輸配送

第577号 海運へのモーダルシフトのお薦め(後編)(2026年4月9日発行)

執筆者  長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問  執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 2009年 同社顧問 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問 活動領域 日本物流学会 (一社)日本SCM協会 (一社)日本物流資格士会会員 流通経済大学客員講師 港湾短期大学校非常勤講師 (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師 本論文は、前編、後編の計2回に分けて掲載いたします。 ※前編はこちら 目次 3.海運モーダルシフトの進め方  (2)内航海運へのモーダルシフト利用検討ガイド 3.海運モーダルシフトの進め方  (3)運賃・料金 4.おわりに「モーダルシフト基本法」    3.海運モーダルシフトの進め方  (2)内航海運へのモーダルシフト利用検討ガイド 「物流の2024年問題」を契機として、関係省庁では2024年6月「物流革新に向けた政策パッケージ」を打ち出し、「鉄道・内航の輸送分担率を今後10年間で倍増する」という目標を掲げている。近々、閣議決定される「総合物流施策大綱(2026年度~2030年度)にも、この目標が盛り込まれると思われる(2026年1月執筆時点)。  筆者としては、鉄道・内航の輸送力を10年間で倍増させることは、かなり困難ではないかと思う。 まず、鉄道について。JR貨物がコンテナ列車を増発しようとしても、レールを旅客会社から借りている以上は難しい。次に、レールのように制約がない海上ルートはどうだろうか。フェリーやRORO船を建造すれば輸送力は増強できるだろうか。筆者は港湾側の能力不足が心配である。今でも、苫小牧港などはフェリー・RORO船用の埠頭が混雑していて、利用しやすい時間帯に船便を増やすのが難しい。埠頭建設には時間もコストもかかる。あとは、日本海側西部の航路でも述べたように、トレーラ100台超という船腹を満たせるだけの需要があるか否かにもよる。例えば、中部~中九州の航路も需要が少なく減便になっている。 しかし、鉄道モーダルシフト倍増の見通しが厳しい状況下では、輸送ロットが大きい長距離の貨物輸送における内航海運の活用は、喫緊の課題でもある。  国土交通省が、上記政策パッケージを受けて2024年秋に実施した「モーダルシフトに関する内航海運の新規需要調査」では、「内航船の利用方法がわからない」「どこに相談すればよいかわからない」といった荷主企業や物流事業者の声が多く挙がった。 その声に応えるべく、具体的な検討手順やメリット、実際の航路情報などを分かりやすく提示するとともに、併せて、モーダルシフトを資金面で支援する3つの補助金制度の活用も呼びかけている(本稿では、誌面の都合で補助金制度は省略するので、「ガイド」を参照されたい)。 国土交通省では、これまでモ―ダルシフトの推進については、手を変え品を変え、各種政策を展開してきたが、今回は、情報不足の解消と具体的なアクションを促すことで、停滞気味だった海上モーダルシフトの本格的な推進を目指している。 今回の「ガイド」は、荷主・物流事業者が、それぞれの状況に合わせて海運モーダルシフトのメリット・デメリットを総合的に評価し、具体的な検討を進める上で役立つことが期待され、筆者としても支援したいと思う。  同ガイドは、 1 背景・目的 2 利用・検討方法 3 海運モーダルシフトの事例 から構成されている(図表4の年刊「海上定期便ガイド」と似ている)。 「1 背景・目的」では、「本ガイドでは、新たに内航船を利用することや、さらなる利用拡大を検討されている企業担当者に向けて、フェリー、RORO船、コンテナ船の3つの船種における内航海運のサービスや利用方法、利用検討に向けた手順、内航船を利用することのメリットなどを、アンケートやヒアリング、実証調査によって得られた事例などとともにに紹介します」としている(本稿では、そのなかからフェリー・RORO船を取り上げた)。 図表9 モーダルシフトに適した内航船 *画像をClickすると拡大画像が見られます。 出所 国土交通省「内航海運へのモーダルシフト利用検討ガイド」(2025年5月) […]

第576号 海運へのモーダルシフトのお薦め(前編)(2026年3月17日発行)

執筆者  長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問  執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 2009年 同社顧問 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問 活動領域 日本物流学会 (一社)日本SCM協会 (一社)日本物流資格士会会員 流通経済大学客員講師 港湾短期大学校非常勤講師 (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師 本論文は、前編、後編の計2回に分けて掲載いたします。   目次 1.海運モーダルシフトとは 2.フェリーに乗ってみよう。 3.海運モーダルシフトの進め方    1.海運モーダルシフトとは 海運へのモーダルシフト(以下、「海運モーダルシフト」という)は、鉄道へのモーダルシフトに比べて、輸送ルート(航路・港湾)が限定される。 主な航路・港湾は「海上定期便ガイド」(内航ジャーナル社)や国土交通省、各船社のホームページなどに掲出されているので、海運モーダルシフトを進める際に活用されたい。 海運モーダルシフトは、一般的には、定期航路を利用することになる。そこで、対象となる船型(船のタイプ)は、旅客船であるフェリーと内航貨物船であるRORO船・コンテナ船となる。後者2タイプの内航貨物船は、「モーダルシフト船」と呼ばれていたこともある。 わざわざ、旅客船・内航貨物船と記したのは、同じような船型・航路であっても、適用される法律が異なるからである。フェリーは、外航船などと同じく「海上運送法」が適用となるが、内航貨物船は海上運送法の特別法とも言える「内航海運業法」が適用となる。内航海運業法では、船員労働における外国人船員の配乗禁止や、需給調整としての実質的な「船腹調整制度」があるが、ここでは誌面の都合で省略する。 なお、3-(2)で紹介する、国土交通省の「内航海運へのモーダルシフト利用検討ガイド」では、フェリーも内航船として取り扱われている。 海運モーダルシフトで活用されるフェリーは、長距離フェリーに多い。フェリー船社の業界団体である日本フェリー協会では、航路が300km以上のフェリーを「長距離フェリー」としており、後述のように関東〜北海道、関西〜九州のように15航路に37隻が就航している(2023年 JTB総合研究所調べ)。 最近は、モーダルシフト需要の高まりや、環境対策(燃料のC重油からLNGへの転換)もあり、船舶の更新・大型化が進んでいる。 瀬戸内海の離島航路では自動運転フェリーが就航するなど、陸上輸送以上に自動化・省力化が進んでいる。 RORO船の「RORO」とはロールオン・ロールオフの省略であり、「ロール」は車輪(車輪付きであるロールボックス・パレットの「ロール」も同じ)、「オン・オフ」はスイッチの入切ではなく「乗り降り」である。つまり、トラックやトレーラ(シャーシ)が自分の車輪でランプウェイ(可動式のスロープ=斜路)を利用して乗船・下船できるタイプがRORO船である。 船内(貨物や車両を積むスペースを船倉と言う)は、幾層にも分かれていて車両甲板と言う。 したがって、フェリーも船型としてはRORO船である。 RORO船に対して、クレーンやフォークリフトなどでコンテナを積卸しするタイプを、LOLO船(リフトオン・リフトオン船)と言うが、「コンテナ船」と呼ぶのが一般的である。 これ以外には、RORO船とコンテナ船を一隻に合造した通称「ロロコン船」や、フェリーの特例で実質的にはRORO船の「貨物フェリー」も、過去にはあったが最近は見られない。 伊豆諸島航路や南西諸島航路では、在来船型(船倉を備えている)の貨客船に、船に備えたデリッククレーンでコンテナ(ISOのDタイプである10フイートまたは、JR貨物の鉄道コンテナと同サイズの12フィート)を船倉内あるいは甲板上に積載している例もある。 RORO船には、上記定期便ガイドに掲載されている「定期航路」以外に、自動車メーカー・製紙メーカーなど大手荷主の専用船化している船舶・航路がある。 この場合、往航(海運では往路を「往航」、復路を「復航」と言う)では完成車や紙製品を輸送するが、空荷となる復航に一般荷主の貨物を輸送する例も見られる。 完成車を輸送する船は、「車両甲板が複数階ある」という基本的な構造はRORO船と同じであるが、PCC(ピュアー・カー・キャリア=自動車専用船)と言われる。船内に幾層にも車両甲板が張られ、ショッピングセンターなどの多階建て駐車場のように、船内のランプウェイを利用して、隙間なく自動車を積み込む。内航用のPCCは最大級で約2000台の乗用車を積載できる。これも空荷となる復航には一般荷主の貨物を積む例がある。復航で車高があるラック・トレーラを積むために、車両甲板の一部が取り外せるようになっている。 一方のRORO船では1万総トン・長さ200m弱・幅26m、DWT(載貨重量)約7千トン、13mシャーシ150台が、最大級である。 なお、「シャーシ」は「トレーラ(被けん引車)」の一種であり、コンテナを積載するために荷台等の架装がない骨組みだけの車体を指すが、フェリー・RORO船・PCCに搭載して海陸一貫輸送に利用されるトレーラ(平ボディ・バンボディなど)は、「航送用シャーシ」略してシャーシと呼ぶことが多い。道路運送車両法ではトレーラもシャーシも「大型貨物車(被けん引)」で区分されていない。 2.フェリーに乗ってみよう。 フェリーやRORO船を利用して海上モーダルシフトを進めようと思ったら、「先ず隗より始めよ」のように乗船することをお薦めしたい。 RORO船にもドライバーや輸送中の貨物監視者用に船室(定員は少ない)があるが、旅客は乗船できない。 そこで、一般船客としてフェリーに乗船することになる。出張の際に、片道だけでもフェリーに乗ってみても良い。 […]

第574号 米国におけるトラック運送のブローカー規制と下請け規制(2026年2月17日発行)

執筆者  久保田 精一 (合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員 城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物))  執筆者略歴 ▼ 略歴 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所) 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所 2015年7月~ 現職 活動 城西大学 非常勤講師 流通経済大学 客員講師 日本工業出版「流通ネットワーキング」編集委員 ほか(いずれも執筆時点) 著書 「ケースで読み解く経営戦略論」(八千代出版)※共著 ほか   目次 ■はじめに ■米国での下請け規制に関わる2012年の立法 ■ブローカーの「価格釣り上げ」を巡る議論 ■主要な論点は「取引の透明化」 ■日本の下請け規制との比較 ■最後に    ■はじめに トラック運送業界では、深刻なドライバー不足を踏まえ、輸送条件の適正化に向けた制度改正が進んでいる。 その焦点の一つは、多重下請け構造の是正である。トラック運送では「荷主⇒元請け⇒下請け⇒孫請け」、というような数次に亘る再委託が一般化しており、中間マージン分の「中抜き※」による運賃引き下げといった問題に繋がっている。 そのような背景から、近年、国は下請け取引に係る規制的措置の導入を進めている。 具体的には、下請け構造を記録する「実運送体制管理簿」の記録が義務化されたほか、標準的運賃および標準運送約款の改定に伴って下請け取引における「マージン率」について、標準的な数値が示された。また、執筆時点(2025年10月)では未施行だが、2025年に可決成立した改正トラック法では、下請け取引を二次までに制限することを努力義務とする規定も導入されている。 ところで、このような規制が導入されるに際しては、米国において下請け規制が存在することを論拠とする場面が見られた。 一方、米国では、現行の規制に留まらず、更なる規制強化を巡る議論が続いているが、その点についてはあまり触れられていない。米国での議論は、今後の日本の規制のあり方にも参考になると思われるため、本稿では、米国における規制の経緯について、簡単にご紹介することとしたい。なお筆者は法律の専門家ではないため、法的な記述について不正確な箇所が含まれる点をご容赦いただきたい。 ※「中抜き」は本来、「仲介業者を介さずに取引すること」を指し、「中間業者が不当に利益を抜くこと」の意味での使用は誤用とされる場合が多いことを付記しておく。 ■米国での下請け規制に関わる2012年の立法 最初に、2012年に導入された下請け規制について紹介する。 米国では州を跨ぐ「州際輸送」を行う場合、連邦運輸省(DOT)の規制を受ける。具体的には、輸送事業者はDOTおよび関連する輸送安全機関であるFMCSAへの登録等の手続きが必要とされる。登録の方法は業種ごとに定められており、貨物運送については、実運送業者(Motor Carrier)、ブローカー、フレイトフォワーダ等に分類される。 ここで言う「ブローカー」は「貨物を仲介する業者」に相当する。法的な性格としては契約を媒介する「運送取次業」に近い業態である。日本で貨物の仲介を行うのは主として利用運送業だが、一般的な利用運送業は契約を媒介するのではなく運送契約の主体となるため、米国の分類ではフレイトフォワーダに近い。イメージとしてはいわゆる「水屋」がブローカー業態に近いものの、水屋も運送責任を負う点で差異があるようである。 さて、このように、ブローカーと実運送とは業態として区別されているのだが、実運送として受託した輸送を、他社に再委託するケースもある。そのような法的に問題のある下請け取引に絡んで重大事故が発生した事案があり、下請け取引の問題への社会的関心が高まったのを受け、オーナーオペレータ(個人事業主であるトラックドライバー)団体が中心となって規制強化を求めるロビー活動を始めた。そのような業界の努力が実を結び、2012年に下請け取引への法規制が成立した。 以上の経緯については、以下の参考資料1にやや詳しく紹介されているので、ご関心のある方は参照いただきたい。 さて、この規制の主旨は、実運送とブローカーとの区分の明確化である。すなわち、ブローカーではない実運送業者として契約した運送業務について、他社に委託することを禁止することで、下請け取引の秩序を維持しようというものである。国内の行政文書等で米国における下請け規制として言及されているのは、一般的にこの規制のことである。 ところで、実運送として契約しながら、実態として他社に委託するというのは、日本でもごく一般的に行われている。貨物自動車運送事業の約款には、利用運送を行うケースに適用される規定があり、そのため、荷主と運送事業者が「貨物自動車運送事業」の約款で契約したうえで、他社に委託する行為自体は一般的には妨げられないが、米国では両者の線引きを明確にしたと理解することもできる。 参考資料1:経産省「令和2年度流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤構築事業/物流市場における競争環境や労働環境等に関する調査」 ■ブローカーの「価格釣り上げ」を巡る議論 さて、以上の経緯で導入された下請け規制は一定の効果を上げている。上記の参考資料1によれば、規制導入後、運賃が上昇傾向に転じるといった効果も見られているそうである。 とはいえ、運送事業者団体のメディアでのコメント等を見ると、規制への評価は必ずしも芳しくない。 実運送事業者、特にオーナーオペレータにとって、下請け取引への本質的な不満は、元請けであるブローカーに不当に「中抜き」され、その結果、安い運賃で運ばされている、というものである。 2020年、オーナーオペレータ団体であるOOIDAなどが、ワシントンD.C.で大規模なデモンストレーションを行った。 デモで繰り広げられた主張は、ブローカーが荷主に請求している運賃は「高くつり上げられて」おり、ブローカーだけが「ボロ儲け」している、というもので「トラックブローカーによる不当な価格吊り上げ」がメディアなどで取り上げられる際のキーワードとなっていた(参考記事2)。 もちろん、これはあくまで事業者サイドの主張に過ぎない。ブローカー側は、中抜き率は一定のレベルに留まるといった論拠を示し、真っ向から反論を行っている。また当時はコロナ禍により実運送の運賃が著しく低迷しているなど、外部要因の影響があったことも割り引いて考える必要がある。 このような状況にもかかわらず、当時の第1次トランプ政権は、OOIDAの主張に寄り添ったスタンスを取った。特に、大統領自身がOOIDAの主張を支持する主旨のツイートをしたり、フォックスニュースに出演し「彼ら(オーナーオペレータ)は素晴らしい人々であり(中略)、我々は彼らの面倒を見るつもりだ」などと発言したことは、運送事業者側を明確に支持するスタンスを示すものとして受け取られた。このような政権の姿勢もあって、運送事業者サイドの主張に沿った法改正の動きが進められていくことになった。 参考資料2:Freightwaves,Trucker rally for […]

第573号 1年半経った「物流の2024年問題」(後編)(2026年2月5日発行)

執筆者  長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問  執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 2009年 同社顧問 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問 活動領域 日本物流学会 (一社)日本SCM協会 (一社)日本物流資格士会会員 流通経済大学客員講師 港湾短期大学校非常勤講師 (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師   本論文は、前編、後編の計2回に分けて掲載いたします。 ※前編はこちら   目次 3.行政による評価 (1)「2025年版交通政策白書」の総括と今後の取り組み (2)「労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和6年の監督指導・送検等の状況」 4.「物流の2024年問題」への取り組み強化 (1)「物流の2024年問題」から「物流の2026年問題」「物流の2027年問題」へ (2)トラック運賃改定が物価高の張本人か (3)外国人労働力の「特定技能」は、ドライバー不足の切り札か 5.おわりに    3.行政による評価 ここでは、国交省と厚労省の白書等から、行政が「物流の2024年問題」の推移・動向について、どのように評価しているかを見たい。 取り上げた資料は、国交省の「2025年版交通政策白書」と厚労省の「労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和6年の監督指導・送検等の状況」の2つである。他にも「『標準的な運賃』に係る実態調査結果」(国交省)や「価格交渉促進月間の実施とフォローアップ調査結果等」(中小企業庁)などの最新かつ有益な資料も多いが、誌面の都合で割愛する。 (1)「2025年版交通政策白書」の総括と今後の取り組み 国交省では、「2025年版交通政策白書」以外にも「国土交通白書」をはじめ、各種の白書・調査があるが、白書は閣議決定を経てオーソライズされているので、これが国交省の「公式見解」と言っても良いのではなかろうか。最近は、各省庁の白書等も「冊子」ではなく、ホームページにPDFで公開されているので、容易に入手できる。 同白書では、「現時点では懸念された物流の深刻な停滞は生じていないところであるが、この問題は年々深刻化する構造的な課題でもあり、引き続き取組を進める必要がある」と述べている。 図表10 令和7年版交通政策白書の概要(抜粋) (出所)国土交通省「令和7年版交通政策白書の概要」 *画像をClickすると拡大画像が見られます。 その背景には、トラックドライバーなど物流分野における構造的な人手不足が解決しておらず、「2030年にはトラック運送能力が34%不足する可能性がある」という問題は積み残されたままとなっていることがある。以下、図表9に沿って、国交省の取り組みを概説する。 1)2030年までを物流革新の「集中改革期間」 そこで、政府は、輸送力不足が年々深刻化する2030年までの期間を物流革新の「集中改革期間」と位置付け、物流全体の適正化や生産性向上、自動運転等の抜本的なイノベーションに取り組むと掲げている。 2)労働力不足対策と就業構造改善 関連法律を整備して労働力不足対策と就業構造改善に取り組む。 なお、人材を確保することが困難な状況にある交通事業における労働者不足に対応するため、2024年3月に自動車運送業分野鉄道分野を特定技能制度の対象分野に追加した。外国人材の早期受入れ開始に向け、分野別協議会の設置や技能評価試験などを進めつつ、物流倉庫分野についても対象分野に新たに追加すべく調整中である。 3)物流DXの推進 新たな物流形態として、道路空間を活用した「自動物流道路」の社会実装に向けた準備を進め、2027年度までの社会実験の実施、2030年代半ばまでの第1期区間での運用開始等を予定している。 […]

第572号 1年半経った「物流の2024年問題」(前編)(2026年1月20日発行)

執筆者  長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問  執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 2009年 同社顧問 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問 活動領域 日本物流学会 (一社)日本SCM協会 (一社)日本物流資格士会会員 流通経済大学客員講師 港湾短期大学校非常勤講師 (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師   本論文は、前編、後編の計2回に分けて掲載いたします。   目次 1.はじめに 2.荷動きなど「世間」の動向 (1)荷動きの動向 (2)トラック運送業界の景況感 (3)「2024年問題」に対する企業の意識調査 (4)賃金・労働時間の動向 (5)トラック運送業の倒産動向    1.はじめに 「物流の2024年問題」については本ロジスティクス・レビュー誌で、これまでも数回にわたって状況報告などをさせて頂いた。直近では、「『負のスパイラル』から『正のスパイラル』へ」(2024年11月7日 第543号~2024年12月17日 第546号)で4回にわたって、 1.はじめに 2.荷動きなど「世間」の動向 3.適正運賃での取引に向けた国土交通省などによる4つの支援策 4.取引の適正化に向けた公取委・中小企業庁の動き 5.運賃・料金の改定で労働環境・労働条件の改善を 6.おわりに をご説明して、トラック運送の経営を「正のスパイラル」に乗せて頂くための方策を、読者の皆さんと一緒に考えてみた(以下、「前稿」という) 本稿(2025年8月末執筆)が配信されるのは、2025年11月の予定なので、2024年4月スタートから既に1年半以上が経過していることになる。しかし、国土交通省・トラック協会などが述べているように、「物流の2024年問題」は長期的、かつ構造的な課題なので、引き続き、関係者(トラック運送事業者・荷主・行政・業界団体など)が協力して取り組んでいく必要がある。 ともすれば、喉元過ぎれば熱さを忘れるかのように「物流の2024年問題は、もう終わった」という傾向もみられる。 本稿では、前稿で述べたことを振り返りつつ、その後の各施策(通称、「新・物流二法」「トラック新法」など)の動向などを踏まえて、読者の皆さんの「物流の2024年問題」への息の長い取り組み策を述べたいと思う。 2.荷動きなど「世間」の動向 本項を実証的研究というのか否か分からないが、前稿で挙げた各種データと、その最新版を比較して、現在のトラック輸送・労働力不足などの傾向をフォローしてみたい。 誌面の都合で、前稿データは省略するので、バックナンバーから前稿を開いて比較しながら読まれたい。 (1)荷動きの動向 NX総合研究所の「2025年度の経済と貨物輸送の見通し」(2025年7月14日発表)によ ると、2024年度の実質経済成長率は0.2%増と微増にとどまり、国内貨物輸送量は、上期が 1.1%増と堅調に推移したが、下期は建設関連貨物が大きく落ち込んだことを受けて3.8%減となり、通年で1.4%減に終わった。 […]

第571号「2024年問題その後~中小運送業者のいま」(2026年1月8日発行)

執筆者 山田 健 (中小企業診断士 流通経済大学/文教大学非常勤講師)  執筆者略歴 ▼ 著者略歴等 1979年日本通運株式会社入社。 1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、 コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、 荷主向けの研修・セミナーに携わる。 2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」 「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。 中小企業診断士。 URL:http://www.yamada-consul.com/   目次 1.かかってきた電話 2.時間外労働は減ったか 3.運賃は上がったか 4.中小運送会社には政府の支援を    1.かかってきた電話 昨年秋、筆者のもとに一本のメール着信があった。旧知の中小企業診断士からのほぼ20年ぶりの連絡であった。現在かかわっている中小運送会社の経営支援計画作りを手伝ってほしいとのこと。運送会社に精通した診断士を探す中で筆者を思い出してくれたという。 彼は中小企業診断士の第3次実習を共にした仲間である。第一次、二次の筆記試験を通過した後の最後の関門が、この実戦形式の実習である。5人の受験生に一人の指導教官が付き、その指導の下2週間で2社の診断とレポート作成、報告会まで行うというなかなかハードなスケジュールである。1週間に1社の診断ペースにくわえて、2週間連続で会社を空けなければならず、勤め人にとってはなかなかハードルが高い。ただ、企業の財務から販売、マーケティング、事業戦略まで診断するこの濃密で刺激的な2週間の経験は貴重であった。筆者がコンサルティングの魅力に触れ、本気でコンサルタントを志したきっかけとなったのがこの第三次実習である。 実習を共にしたメンバーは在職中、定年後を問わず、何らかの形で独立診断士として活動している。また2週間寝る間を惜しんで(?)「同じ釜の飯を食った」メンバーとの絆は深まる。彼もその一人であった。現在は、中小企業を専門とした支援会社の中枢メンバーだという。 そのような経緯で、その後何社かの中小運送会社の経営改善のお手伝いをすることになった。それまでコンサルタントとして運送会社のお手伝いは経験していたものの、社員研修や現場改善、営業支援など業務レベルのコンサルが中心であり、経営者を対象とした経営戦略や財務分析まで踏み込んだ本格的な経営支援、いわば本来の中小企業診断士としての活動は初めてである。そして、もっとも現場に近いところで運送会社の経営実態に触れたことであらためてトラック運送事業の課題を認識することになった。 いつもながら冒頭からの私事で恐縮であるが、折しも2024年問題の真っただ中の今、その実態と課題について現場の視点も踏まえて整理していきたい。 2.時間外労働は減ったか 水面下での実態はどうかという点は別として、現時点で時間外労働についての課題は表立っては聞こえてこない。問題となるトンキロベースで6割強を占める長距離輸送についても、大手を中心とした中継輸送や鉄道、RORO船へのモーダルシフトなどの対策が紹介されており、深刻な影響は見られていないように思える。 支援した運送会社も比較的時間外労働の少ない地場配送をメインとしており、ギリギリではあるものの、上限は何とかクリアできているようである。もっとも、上限を超えそうなドライバーは期末に勤務時間を調整するなどの柔軟な対応がとられていることもある。むしろ現場から聞こえてくる問題は、昨年から適用となった厚労省の「改善基準告示」である。こちらは時間外労働からさらに枠を広げた、年間、月間の拘束時間規制である。年間拘束時間が3,516時間⇒3,300時間(最大3,400時間)、月間293時間⇒284時間(最大310時間)へと変更となった。年度末での調整が可能な時間外規制と異なり、毎月対処しなければならない規制であるため調整が難しく、対応にはより神経を使う。 現場レベルでは悲痛な声も聞こえてくる。先日のNHKクローズアップ現代「やっぱり物が届かない」で紹介されたトラック運送の実態は、それまでの宅配便中心の偏った(?)テーマから大きく転換し、中小運送会社の現場実態にかなり踏み込んだものとなっていた。番組では、時間外を増やす大きな原因である「荷待ち時間」がほとんど改善されていないことが紹介されていた。昨年、荷待ちと荷役にかかわる時間は1運行当たり平均3時間2分で、目標とする2時間を大幅に上回ったという。実際、カメラにはドライバーが納品先近くの路上で3時間待機している様子が捉えられていた。 ある長距離ドライバーは時間外上限をクリアするための運行をすれば、手取りで月7万円の収入減に見舞われるという。その分会社が賃金を上げてくれるわけではなく、歩合給が多くを占める給与体系では「生活するために時間外を増やさざるを得ない」悪循環に陥っている現実が紹介されていた。長距離運転から久しぶりに帰宅したわが家で、幼い娘が「パパ、次のお祭りには帰ってくる?」とせがみながらカレンダーに書き込んでいる姿がいじらしく切なかった。 一方、地場配送で問題になっているのが東京港発着の海上コンテナ・ドレージ(輸送)である。ここ何年も前から東京港のコンテナ・ターミナルの混雑のために、入構待ちのトレーラが列をなしているのである。通常で3~4時間待ちは当たり前、ひどい時は6~7時間もあるという。コンテナ・ターミナルが集中立地する東京大井ふ頭などの周辺道路では、中央分離帯寄り1~2車線が入構待ちのトレーラで完全に「占領」されている(ちなみに、筆者が40年以上前に周辺事務所に勤務した頃はもちろんこのような混雑はなく、ガラガラの速度制限40km道路で速度取締にひっかかったほどであった)。この状況もすでに2019年のNHK特集で紹介されていたが、現在に至るまで大きな改善はみられていない。運送会社の経営者によれば、待機時間のおかげで家に帰れず、周辺の路上駐車の車中で寝泊まりしているドライバーが少なくないという。 原因は、340万TEU(20フィートコンテナ換算)の容量に対して450万TEU以上が集中する完全なキャパオーバーである。周辺に拡張余地は少ないことを考えれば、荷主が京浜地区の港の利用を避けることくらいしか対策はなさそうである。 運送会社としては、この待機時間によって時間外が増えることが納得できない。北関東からは1日当たりトレーラ1回転が限界で、それでも時間外が発生する。本来、2回転で運賃も稼げるところ、運賃は減る、時間外規制には抵触するという二重苦である。「こんなの国が何とかしてくれないと」という悲痛な叫びももっともである。 最後に極論ではあるが、「月80時間くらいで人間死にはしない」という時間外規制に対する経営者の不満の声もあったことも報告しておく(もちろんそういう問題ではないのだが)。 3.運賃は上がったか 時間外労働の原因はこうした商慣行によるところも大きいが、根本的にはやはり運賃にある。待機時間が長いことが解決できないのであれば、その分ドライバーと車両を増やせばいいのであるが、それができないのは収受運賃でそのコストを賄えないからである。東京港発着のコンテナ・ドレージが1回転しかできないのであれば、1回転で十分採算がとれる運賃が確保できればすむ話である。しかし、こうした運賃の話を物流業界以外の方に話すと、決まって「そんな短絡的な」「運賃だけの問題ではないでしょう」といった反論を受けるが、現実にほとんどすべての原因は運賃に帰結する。そう思いたくない人は思わなくてもしかたないが、誤解を恐れずに言えば、「運賃の問題がほぼ9割」と考えてよい。 まずは客観的な指標として、以前にも紹介した日本貨物運送協同組合連合会(日貨協連)の公表しているWebKIT成約運賃指数を確認してみよう。WebKITは公益社団法人全日本トラック協会が運営する会員企業(運送事業者)同士の求荷求車情報ネットワークで、直近では約6,500の加盟社、年間約190万件の荷物情報(求車)件数と約29万件の成約件数を持つ国内最大級のトラック・マッチングサイトである。したがって公表している成約運賃指数はおおむね実際の相場を反映したものと判断して差し支えない。 図表1で示した折れ線グラフの月ごとの数字は2010年4月の成約運賃を100とした指数で表されている。グラフによれば、「宅配クライシス」で2018年に上昇したトラック運賃は2020年の新型コロナによる物量減少で下落したのち、2024年問題が話題となり始めた2023年から上昇に転じ、昨年から2025年度にかけ統計開始以来最高の水準で上昇を続けている。直近では、ボトムの2020年度に比較し、20ポイント近くのアップとなっている。 図表 1 成約運賃指数の推移(日本貨物運送協同組合連合会) *画像をClickすると拡大画像が見られます。 ただ、成約運賃指数は必要の都度トラックを調達するスポット運賃の相場であり、通常の長期契約運賃より高めに反映されることを考慮しなければならない。そこで、より長期・継続的な運賃契約の動向を検証するために、全日本トラック協会実施の「2024年問題対応状況調査」を図表2に示す。 図表 2 「物流の2024年問題対応調査」 *画像をClickすると拡大画像が見られます。 値上げ率は5%未満が3割強、5~10%未満が半分である。つまり約8割の事業者の値上げ率は10%に達していない。これも以前取り上げたが、昨年政府が公表した、運送会社が健全に経営するための運賃指標「標準的運賃」に対して、実勢運賃は6~8割の水準に留まっている実態を考慮すれば、この程度の値上げでは不十分と言わざるを得ない。実際、「全然足りない」という運送会社の声はよく聞く。ドライバーの待遇を他産業並みに引き上げていくにはより踏み込んだ値上げが必要なのである。 先の例では海上コンテナ輸送の運賃が典型である。海上コンテナは関税法上の免税コンテナであり、原則として内国貨物は積載できない(特別な許可があれば可能ではある)。したがって片道が空の往復輸送を前提としているため、海上コンテナ輸送の運賃体系はラウンド運賃といって、通常の輸送が片道距離であるのに対し往復の距離が計算基準となる。北関東~東京港の輸送距離が片道100kmであれば、往復の200kmで計算するのである。 ところが、実勢運賃はほぼ片道運賃に等しく、しかも標準的運賃を下回っている。これにくわえて東京港の混雑による待機時間を考慮すれば、現在の運賃では「全然足りない」のは当然かもしれない。 極端な例であるかもしれないが、経営支援中の運送会社はここ10年間、賃上げ、賞与とも0、平均給与、退職金は業界平均を下回る。それでいて業績は赤字が続く。トラックの積載効率や稼働率などの運行効率は、国交省公表の平均と比べても遜色ない。人件費が高いわけでもトラックの運行が非効率なわけでもないのに赤字となると、運賃が低いことが赤字の最大要因としか判断できない(もちろん経営責任はあるが)。早急な値上げを行わないと経営の持続性すら厳しい状況にある。 4.中小運送会社には政府の支援を さまざまな情報を確認する限りでは、一定規模以上の3PLや特積、運送元請けなどの値上げ交渉はある程度進んでいるようである。中堅から大手までが加入する全日本トラック協会会員企業を対象とした図表2の結果にも多分に反映されているものと推測される。ただ、中小運送会社の現実はやはり厳しい。 経営者の多くは依然として過去のトラウマにとらわれている。値上げ要請をした時点でより安い運賃を提示する他社に仕事をとられてしまった苦い経験である。NHK「クロ現」でも、時間外規制を遵守し賃金を維持するため運賃値上げ交渉を行ったところ、何度も断られたという事例が紹介されていた。「この運賃で今までやっていたのに何でできないんだ」「お前のところができないならやるところはいくらでもある」と言われ、撤退したため昨年度は1,700万円の収入減に見舞われたという。ルールを守る会社が経営難に陥る「正直者がバカをみる」結果を招いているのが実態である。このように交渉力が弱い中小運送会社では、2024年問題の追い風を味方にできず、以前と状況はほとんど変わっていない。 […]

第548号「いまふたたび認可運賃?」(2025年1月21日発行)

執筆者 山田 健 (中小企業診断士 流通経済大学/文教大学非常勤講師)  執筆者略歴 ▼ 著者略歴等 1979年日本通運株式会社入社。 1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、コスト削減などの コンサルティングと、国土交通省や物流事業者、荷主向けの研修・セミナーに携わる。 2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」 「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。 中小企業診断士。 URL:http://www.yamada-consul.com/   目次 1.ルート66のヒッチハイク 2.さらに減る賃金 3.認可運賃の議論を    1.ルート66のヒッチハイク 少し前のことであるが、某テレビ局でアメリカ大陸横断ヒッチハイクの旅(正確な番組名は忘れた)という番組が放映された。旅の舞台はルート66(国道66号線)。大陸を横断するこの道は、アメリカ西部の発展を促進した重要な国道であり、映画や小説、音楽などの中に多く登場し、今なおアメリカのポップ・カルチャーの題材にされている。 何人かの日本人のタレントがリレー方式で、西海岸から東海岸までこの国道を中心にヒッチハイクして旅するドキュメンタリー形式のバラエティである。私事で恐縮だが、この手の「ゲーム形式の路線バスの旅」系の番組が好きで欠かさず視聴している。目的地までやらせなし(たぶん)で進行するガチンコ旅である。道中で起きるさまざまなハプニングに出会いながらの旅はなかなかスリリングで目が離せない。番組の宣伝をするつもりはないが、行く先々の未知の名所に出会えるのも楽しいし、行きあたりばったりの冒険的な要素もなかなか魅力的である。 それにしても、決して治安のいいとはいえない米国でのヒッチハイクは乗る方も乗せる方も相当リスキーである。まあ、撮影スタッフが付いていくロケであるから多少心強いかもしれないが、女性タレントも含まれるリレーはなかなか無謀で大胆な企画ではあった(喜んで観ておきながらなんではあるが)。 実際、乗せてくれる車を探す苦労は想像以上だ。道端で行き先のプラカードを掲げて手を振っても、走っている車はまず100%停車してくれない(当然!)。やむを得ず、ガソリンスタンドやトラックターミナルなどに停車しているドライバーに直接交渉する羽目になる。自家用車に同乗させてくれるケースはまれで、大半は長距離トラックでのヒッチハイクとなるのはやむを得ないところであろう。 登場する米国のトレーラーの大きさには驚かされる。何千キロという長距離を大量輸送するのには当然であろうが、おそらく日本のトレーラーの1.5倍以上はあるのではないか。 と、職業目線が登場してきたところで、助手席に乗せてもらったタレントがある女性ドライバーと交わした世間話(もちろん通訳付きで)に職業アンテナが反応した。道中のドライバーとの会話がおそらくこの番組の見どころの一つであるが、「なぜトラックドライバーになったの」というタレントの質問に彼女はこう答えた。「給料が高いから」。以前は教師をしていたが、より給料の高いトラックドライバーに転職したのだという。妙に納得感のある理由であった。 以前にも書いたが、米宅配会社UPSのフルタイム勤務のドライバーの年収(2023年時点)は、同国世帯平均の約1.25倍の7万4580ドル(約1,370万円)である。ドライバーの給料が他産業より高いのは「常識」なのであった。 もうお察しのことと思うが、今回のテーマはドライバーの給料、そしてその原資となる運賃である。これまでも本連載ではたびたび触れてきたテーマであるが、2024年問題が佳境に入りつつある現時点での「運賃のいま」について考えていきたい。 2.さらに減る賃金 あらためて言うまでもないが、2024年問題に限らず構造的なドライバー不足を緩和する施策には枚挙に暇がない。共同配送に始まり、長距離輸送の中継方式、モーダルシフトそして物流センターでの待ち時間短縮、パレット荷役、バース予約システムなどなど。もちろん、「これをやればすべて解決」などという決め手はない。一つひとつできるところから地道に手を付けていくしかないのが現状である。 こうした施策の効果がどれほど期待できるのかは別にして、一つ重要な点は共同配送などトラックの積載効率を上げていく対策を除けば、ほとんどがドライバーの勤務時間短縮を招くことである。 「時間外労働を減らすことが目的なのだから当たり前じゃないか」といわれそうだが、ドライバーにとって勤務時間減少は賃金減に直結する。歩合給が半分以上を占めるといわれるドライバーの賃金体系であればなおさらである。それでなくとも一般より1~2割低いといわれる給与がさらに下がってしまうことを意味する。待遇の悪化はドライバーの減少にさらに拍車をかける。 実際、長距離輸送の中継方式を導入したある大手運送会社のあるドライバーは、中継方式により長距離輸送が減ったおかげで時間外勤務が激減。賃金が大きく下がったため他産業への転職を真剣に考えているという話も耳にした。こうしたドライバーの離職分は公表されている「何も対策を講じなければ2030年には3割以上の貨物が運べなくなる」といった数字には含まれていない。現実はははるかに深刻な事態に陥ることが危惧される。 先の米国のドライバーの例を挙げるまでもなく、さまざまな施策とは別次元で運賃を上げ、ドライバー給与を他産業並み、どころか「他産業以上」に挙げていくことが喫緊の課題となっているといっても過言ではない。 3.運賃のいま では、時間外規制の適用が始まったいま、運賃はどのような状況にあるか。実勢運賃の推移を知るのにもっとも参考となるデータとして筆者が活用してる資料に、トラック運送事業協同組合が毎月公表している「WebKIT運賃成約指数」がある。これは全国のトラック運送事業者およびトラック運送事業協同組合のためのインターネットを利用した求荷求車情報ネットワークシステム「WebKIT」での成約運賃を、2010年4月を100として指数で表したものである(図表1)。 *画像をClickすると拡大画像が見られます。 直近の特徴的な年度を見てみると、トラック運賃はいわゆる「宅配クライシス」が起きた翌年の2018年度をピークに、コロナ禍の2020年にボトムまで下がり、その後コロナの5類引き下げと経済の回復とともに徐々に上昇し、時間外規制が始まった本年度に2018年の水準を超えた。運賃が上昇しているのは間違いない。 では実際の運賃はどうなのかというと残念ながら決して十分とは言えない水準である。 図表2は国交省が今年公表した標準運賃と実勢運賃の比較である。標準運賃は、認可運賃から届け出制に移行した現在のトラック運賃について、民間同士での交渉ではあまりにも運賃があがらないことに危機感を持った国交省が、「強制ではなく」「参考までの」運賃として公表した「苦肉の策」である。ドライバーの労働条件を改善し、トラック運送業がその機能を持続的に維持していくに当たって、法令を遵守して持続的に事業を行っていくための参考となる運賃(国交省HPより)である。本来ならこれだけ収受しなければ運送会社の経営が成り立たないという水準であって、米国のように世帯平均より高い賃金を前提としたものではない。 *画像をClickすると拡大画像が見られます。 ここでは関東の4トン車と10トン車を取り上げたが、いずれも実勢運賃は標準運賃の6~8割の水準である。仮にドライバー賃金を世間並み以上に引き上げようとすれば、標準運賃をはるかに上回る運賃が必要となる。 3.認可運賃の議論を 上昇基調にあるとはいえ、現在のアップ率では世間並みの賃金にさえほど遠い。実際、知り合いの中堅運送会社の労務担当の話では、相変わらずドライバーの応募はほぼゼロで、たまに応募があっても50代、60代。若者は皆無という。少々の運賃アップでは少なくとも採用面では「焼け石に水」なのである。 それでも今後運賃の上昇基調は続くものと思われる。しかし、これまでのペースでは、標準運賃を上回るようなアップは期待薄である。まして、コロナ禍や最近のイスラム過激派フーシによるスエズ運河の脅威などによって数倍に跳ね上がった海上運賃のような上昇は望むべくもない。それどころか過去のパターンからも推測できるように、景気が少しでも落ち込んで貨物量が減少すれば、たちまち元に戻ってしまう懸念さえある。運賃が上がらなければドライバーの待遇も改善されず、ドライバー不足は解消はおろか緩和もされない。加速するドライバーの減少ペースをくい止めることは不可能である。 ここからは、拙速で乱暴な議論という非難をあえて承知の上で述べることをご容赦願いたい。 もはやトラック運賃は民間同士での取引で決定するのは限界という次元にきていると思えてならない。そもそもトラック運賃は図表3にあるように、1989年にトラック運送業への参入規制が免許制から許可制に緩和されたことにともない、認可運賃から事前届け出制、事後届け出制へと自由化されてきた。認可運賃とは国に届け出て認可を受けた運賃であって、利用者に不当な不利益をもたらしたり、事業者間での不当な競争を引き起こしたりする *画像をClickすると拡大画像が見られます。 場合は国土交通大臣が変更命令を出せる仕組みとなっている。国による強制力がある運賃である。 現在のトラック運賃体系は、かつての認可運賃をベースにしてはいるものの運送会社の裁量で決められる。ところが、実際は認可運賃当時から荷主と運送会社の交渉で決まる「実勢運賃」が慣習となっていた。当時の荷主はもとより、お恥ずかしながら物流会社の営業を担っていた筆者さえも認可運賃の意味を理解することなく「実勢運賃」による値決めを当たり前としていた。それは今も変わらない。運賃タリフ(運賃表)の存在さえ知らない運送業の社員も珍しくない。制度は変わっても実態は何も変わっていないのが現実なのである。 荷主と運送会社の間に存在する圧倒的な力の差を見据えたとき、ここはいま一度、かつての認可運賃のような運賃制度を原点から検討する時期にきているのではないだろうか。少なくとも、運賃の上限と下限を定めてその範囲を逸脱する場合に、要請や勧告、社名公表など元受を含めた運送会社と荷主を国が指導する「強制力」を持たせることが必要ではないか。昨年新設されたトラックGメンは、運賃交渉の不当な据え置きや交渉に応じないことを勧告などの対象としているが、一歩踏み込んで運賃水準そのものをチェックの対象とするのである。いわば現在の標準運賃とトラックGメンの機能を、認可運賃という法的根拠をもとにより強固なものにするのである。 素人である筆者には不案内な法制度や制度設計などは霞が関の優秀な官僚たちにお任せするとして、せめて議論の土俵くらいには乗せる必要はあるのではないか。当然、行政や荷主など関係業界の大きな抵抗が予想されるものの、もはや事態は一刻の猶予も許されない局面に差し掛かっているように思える。 (C)2025 Takeshi […]

第547号「活用が進むレンタルパレット~そのコストは誰が負担すべきか」(2025年1月9日発行)

執筆者  久保田 精一 (合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員 城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物))  執筆者略歴 ▼ 略歴 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所) 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所 2015年7月~ 現職 活動 城西大学 非常勤講師 流通経済大学 客員講師 日本工業出版「流通ネットワーキング」編集委員 ほか(いずれも執筆時点) 著書 「ケースで読み解く経営戦略論」(八千代出版)※共著 ほか   目次 ■パレット活用を後押しする動き ■急速に進むパレット活用 ■普及の課題となる「コスト負担」 ■店着価格制のもとで受益者負担を議論することの問題 ■まずは実態把握が必要    ■パレット活用を後押しする動き このところ、パレット活用を後押しする動きが急速に進んでいる。 改正物流法(物流総合効率化法および貨物自動車運送事業法の改正)では荷主に対し各種の努力義務を課すが、その一つとして「パレットの活用」が掲げられている。またパレット導入に関わる補助金も創設されている。 また少し前のことだが、2024年6月に国交省のパレット標準化推進分科会が「最終とりまとめ」を公表しているが、ここではパレット普及の基本的な方向性がわかりやすく整理されている。パレットのサイズ、運用方法の標準などが詳細に記述されており、国の普及に向けた意気込みも伝わってくる内容である。 なお、パレット化とレンタルパレット活用はイコールではないが、上記分科会の議論を含め、近年の政府の政策に共通する方向性は、単なる「パレット化の推進」ではなく「レンタルパレットの普及」である。 言うまでも無い事だが、仮に日本中のパレットが標準化され、サイズが統一されたとしても、荷主各社が自社の私有パレットをバラバラに運用するのでは、効率化の余地は乏しい。私有パレットの場合、納品先で私有パレットから別のパレットに積み替える作業が発生するし、使い終わった私有パレットの回収輸送も問題となる。 よって、パレット化を推進するにおいては、一部の例外を除き(注1)、レンタルパレットを活用する以外の選択肢は少ない。 このような背景により上記の「とりまとめ」もレンタルパレットに関する記述が多くを占めており、同文書が目標として示しているKPIの多くも、レンタルの普及に関するものとなっている(図表1)。 図表1 パレット標準化の実現に向けたKPI *画像をClickすると拡大画像が見られます。 資料:パレット標準化推進分科会・最終とりまとめ ■急速に進むパレット活用 図表1に示されたKPIを見ると、目標値はいずれも意欲的な数値である。例えばレンタルパレット保有数量の目標は89%増ということであるから、数年間で「ほぼ倍増」を目指すということになる。 ただ、このような目標も実現不可能な夢物語とは言えない。現状でもレンタルパレットの市場が急速に拡大しているという実態があるからである。 一例として、日本パレット協会の発表によるレンタルパレット各社の保有数量を見て見ると、2013~2023年の10年間で46.9%もの大幅増となっている(23年6月付けリリースより)。また、レンタルパレットの主たる担い手であるパレット会社の売上推移を見ると、おしなべて同様の好調であり、平均的に見て年率で4%程度の成長を記録している。このような点を踏まえれば、実現時期はともかく、レンタルパレット倍増という目標は、十分に実現可能な目標だと言える(図表2。注記も参照)。 余談だが、パレット業界の好調さは、低迷が続く物流業界にあっては異例のことである。 周知のとおり、日本の国内物流量は長期的な下落傾向が続いている。日本全体のトラック運送業の売上高を合計すると、長期的に見てほとんど横ばいとなっており、売上の増加は消費税の増税および燃料費高騰で説明できるレベルに留まる。平成バブル期以降の長期間に亘って量的にほとんど成長していないというのが、物流業界の厳しい現実である。 そのような業界にあってパレット業界が伸びているわけだが、その理由はひとえにレンタルパレットの普及である。そしてこの流れは、今後も継続すると考えられる。 その第一の理由は、現在でも手積みで輸送されている貨物が少なくないという点である。マクロ的に見ればパレット化は進んでいるものの、個別に見れば生鮮品、建材、包装資材など、依然として手積み貨物が多く、パレット化が進んでいない分野は少なくない。 そして、2点目の理由は、このような物流が持続可能でないということである。 10トン車に満載された貨物を1時間以上かけて荷卸しするような作業は、想像を絶する重労働だが、これを担っているのは、現在平均年齢が50歳を超えるドライバーである。今後さらに高齢化が進展する中で、このような業務が持続不可能であることは火を見るより明らかである。こと大型車による幹線輸送について言えば、パレット化の推進は「モノが運べない」という物流危機を避けるうえで必須の条件だと言って良い。 図表2 パレット各社の売上(コロナ禍前と直近との比較) *画像をClickすると拡大画像が見られます。 資料:筆者作成 図注:パレット各社はレンタルのほかに販売等を手がけているため、また三甲はパレット以外の事業を幅広く手がけているため、レンタル以外の売上を含む。売上は単体の場合と連結の場合がある。 ■普及の課題となる「コスト負担」 このような実態を踏まえれば、国が目標として掲げるように幅広くレンタルパレットが普及することは必要であるし、業界として歓迎すべきことである。 その際、課題となるのが、標題にも掲げた「コスト負担」の問題である。 レンタルパレットを導入するため、場合により荷役機器を導入したり、棚を買い換えたりする必要がある。これらの一時的コストは、各種補助金の拡充などで負担の軽減を図ることもできるかも知れないが、永続的に発生するランニングコストの問題は残る。 ランニングコストとしてどのような費用が発生するかと言えば、図表3に示した通りである。なお料金体系は会社ごとに個別性があるため、あくまで一般論であることをご承知おきいただきたい。 […]

第546号 ~「負のスパイラル」から「正のスパイラル」へ~(後編)(2024年12月17日発行)

執筆者  長谷川 雅行(一社)日本物流資格士会 顧問  執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 2009年 同社顧問 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問 活動領域 日本物流学会 (一社)日本SCM協会 (一社)日本物流資格士会会員 流通経済大学客員講師 港湾短期大学校非常勤講師 (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師 本論文は、前編、中編①、中編②、後編の計4回に分けて掲載いたします。   目次 4.取引の適正化に向けた公取委・中小企業庁の動き 5.運賃・料金の改定で労働環境・労働条件の改善を 6.おわりに    4.取引の適正化に向けた公取委・中小企業庁の動き (4)価格交渉促進月間の実施とフォローアップ調査結果トラック運送業でも軽油価格や人件費などが上昇するなか、経済産業省・中小企業庁(以下、「経産省」「中企庁」という)では中小企業等が適切に価格転嫁をしやすい環境作りのため、2021年9月から毎年9月と3月を「価格交渉促進月間」に設定して、価格交渉・価格転嫁を促進するために、広報や講習会、業界団体を通じた価格転嫁の要請等を実施している。各「月間」終了後には、中小企業等に対して、主な取引先との価格交渉・価格転嫁の状況についてのフォローアップ調査を実施し、価格転嫁率や業界ごとの結果、順位付け等の結果をとりまとめるとともに、価格交渉状況の芳しくない親事業者に対しては下請中小企業振興法(以下、「下請振興法」という)に基づき、経済産業大臣名で指導・助言を実施している。 図表11 価格交渉促進月間の概要   *画像をClickすると拡大画像が見られます。 (出所)中小企業庁資料 上記アンケートと下請Gメンのヒアリングによる2024年3月時点の調査結果が6月21日に公表され、その概要は以下の通りである。1)調査の概要アンケート回答企業数 46,461社( 回答から抽出される発注側企業数は延べ67,390社)下請Gメンによるヒアリング件数 約2,000社2)調査結果の概要①価格交渉が行われた割合は59.4%で、価格交渉できる雰囲気が更に醸成されつつある。価格交渉が行われた企業のうち、約7割が、労務費についても価格交渉が実施されたと回答した。②価格転嫁率は46.1%で、コストの増額分を全額価格転嫁できた企業の割合が増加した。「転嫁できた企業」と「できない企業」で二極化する兆しもある。③正当な理由のない原価低減要請等によって価格転嫁できず、減額されたケースが、全体の約1%存在しました。下請法違反が疑われる事例も存在しており、これらの情報も端緒として、下請法の執行を強化していく。(筆者注:正当な理由のない「運賃引き下げ」を要請している荷主が、今なお存在すると思われる)3)発注企業ごとの価格交渉・価格転嫁の評価を記載したリストの公表8月2日に、中企庁は上記調査結果に基づき、受注側の中小企業10社以上から主要な取引先として挙げられた発注側企業290社の価格交渉状況、価格転嫁状況の評価をまとめたリスト「発注側企業ごとの受注側中小企業からの回答状況を整理した『企業リスト』」を公表した。受注側の中小企業の回答から、価格交渉と価格転嫁の評価をそれぞれ数値化。価格交渉が積極的に行われた場合や、価格転嫁率が高かった場合には高い点数が付けられ、その逆は点数が低いかマイナスと評価された。皆さんの荷主・元請業者が載っていないか、一度ご覧頂きたい。元請業者として企業リストに載ったのは、ヤマト運輸、日鉄物流、福山通運、日本梱包運輸倉庫、アサヒロジ、全農物流、三菱ケミカル物流、日本通運、王子物流、いすゞロジスティクス、鴻池運輸、トランコム、ロジスティード東日本、西濃運輸、山九、丸全昭和運輸、佐川急便、日本郵便輸送、セイノースーパーエクスプレスの18社(法人番号順)である。このうち、価格交渉で低評価を受けたのはヤマト運輸、アサヒロジ、西濃運輸の3社で、いずれも価格転嫁でも低評価を受けているほか、西濃運輸は(1)でも「価格転嫁に応じない企業」として公表されている。なお、全体として価格交渉で最低評価を受けたのはエディオン、一条工務店、タマホームの3社のみで、価格転嫁で最低評価を受けた企業はなかった。マスメディア等では報道されていないが、企業リストには、低評価・最低評価をした中小企業数が、企業(荷主・物流事業者)ごとに掲出されているので、サンプル抽出してみた。①主な物流事業者(法人番号順。カッコ内が、回答中小企業者数)ヤマト運輸(77)、日本郵便(20)、福山通運(16)、日本梱包運輸倉庫(14)、日本通運(72)、トランコム(20)、西濃運輸(27)、佐川急便(94)(筆者注:下請業者=実運送業者が多い、宅配便・特別積合せ・3PLなどの回答企業数が挙がっている。日本梱包運輸倉庫と西濃運輸は(1)でも公表されており、取り組みの進展が遅れていることが伺われる。)②主な荷主企業(同)トヨタ自動車(36)、住友化学(16)、キヤノン(12)、日立製作所(31)、日産自動車 (21)これは、代々の経団連会長企業と、最近、下請法違反で勧告された企業である。回答企業数と評価は連動していないが、トヨタ自動車の約400社言われるティア1(一次下請で、中小企業とは限らない)からも1割近くが回答している。回答は任意なので、「お恐れながら一言」「反旗を翻して一言」というのもあるのだろうか。①②には、「ホワイト物流」推進運動賛同企業・「パートナーシップ構築宣言」登録企業が並んでおり、両運動が名目だけで成果が挙がっていないことが伺われる。本稿が配信される2024年9月は、「価格交渉促進月間」が展開中と推測される。フォローアップ結果の公表は2025年2月ごろと予想されるが、結果が楽しみである。最近は、従来の3月末決算から、国際会計基準(IFRS)に合わせて12月末決算の荷主・元請業者も増えている。12月決算企業の場合、翌期(2025年12月期)の予算編成は2024年10月ごろとなるので、9月の「価格抗促進月間」を活用して、荷主・元請業者が翌期予算に運賃・料金の改定を反映するよう、皆さんの行動を期待したい。 5.運賃・料金の改定で労働環境・労働条件の改善を (1)今こそ運賃改定の行動を「100日を切った『物流の2024年問題』前編・後編」では、お薦めする対策として、1)勤怠管理を適正に行う2)運行計画を見直し拘束時間を減らす3)労働環境・労働条件を改善する4)ドライバーを確保(採用・育成)する5)輸配送システムを変更する6)ITシステムを活用して物流DXを推進するの7点を挙げ、4)~6)は時間が掛かるので喫緊の対策として1)~3)について、取り組みを提案した。とくに3)では、「運賃・料金の改定については、(荷主・元請事業者が2024年度予算を策定する2024年2月までに)今すぐアクションを」と提言した。1)2)については、1項で述べたように、今すぐ「ドライバーの時間外労働時間の4〜9月累計をチェック」をして取り組んで欲しい。改善基準告示により、「月間拘束時間」が293時間以内から原則284時間以内になったが、きちんと「拘束時間管理」が行われているだろうか?「一カ月終わって締めて見たら290時間で、オーバーしていました」というのは、「拘束時間『結果』管理」でしかない。「管理」とは、P(計画)→D(実施)→C(検証)→A(行動)というPDCAサイクルを回すことで、まず「運行計画」を立て「運行」し、デジタコ・運転日報等でチェックして、日々の改善を進めることは、既に取り組んでいると思う。ここでは、3)について改めて強調したい。それは、今が、「負のスパイラル」から脱して「正のスパイラル」に飛び移る最後のチャンスだからである。前記のように、2024年2月が運賃・料金改定の一つのチャンスであった。経済産業省・中小企業庁の「価格改定促進月間」(毎年3月・9月)も後押ししている。そして、前記のように2024年12月決算期を前に2025年予算の作成準備に入る荷主・元請業者への運賃・料金改定の好機が、2024年9月である。(2)労務費の原価計算は不要「100日を切った『物流の2024年問題』前編・後編」では、「自社の運送原価を算定」を提案した。また、国交省の「原価計算」のパンフレットも紹介した。それでも、原価計算したことのないトラック運送事業者には難しいのではないだろうか。内閣官房・公取委では、2023年12月に「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表し、受注者(トラック運送業者)は、労務費(ドライバーの人件費等)については、発注者(荷主・元請事業者)との価格(運賃・料金)交渉において使用する根拠資料としては、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの公表資料を用いればよい(カッコ内は筆者)とされた。一方、発注者に対しては、労務費上昇の理由の説明や根拠資料の提出を受注者に求める場合は、公表資料(最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率など)に基づくものとし、受注者が公表資料を用いて提示して希望する価格については、これを合理的な根拠のあるものとして尊重することとされている。厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会は7月25日、2024年度の最低賃金について、全国平均で時給1054円にする目安を答申した。引き上げ額は過去最高の50円(5.0%)で、4年連続で過去最高の引き上げ額となり、今年は、全都道府県で一律50円の引き上げが目安となった。ということは、運賃・料金の改定交渉にあたって、ドライバーの賃金など労務費については、「最低賃金の上昇率=5%」を「合理的根拠のあるもの」として、発注者(荷主・元請事業者)は尊重しなくてはならない。運賃・料金の改定交渉で、もし、荷主・元請業者から「ドライバーの賃金増額分について計算根拠の提示」を求められたら、「最低賃金の上昇率を合理的根拠として国も認めています。その提示要請は『買いたたき』にあたる可能性があると聞いています」と答えればよい(それ以前に、運賃・料金の改定交渉を断られたら、以下の②に該当する)。なお、同指針では、その他にも発注者に対して、①発注者側からの定期的な協議の実施(略)協議することなく長年価格を据え置くことや、スポット取引とはいえないにもかかわらずスポット取引であることを理由に協議することなく価格を据え置くことは、独禁法上の優越的地位の乱用または下請法上の買いたたきとして問題となるおそれがある。②(受注者の)要請があれば協議のテーブルにつくこと受注者から労務費の上昇を理由に取引価格の引上げを求められた場合には、協議のテーブルにつくこと。労務費の転嫁を求められたことを理由として、取引を停止するなど不利益な取扱いをしないこと。等を求めている。同指針には法的拘束力はないが、一方で独禁法・下請法の適用も視野に入れていることが読み取れる。なお、下請取引の価格交渉・価格転嫁の現場において上記指針の活用を促進し、労務費の価格転嫁を推進するため、下請振興法で定める「振興基準」も親事業者及び下請事業者の行動に関する事項が改正され、振興基準に従って親事業者及び下請事業者に対する指導が行われる。(3)現行契約(運送契約・業務委託契約)の見直しいま一度、現行の運送契約・業務委託契約が、不利な内容になっていないか見直して頂きたい。荷主や元請業者から「これが、我が社との契約書です」と渡された契約書案を、そのまま承諾していないだろうか。荷主・元請業者から示された契約書の場合は、運賃・料金(とくに積卸料や待機料)、貨物事故発生の際の損害賠償責任など、発注者側に有利な契約となっている場合が多い。契約自由の原則であるが、法令に違反している条文は「無効」となることもある。国交省や全ト協は、(基本)契約書・覚書・運送申込書の3点セットを推奨している(全ト協「トラック運送業における契約書面化の基礎知識」2015年。運送申込書の雛形は図表9に掲出)。契約を見直す際の前提は、「不特定多数の顧客を対象にした運送契約」である前記の約款と、運賃・料金の基本である「標準的な運賃」である。まず、この2つを基本に、荷主・元請事業者との契約では、どこまで受け入れるか(譲るか)を検討し、荷主・元請事業者にも、「約款と標準的な運賃では、こう決まっていますが、貴社とは特約条項で『契約』しましょう」と示せば、「積卸料・待機料は、約款に記載されている」と有料化し易くなると思う。また、書面である「運送申込書」にはない、積卸し作業・待機が生じた場合は、前記のように「下請法の買いたたきではないか」とも判断がつく。 6.おわりに 繰り返すようであるが、今、運賃・料金を上げずに、いつ上げるのだろうか。荷主等のなかには、既に運賃・料金の改定に応じてくれた前向きな企業もあるが、2項で述べたように、「物流の2024年問題」に取り組まず、運賃・料金の改定に応じない荷主等も多い。運賃・料金改定の交渉を行う際に直面する課題が多いのは、十分に理解している。例えば、以下のような課題と問題点(違法性)が挙げられる。①運賃・料金の改定交渉に応じてくれない、あるいは交渉できる状況にない(前記のように、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」違反である)②運賃・料金の改定交渉に応じてはくれたが、改定できなかった、あるいはドライバーの賃金引上げができない改定額だった(前記のように、労務費の上昇分だけでも応じないと、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」違反である)③運賃・料金の改定交渉をしたら(報復措置として)取引を打ち切られた、あるいは取引量を減らされた(独禁法の優越的地位の乱用、あるいは下請法に抵触するおそれがある)その対策としては、①交渉時に経済情勢などの変化や現状を十分に説明する。荷主には、自社だけではなく、トラック運送業界全体の問題であることを伝える(本稿2項で紹介したマクロデータ等を参考にして頂きたい)②国土交通省・公取委などの行政の動向を十分に説明する(本稿3・4項の内容や、全ト協の資料を活用して荷主等の理解を求める。併せて「独禁法の優越的地位の乱用」「下請法」の運用状況等についても説明する。行政はトラック運送業者を後押しているのである)③「事業法(荷主対策を含む)」「約款」「標準的な運賃」を基に、荷主等との契約を見直し、積卸料・待機料など書面化されていなかった部分を書面化する最近報じられた上場企業の2024年4~6月業績は良好なので、「負のスパイラル」から「正のスパイラル」に飛び移るときは今である。「物流の2024年問題」の折り返し点で、皆さんのご健闘をお祈りしたい。以上   【参考資料】 1.NX総合研究所「企業物流短期動向調査(2024年6月調査)」2024年7月 2.全日本トラック協会「第126回トラック運送業界の景況感(速報)」2024年8月 3.帝国データバンク「2024 年問題に対する企業の意識調査」2024年1月 4.厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年6月分結果速報」2024年8月 5.東京商工リサーチ「2024年度『賃上げに関するアンケート』調査」2024年8月 6.帝国データバンク「『道路貨物運送』倒産動向(2024 年上半期)」2024年7月 7.厚生労働省「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」2024年4月施行 8.全日本トラック協会「トラック運送業における契約書面化の基礎知識」2015年 9.その他、本稿で引用した内閣官房・内閣府・国土交通省・厚生労働省・経済産業省・中小企業庁・公正取引委員会等の資料・ホームページ。 […]

第545号 ~「負のスパイラル」から「正のスパイラル」へ~(中編②)(2024年12月5日発行)

執筆者  長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問  執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 2009年 同社顧問 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問 活動領域 日本物流学会 (一社)日本SCM協会 (一社)日本物流資格士会会員 流通経済大学客員講師 港湾短期大学校非常勤講師 (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師 本論文は、前編、中編①、中編②、後編の計4回に分けて掲載いたします。   目次 3.適正運賃での取引に向けた国土交通省などによる4つの支援策 4.取引の適正化に向けた公取委・中小企業庁の動き    3.適正運賃での取引に向けた国土交通省などによる4つの支援策 (4)貨物自動車運送事業法 2024年4月23日に改正・可決した事業法では、トラック運送業者の取引に対する規制的措置として、以下の内容が定められた。施行は2025年4月とされている。 1)元請業者に対し、実運送業者の名称等を記載した実運送体制管理簿の作成を義務付けた 2)運送契約の締結等に際して、提供する役務の内容やその対価(附帯業務料、燃料サーチャージ等を含む)等について記載した 書面による交付等を義務付けた *2 。 3)他の事業者の運送の利用(=下請けに出す行為)の適正化 について努力義務 *3 を課すとともに、一定規模以上の事業者に対し、当該適正化に関する管理規程の作成、責任者の選任を義務付けた。 *2 ・ 3 下請関係に入る利用運送業者にも適用 。 さらに、事業法では、近年における貨物軽自動車運送事業(軽トラック等)における死亡・重傷事故等の増加を踏まえ、貨物軽自動車運送事業者に対して規制的措置が定められたが、ここでは省略して別の機会に述べたい。軽トラックもEV化(M社ほか)や初の4人乗り(D社)など技術革新が進んでおり、また「熱い」レポートをしたい(図表10参照)。 図表10 貨物自動車運送事業法改正のポイント(抜粋) *画像をClickすると拡大画像が見られます。 (出所)国土交通省資料 (参考)事業法における「荷主対策」 なお、2019年の改正では、持続可能な物流を維持するためには、トラック運送業者だけで解決できないことについて、荷主(着荷主や元請運送業者を含む)への対応を求める事項が荷主対策(以下の「荷主の責務」「荷主への勧告」「荷主への働きかけ」)として盛り込まれた。トラック運送業者の遵守事項や義務を定めた事業法によって、トラック運送業者でない荷主を規制することは重要な制度変更であり、ここで再確認しておきたい。 1)荷主の責務 荷主の責務として、トラック運送業者が法令を遵守して事業を遂行できるように必要な配慮をしなければならないとされています。 […]

第544号 ~「負のスパイラル」から「正のスパイラル」へ~(中編①)(2024年11月19日発行)

執筆者  長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問  執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 2009年 同社顧問 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問 活動領域 日本物流学会 (一社)日本SCM協会 (一社)日本物流資格士会会員 流通経済大学客員講師 港湾短期大学校非常勤講師 (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師 本論文は、前編、中編①、中編②、後編の計4回に分けて掲載いたします。   目次 3.適正運賃での取引に向けた国土交通省などによる4つの支援策    3.適正運賃での取引に向けた国土交通省などによる4つの支援策 3.適正運賃での取引に向けた国土交通省などによる4つの支援策 「100日を切った物流の2024年問題」と前後して、国土交通省(以下、「国交省」という)などでは「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」が決定した「物流革新に向けた政策パッケージ」(2023年12月)等に基づき、矢継ぎ早に法令・告示等の改正・施行を進めている(一部は、2025年4月施行が予定されている)。とくに、適正運賃での取引に向けた国交省などによる(1)~(4)の支援策4つについて、時系列順に簡単に説明する。 (1)改善基準告示 自動車運転者の長時間労働を防ぐことは、労働者自身の健康確保のみならず、国民の安全確保の観点からも重要であることから、トラック、バス、ハイヤー・タクシー等の自動車運転者について、労働時間等の労働条件の向上を図るため拘束時間の上限、休息期間について基準等が「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(厚生労働大臣告示。以下「改善基準告示」という)として設けられている。 一方、脳・心臓疾患による労災支給決定件数において、運輸業・郵便業が全業種において最も支給決定件数の多い業種(2021年度59件、うち死亡22件)となるなど、依然として長時間・過重労働が課題となっている。また、ドライバーの過重労働を防ぐことは、ドライバー自身の健康確保のみならず、国民の安全確保の観点からも重要である。 繰り返すようであるが、厚労省では、「3カ月平均で月間80時間以上、または単月で100時間以上」の時間外労働により死亡した場合は、「過労死」として労働災害を認定する。6月にも、「過労死」として労災認定されたドライバーの遺族が、労災補償とは別に会社に「労働契約法の安全配慮義務違反」として損害賠償請求し和解解決した例があった(和解金は公表されていないが、通常は、損害賠償請求額の半額を下回ることはないようである)。月間80時間イコール年間960時間であり、労基法の上限規制を守っていても、労働契約法の「安全配慮義務」は免れないことになる。 改善基準告示は、前記の労基法改正に合わせて、2022年12月に年間拘束時間(原則3,300時間以内、例外でも3,400時間以内)・月間拘束時間(原則284時間以内)や休息期間(原則、継続11時間以内時間与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない)等が改正された(2024年4月1日施行)。 なお、月間拘束時間284時間は、1日の労働時間・休憩時間を計算すると、年間時間外労働時間は960時間となり、労基法で定める年間上限と一致する)。 「改善基準告示はトラック運送業者に対する規制で、荷主には関係ない」と思っている荷主も多い。 改善基準告示の施行に先立って、国交省・全ト協では連名で「『自動車運転者の労働時間等の改善のための基準』(改善基準告示)遵守へのご協力のお願い」文書とリーフレットを全国約50,000社の荷主に配布している(2023年5月。図表7参照)。改善基準告示には荷主の責務は規定されていないものの、同リーフレットでは、労働基準監督署(以下、「労基署」という) から荷主等へ要請を行う例として、以下の3点が明示されている。 ①改善基準告示違反になるような長時間の荷待ちが疑われる場合は、労基準署から荷主等に対して「要請」を行う ②厚労省から国交省に情報提供を行い、国交省から荷主等に対して法に基づく「働きかけ」等を行う ③発荷主に加えて、着荷主や元請運送業者についても「要請」「働きかけ」等の対象になる またドライバーの過労運転について、荷主の主体的な関与が認められる場合、国交省から後述のように貨物自動車運送事業法(以下、特記以外は「事業法」という)に基づいて荷主勧告書が発出され、荷主名及び事案の概要が公表されるので、決して他人事ではない。 図表7 荷主向け「改善基準告示」リーフレット *画像をClickすると拡大画像が見られます。 (出所)国土交通省・厚生労働省・全日本トラック協会資料 (2)標準的な運賃 2020年4月に告示された「標準的な運賃」については、これまでも説明してきたように、当初「2024年3月末」までの時限措置が、2024年4月以降も「当面の間」に延長された(延長期間は未定)。 「標準的な運賃」はトラックドライバーの賃上げの原資となる適正運賃を収受できる環境の整備が目的であり、2024年3月22日、1)荷主等への適正な転嫁、2)多重下請構造の是正等、3)多様な運賃・料金設定等を見直して告示され、6月1日から施行されている。 なお、以下は、説明上の都合で、「標準的な運賃」と「標準貨物自動車運送約款(以下、特記以外は「約款」という)等」を一部併記している(【運賃】は「標準的な運賃」に記載されており、【約款】は「約款等」に記載されていることを示しているので、参照されたい。また、筆者の感想を「筆者注」として記載した)。 1)荷主等への適正な転嫁 ①運賃表を改定し、平均約8%の運賃引上げ【運賃】 ②運賃表の算定根拠となる原価のうちの燃料費を(軽油1ℓ)120円に変更し、燃料サーチャージも120円を基準価格に設定【運賃】 […]

第543号 ~「負のスパイラル」から「正のスパイラル」へ~(前編)(2024年11月7日発行)

執筆者  長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問  執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 2009年 同社顧問 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問 活動領域 日本物流学会 (一社)日本SCM協会 (一社)日本物流資格士会会員 流通経済大学客員講師 港湾短期大学校非常勤講師 (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師 本論文は、前編、中編①、中編②、後編の計4回に分けて掲載いたします。   目次 1.はじめに 2.荷動きなど「世間」の動向    1.はじめに 前回の「100日を切った『物流の2024年問題』前編・後編」(2024年1月11日・23日 第523~524号)から早くも半年以上が経過した。 本稿が配信されるのは2024年9月以降と推測されるので、自動車運転者(以下、特記以外は「ドライバー」という)に対する労働基準法(以下、「労基法」という)の時間外労働について「年間960時間」の上限規制が適用されて、ちょうど半年である。 (1)ドライバーの時間外労働時間をチェック そこで、まず貴社のドライバーの時間外労働時間の4〜9月累計をチェックして頂きたい。6カ月累計で年間960時間の半分である、480時間以内であれば、マアマア合格点と言えよう。 筆者の経験では、10〜3月末の年度下半期は、米・馬鈴薯・ミカンなど農産物の収穫期、荷主企業の出荷増による年末繁忙期、3月の年度末繁忙期、最後の引越しシーズンと、上半期よりも輸送需要が多く、それに伴って時間外労働も増え勝ちである。 年度末になって、ドライバーから「960時間をオーバーしそうなので、残業できない」、あるいは荷主に「ドライバーは居るが、残業オーバーになるので、運送を引き受けられない」という、ブラックジョークが起こらないよう願いたい。実際は、残業が減って手取り賃金が減るのは困るので上限規制に構わず働きたいドライバーと、荷主を断れない経営者の思惑が一致して、労使一体による「脱法行為」という、更なるブラックジョークになる恐れが大きい。 折り返し点で今一度「これで良いのか」と振り返って欲しい。 (2)「負のスパイラル」から「正のスパイラル」へ 「これで良いのか」は「これだけで良いのか」とも言える。根本的な解決は後述する「運賃・料金の改定」であろう。少し長くなるが、皆さんを取り巻く状況と、「負のスパイラル」から「正のスパイラル」へ飛び移るために、「運賃・料金の改定」への道筋を考えたい。 ここでいう「負のスパイラル」とは、「長時間労働・低賃金が続く→他産業で賃上げが行われる→ドライバーの離職・転職に拍車がかかる→人手不足倒産に陥る→物流の供給不足が起こる『物流の2024年問題』」である。 一方、「正のスパイラル」とは、「運賃・料金の改定が実現する→ドライバーの処遇を改善する→ドライバーの採用が増える→トラック運送業の安定的な拡大が可能となる→持続的な物流を供給できる『物流の2024年チャレンジ』」と筆者は考えている。 「負のスパイラル」は、1990年のトラック運送業の規制緩和以降、既に30年以上続いている。規制緩和を主導した内閣府では、「ピーク時で年間3兆8千億円の消費者余剰(言い換えれば、トラック運送業の売上全体の約10%に相当)が生まれた」と自画自賛している。規制緩和によるトラック運送業への新規参入の増加による過当競争状態と、それに伴う運賃・料金の低下が引き起こした「長時間労働・低賃金」構造は30年以上経過した今日でも続いている。 運賃・料金の改定動向については、筆者にも経済団体や荷主から「お尋ね」がある。そのときには、「(規制緩和以降)30年以上の(売上減の)恨みが籠っているので、そう簡単にはすまないのではないでしょうか」と冗談交じりに答えることにしている。 なお次なる規制緩和策として、内閣府では、米国の「オーナードライバー制」に倣い、「ドライバーシェア(旅客・貨物の輸送事業者間でドライバーを貸し借りし合う)」「ライドシェア(タクシー以外にも導入)」などを考えているようであり、筆者も情報収集に努めている(閑話休題)。 2.荷動きなど「世間」の動向 最初に、トラック運送業を取り巻く、荷動きなど世間の動きを、執筆時点における最新データでお浚いしたい。 (1)荷動きの動向 NX総合研究所の「2023・2024年度の経済と貨物輸送の見通し」改訂版(2024年7月17日発表)によると、2024年1~12月の日本経済の実質成長率は0.2%減とマイナス成長を予想したことから、国内貨物輸送量は消費関連・生産関連・建設関連とも減少が見込まれている。 2024年度(1~12月)の国内貨物総輸送量は40億6,490万tで2023年度の41億4,710万tと比べ8,220万t減、1.6%減と3年連続のマイナスとなり、しかも減少幅が拡がってきた。輸送モード別には、鉄道は微増、トラック・内航・国内航空は減少が予想されている。 とくに、トラックについては、営業用トラックが2024年は1.1%減と3年連続のマイナスと厳しい予想となっている。 さらに、「企業物流短期動向調査」(2024年7月31日公表)における2024年7~9月における荷主の国内向け出荷動向は、上昇の見込みながら、下振れの可能性もあるとされている(図表1参照)。 図表1 国内向け出荷量の実績と見通し *画像をClickすると拡大画像が見られます。 […]

第534号 POSレジでも活用が広がるGS1二次元シンボル(後編)(2024年6月18日発行)

執筆者  岩崎 仁彦 (GS1 Japan(一般財団法人流通システム開発センター) ソリューション1部 グロサリー業界グループ グループ長)  執筆者略歴 ▼ 略歴 世界110以上の国・地域が加盟し、サプライチェーンの効率化をめざしている GS1標準の動向調査や普及活動に従事 国際部、グロサリー業界グループ、業務企画グループを経て、現在ソリューション1部 にてGS1標準策定、メンテナンス、普及推進などを担当 *前号(2024年6月6日発行 第533号)より   目次 導入事例 ベルギーにおける導入事例 ノルウェーにおける事例 ブラジルにおける事例 韓国における事例 日本における事例 おわりに 導入事例   これまで近年整理されたGS1二次元シンボルに関連する標準を紹介してきたが、ここからは徐々に広がっている導入事例を紹介する。下図に示す通り、欧州の一部の国やタイ、オーストラリア、中国、韓国、ブラジル、そして日本の一部の企業では、現在公表されている事例において実証実験または実導入が確認されている。一方で、アメリカでは実導入が現時点で確認できていないが、2027年までに小売業POSで二次元シンボルを読み取れる環境を整備する活動が開始されている。 図6:各国での導入事例 (引用:GS1 Japan Webページ) *画像をClickすると拡大画像が見られます。 ベルギーにおける導入事例   ベルギーではGS1二次元シンボル活用の取り組みが早い時期から行われており、更に個社独自の取り組みではなく、複数の製配販及びソリューションプロバイダーが関与している点からも先進的な事例といえる。2017年には小売業4社、サプライヤー8社、ソリューションプロバイダー5社、業界団体8団体が参加し、精肉、鮮魚、生鮮品、チーズ、店内調理の惣菜などの商品について現状の課題とその解決方法について議論が行われた。当時これらの商品には、通常バーコードが表示されていないか、自社店舗内での商品管理用に用いる独自のインストアコードが表示されていた。主な原因としては商品生産段階でGTINの表示が困難であること、また商品の形状が小さかったり湾曲していることがバーコード表示を難しくしていた。しかし、この運用は主に以下の課題を抱えていた: 1. 商品選択間違い防止やレジ業務の効率化 2. セルフレジの利便性向上 3. トレーサビリティ確保:サプライチェーン上流でGTINを表示し、対象商品を一意に識別・記録・情報交換する必要性 4. 複数の会社が出展するプラットフォーム型ネット販売(ネットスーパー等)を活用する際、独自採番のインストアコードでは商品を一意に識別することができない(商品識別番号がバッティングする可能性等) 5. DXを進めるうえで、EDIや共通商品データベースの活用が広がってきているが、独自採番のインストアコードでは不都合が多い 6. 商品情報だけでなく、さらに多くの情報を入手し、業務改善や効率化に活用したい その結果、以下の事項を中心に検討した結果、GS1二次元シンボルの活用が最適という結論が導き出された。 1. 上記のニーズを満たすためには、どのようなデータ項目が必要か? 2. どの自動認識技術(例:1次元シンボル、2次元シンボル、RFID、画像認識等)が最も有望で現実的か? 3. それらのコストパフォーマンス(ROI)はどうか? 下記に示す写真は2024年に筆者の同僚がColruytグループの店舗を訪問して撮影したものである。 図7:ベルギーにおける導入事例 *画像をClickすると拡大画像が見られます。   店舗では精肉、鮮魚、生鮮品、チーズ、店内調理の惣菜などにGS1二次元シンボル(GS1データマトリックス)が表示され、POSレジで読み取られていた。同店舗で販売されるすべての商品にGS1二次元シンボルが表示されているわけではなく、例えば加工食品や日用品にはEAN/UPCシンボルが表示されているが、消費者も含めて混乱や特別な対応が必要な様子は見られなかった。また、このGS1二次元シンボルは生産ライン上で印字・貼付が行われており、実証実験の段階を超え、実際の導入が進んでいる状況である。 […]

第524号 【緊急寄稿】100日を切った物流2024年問題(後編)~(2024年1月23日発行)

執筆者  長谷川 雅行 ((一社)日本物流資格士会 顧問)  執筆者略歴 ▼ 経歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 2009年 同社顧問 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問 活動領域 日本物流学会 (一社)日本SCM協会 (一社)日本物流資格士会会員 流通経済大学客員講師 港湾短期大学校非常勤講師 (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師 目次 3.運賃・料金の改定 (1)今すぐアクションを (2)自社の運送原価を算定 (3)標準的な運賃の届出 4.おわりに *前号(2024年1月11日発行 第523号)より 3.運賃・料金の改定 (1)今すぐアクションを   労働条件とくに賃金面の改善に向けての、最大の課題が、賃金アップの源資である「運賃・料金の改定」であることは言うまでもない。   筆者が、なぜ、「100日を切った」今、緊急提言する理由は、今を逃すと運賃・料金の改定が2024年度には間に合わなくなるからである。   3月期決算企業(荷主・元請事業者など)の多くは、遅くも2月中に物流費を含めて次年度予算を策定する。2024年度予算で物流費、つまり運賃・料金を増やしてもらうには、年明けの今がラスト・チャンスと言えよう。「物流2024年問題」直前の3月に運賃・料金改定を申し出ても、「残念ですが、我が社の2024年度予算は決まってしまいましたので」と門前払いになりかねない。   楽観的かも知れないが、荷主の物流担当者は、公正取引委員会等の動きなど昨今の情勢から危機感を持ち、「運賃・料金の改定はやむを得ない」と内心では感じているのではなかろうか(まさか、「運賃・料金の改定申し出を待っている」とは思えないが)。しかし、物流担当者は自ら、自社内に向かって「運賃・料金を改定しましょう」とは言い出せない。物流担当者の背中を押すためにも、今すぐ「運賃・料金の改定」を働きかけるべきである。少なくとも「運賃・料金の改定協議」は申出る必要がある。申出があったのに無視・放置した荷主には、公取委などの指導が待っている。   事例の詳細は分からないが、業界紙では「トラックGメンを活用して、運賃・料金を改定した」事例も報じられている。他方では、「トラックGメンが運送会社にヒアリングしたところ、荷主の不適切な行いを告発した運送会社は1割弱しかいない」と、「報復」を恐れているような記事もある。   (公社)日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の会員アンケート調査では、回答企業(荷主)の76%にあたる125社が、運送業者から運賃・料金の改定要請について「あった」と回答している。また、「要請を受けた企業のほぼ95%は要請に応じている」との結果も報告されている。JILS会員企業には大手荷主が多いので、このアンケート結果を見る限りでは、大手荷主も運賃・料金の改定を協議する用意はあるのではないだろうか。   昨年の大河ドラマ「どうする家康」の「大坂の陣」ではないが、外堀は埋められており、あとは一気に攻めるときである。 (2)自社の運送原価を算定   攻めるためには入念に準備しなくてはならない。 国交省の調査では、原価計算を実施しているトラック運送事業者は約3割で、残り7割は、「一部または時々実施している(約3割)」「実施していない(約4割)という実態である。   運賃・料金の改定を申出るためには、まず、自社の運送原価(最低でも過去3カ月の平均)を算出しておく必要がある。   現在のトラック運賃(いわゆる相場運賃)は、運送原価を反映したものではなく、輸送需要の動向、トラック運送事業者間の価格競争や荷主との力関係などで、日々形成されている(青果水産物の卸売市場におけるセリ値のようだ)。そのため、「自社の運送原価を算定していない」トラック運送事業者も多い。   本来は、経営管理(収益管理)のためには、支出である運送原価を算出するのが当然であるが、染み着いた「ドンブリ勘定」で利益さえ出ていれば良いという経営者も多い。   単純には、1日当たりの運送原価は、月間の(固定費+変動費)÷稼働日数で算出できる。   固定費は人件費と車両費(トラックの減価償却)や保険料、変動費は燃料代や有料道路利用料で、月締めで計算して、利益が残れば「結果良し」という経営である。2-(1)-②で述べたように、賃金を月間固定払いしているのは、そのためである。   それでは、荷主に自社の運送原価を提示できないし、荷主の物流担当者も運送原価が分からなければ、運賃・料金の改定に向けて社内を説得できない。   運送原価の算定には、国交省の「原価計算の活用に向けて」というパンフレットを参考にされたい。荷主から「この運送原価は、どうやって計算したのか」と疑われたとしても、「国交省のパンフレット通りに計算した」と回答できる。パンフレットは、全ト協のホームページを検索してダウンロードできるが、2017年作成と少々古いのが残念である。 図4 パンフレット「原価計算の活用に向けて」目次 (出所)国土交通省「原価計算の活用に向けて」2017年 *画像をClickすると拡大画像が見られます。    […]

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