第536号 コンプライアンスから企業理念へ(後編)(2024年7月23日発行)
執筆者 | 長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問 |
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執筆者略歴 ▼
目次
3.2024年の法令改正
2024年の法令改正については、まず、何といっても「物流の2024年問題」対策として、荷主や物流事業者に対する規制的措置である「流通業務総合効率化法」と「貨物自動車運送事業法」の改正がある。
「物流の2024年問題」については、ロジスティクス・レビュー誌でも、早期の取り組みをお願いしてきたところである。
2023年6月に内閣府から「物流革新に向けた政策パッケージ」が公表された。
(1)流通業務総合効率化法
この物流政策パッケージで示された「規制的措置」を具現化するため、2024年4月23日に改正・可決した流通業務総合効率化法(法律の名称を変更)では、荷主・物流事業者に対する規制的措置として、以下の内容が定められた。実施にあたっての特定事業者(荷主・物流事業者)の基準など施行令(政令)は、施行に向けて決定されることになる。
1)①荷主*1(発荷主・着荷主)、②物流事業者(トラック、鉄道、港湾運送、航空運送、倉庫)に対し、物流効率化のために取り組むべき措置 について努力義務を課し、当該措置について国が 判断基準を策定する
*1元請トラック事業者、利用運送事業者には荷主に協力する努力義務を課す。また、フランチャイズチェーンの本部にも荷主に準ずる義務を課す
2)上記①②の者の取組状況について、国が当該判断基準に基づき指導・助言、調査・公表 を実施する
3)一定規模以上の事業者を特定事業者として指定し、中長期計画の作成や定期報告等を義務付け、中長期計画に基づく取組の実施状況が不十分な場合、勧告・命令を実施する
4)特定事業者のうち荷主には物流統括管理者の選任を義務付ける
さらに、予算措置の根拠として、鉄道建設・運輸機構の業務に、同法で認定を受けた「物流総合効率化事業」の実施に必要な資金の出資を追加した。
荷主の特定事業者は、トラックの利用度に応じて指定(線引き)されるようであるが、報道では約3千社とされている。
この「物流統括管理者」をCLO(Chief Logistics Officer 最高ロジスティクス責任者)とするような報道もあるが、筆者は必ずしもそうとは言えないと感じている。
同法では、物流統括管理者がロジスティクス戦略を立案・遂行することまでは求めていないし、そこまで求めることもできない。あくまで、物流事業者との取引内容に関して統括的に管理することであろうと推察される。したがって、「物流統括管理者」は、CFO(最高財務責任者)・CIO(最高情報システム責任者)に匹敵するCLOではないような気がする。
これまで、国交省・厚労省・全ト協が推進してきた「トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会」の地方協議会における取り組みを長年お手伝いして来た者の実感で言えば、荷主企業内における「取引環境・労働時間改善の統括管理者」あたりではないだろうか?あるいは、独占禁止法(物流特殊指定)並びに下請法でいう「親事業者」で、「下請業者(物流委託先)」への委託業務に関して、統括的な管理責任を負う者と理解する方が良いかもしれない。
いずれにしても、2025年4月施行と予測される(1)(2)両法が、「物流の2024年問題」への特効薬となるかどうかウォッチして行きたい。
(2)貨物自動車運送事業法
同日に改正・可決した貨物自動車運送事業法では、トラック事業者の取引に対する規制的措置として、以下の内容が定められた。実施にあたっての施行令(政令)は、施行に向けて決定されることになる。
1)元請事業者に対し、実運送事業者の名称等を記載した実運送体制管理簿の作成を義務付けた
2)運送契約の締結等に際して、提供する役務の内容やその対価(附帯業務料、燃料サーチャージ等を含む)等について記載した 書面による交付等を義務付けた *2 。
3)他の事業者の運送の利用(=下請けに出す行為)の適正化 について努力義務 *3 を課すとともに、一定規模以上の事業者に対し、当該適正化に関する管理規程の作成、責任者の選任を義務付けた。
*2 ・ 3 下請関係に入る利用運送事業者にも適用 。
また、規制的措置ではないが、収受運賃の底上げを図ってドライバーを確保するため、「標準的な運賃」についても、約8%引き上げると同時に、荷役の対価等を加算した新たな運賃が2024年3月22日告示・施行され届出可能となった。併せて、標準貨物自動車運送約款も改正告示され、6月1日から施行される。
誌面が限られているので、改正された「標準的な運賃」と「標準貨物自動車運送約款」は省略するが、国土交通省の資料等で確認・活用されたい。
さらに、貨物自動車運送事業法では、近年における貨物軽自動車運送事業(軽トラック等)における死亡・重傷事故等の増加を踏まえ、貨物軽自動車運送事業者に対して以下のような規制的措置を定めた。
4)貨物軽自動車運送事業者に対し、①必要な法令等の知識を担保するための管理者選任と講習受講、②国土交通大臣への事故報告を義務付けた
5)国土交通省ホームページにおける公表対象に、貨物軽自動車運送事業者に係る事故報告・安全確保命令に関する情報等を追加する。
5)は、具体的には、国土交通省ホームページのネガティブ情報サイト(運輸・建設の各事業者の行政処分内容等が一覧できるように掲出されており、企業名で検索できる)に掲出されるものと思われる。
貨物軽自動車運送事業では、2022年に軽乗用車による参入が解禁され、主婦などのギグワーカーが空き時間にネット商品のラストマイル配送を行えるようになった。その一方で、近年、貨物軽自動車運送事業者による交通事故等が増加しているので、4)の措置が講じられた。
ただ、個人事業主の場合は、「自分で自分を管理すること」になる。一般貨物自動車運送事業のように、「運行管理者がドライバーを管理する」のではないので、その実効性が心配である(自分で自分を「点呼」するのであろうか?)。
(3)道路交通法
1)高速道路における大型貨物自動車等の最高速度引き上げ
道路交通法では、2024年4月1日から高速道路における大型貨物自動車等(大型貨物自動車及び特定中型貨物自動車であって、車両を牽引するものを除く)の最高速度が、時速80kmから時速90kmに引き上げられた。これは、高速道路における運転時間の短縮によるトラックドライバーの労働時間削減を目的としている。カッコ書きで限定されているように、トレーラーは従来通り時速80kmである。
時速10kmの速度引き上げから1カ月が経過したが、その効果はいかがだろうか?従来から大型トラックにはスピードリミッターが付いていて、時速90km以上は出せない。そこで、スピードリミッターが作動して減速する直前の速度(時速90km近く)で走行するのが、高速道路の流れにも適合していたので、大型トラックのドライバーは馴染んでいたのではないだろうか?そのような実態(?)から推測すると、時速10kmの引き上げ効果は少ないのかも知れない。
荷主から「時速10km速くなったのだから、早く届けて」「時速10km速くなったのだから、出発が少し遅れてもいい?」などと言われないだろうか?
2)大型免許・中型免許へのAT限定免許導入方針(運用は2026年)
道路交通法では、バス・タクシーを含めたドライバー不足に対応するため、運送業界からの要望に応じて、大型免許・中型免許にオートマチック車限定免許(AT免許)を2026年以降に導入する方針が決まっている。
3)自転車違反に反則金(運用は2026年)
2024年5月に道路交通法の改正が可決し、周知期間をおいた2026年から自転車の交通違反に交通反則切符(青切符)が交付されることになった。対象となる違反行為は、「信号無視」「指定場所一時不停止」など115種類程度とし、反則金額は5千〜6千円が中心となる。
トラックなど自動車側にも、「車道を走る自転車を追い抜く自動車は、自転車との間隔に応じた安全な速度で走行する」よう義務付けられ、違反すれば反則金となる。
(4)労働・社会保険関係
2024年中の労働・社会保険関係の法改正では以下のとおりである。
労働・社会保険関係の法律も、道路交通法と同様に、頻繁に改正されているので注意が必要である。
さらに、2018年の「働き方改革関連法」から5年が経過した(5年が経過したので、トラックドライバーの時間外労働の上限規制の猶予期間が切れた)ので、「ポスト」働き方改革関連法の動きも出始めている。
具体的には、労働基準法(さらなる時間外労働時間の短縮など)・労働安全衛生法などが厚生労働省の研究会などで労使や有識者により検討されている。労働安全衛生法は、労働災害事故が減少しないので、ワースト3業種といわれる製造業・建設業・道路貨物運送業(トラック運送業)について、上述2-(4)「テールゲートリフターの操作に関する研修の義務化と適用除外措置。昇降設備の設置義務及び保護帽の着用が必要な貨物自動車の範囲を拡大」のように、個別に規制的措置が講じられるものと思われる。
強行法規である労働基準法・労働安全衛生法には、罰則規定があるので、これらの動向も注視していく必要がある。
1)労働基準法施行規則及び職業安定法施行規則(2024年4月1日施行)
労働条件明示のルールが改正された(採用時にあたって、以下を明示することが義務づける)。
・就業場所および従事すべき業務の変更の範囲
・更新上限の有無および内容
・無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる
旨
・無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件
「就業場所」を明示することは、企業理由による転勤を制限することになる。ハローワー
クの「求人票」等にも明示が必要となるので、職業安定法施行規則も改定された。
2)フリーランス保護新法(2024年11月1日までに施行)
フリーランスである個人事業主に対して、契約内容の明示等を義務づける。
個人の「貨物軽自動車運送事業者」に対しても、業務請負について契約内容の明示等が必
要となる。
3)厚生年金保険法・健康保険法改正(2024年10月1日施行)
51人以上の事業所では、パートタイム等の短時間労働者が社会保険の適用対象になり、各保険料の会社負担分が発生し、人件費増となる。
なお、雇用保険法についても2024年5月の法改正で、2028年から雇用保険の対象を1
週間の労働時間が「10時間以上」(現行は20時間以上)の短時間労働者まで拡大することとなった。雇用保険料は全額会社負担であり、短時間労働者の多い企業では人件費増となる。
4)在留資格「特定技能」制度への自動車運送分野の追加
出入国管理及び難民認定法(出入国管理法)では、日本国内における外国人労働者受け入れについても規定している。
外国人による労働力確保策の一つである「特定技能」制度は、国内人材を確保することが困難な状況にある産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることを目的とする制度である。
改正出入国管理法(2018年)により在留資格「特定技能」が創設され、2019年4月から受入れが可能となったが、国内の労働力不足の深刻化に対応するため、2024年3月29日に同法が定める在留資格の一つである「特定技能1」について、従来の12分野に自動車運送業、鉄道、林業、木材産業の4つの分野を新たに追加することが閣議決定され、2024年4月以降、必要な省令(法務省令)の改正が行われる(下図参照)。
この特定技能制度が適用されない分野、例えば、物流センターやトラックターミナルの軽作業(ピッキング・仕分け・流通加工)では、外国人留学生のアルバイトも多かったが、「自動車運送」=運転に限定して、特定技能に含められることとなった。
ここで、外国人労働者に関する項目のうち、外国人留学生アルバイト、特定技能、外国人運転者)について、簡単にお浚いしておきたい。
①外国人留学生のアルバイト条件
〇最寄りの地方出入国管理局等で「資格外活動許可」を受けること(「留学」の在留資格
で3か月を超える人は、新規に入国する場合、上陸許可時に空港等において資格外活
動許可の申請をすることができる)
〇勉強の障害にならないこと
〇留学中の学費や必要経費を補う目的であって、貯金や仕送りのためではないこと
〇風俗営業ではないこと(風営法等で禁止)
〇1週28時間以内(長期休業期間中は1日8時間以内)であること
〇教育機関に在籍している間に行うものであること
筆者の住む横浜市でも、横浜駅周辺には、日本でアルバイト目的の「外国人留学生」目当ての日本語学校が多い。
②在留資格「特定技能」
外国人が日本に在留するためには、在留目的等を地方入国在留管理官署に申請し在留資格を認定される必要がある。
在留資格「特定技能」には、以下の2種類がある。
〇特定技能1号
特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する
外国人向けの在留資格
〇特定技能2号
特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格
※従来の特定産業分野(12分野)は図表7参照。
在留資格「特定技能」制度が創設された2019年度からの5年間で、介護や建設など12の特定産業分野で345,150人の外国人を、政府は受け入れ上限としてきたが、2023年6月末時点の実績は上限の半分である約17万人である(外国人にとって、日本の労働市場は魅力がない?)。
③外国人の運転免許
外国人が、日本の運転免許を取得するには以下の2つの方法がある(国際免許では、事業用自動車の運転はできない)。
方法1 外国で取得した運転免許を日本の免許に切り替える
試験を受験した後、日本の運転免許センターで日本の運転免許証へ切り替え手続きをおこなう。
以下の4条件を満たしている必要がある。
・取得した運転免許証が有効期間内であること
・運転免許を取得した国に通算3ヵ月以上滞在していたこと
・日本に住民票があり、在住していること
・ビザが有効であること
必要な書類
・有効な外国の運転免許証
・上記免許証の日本語による翻訳文(当該国の駐日大使館等が作成したもの)
・本籍が記載されている住民票
・免許を取得した国に免許取得後3ヵ月以上滞在したかを確認できるもの(パスポート等)
・申請用写真(縦3cm横2.4cm)
方法2 日本で運転免許を取得する
日本人と同様に、学科試験・実技試験に合格して運転免許を取得する(日本人と同じ条件)。
外国語による学科試験の受験
外国語で試験を受けることができる場所が各都道府県に設けられているが、対応している言語
は、英語・中国語・ポルトガル語の3つが多く、都道府県によっては対応していない言語もある。
④外国人運転者
北関東や神奈川では、外国人労働者が多いこともあって、タクシーでも外国人ドライバーを見かける。
労働力不足が顕著なトラック、バス、タクシーのドライバーについて、在留資格「特定技能」の対象に、「自動車運送業」を追加する方向で、国土交通省や関係業界で検討が進められてきた。
全日本トラック協会、日本バス協会、全国ハイヤー・タクシー連合会の3団体は、特定技能の対象にドライバーを追加するよう、国に要望してきた。
国土交通省では、3業界における今後5年間の外国人受け入れ見込み数(政府の受け入れ上限と関係する)、業種に合わせた運転手としての技能試験の整備を検討している。
「第2種免許」の取得が必須であるバス・タクシーよりも、「第1種免許」のトラックはハードルが低いが、大中型車両も多く安全運転の徹底が必要になる。また、引越し・宅配などでは接客も必要となる。受け入れ企業だけでなく全日本トラック協会などが、外国人ドライバー研修制度を設けることが望まれる。
旅客・貨物の自動車運送業・鉄道業は、コミュニケーションや安全管理の能力が求められることから、特定技能としての在留資格を得るには、ほかの分野より高い日本語のスキルなどが条件とされており、受け入れ側も新たに外国人労働者の教育・就労体制の構築などが求められる。
また、2024年度以降の5年間で受け入れる外国人は、新たに追加する4分野を含めた16の分野で最大82万人を見込んでいる。
(「特定技能」の詳細は、法務省「特定技能 ガイドブック」を参照のこと)
4.終わりに
3で掲げた以外にも、障害者差別解消法改正(飲食その他のサービスや窓口業務。例えば、障害者が宅配・引越の申込みで来社した場合の対応には、障害者に対する合理的配慮の提供が義務化される)などの物流関連法令の改正があるが、誌面の都合で省略する。
物流・ロジスティクスを取り巻く法令は多い。3PL事業を営むには、荷主の業界に適用される法令(食品業界であれば、食品衛生法・JAS法など。医薬品業界であれば、薬機法など)も遵守しなければならない。JILS機関誌「ロジスティクス・システム」では、以前、「物流関連法規」として100以上が掲げられていた。
そこで、本稿に掲げた最新の法改正や、物流・ロジスティクスを取り巻く法令に的確に対応して、社内に遵法体制を構築・運営するためのチェックリストを最後に掲げておきたい。
過去の記事でも述べたように、コンプライアンスは「法令遵守」だけでない。法令を遵守するという意識・行動が企業全体に定着することにより、「働き方改革の実現」「働きやすい職場づくり」などより良い企業文化・企業理念が生まれると思う。
【参考資料】
1.内閣府・法務省・経済産業省・厚生労働省・国土交通省・公正取引委員会・警察庁等の資料・ホームページ(順不同)
2.政府サイト「e-Gov法令検索」から労働関係・運輸関係・交通関係・経済関係の各法令(順不同)
3.法務省「特定技能 ガイドブック」
4.長谷川雅行「荷主に求められる物流コンプライアンス(前編・中編・後編)」ロジスティクス・レビュー誌 第325~327号 2015年)
5.長谷川雅行「最近のロジスティクスの動向~コンプライアンス経営(前編・後編)」ロジスティクス・レビュー誌第392~393号 2018年)
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