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情報システム

第182号ロジスティクスとITに関する一考 ―役立つITへの取り組み方―(2009年10月20日発行)

執筆者 沼本 康明
情報戦略研究所 所長
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1964年日本電気入社、情報処理事業部門に配属。予測プログラムの開発・応用、民需分野のマーケティングスタッフを経て、1973年以降流通・サービス業、物流業マーケットに対する情報システムの開発・販売促進・技術指導に従事。
    • 1994年NEC総研出向、コンサルティング統括。2001年NEC復帰、2003年退職。
    • 現在、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)「物流技術管理士講座」「ロジスティクス基礎講座」、日本マーケティング協会「マーケティングマスターコース」等委員及び講師、専修大学非常勤講師(2007年3月までは東洋大学・静岡産業大学も)。
    • 共著で、『ビジネス・キャリア検定試験標準テキストロジスティクス管理3級』(‘2011第2版/中央職業能力開発協会)、『同2級』(2007/社会保険研究所)、『基本ロジスティクス用語辞典』(’97初版・’02第2版・’2009第3版/白桃書房)、『2010年小売維新』(’99/中央経済社)、『新物流実務事典』(’05/産業調査会)、『情報システムと物流の改善』(’05/産業能率大学)他流通・物流・情報関係論文多数。

目次

はじめに

  今、世の中は世界的大恐慌、未曾有の経済危機の真っ只中にある。景気は回復期に入ったという説も出始めたが、依然先行き見通し不透明であり、先進国と発展途上国との経済戦争も一時中断、世界中が経済の立て直しに大苦戦している。
  ところで、当小論で述べるロジスティクスとITは、いみじくも、共に、その生い立ちは上述の戦争、本当の軍事の戦いに関する軍事用語である。大半の方は周知のようにロジスティクスの訳語が「兵站」であり、軍事の言葉そのものである。一方、情報は、1976年にフランス兵書『仏国歩兵陣中要務実地演習軌典』の翻訳で、敵情の報知から情報という言葉が登場した。この2つは戦争に於て不可欠であり、両者が不十分であれば負けに繋がり、亡くなるのである。200年前ナポレオンはヨーロッパ席巻のためにロジスティクスには道路網を情報通信には腕木通信(3本の腕木の形状で信号を送受信し、情報を正確に伝達)という通信網を整備したことが、この両者の重要性を証左している(『腕木通信―ナポレオンが見たインターネットの夜明け』中野明著朝日新聞社2003年刊)参照)。我が国が先の大戦で敗れたのはこの両者の軽視(兵站はガタガタ、暗号電文は解読されていた(そもそも1940年代欧米で密かに開発されたコンピュータは暗号解読のため(他に、弾道弾軌道計算、原子爆弾)でもあった)からでもある。
  そして、現代の経済・経営戦争も全くその通りであり、これまで企業に於ても軽視してきた轍を踏まないよう、ロジスティクスとITの関連及びロジスティクス情報システム(以下LISと表記)のあり方について考察する。

1.ロジスティクスとITの動向

  ロジスティクスはマーケティングが行う需要の創造を需要の充足という形でマーケティングを成就させる。正にロジスティクスはマーケティングの定義(2007)でいう「顧客への価値の創造、伝達、提供(デリバリング)、交換する活動」の提供を担う顧客接点として重要な位置づけにある。マーケティングはロジスティクスとの融合により顧客満足を得るのであり、その完結化、完璧性を保証するのがLISである。
  ITは情報処理、情報通信及び処理、伝達されるコンテンツ(中身、内容)の3つから成る。情報処理技術は1.5年又は2年に処理能力が2倍化(10年で百倍)しており、1秒間に1000兆(1Pペタ)回の科学計算を行うスーパーコンピュータから5万円パソコン(ネットブックと呼ばれインターネットによる情報検索や電子メールには好適だが、通常のパソコン用業務処理には不適)等飛躍的発展を継続している。他方、情報機器や空調機器等の電力消費で発生するCO2対策のため省エネがクローズアップし、グリーンITが強調され始めた。
  情報通信技術は光通信等のブロードバンドの普及や超高速無線通信による高速大容量通信が進展し、その上にインターネットという通信網が主流となってきた。そして、これら2つの技術が相俟ってインターネットに於ける情報処理は、昨今、クラウドコンピューティングという言葉で喧伝されている。雲の中の彼方に巨大な計算センターがせっちされ、各企業はコンピュータを所有せず、データ入力、結果出力のためのパソコン・端末・スマートフォンのみの所有で、総ての情報処理通信が為される。
  しかし、この2つの技術は手段であり、実際に役立つのは、業務のアプリケーションプログラムやデータというコンテンツである。データの集合、データベースやデータウェアハウスから管理指標が摘出され、分析され、業務改善等に貢献する。特に現場情報の活用が競争力の鍵を握るのであり、コンテンツの意義は大きい。ITの主役は、1980年代までは汎用コンピュータ・メインフレームの時代、1990年代はパソコン、2000年代はネットワーク、2020年以降はコンテンツの時代といわれてきたが(『覇者の未来』デビィド・モシュラ著1997年参照)、実際はインターネット上の情報流通はすでに膨大であり、情報爆発といわれ、量的にはコンテンツの時代とも言えるが、本格的な活用はこの先である。また、IT産業の主役もハード(IBM)、ソフト(マイクロソフト)、ネットワーク(アマゾン、イーベイ)、コンテンツ(グーグル)へと変遷している。しかし、クラウドコンピューティングの時代は再びこの5社が巨大なデータセンターを担うという説がある(5の譬えはかつてIBMの創業者がコンピュータの創始ENIACが登場した時、このような大きな機械は世界に5台しか必要ないといった事から。)。各種産業の付加価値総額では、すでにコンテンツ産業が首位、以下、通信、自動車、広告、IT機器等と続いている(日経2009年3月19日「経済教室メディア連携で需要創出」篠崎彰彦)。情報化社会とは情報が価値を生む社会であり、その域へ近づいていると言えよう。

2.IT投資は戦略思考で

  IT投資の分野は3つ、インフラ型投資(ハードウェア、ネットワーク、一般管理業務の業務基盤投資)、業務効率型投資(省力化、在庫削減、物流コスト削減等定量化しやすい業務処理への守りの投資)、戦略型投資(増略化、顧客サービスの強化など定量評価が難しい業務への創造的・攻めの投資)がある(日本情報システムユーザー協会「IT投資評価ガイドライン」参照)。百年に一度といわれる経済危機での不況脱出には戦略型投資が望ましい。他社が不況だからというのでIT投資にしり込みすればするほど(直近の著SA結果によればIT投資の見込みは4%)、戦略的にIT投資を積極化する企業はその効果が突出するといえよう。
  実際、効率型投資(管理型投資とも言う)より戦略型投資の方が多い米国とその逆の我が国とのIT投資への取り組みの差が顕著である。1990年から2006年までのIT投資額は1990年を基点として、米国は6.9倍、我が国は2.1倍、その結果GDP成長率は、米国が1.6倍、我が国は1.2倍である(総務省「平成20年情報通信白書」)。

3.経営戦略、ロジスティクス戦略そして情報戦略

  経済が成長期にある時は経営も成り行きで十分に大きくなり、利益も出る。しかし、成熟期に入り、安定期になると、業種によっては衰退期に入ると、競争が激しくなり、生き残り戦争となる。そこでは、中長期的、大局的、全体的、統合的計画が必要となる。それが戦略であり、全社の経営戦略、事業戦略・機能戦略(生産、販売、ロジスティクス等)、その他成長戦略、競争戦略等何を対象とするかによって各種ある。
  戦略は戦略を立案する対象の方向づけ及びそれへの経営資源の配分である。戦略は経営目標が先行的であるが、同時並行的に立案されるもので、目標と戦略は、経営理念、ビジョン、及び経営目的から導き出される。例えば、理念や目的が顧客や社会のためであれば、当然、ロジスティクスもそれを反映した戦略となる。
  経営戦略は、全社の事業構造(ビジネスモデル)の組み立てと、その各事業への経営資源(人、物、金、情報)の配分である。配分は、SWOT分析で、自社(事業)のS(強み)とW(弱み)、外部環境のO(機会)とT(脅威)を全社、事業分野別に抽出、比較検討し、判断する。
  ロジスティクス戦略は、経営過程における調達、生産、販売、回収の各物流をどう位置づけ、全体最適化し(つまり、ロジスティクスは調達、生産、販売等総て関連し、サプライチェーンマネジメントでは後処理型ではなく、中心的や役割を果たす)、また、物流機能の各々のどれを重視、あるいは、自社で行うのか、アウトソーシングするかなどの方針に従い、各々にロジスティクス資源(人、物、金、情報)を配分することである。
  情報戦略は、情報そのものが経営資源の一つであり上記二つの戦略とは異なる。情報戦略は経営戦略を支援するものであり、また、経営戦略を形成するものでもある。経営戦略が立案する事業、機能分野への情報資源の配分であり、これが一般的には情報化投資、IT投資である。投資が攻めなのか、守りなのかは経営戦略次第である。
  情報資源は3つから成る。第1はデータ、情報そのものである。必要で正確なデータがあって、情報が活かされる。第2は情報を読解し、選別し、編集し、活用する能力(インフォメーションリテラシー)である。情報は使われなければ何の価値も生み出さない。3つは情報基盤であり、上述の情報処理・通信を行うコンピュータや有線・無線等の通信手段などに基づく、業務アプリケーション(情報化の領域)から成立する情報システムも含まれる。活かされる情報を生み出す、戦略と相応した情報システムでなければならない。

4.戦略と情報・情報システム

  情報とは何であり、何のためにあるのか。例えば、在庫状況を知り(認知)、それが適正なのか或は多寡なのかを判定し(評価)、どう処置するかを考え、行動を指示し(指令)、行動するという場合、情報は在庫状況の知らせ、在庫量の判断、対処方法の意思決定に使われる。つまり、情報には認知・評価・指令という3つの情報があり、正確・迅速・的確な組合せが良き判断、行動の決め手となる。秀でた成果、実績は、それに相応しい情報が前提となる。従って、判断と行動には、まず、情報が使われるが、実際の良き判断のためには、情報を整理(偽り情報の除去等)、体系化した知識(学問などで裏づけされた)、更に経営行動で実証された知恵、知能、ノウハウなども有用である(ダ・ヴィンチ曰く「愛(好奇心)は知識の母、知恵は経験の娘」)。
  また、良き判断、行動には情報等だけでなく、企業の各種方針等も関係する。上述の経営理念、ビジョン、目的、目標、戦略が実行計画、行動の基であり、これらが全社・全員に周知徹底されることも、要件となる。そして、日常に於ては、これらのあるべき姿(計画)と現実(実態)のギャップ(問題)を認識する問題意識があって改善、改革しようという行動につながるのであり、絶えず問題意識を植え付けることが肝要である。問題を発見、評価、改善に結びつけるのが情報であり、それを生み出すのが情報システム(問題を発見(見える化)、解決する仕組み)である。

5.役立つLISを構築し活用するには

  役立つ情報システムは企業経営が目指すことに情報システムが実用的・有効裏に貢献することである。効率化による生産性の向上、管理の適正化によるムダの排除とか品質やサービスの向上、戦略や計画の達成及び形成の支援などで経営全般を万全なものへと資することである。そのようなLISを構築し、活用する視点は以下の4つである。
①情報システムの目的の明確化
  コンピュータが動かない、情報システムが役立たない、金食い虫などの原因の第一として挙げられるのが、何のために導入したのかという目的の不在、不明確性である。経営の根幹は経営資源を遺憾なく発揮させうるかを決める戦略である。情報システムは経営そのものの具現化であり、情報システムが優れていないのは経営に問題があるか、或は、情報システムが戦略と同期化していないからでもある。情報システムの目的は、戦略の目差す所と合致すべきである。
  例えば、小売業は発注の的確な品揃えで顧客満足を得ることが生命線である。発注(卸売業やメーカーへの)、納入(店舗への)、売上(受注)という仮説・実行・検証のサイクルを一気通貫させることが戦略であり、LISではこれらを重点に構築する。発注システムでは発注の精度向上のため、店頭での発注機器に多様なコーザルデータが提供される。流通センターや配送を外部委託するのが通常だが、戦略経営に徹する企業では、センターや共同配送の仕組みは(実務の作業は外注しても)自ら構築している。ロジスティクスは利潤源、マーケティングの一翼と認識しているからである。卸売業はロジスティクスが競争力の中核、生命線であり、情報システムは人事、経理等を除くと総てがLISといってよい。卓越した卸売業では、経営戦略 = ロジスティクス戦略、それと一体化した情報戦略、情報システムが構築されている。ただし、昨今、専用センターによる小売業の囲い込み戦略や過大なセンター投資が経営の足枷になっているケースもある。これは戦略の再検討、LISも見直しが必要となる。
②コンテンツ重視、データウェアハウスの構築と分析
  情報資源1、データの充実である。情報化初期の時代、情報システムは業務レベルの計算、作業処理が中心で、その集積されたデータをデータベースとして集計、加工し、管理レベルで使用するのが一般的であった。しかし、戦略と軌を一にする情報システムは、戦略が何で、戦略を達成するには何の情報で意思決定、行動するかから構築される。つまり、データ中心指向で、各トップが、各管理者が、各担当者が必要とし、利用する情報を生み出す情報化である。データは取捨選択されたデータベースだけでなく、原データを総て集めたデータウェアハウスに集積し、それを分析して活用する仕組みとなる。近時、データウェアハウスのデータ分析(データマイニング,OLAP等)による経営の高度化が志向され、そのためのツールBI(ビジネスインテリジェンス)が注目されている。LISではドラッカーのいう「測定されないものは管理できない」を逆手に取り、測定できるものをLKGI(ロジスティクス主要目標指標),LKPI(実績指標)として活用する。LKPI等にはQ(品質),C(費用),D(納期・配送)関連が多いが、当然、売上など経営全般の指標も対象となる。分析としては、輸送量分析(OD表)、輸配送実態分析(作業時間)、出荷頻度分析、作業分析(倉庫内)等がある。
③情報活用能力の涵養、知育の徹底
  情報資源2、リテラシーを浸透させ、その実践を継続・定着させることが重要である。データや各種分析結果が出ても、それが活かさされていないと情報システムの威力は発揮されない。この為には活用の仕掛けや仕組みが必要である。各人に対応するLKGIやLKPIの状況を必ず報告しないと退社できないとかリテラシーの啓蒙をロジスティクス部門とIT部門が協力して定期的に行うなどの実践である。また、既述のように良き判断や行動には情報だけでなく、知識や知恵を高める知育も有意義である。大事なことは全社で情報、知識、知恵、ノウハウ等の意義を認識し、それらをお互いが提供しあい、共有し、活用することである。
④適宜なITによる使う情報システムの構築
  情報資源3、情報基盤の確立である。自社の目的に適うITを組合せ、使われ、実用に耐える情報システムを開発する。ITの効用を認識、自覚するが使う情報システムとなる(例えば、IT投資を果敢に行えば、生産性が向上し競争優位になるという認識)。ITは日進月歩というより秒進分歩とで発展を遂げているが、その新しいものの採用は技術主導でなく、実効主導で検討すべきである。LISに於て話題の多いRFID((ICチップをタグやラベルに埋め込み、無線でデータを読み書きするもので、ICタグをパレットや段ボール箱に貼付し、入出荷処理等を省力化、迅速化、正確化)はメリットに富んだ手段であるが、現時点、技術的課題(同時読み取り、読み取り精度等)や高コスト(タグ1個が数十円、百円以上等)などがあり、特に企業間に亘る応用は時期尚早である。ただし、企業内での限定利用は各所で効果を上げているので、導入も可能であるが、自社に今、好適かどうかは実現性、経済性、効用性等の観点から選択すべきであろう。

  最後にLIS構築の要点を提示する。

 情報システムを 戦略化、標準化、統合化、共有化 の視点で設計し
 ロジスティクスを 可視化、追跡化、即時化、自動化 し
 ロジスティクスの 高質化、低廉化、実効化、優位化 を実現する ことである。

以上



(C)2009 Yasuaki Numamoto & Sakata Warehouse, Inc.

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