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第241号GS1の自動認識標準の動き(2012年4月5日発行)

執筆者 森 修子
(一般財団法人流通システム開発センター 国際部 GS1グループ 上級研究員)

 執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 2005年より財団法人流通システム開発センター勤務
    • 国際部GS1グループにて、GS1の自動認識(各種のバーコードおよびバーコードに
      符号化される識別データを扱う)関連の標準化活動、GS1仕様書出版チームに参画
    • GS1の自動認識関連戦略チームメンバー
    • 自動認識のうちバーコードシンボルに関わるISO/IECの国内委員会、社団法人日本自動認識システム協会シンボル委員会、その他の標準化関連委員会に参加

 

目次


 

GSIの自動認識標準の動き

  自動認識のトレンドは、「データの多様化、データキャリアの大容量化」であることは疑いない。JANコード(商品識別コード)およびJANシンボルに代表される、サプライチェーンの効率化のための国際標準であるGS1標準においても、標準を利用する業界の広がりや、そのサプライチェーンの高度化に伴い、標準バーコードで使うことができるデータ項目も少しずつ増え、容量の大きいデータキャリアの活用が進みつつある。一方、「世界中で誰もが使える標準」がどうあるべきか、については、さまざまな課題も浮かび上がり議論が始まっている。
本稿ではGS1における最新のバーコードやバーコードに記載するデータにまつわる標準化の状況および、今後の課題について紹介する。

1.多様な情報、バーコードは大容量化

  アメリカで最初にPOSでUPCシンボルに表示された12桁の商品識別コードが読み取られてから40年近くが経過し、食品や日用雑貨などのサプライチェーン・マネジメントにおいて商品識別コード(GTIN)と、これを表現するバーコードの活用が業務に不可欠となっている。バーコードは「情物一致」を実現するための手段である。現在は、商品識別コードに加え商品の明細情報(何らかの日付や、ロット番号その他)もバーコード化したいという要求が高まっている。特に、ヘルスケアなどの特定分野においては、シリアル番号を利用して製品のユニークな識別(一意に特定すること)も行おうという動きも各国で出始めている。また、商品以外にも、場所や物流パレット単位、物流容器、文書、輸送単位、サービスのなどを識別するコードの使用のニーズも各地で大きくなっている。
GS1ではバーコードにさまざまな情報項目を表現するためのデータの記述ルールを「GS1アプリケーション識別子(以下、AIと略称)」として標準化している。このAIで規定するデータ項目も少しずつ増加しており、上述のように、商品識別コード(GTIN)や場所や組織の機能を識別するコード(GLN)、通い箱やパレットなどのリターナブルな物流容器を識別するコード(GRAI)などもある。さらに、商品の属性情報を表現する情報も、日付のみならず、時間まで表現できるものが登場するなど、高度化が進んでいる。
また、AIを表現するバーコードも、当初はGS1-128のみであったが、その後GS1データバー、GS1合成シンボル、GS1データマトリックスなどの2次元シンボルも追加された。また、用途が限られるものの、後述するように、QRコードもGS1標準アプリケーションへの使用が認められた。「どのような環境(POS、物流、病院等)で読まれるモノに付けるか」、「対象物の大きさは」など、アプリケーションによって、どのバーコードを利用するかがルール化されている。

図1 アプリケーション識別子を表現するさまざまなGS1シンボル

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 現在規定されているアプリケーション識別子の一覧は、当センターのウェブサイトからダウンロードが可能であるため、ご参照いただきたい http://www.dsri.jp/baredi/ai.htm。なお、この情報は、GS1の標準化、および、GS1標準の総合仕様書の出版サイクルにより、毎年明け、2月頃に更新される。バーコードに表現し企業間で交換するのが有用な新しい情報項目は、GS1の標準化作業においてそのニーズが認められると、新規にAIが新設される。またAIの定義も、こうした利用ニーズに基づき、修正されることもある。更に、「このアプリケーションではこのバーコードを選択する」という規定についても、変更が行われることもある。あくまで過去の標準とは矛盾しないことが前提であるが、こうしてGS1のバーコードとバーコードに表現するデータの標準は少しずつ変わり続けるのである。

2. 2011年の自動認識関連の標準化の議論の概括

2.1 アプリケーション識別子(AI)の整備

  上述のように、AIで規定されるデータも、利用範囲の拡大を視野に入れ、より使い易いものにするため、定義が修正されることがある。その一例として、サービス関係識別番号(GSRN=Global Service Relation Number)がある。もともとこのコードは、繰り返し起こるサービスの内容やその受益者を識別する目的であった。現在、より具体的に、サービスの提供者とサービスの受益者を区別して識別できるような、定義の変更が進んでいる。 また、後述する商品情報を表すURL用のAIも、新しくモバイル分野での利用のために新設された。

2.2 URLも利用できるモバイルソリューションと「GS1QRコード」の誕生

  GS1の自動認識標準にとって、2011年の大きな動きのひとつは携帯電話でバーコードを読取り、そこからインターネット経由でウェブサイトに接続して商品情報を取得する、というアプリケーションを標準化したことである。この際、商品識別コードとともに、その商品関連の情報やサービス提供するウェブサイトのURLをバーコードに表現して使うこととした。このURLは「商品URL」として新しいAIとなった。また、この「商品識別コードと商品URL」の情報を表現するデータキャリアとして、新たにGS1QRコードが認められた(GS1QRコードかGS1データマトリックスを使用者側が選択可能である)。これにより、QRコードの利用がGS1のアプリケーションで初めて標準として認められることになった。
この仕組みは現在日本で広く使われているURLだけを表現するそれとは異なるが、一方では「同じブランドでも、どの商品を読んでアクセスしているのか」が判別可能である。また、メーカーが独自に、ロットなどの細分化されたレベルの情報を加えて表示し、よりきめ細かい情報提供を行う際のアクセス手段に活用できる、というメリットもある。今後、当センターでも活用の方策を関係者と検討する予定である。

2.3 バーコードの目視文字表示のガイドラインの制定

  バーコードには目視文字(バーコードに表現されたデータを、人間の目で見てわかるように文字表示したもの)が補助的に付随している。主な目的は、万一、汚れその他の理由で機械がバーコードを読み取れないとき、人の手でデータを入力する助けとするためである。
多くの属性情報データを表示できるGS1データバーやGS1データマトリックスといったシンボルが使われるようになったことで、長い目視文字とバーコード表示対象のスペースとの兼ね合いへの配慮や、表示されたデータ内容を、人の目で理解することを助けるなどの観点から、これまでの標準ルールを改定した。以下はその一部である(図3参照)。
・目視文字は、可能な限りすべて一緒に表示する。もっとも望ましいのはバーコードの下である。
・目視文字のすべてをひとつながりで表示できず、分割せざるをえないときでも、商品識別コードはバーコードの下に置くことが望ましい。
・目視文字が複数行にわたる場合にも、ひとつのAIのデータ内容は、途中で改行しないことが望ましい。また、AI番号とそのデータ内容が、別の行に分かれないようにする。

図2 バーコードの目視文字表示のガイドライン

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3.将来の課題 ~自動認識技術の進歩と「標準」のあり方~

3.1 動的情報の印字、検証、読取

  GS1の自動認識標準は、サプライチェーンの効率化を助けるために存在する。よって、「誰もが使える標準」である必要がある。
しかし、近年の技術の高度化とともに、新しいデータキャリアや読取技術が登場し、利用者からの様々なデータを利用するニーズも強くなっている。そのなかで、「誰もが使える標準」をどう設定するか、また、一部の「使える人が使う」オプションとしての部分の整理が難しい課題となりつつある。
商品識別コードの数字のみを表現するJANやUPC、またITFのようなシンボルだけでなく、より多くの桁数を表現し、アルファベットや記号にも対応するGS1-128やGS1データバーが誕生し、さらには、容量が飛躍的に増加した2次元シンボルの開発など、データキャリアの大容量化、高度化は着実に進行している。

さまざまな課題がある動的データのバーコード印字

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さらに、安心・安全への取り組みやトレーサビリティのニーズの高まりから、食品、医薬品や医療機器、アパレルその他で、有効期限や消費期限などの何らかの日付、商品の製造ロット番号、ユニーク(一意の)識別など、さまざまな情報をバーコードに表示することが求められつつある。多くの情報をバーコードに表示して使いたいという要望は自然の流れだが、その活用はさほど単純な話ではない。要求されている情報の多くは、一定の間隔をおいて変わる動的な情報であるため、バーコード印字して活用するためには、さまざまな技術やコストが必要である。
同じ商品でも属性の違い(ロット、有効期限日、シリアル番号など)によってバーコード化されるデータ内容が変わるということは、シンボル自体も変わるということである。この場合、印字面積が小さく、「バー」として印字されなくても読取が可能で、さらに汚れなど破損への耐性もある2次元シンボルのほうが、内容の異なるバーコードを高速で印字するのには有利だと考えられる。とはいえ、2次元シンボルでも、印字品質を一定以上のレベルで維持することは容易なことではない。一部の製薬メーカー等がそうした印字に取り組んでおり成果を上げつつある、という報告もあるが、いずれにしても、バーコードの印字品質を生産ラインの中でのチェックする必要もあり、また、インライン印字の品質が包装の品質に影響し、商品の歩留まり率の低下のリスクが発生するなど、コスト増要因であることは間違いない。
さらに、2次元シンボルのほうがラインでの印字に有利であるとはいえ、2次元シンボルを読取るリーダーの普及は、まだ一部にとどまっている。2次元を読取るためには画像処理をする必要があり、スキャナの費用も高くなり、画像にフォーカスが必要になる分、処理スピードも遅くなるのが一般的である。海外で、ヘルスケア分野で2次元シンボルを利用する機運があるのは、そうしたコストについても、必要投資として判断するという考え方があることと、もともと、バーコードを読んでの処方の確認等、「読取」にまつわる処理にある程度の時間を費やすことに抵抗がない、というオペレーション上の特性がある。
一方、スーパーマーケット等、いわゆる一般小売業では、コストに非常に厳しいこと、またチェックアウトでは、相当の処理スピードが求められる、ヘルスケアの分野とは事情が異なる。小売業向けにも、一部メーカーから画像処理スキャナが発売されているが、これがあまねく普及するのはまだ時間がかかる。 また、オペレーションの面でも、世界的に画像処理をPOSで行うことが可能になるのかは、まだ未知数である。日本の小売業のチェックアウト環境では、昔から「スキャナにバーコードを見せる」形で、一瞬ではあるがバーコードをスキャナの前で止めるような読取が多い。このため、2次元シンボルのフォーカスにもさほど違和感を覚えない可能性は高い。一方、世界的にみれば、顧客の買い物頻度が低く、1回の買い上げ点数が多い、北米や一部欧州の小売業にとっては、商品(とそれについたバーコード)はリーダーの前を「通す」という感覚のオペレーションであり、大量の商品のバーコードを比較的高速で読取って処理する環境で、「生産性を落とさない2次元リーダ」が本当に実現できるかは大きな課題である。また、仮に現在より高速処理が可能で安価な画像処理スキャナが出回るようになっても、それが中小零細業者や専門店も含め、全小売業であまねく使えるよう普及するまでには、相当の時間が必要である。
こうした印字・検証・読取の技術のうち、特にサプライチェーンに参加する一部の企業だけが利用可能である状態では、標準として使うことは困難である。GS1でも、2020年にはどのような技術・標準が使えるようになるのかについて、皆が共通の将来像を持てるよう検討することにしている。

3.2 POSにおける商品識別コードの桁数の検討

  現在、POSで扱う商品識別コードの桁数について、検討が進んでいる。これは、GS1の自動認識標準に、中長期的に大きな影響を与える可能性のある内容である。
商品識別コードには8桁、12桁、13桁、14桁がある。8桁はごく小さい製品に使用しており、日本では短縮JANコードと呼ばれる。12桁は、GS1システム開始当初から北米で使用されてきた商品コードであり、13桁は通常のJANコードである。また、14桁の商品識別コードには大きく2通りある。先頭が9のものは、不定貫商品の識別用で、食肉やチーズといったパックごとに重さが変わるものの識別をするため、重量や長さなどを表す補足情報とともに使用する。また、先頭が1から8までのものは単品が複数集まった集合包装を識別する集合包装用商品コードとして使用されている。
現在、一般小売業の販売時点(POS)で扱う商品コードの桁数は最大13桁である。北米では12桁のコード(シンボルはUPC)を基本としていたが、2005年から13桁のEANシンボルと商品コードも扱えるようにしている。
一方、GS1データバーの登場により、「POSで読める1次元シンボル」が14桁までの商品識別コードを表現する能力を持つことになる。この能力を活用するため、POSで14桁の商品識別コードを受け入れるようにすべきでは、という議論が生じ、今後の方向性の検討が始まった。

14桁の商品識別コードをめぐる議論 -①POS全容?

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~不定貫商品や集合包装商品~

  「現在は13桁のインストアコードでしか表現できない不定貫のデリカや精肉、チーズなどを、GTINを使って表現したい。その際は9で始まる不定貫用の商品コードを使い、重さなどのデータを付加したい」という不定貫商品での使用を主張するのはヨーロッパに多い。また、「集合包装も、現在はPOSで読む単位には、13桁を附番して、JANとITFで表示している場合がある。集合包装の14桁の商品コードをPOS読むようにすればシンボルも一つで済むのでは」というメーカーや小売業もいる。

~ヘルスケア~

  医薬品、医療材料などでは、そもそも「POSで読むか否か」という出発点ではないことが多い。

~集合包装と中身の単品の番号の関係~

  現在、集合包装用商品コードの14桁は、包装に含まれる単品を識別する12桁もしくは13桁の商品コードを使って設定している。しかしこれが、「コード管理の複雑さや番号利用の無駄を生んでいる」として、関連付けを廃止してもよいのでは、という議論もある。

14桁の商品識別コードをめぐる議論 -②先頭桁の意味と関連付け廃止?

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ただし、例えば小売り単位に14桁を認める場合、多くの企業がデータベースの桁数を14桁に変更する必要が生じるが、これも簡単な話ではない。北米のPOSで13桁を受容したときは、8年近い移行期間を持ったうえで「2005年に稼働」と定められたが、7年を経た現在でも、「13桁は扱えない企業があるため、UPCの12桁のバーコードを付けてくれと求められた」というメーカーがある。その点を見れば、北米の「POSでの13桁受容」の対応が完了したとはまだ言えない。こうしたシステム変更が、非常に困難であることを物語る例といえよう。
また、仮に14桁の集合包装用商品コードをPOSで認める、ということになる場合、集合包装の単位は、POSで読む可能性がある場合はITFから、GS1データバーへの切り替えを行うのか、その場合、表示は当然大きくするのか、物流センターおよび、POSでのパフォーマンスはどうなるのか、といった課題もある。そうした具体的な運用を考えても、容易な話ではない。当センターは、この14桁に関する議論には、相当に慎重な立場をとっている。
現在、14桁の商品コード受容の可否を検討するため、国際的に、関係者の意見、および、現在の方法を変更する、あるいは変更しない場合の両コストやメリット(またはデメリット)を収集して慎重に検討を進めることにしている
これらはGS1の自動認識標準が、高度化するサプライチェーンのニーズに対応しつつ、誰もが使うことができるものであり続けるために、GS1およびユーザーを含めたコミュニティで解決する必要がある、重要な課題である。

以上



(C)2012 Naoko Mori & Sakata Warehouse, Inc.

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