第18号中小ネット通販業者に次なる発展のためのロジスティクスサービスを(2002年10月23日発行)
執筆者 | 久米 信行 久米繊維工業株式会社 代表取締役社長 |
---|
目次
1.はじめに~中小ネット通販事業者の新たな悩み
日本の電子商取引における隠れた有力プレーヤーは、中小ネット通販業者の数々であろう。実物店舗を営む個人商店や、中小製造業、卸売業が、新規の販売チャネルをインターネットに求めている。
もちろん、既に、インターネット上には同業者がひしめき、集客力、販売力の競争は厳しい。この第一のハードルを越えられずに、途中で断念するプレーヤーの方が圧倒的に多いのが現状だろう。
しかし、運良く、インターネット上で、それなりの認知と支持を受けられても、次なる発展段階に進もうとした途端に新たなハードルが待ちかまえている。生業・家業から事業に、新規事業から中核事業にしようと考えた途端に、これまでの「コストのかからないネット通販」の調和を乱す「本格的な投資」が必要になり、専門の人員、組織が必要になるのである。
その中でも、大きく問題になる場合が多いのが、ロジスティクスの問題である。これは裏返せば、ロジスティクス業界にとっては、ニッチで新しいニーズ=ビジネスチャンスとも言えるだろう。そこで、弊社の体験や、ネット通販業を営む縁者から聞いた話を踏まえて、中小ネット通販業者が次なる発展を図るために、必要なロジスティクスサービスを考察する。
2.中小ネット通販事業者ロジスティクス7つの悩み
先日、元気な中小ネット通販業者、300社以上が参加する、オンラインショップマスターズクラブ(http://www.osmc.ne.jp/ 以下OSMC)代表で、合資会社逸品(http://www.ippin.com/) 代表取締役でもある森本 繁生氏の話を伺う機会があった。同会は、事業者間で知識とサービスの共有をめざす協同組合的な互助組織である。そこでも、特に、商売繁盛の兆しが表われつつある会員事業者ほど、ロジスティクスに関わる悩みを抱えているとのことである。
悩み1)配送作業で一日追われてしまう。
最初は、小売店を経営する合い間に、ネットで受注して商品配送手配も自前で行っていたが、いずれ「商店主なのか商品配送係なのかわからない」ほど、一日中配送作業に追われてしまうという。これは個人商店主のみならず、弊社のように、もともとメーカーで、卸売主体だった事業者も同じ現象に見舞われる。とにかく、受注=発送1件あたりのロットが1/10、1/100で、件数だけは、どんどん増えていくために、これまでの配送業務とは似て非なるものになるのである。
悩み2)保管場所、作業場所がない。
特に個人商店の場合、もともとは店頭在庫+αで軽い気持ちで、ネット通販をはじめたケースが多い。しかし、注文が増えるうちに、またリクエストに応じて商品バリエーションを広げるうちに、保管場所が問題となってくる。さらには、アソート、梱包、送り状貼付などの作業場所も必要になる。在庫資金も必要になる上、倉庫を新たに借りるとなると、今までの「今ある資産の有効活用」による「超ローコスト通販」とは、様相が変わってしまう。
悩み3)常勤担当者を雇うほどでもない。
さらには、配送専門の担当者を雇うと、たとえパートを活用するにしても、倉庫代に加えて、ますます固定費がアップしてしまう。売上が増えても、帳尻を合わせると、利益は増えていないという悲喜劇が起きるかもしれない。また、今まで経験しなかった、パートの労務管理や、効率測定の問題に、手間取ってしまうかもしれない。
悩み4)受注の波が大きい。
新たに倉庫を借りたり、配送担当者を雇うのに躊躇するのは、一年中安定して受注があるような商品を扱っていない事業者であればなおさらである。旬があるような農産物、お酒、漬物、バレンタインデーや母の日などのイベントの時だけ売れるチョコや花、弊社で扱うTシャツも典型的な季節商品である。こうした、季節変動は、今までの事業でもあったのだが、特にネット通販では、極端に大きくなりやすい。
悩み5)運賃が高いが値切れない。
先の「楽天」の料金制改訂=売上に応じた課金に反対した業者が多かったのは、一般に利益率が低いからであろう。むしろ、決済コストや配送運賃の方が、比率が大きいのではないかと揶揄されるほど、運賃が高い。しかし、中小事業者のロットでは、寡占化が進む運送業者に対して運賃を値切るのは難しい。
悩み6)システムで囲いこまれる。
送り状発行システムや、代金引換システムの活用で、業務を効率化しようとすると、結果的に、どこかの宅配業者に囲いこまれてしまうことになる。しかも、そのシステムは、受発注からシームレスにつながっているような便利なものではない、部分最適アプリケーションである。その使い勝手に我慢しつつ、高い運賃にも我慢することになる。
悩み7)在庫管理まで手が回らない
忙しくなるほど、客数、アイテム、受注件数が増えて、日常業務に追われてしまう。そして気が付かないうちに、不良在庫が増えてくる。本来なら、鮮度管理、死に筋管理に気を配り、弾力的にお薦めメールや値引きをすべきであろうが、それをサポートするような在庫管理、販売支援システムがない。
3.7つの悩みを解消するロジスティクスサービス
こうした悩みを解決するには、中小ネット通販事業者向けの新しいサードパーティロジスティクスが必要になる。
前記の「悩み1~3」までならば、シンプルなアウトソーシングサービスで良いかもしれない。しかし、最終的に、クライアント事業者の商売繁盛、すなわち、ロジスティクス業者の商売繁盛を保証するのは、「悩み4~7」の解決であろう。
現に、OSMCの有力業者には、大手通販業者の配送センターの一角に商品在庫を置かせてもらい、そのサービスを活用しているという。しかし、まだ、個別に間借りという段階のようだ。
これからは、むしろ、主体的に、ロジスティクス業者の方から、相乗効果を生む複数の事業者を見出して、パッケージで提案をしてはどうだろうか。季節変動のフェイズが異なる、ピーク時の収納スペースや、配送頻度が似かよった事業者に対して共同でアウトソーシングをすることを勧めるのである。
その集積によりスケールメリットを出し、ロジスティクス企業が、現在、既に、大規模事業者向けに提供しているような半ば枯れたサービスを行う。当たり前の在庫管理やピッキングシステムはもちろんのこと、配送地別運送業者最適化システムで、さらに運賃を下げることもできよう。さらに、前述の通り、鮮度管理のスクリーニングで、不良在庫になりそうな商品を自動的にピックアップし、マークダウンを促して、その更新内容を顧客にHTMLメールで発送するようなサービスも欲しい。こうしたロジスティクスとマーケティングを結びつけるアプリケーションの提供も、次世代のロジスティクス事業者に、そしてネット通販事業者に不可欠だと考える。
一日もはやく、こうした、中小ネット通販事業者、商売繁盛支援ロジスティクスサービスが出現することを切望している。
以上
(C)2002 Nobuyuki Kume & Sakata Warehouse, Inc.