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第247号グローバルビジネスに向けた人材育成の課題(2012年7月5日発行)

執筆者 吉本 隆一
(公益社団法人 日本ロジスティクスシステム協会(JILS)
JILS総合研究所 所長 主幹研究員)

 執筆者略歴 ▼
  • 略 歴
    • 1980年法政大学大学院博士課程経済学単位終了。経済理論・財政論、PPBSを専攻。
    • 1983年から2005年まで(財)日本システム開発研究所。
    • 2005年から現職。
    主な研究開発実績
    • 国際輸送システムの調査研究(基盤整備、パフォーマンス分析、国際陸送制度)
    • 物流情報システムの標準化・調査研究・技術開発(ITS、AIDC、輸配送システム等)
    • 公共事業整備に伴う社会経済的影響評価
    • 立体道路整備、道路一体型物流施設整備等の複合的事業手法開発
    • 物流拠点整備・共同配送等、物流効率化・高度化事業手法の調査研究

 

目次

はじめに

  本稿は、ロジスティクスレビュー第217号(2011年4月7日発行)掲載の「グローバル展開のチェックポイント」のフォローアップ版である。主に現地スタッフ育成の基本的ノウハウや課題を紹介する。ロジスティクス分野でもグローバルな人材育成の遅れが指摘されているが既存の教育訓練組織では講師・教材ともにいまだに十分に対応できていない。他方、日本企業は、製造業も小売業も1980年代からの積極的な海外展開をふまえ、中国市場を含めた新興国での教訓をもとに著しく成長している。本稿では、そういった事例をふまえて、グローバルビジネス展開に必要な人材育成手法のポイントを紹介したい。

1.海外展開と人材育成

  急速なグローバル化に対応するために、荷主も物流事業者も、後発大手になるほど、経験の少ない海外での事業提携や吸収合併を急ぐことになり、現場のオペレーション管理を中心とする人材育成や物流品質の確保を後回しにして、事業展開を対外発表することに焦る企業が多くなる。また、人材育成には時間がかかるので、ヘッドハンティングで人材を確保し、会社の経営理念や運営ノウハウを知らない人材が代行することになる。

また、中国やASEAN地域では、欧米大手も含めて、最初は相手国で全国ネットワークを有する最大企業をパートナーとして選定することになる。最大手と提携するといえばリスク回避も顧客営業も社内稟議も通りやすい。他方、相手国の最大手企業は、日本の特定企業を相手にするわけではなく、国内向けにも1社で全てを管理できないので多くの関連協力企業のネットワークに依存しており、本社と現場管理の実態には大きな乖離がある。欧米大手の中国進出企業の例でも、管理運営の実態や協力会社の能力が見えるようになると、2000年代には、大手企業を通さず、情報処理や車両管理の現場に強い企業ネットワークを直接管理する方式に転換しコスト削減している例が多く見られるようになった。

現地スタッフの人材育成に関する失敗例は日本企業だけでなく、欧米を含め韓国企業でも数多く報告されており、韓国企業のベトナムでの例で、韓国人スタッフによる労働現場での指導がストライキを引き起こし、結果として高い賃金アップにつながった例もある。

2.ファミリーマートの海外店舗展開

  日本企業でも長年にわたる海外展開を行ってきた企業では、すばらしい人材育成を行ってきた例がある。ファミリーマートは国内よりも海外店舗数が多いことで有名であるが、そこでは現地合弁企業との連携を活かし、本社のスタッフによる適切な指示を得て我が国のコンビニエンスストアの仕組みを移植し、中食等の難しい調達・販売ネットワークを構築してきている。その特徴は図1のとおりである。この過程で現地事業展開を支える100名もの専門家を育成し、海外への事業展開を迅速に展開できるようになっている。

図1 ファミリーマートの海外店舗展開の特徴

資料:ファミリーマートHP、「パンパシフィック構想」及びインタビュー、木暮剛彦、
ファミリーマート海外事業本部長補佐、「ファミリーマートはアジアで、
新しいレベルに進化を遂げる、コンビニエンスストアという『仕組み』そのものを輸出する」、
日本経済新聞電子版特集、http://ps.nikkei.co.jp/ibmsolutions/

3.現地スタッフの類型

  ここでは、現地スタッフの人材育成の枠組みや課題について、テキサス大、ペン教授の「グローバルビジネス」の概要を紹介することとする。現地スタッフといっても本社から派遣する場合と相手国企業のスタッフを育成する場合がある。これに第三国の出身者を加えると図2のようなタイプがある。本社からの派遣は、本社の意向をふまえた管理には最適であるが人件費コストの面と現地とのコミュニケーション確保に制約がある。現地スタッフの育成は、地元住民への商品販売のような現地事情に即した対応が可能になるが、時間がかかるという制約がある。ただし後者の方が長期的には有効である。

図2 現地企業スタッフの類型

資料:Mike.W.Peng(テキサス大),Global Business,2010
国際版第2版(米国・カナダ非売品),south-Westin,Cengage Learning,

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

4.現地スタッフの役割

  現地スタッフの役割は、図3のように、戦略策定から日常の業務運営管理、現地政府や企業との交渉、部下の指導育成まで非常に多岐にわたり、専門能力と共に、幅広い見識、柔軟性、積極性といった異なる文化環境での高い適合能力が必要とされる。

図3 現地スタッフに求められる役割

資料:Mike.W.Peng(テキサス大),Global Business,2010
国際版第2版(米国・カナダ非売品),south-Westin,Cengage Learning,

5.グローバルビジネス展開に必要なノウハウの枠組み

  海外への事業展開に必要なノウハウは、制度だけでなく、特に現場に近いほど、労働慣行や文化、宗教、価値観の違いをふまえたインフォーマルなコミュニケーションギャップの解消・対応が重要になる。こういたノウハウの全体像を「グローバルビジネス」の目次構成で概観すると図4のような内容からなる。このようなノウハウを各国事情に即して身につけるには長い実務経験と試行錯誤が不可欠である。

図4 グローバル・ビジネス展開のポイント

資料:Mike.W.Peng(テキサス大),Global Business,2010
国際版第2版(米国・カナダ非売品),south-Westin,Cengage Learning,

6.現地スタッフの選任

  現地スタッフの選任には図5のような条件を満たす必要があるが、実際には、国内業務経験の豊富な30代、40代では家庭や子供の教育問題もあって動きにくいことが多い。また、中国やASEAN地域では、就任希望者自体が少なく、国内スタッフだと新人か50代の管理者かのいずれかになることも多い。このため、家庭環境に十分配慮し、給与待遇や昇進モチベーションを含めた配慮が必要不可欠になる。

図5 現地スタッフの選任基準

資料:Mike.W.Peng(テキサス大),Global Business,2010
国際版第2版(米国・カナダ非売品),south-Westin,Cengage Learning,

7.現地スタッフの能力開発の課題

  現地スタッフの能力開発は、グローバルビジネスの基本であるが、欧米も含めて多くの企業で本社からの派遣スタッフの訓練・能力開発は不十分なまま基礎的な英語力を頼りに派遣しているのが現状である。本社スタッフの海外事業展開の語学力や専門能力育成は不可欠の課題であるが、長期的視点での取組が必要である。そこには図6のように、現地での待遇だけでなく、帰国後のキャリアへの接続や給与・報償制度等のモチベーション付与の課題もある。

他方、現地スタッフの育成にあたっては、折角育成したスタッフを競合他社に引き抜かれるといった競争環境があり、給与等の待遇改善を転職で満たすジョブホッピングが一般的な雇用環境があり、自社の教育訓練の成果を奪われることが多い。また、現地では教育訓練機会が少ないので、指導スタッフには教材その他十分な準備が必要とされる。

さらに、現地の労働慣行や生活習慣に十分配慮した指導育成が必要になる。コミュニケーションギャップは、一方的な指示をする姿勢ではなく、現地労働者の意向や不満内容を把握する姿勢があれば解決する問題である。また、本社スタッフには、欧米を含め、先進企業の事例や経験、失敗例を謙虚に学んで自社のスタッフ育成に反映する日常的な活動が求められているといえよう。

図6 現地スタッフの能力開発の課題

資料:Mike.W.Peng(テキサス大),Global Business,2010
国際版第2版(米国・カナダ非売品),south-Westin,Cengage Learning,

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

以上



(C)2012 Ryuichi Yoshimoto & Sakata Warehouse, Inc.

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