ロジスティクス・レビュー

第406号 物流戦略の立案(2019年2月19日発行)

執筆者 平野 太三
(有限会社SANTA物流コンサルティング 代表取締役社長)
 -物流改革コンサルタント Dr.SANTA-
    執筆者略歴 ▼

  • 主な経歴
    • 昭和61年 甲南大学法学部卒業
    • 同年 ユーザックシステム株式会社入社
      物流担当システム営業として100社を超える物流現場分析に携わる。
    • 平成12年 Dr.SANTAのネーミングで物流コンサルティング(物流コスト削減、物流指標の作成、物流サービス向上、物流プロジェクトの運営)を開始。
    • 平成15年にユーザックシステム株式会社を退社後、有限会社SANTA物流コンサルティングを創業。
    • 講演回数年間50回。(講演受講者数10000人突破)
    所属団体
    • 日本物流学会正会員
    主な論文、著作
    • 「3ヶ月で効果が見え始める物流改善【現状把握編】」(㈱プロスパー企画)等
    • 包装タイムス、物流ニッポン、マテリアルフロー等で「Dr.SANTAの物流講座」の連載を行う。

目次

1.物流拠点戦略

  販売戦略は恐らくすべての企業でたてていると思うが、販売戦略をもとに物流戦略を立案している企業は非常に少ない。その結果、行き当たりばったりの物流になってしまい、「売上増に伴い倉庫数が増加して物流効率が悪化」「物流社員の育成ができていないためベテラン社員が抜けてしまうと物流が滞る」ということになるのである。今回は物流戦略の重要性を認識した上で、その進め方を解説したい。

①物流の問題点の洗い出し

  私は過去3000カ所を超える物流センターを訪問してきたが、その経験則で申し上げると、物流の問題は改善が進んでいる企業でさえ100個、改善があまり進んでいない企業では400個以上は存在する。その問題を明確にした後、現在の物流センターでも解決できる問題かどうかを判断する必要がある。現時点では物理的な制約条件があるため、新センターに移転して大きな物流コストダウンが図れるのであれば、移転も選択肢のひとつと考えられるからである。

②物流目標の設定

  物流は可能な限りデータ化しなければならない。物流改革の手順の中で最も重要な要素のひとつは効果検証である。当初に立案した改善計画は非常に良いが、時間がたつにつれて徐々に形骸化している企業は驚くほど多い。データ化ができれば改善前と改善後の効果検証ができる。時系列でチェックもできる。仮に予想していた効果が出ない(もしくは、低下した)場合、「改善策が悪いのか」「改善策は良いが実行できていないのか」「当初守られていたルールが徐々に守られなくなっているのか」を見極めることができる。この様に検証を行わなければ問題の見直しをすることができないのである。
  データ化の例としては、「過剰分在庫金額(目標在庫を超えた在庫金額の集計)」、「欠品金額&欠品アイテム数」、「ピッキング作業効率(行/時)」、「物流クレーム率(クレーム件数÷月間出荷行数)」、「残業人件費」、がそれにあたる。物流プロジェクトでデータ化をした上で、期間内(例えば半年後)の目標設定を行い、随時進捗チェックをすることになる。

③物流能力の検証

  今の物流センターは1日最大の出荷がどこまで対応できるのか事前に検討をする必要がある。まず、売上計画に基づき在庫計画を決める。商品別に在庫保有日数目標(例:20日分の在庫日数目標)を設定すると、適正在庫数が計算できる。しかし、倉庫全体の在庫増減と在庫容積の増減は正比例しない。かさばる商品が多ければ在庫数が同じでも在庫容積は大きくなるからである。よって在庫容積で考える必要がある。縦横高さのサイズを計測する考え方もあるが、商品によりパレット積みの高さが微妙に違うためサイズ計測に時間がかかる割には正確な値が出ないという問題がある。ここではパレット入数(1パレットにバラがのっている総数)の考え方で考えることにする。
  商品マスタにパレット入数を登録し、在庫データから在庫パレット数を算出する。一方で、現倉庫の保管方法毎(パレット積み、重量棚、手積み、棚等)に最大保管容積(すべてパレット換算)を計測し、目標在庫容積(最大保管容積×70~80%が基準)を算出しておく。この様な手順で、保管効率(現在庫パレット数÷目標在庫パレット数)を算出する。
  更に、商品カテゴリ別の保管スペースが算出できるので、おおまかな商品カテゴリ別に在庫予算容積が設定できる。倉庫に入らない場合は、外部倉庫を使用しておくことも明確にできる。ただ、全社的には保管容積だとわかりにくいため、商品カテゴリ別の在庫金額目標に再計算することが多い。
  次に入出荷予定物量と目標作業効率をもとに必要なのべ人数が算出できる。時間帯別の入出荷量を設定し、終了時間(運送会社の集荷時間であてはめる場合が多い)までの時間帯別の人員配置を計算することになる。業務毎にこれ以上人を増加すると逆に1人当たりの作業効率が悪くなる場合もある。この様にして物流作業能力を見える化する。

④配送の検討

  物流センターの場所により、集荷ができる運送会社が決まってくる。仮に物流センターが移転した場所が、運送会社の営業所が少ない場合は競合の論理が働かなくなり運賃が高くなる可能性もある。また、集荷時間も早くなることもあるのでよく事前検証を行う必要がある。国内の主要運送会社をリストアップし、自社の出荷形態にふさわしい運送会社を決める。現状の運送会社と比較検討をすれば、運送会社の改善の可能性が見えてくる。

⑤物流戦略の立案

  中期販売計画をもとに、中期物流計画を立案する。前述した様な手順で事前検討をしているから、今の物流センターでの限界が見えてくる。物流として考えられる複数案を出して、物流コストの比較表を作成するのである。

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  少なくとも物流拠点戦略は、物流センター移転の3年前までに検討を終了し、物流担当役員が役員会に提出することが望ましい。
  もうひとつ注意しないといけないことがある。移転する物流センターの近隣にどの様な物流センターがあるかどうか、時給の相場がどうなっているのかのチェックが必要だ。自社が非常に恵まれた物流環境であれば良いが、環境が悪ければ(例えば、熱い、ほこりっぽい、力が必要、勤務時間が長い、物流の雰囲気が悪い等)、時給を上げないと人が集まらなくなる。事前に相場を検討して欲しい。

2.物流システム

①社員比率の適正化

  企業は可能な限り無駄な物流コストを削減する努力が必要である。それを実現するためには、「社員比率を適正化」「作業効率の向上」の2つの視点で検討する必要がある。
  業種業態や企業規模によって違うが、適正な社員比率になっていない理由が教育方法の問題や、業務の標準化が原因であれば改善が可能である。比較的よく聞く改善策としては、わかりやすい教育マニュアルの作成がある。マニュアルは作っているが、最新版に更新されていないということも多い。また、マニュアルはあるが、新人にとってはわかりにくいマニュアルも多い。その企業しか通用しない言葉、文字の羅列でイメージがわかりにくいマニュアルであれば新人の即戦力化は難しい。教え方が人により違うということもよく聞く。この様な問題であれば、「画像入りのわかりやすいマニュアル」「教育方法の見直し」を考えればよい。動画マニュアルも効果的だ。
  しかし、業務の習熟が必要であれば、物流システムの検討は必要である。商品の置き場所を覚えなければ早く出荷ができないため社員が必要なのであれば、ロケーション管理システムが有効である。この様に社員が必要な理由を業務別に羅列し、物流業務を標準化して、出来るだけ社員は物流管理業務を行う人員体制を考えていくのである。

②作業効率の向上

  作業効率が上がらない理由として、前述した標準化(習熟度により作業効率が変わる)があるが、評価制度も大きな原因である場合が多い。物流センターでは全く同じ業務であっても作業スピードは2~3倍違うことも多い。作業スピード差が大きくても時給が同じであれば早く作業をしようとする意欲もなくなる。社員よりパートの方が早い物流センターは珍しくない。社員の給料が3倍違うのであれば不満がたまる。そこで、企業に貢献しているパート(早く、ミスが少なく、勤務態度がよく、協調性がある。急に休まない)であれば、その貢献度によって評価する必要がある。ただ、数値化しなければえこひいきをしていると思われるため、作業効率を可視化するシステムが必要である。可視化してそのデータの公正さを証明(例:同じ条件でデータを抽出)できれば、段階的に評価制度に結びつけていけば良いのである。企業に貢献しているパートを評価すれば意欲が向上し更に作業効率が上がる。遅い人は何故遅いのかを原因分析し、具体的にアドバイスをすれば作業効率が上がる可能性が高い。
  この様に物流システムは、物流管理ができる企業にとっては必須アイテムである。この物流システムも検討をした上で、物流戦略を考えた方が良い。

以上


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