需要は、楽観視できない状況である。
  これをトラック会社の立場から見れば、値上げの猶予期間はあまり残されていないと言うことも出来る。トラック運賃は多少値上がりしたと言っても、やはり適正な労働条件でドライバーを雇用するには不十分な水準にあることは疑いがない。値上げが受け入れられる社会的・経済的状況はそれ程長く続かないのであれば、その間実効性のある取り組みを進めるべきであり、荷主としても運輸業界の生産性向上を側面支援することで、物流の効率化と両立する道を探るべきであろう。

以上



(C)2019 Seiichi Kubota & Sakata Warehouse, Inc.


このページのトップへ戻る