第360号 ロジスティクスが社会に果たす役割:品質保証システムを機能させる(2017年3月21日発行)
執筆者 | 野口 英雄 (ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表) |
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目次
- 1.社会構造が大きく変化している:制度のアンマッチ
- 2.社会システムの劣化が進む:偽装・不法等の横行
- 3.マーケティングとロジスティクスは両輪:そこに品質管理を機能させる
- 4.品質管理を再構築し変化に対応する:経営としての役割
- 5.アウトソーシングは重要な位置付け:品質要求と品質保証の連鎖
1.社会構造が大きく変化している:制度のアンマッチ
非正規雇用がもはや4割近くに達し、社会の貧困・経済格差が歴然としてきた。労働とは時間単位で切売りするような形態になり、品質管理や生産性向上の在り方等は大きく異なってきているに違いない。人手不足が恒常化し雇用状況が好転してきているとはいえ、その基本は非正規雇用であることに変わりはない。とすればサプライチェーンシステムを構築する上で配慮すべき事柄は多いはずで、特に品質保証システムを強化し、少なくとも問題をシステム内部で食い止める措置が不可欠となる。
また少子高齢化という危機感が叫ばれた時代から、人口減という顕在化した困難に突入しつつある。脱デフレとして物価上昇目標にこだわり、異次元の金融緩和と豪語する金融緩和策では既に効果は得られないことも明らかだろう。当然市場は縮小し、マーケティング政策も大きな方向転換を余儀なくされている。時として顧客を見失った施策で失敗するケースも散見される。どんな時代になっても、ビジネスは顧客起点であることに変わりはない。
更に産業構造は(図表1)に示すように、モノ中心からサービス・ソフト分野に大きくシフトした。最新統計でGDPに占める各産業分野の構成比を見ると、一次・二次産業はもはや全体の25%程度であり、低下傾向が著しい。これに対し残る三次産業は増加の一途を辿っており、ここがもう産業の中心である。サービス・ソフト分野では主な顧客が消費者としての人であり、それを提供する側も従業員としての人で、ここではその感性が問われる。それを実行するシステムは顕業としてのマーケティングとロジスティクスであり、その中で品質保証としてのチェックシステムが重要になる。ところが至る所でアンマッチが生じており、それがミス・トラブルに繋がっている。
2.社会システムの劣化が進む:偽装・不法等の横行
もはや大きな経済成長は望めなくなり、社会システムの劣化が進んできている。人々の生活を向上させるのは経済とばかりに優先策が講じられているが、量的側面だけでは乗り超えられるものではないだろう。(図表2)に示すようにそれは偽装・不法の横行であり、経営のコンプライアンスやガバナンスに由来するものが目立っている。これは優れて経営の課題であり、その責任の下にシステム再構築が求められていると言えるだろう。
それらを経営の不具合と考えればそれを発生させている原因を探り、そのプロセスを改革することで顕在化させないようにすることに尽きる。そして万が一それが社外に流出しても、顧客の手に渡るまでに食い止めるという方策を考える。中間流通を起用する場合等は、企業間連鎖管理として機能する仕組みにする。早い話がサプライチェーン・マネジメントの品質管理の問題であり、これを中核技術として位置付けるべきである。
日本企業の高い競争力の一時代を築いた品質管理やその方法論としての小集団活動は、もう陳腐化したとして見向きもされない。官製談合等の不祥事を起こしている建設業界もかつてはその保守的体質を打破する体系として全社的品質管理(TQC)を導入し、その成果としてのデミング賞を競い合った。しかしそれが不充分であったことが露呈した。問題は極めて深刻かつ困難であることは言うまでもないが、再挑戦しなければならない。
3.マーケティングとロジスティクスは両輪:そこに品質管理を機能させる
顧客不在のマーケティングや、ロジスティクスはアウトソーシングとして丸投げされることによりミス・トラブルが顕在化する。前者が顧客に対する市場の創造と位置付ければ、後者はそれを商品として具現化し、市場に供給する活動である。それは(図表3)に示すように車の両輪であり、どちらが上位・下位という関係ではない。ところが前者は企業としてのコア業務だが、後者はアウトソーシングという流れである。それを決して否定するものではないが、委託側のコア業務が充分ではないケースが見受けられる。
ロジスティクスの要諦は情報を駆使した計画と統制であり、その中核業務が需給管理である。つまり経営マネジメントそのものであり、これを外部に委託することは基本的に不可能である。情報とは例えば需要予測や、在庫のリアルタイム把握である、在庫は実数だけではなく、その状態等も含まれる。これが外部化できるとすれば標準化された業務の一部であり、明確な管理基準を示しそれを環境変化に合わせメンテナンスすることが委託側の責任である。この場合マーケティング施策との連動が必須であり、それが不充分であれば全体システムが正しく機能しない。
アウトソーシングはコストを削減し変動費化させる手段として有用であるが、単位機能を外注化させるのとは訳が違う。委託する側には必ずコア業務があり、その実施状況をチェックし管理外になれば修正する責任がある。ところが殆どがアウトソーサーへの丸投げであり、ミス・トラブルが発生すれば相手に責任だけが転嫁される。アウトソーサーの選択もコストが最重要であり、品質管理力は二の次になりがちである。その業務委託契約も包括・変動的なものが多く、受託側の業務設計や採算確保は極めて難しい。
4.品質管理を再構築し変化に対応する:経営としての役割
品質管理の基本は当たり前だが顧客に品質を保証することであり、企業間に跨る場合は連鎖管理が前提となる。それには凡そ次のような原則がある。
(品質管理の基本) | ||
・源流管理 | :品質が低下するような企画を行わせない | |
・工程管理 | :工程で品質を作りミスを出さない | →原因追求と再発防止 |
・品質保証 | :品質要求と品質保証の繰り返し | →次工程はお客様と考える |
・対象項目 | :品質の三要素 | →質・コスト・納期 |
・管理状態 | :PDCAサイクルを回す | →その軌跡が業務標準化(マニュアル化) |
これらを実行する上で全ての従業員の参加が不可欠であり、その運動論が重要である。その一つの手段が小集団活動であるが、それで問題が解決する訳ではなく、経営としてのリーダーシップが必要となる。経営業務改革と並行させ、変化への対応として位置付けることが重要である。
(運動論としてのポイント) | ||
・データ収集による動機付け | :事象を定量化・可視化 | →人に訴える、改善への手掛かり |
・トップダウンとボトムアップ | :現状打破型と維持型 | →小集団活動だけでは限界 |
・業務標準化に繋げる | :システム化に繋がる | →情報システム開発の前提 |
・経営としての方針管理 | :目標と方針を示す | →シミュレーション、実行可能性の検証・手当、危機管理と連動 |
サプライチェーンで顕在化する悪さをそのシステム内で食い止める方策を考え、顧客に影響を及ぼさない仕組みや活動を再構築する。具体的な管理目標を設定し、管理状況を定量化し改善への手掛かりとする。もちろん企業間連鎖が前提であり、業務委託契約としてそれを具体的に位置付ける。業務不作為に対しては責任分担がデータにより評価され、場合によってはペナルティーが科せられる。
5.アウトソーシングは重要な位置付け:品質要求と品質保証の連鎖
今日的な経営にとってアウトソーシングは極めて有用だが、アウトソーサーにとってそれを3PLビジネスとして確実なものとするには多くの条件整備が必要となる。不公正な商習慣打破もその一つである。前提としてはまずロジスティクスと物流では次元が異なり、多くのリスクが伴うことを共有化しなければならない。またロジスティクスでは危機管理が必須であり、これは双方の努力が伴わなければ完結しない。顧客との接点を担当する物流業界は重大な役割を分担していると言える。
アウトソーサーの選定は一般的にはコンペで行われるが、単純な横並び比較で結果としてはコストが最大の決め手となりがちである。しかし安かろう悪かろうでは顧客の評価は上がらず、品質も重要な要素となる。委託した業務工程にどのようなチェックシステムがあり、経営トップがどのように関与しているかも見極める。品質管理は企業にとって重要な要素技術であり、それが脆弱であればこの困難な状況に立ち向かうことはできない。
ロジスティクスが社会へ重要な役割を果たすために、このアウトソーシングという形態を厳密に考えていく必要がある。物流業務では伝統的に外注が行われてきたが、このアウトソーシングというレベルでは未だ課題が多く、とりわけ品質管理が重要である。モノ周りという目に見える管理ではなく、サービス・ソフトという無形の商品を提供する業務ではその評価も難しく、これを如何に可視化できるかが基本である。データ収集はもちろんITの進展で本格的な機能が用意され、その活用により可能性は飛躍的に向上している。
以上
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