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情報システム

第232号物流情報システムの役割の推移(前編)(2011年11月22日発行)

執筆者 沼本 康明
(情報戦略研究所 所長)

 執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1964年日本電気入社、情報処理事業部門に配属。予測プログラムの開発・応用、民需分野のマーケティングスタッフを経て、1973年以降流通・サービス業、物流業マーケットに対する情報システムの開発・販売促進・技術指導に従事。
    • 1994年NEC総研出向、コンサルティング統括。2001年NEC復帰、2003年退職。
    • 現在、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)「物流技術管理士講座」「ロジスティクス基礎講座」、日本マーケティング協会「マーケティングマスターコース」等委員及び講師、専修大学非常勤講師(2007年3月までは東洋大学・静岡産業大学も)。
    • 共著で、『ビジネス・キャリア検定試験標準テキストロジスティクス管理3級』(‘2011第2版/中央職業能力開発協会)、『同2級』(2007/社会保険研究所)、『基本ロジスティクス用語辞典』(’97初版・’02第2版・’2009第3版/白桃書房)、『2010年小売維新』(’99/中央経済社)、『新物流実務事典』(’05/産業調査会)、『情報システムと物流の改善』(’05/産業能率大学)他流通・物流・情報関係論文多数。

 
*今回は2回に分けて掲載いたします。

目次


 

はじめに

  なお、一般的な情報システムの経緯(図表の左側)で登場した、各種情 報システムの言葉(略称アルファベット3文字-バズワード(素人には分か り難い専門用語、流行語、特にITでは多い))はもてはやされたが、必 ずしも実現されなかったのが事実である。しかし、各々の情報システムの 理念、概念は妥当であった。技術的には当初、ITのレベルが不十分であ ったが徐々に急速に進展した。むしろ、利活用サイドの経営者を含め情報 システムへの認識不足の方が実現されなかった大きな理由である。そこ で、図表の右側は今日的視点から発展段階別の一般的な情報システムの役 割に対応して、その時点に構築されるべきだった物流情報システムの役割 として具体的に整理、体系化したものである。実際には、図表の左側の時 点では右側の物流情報システムは実現されなかったが、技術の推移と相俟 って物流情報システムはシーズのITとニーズの適用業務が合体の上、発 展的に積み重ねられ構築されるものとして例示した。
以下、図表の8段階の順に述べる。

1.業務効率化の為の情報システム(DP/OIS)
→ 物流個別業務の情報化

  我が国が情報化社会に入ったのは1960年代である(ただし、最初に使用 されたのは1955年の輸入品である)。コンピュータは電子計算機とかED PS(Electronic Data Processing System)と言われ、正に、情報化 の魁は計算処理であり、計算業務の効率化(人の手計算、台帳記録がコン ピュータに代替され、計算処理の工数や時間の節約)であった。
従って、第1段階の情報化はDP(データ処理)/OIS(Operation  Information System:業務情報システム)である。時期的には1960年代前半からである。
この時期は我が国におけるコンピュータ導入の黎明期であり、大企業、 先進的企業の一部がDPとして経理事務計算などを対象とした。図表の右 側の物流個別業務の情報化の実際は第2段階以降開始された。因みに、物流 (Physical Distributionの訳語「物的流通」は63年頃、その省略語「物 流」は70年頃から広がる)と言う言葉の登場は第1段階に相応するが、物流 の情報化は萌芽期以前といっていい。なお、JILS(日本ロジスティク スシステム協会92年)の前身、「日本物的流通協会」、「日本物流管理協議 会」の設立は共に70年であった。

2.管理高度化の為の情報システム(MIS)
→ 物流基幹業務/管理徹底の情報化

  我が国でコンピュータが普及期に入るのは60年代後半から70年代前半で ある。時あたかも、MIS(Management Information System:経営情報 システム)という、経営の管理、統制にコンピュータを利用し、経営の高 度化が実現できるのだという言葉が流行った。管理者、作業者各々の意思 決定、業務遂行の必要な情報が必要なときに提供されるトータルプランニ ングおよびコントロールシステムとして紹介された。経営管理の徹底、経 営の見える化である。MISの概念は、今日的視点からも当然の情報化で あるが、当時のITおよび経営動向では実現できなかった。ITは創始期 で未熟、業務は情報化の前提である標準化、単純化、計数化等が不十分、 経営者は殆どがIT、情報システムに無関心であったからである。MIS という言葉はブームで終わったが、産業界の情報化は着実に進展した。
物流では第1段階の個々の業務、受発注、倉庫、輸配送業務等が物流基幹 業務の一環として個別に情報化されだし、第2段階の管理レベルでは、70年 代にオンラインデータ処理が始まり、倉庫内の入出荷データを入出荷時点 で登録することにより、在庫管理、単品管理の徹底が為されたり、自動倉 庫も出現した。

3.意思決定支援の為の情報システム(DSS)
→ 物流DBの統合/物流計画分析の情報化

  70年代後半から80年代前半にかけて登場したのが、意思決定支援システ ムDSS(Decision Support System)である。生産、販売、物流、会計 等の基幹業務を対象とする情報システムを基幹系システムという。DSS はその基幹系で発生したデータを検索、分析活用する情報系という情報シ ステムとして誕生した。管理者の問題解決の為のコンピュータモデルが意 思決定過程を支援する。
物流では物流DB(Data Base)の統合であり、各種物流計画、分析の 情報化である。具体的には、拠点配置計画、倉庫設計、配送・配車計画等 のモデルシミュレーションであり、物流量予測や配送計画などでは基幹系 のDBが欠かせないが、配置計画や倉庫設計などでは各種条件データがあ れば単独でも利用でき、意思決定の質的向上がもたらされた。

4.戦略実現・形成の為の情報システム(SIS)
→ 物流基幹業務の統合/物流戦略の情報化

我が国の経済が最も繁栄期を迎えたのは80年代である。世に言うバブル 景気は86年12月から91年2月の4年3ヶ月といわれる。この間、消費者は成熟 化、多様化し、競争は激化、いかに競争優位を確立するかが大きな経営課 題となり、成り行き経営ではなく戦略経営を迫られようになった時代であ る。そこに、80年代後半登場した情報システムがSIS(Strategic Information System:戦略的情報システム)である。
SISは経営戦略と情報戦略の整合を目指して構築されるものである。情報システムが戦略の実現を支援し、又、戦略の一端を形成するものとして、つまり、ITを経営戦略の武器として活用することを意図するものである。
そして、SISを支えるITは70~80年代飛躍的に発展した。情報処理用に80年代パソコンが一般化し、現場での利用が容易になった。物流にとっては、モノを識別するバーコード各種が標準化された(72年NW-7(荷札等)、75年コード39(納品書等)、78年JAN(売上・発注用商品コード)、81年コード128(物流ラベル等)、87年ITF(物流用商品コード))。物流のデータを処理、伝達する端末として、発注用EOS
(Electronic Ordering System)端末、販売・受注用POS(Point Of Sales)端末、倉庫用・車載用POT(Portable Terminal:携帯端末)などが導入されるようになった。
物流におけるSISは物流基幹業務の統合であり物流戦略の情報化である。例えば、物流新事業の成長戦略の為に、情報投資は過大でも導入した「貨物追跡システム」はSISの好例(80年宅急便、85年急便)である。
しかし、我が国全般ではSISは成功例が少なく、言葉のみがブームと なり、”SIS・シス・死す”と揶揄され取り上げられなくなったが、今日 的視点から見ると、21世紀最も挑戦すべき情報システムである。勝ち負け でなく生き残り競争時代はSISが真骨頂を発揮するといえよう。

5.業務改革の為の情報システム(BPR)
→ 物流業務のやり方をIT連動で改革する情報化

SISが頓挫した後に登場した情報化の旗印はBPR(Business Process Reengineering:業務再設計)であった。時期的には90年代前半、80年代バブル崩壊後であり、絶好の立ち直り策として歓迎された。BPRは現行の業務プロセスを抜本的、根本的、劇的に改革し、ITと連動して企業再生を図るものであったが、SISと同様BPRもITでの成功事例は少なかった。BPRの考えは簡潔明瞭であったが、大胆な業務改革に踏み切れず、不完全燃焼と不発であった。だが、情報化において現場を注目すべきこと、機能別組織の弊害を打破すべきことが判明したのは成果であった。
他方、ITによって果敢にBPRに取り組んだ企業もあった。それはERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画/統合基幹業務)パッケージによるものである。グローバルスタンダード、ベストプラクティスを標榜する欧米版のERPに準拠して業務再設計を行うのである。全面的にパッケージに合わせるケースは少なく、種々手直ししながら導入し、今日に至っている。
物流におけるBPRは物流業務を対象にITと連動した業務改革である。受発注データのオンライン化、倉庫業務の迅速化、正確化、省力化
の為の自動倉庫化などである。上述の欧米版ERPの物流パッケージは取り入れなかった。我が国流のWMS(Warehouse Management System: 倉庫管理システム)やTMS(Transportation Management System:輸配送 管理システム)パッケージが利用されるようになり、また、3PL(3rd  Party Logistics)事業では、それらパッケージが必携の道具となった。 BPRに取り組むには大変な決意が必要である。今日的視点からすると、 本来、常にBPRを行うことが競争力の維持向上であり、失われた20年 を取り戻さなければならない今日こそITを有効活用する意味でも、恒常 的に取り込むべきことの一つであるといえよう。

※後編(次号)へつづく



(C)2011 Yasuaki Numamoto & Sakata Warehouse, Inc.

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