ロジスティクス・レビュー

第60号一括物流と業態別ロジスティクス(2004年7月23日発行)

執筆者 大矢 昌浩
「月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)」編集長
    執筆者略歴 ▼

  • プロフィール
    • 1964年生まれ
    • 日本大学芸術学部大学院修士課程終了。
    • 日経BP社発行「日経ロジスティクス」記者、
      流通専門誌編集長等を経て独立。
    • 現在、ライノス・パブリケーションズ(http://www.logi-biz.com/
      代表取締役社長。
    • 「月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)」発行人兼編集長。
      多摩大学大学院客員助教授。


  チェーンストアによる「一括物流」の導入が必要以上に拡がっている。サプライチェーンの川下部分の個別最適がサプライチェーン全体の最適化を阻害している。これにメスを入れて、小売りの業態から出発して設計した新しいモデルを構築する必要がある。

  これまでチェーンストアから見た時の調達先となる卸やメーカーなどのベンダーは、それぞれ独自にトラックを仕立てて店舗に商品を納入していた。これを改め、チェーンストアが自社専用の物流センターを設置。そこに各ベンダーの商品を取りまとめて店舗ごとに仕分け、一括して納品する。それが一括物流の基本的なスキームだ。  

  一括物流を導入することで、店舗側ではベンダーごとに荷受けする手間が省ける。ベンダー側も店舗別に納品する必要がなくなるため、輸送費を削減できる。理論的には問題のなさそうな取り組みだ。しかし現実には、一括物流がサプライチェーンのトータルコスト、とりわけベンダー側のコストを増加させるという事態を招いている。  

  一括物流を導入したチェーンストアはベンダー側に「センターフィー」の支払いを要請する。一括物流の専用センターを設置することでチェーンストア側には新たな費用負担が発生する。それをベンダーから徴収しようという話だ。一括物流によってベンダーは納品用の輸送費を削減できる。その分をセンターフィーという名目で還元して欲しいというのがチェーンストア側の言い分だ。  

  センターフィーは通常、そのベンダーがセンターに納品する商品の卸価格(通過額)に一定の料率を乗じて計算する。適用される料率はケース・バイ・ケースだが、トータルで見ると大手日雑卸の場合で3%強のセンターフィーが発生しているといわれる。元々、利幅の薄い卸売業者にとっては甚大な影響のある金額だ。  

  もちろん納品用の輸送費がセンターフィー以上に削減できるのならベンダー側にも文句はない。しかし適用する料率はベンダー側の輸送費の削減分を弾いて合意のもとに決定されるわけではない。実態としてはチェーンストア側から一方的に料率を言い渡されるケースが多い。その結果、ベンダー側では逆ザヤが発生する。  

  実際のベンダー側の輸送費は削減どころか増加することさえ珍しくない。ベンダーは複数のチェーンストアと取引をしている。そのうち一部のチェーンストアが店舗納品から専用センターへの納品に変わっても、ベンダー側で使用する全体の車両台数が減らせるとは限らない。かえって配送ネットワーク全体の積載効率は悪化してしまう場合が多い。  

  サプライチェーン・マネジメントという視点から見ても、チェーンストアが新たに一括物流用のセンターを設置することは、これに伴ってメーカーや卸の既存のセンターを撤収してしまわない限り、工場と店舗の間の物流段階を一つ増やしてしまうことを意味する。  

  工場から出荷された商品が、メーカーのセンターと卸のセンターの2カ所を経由して店舗に納品された場合、1ケース当たりの物流コストは767円になるという試算がある。これにチェーンストアのセンターが加わって、3カ所を経由することになると1ケース当たりの物流コストは960円に跳ね上がってしまう。  

  そんな不条理が現在、多くのチェーンストアによって進められている。狙いが物流の効率化やコスト削減ではなく、センターフィーの獲得にあるからだ。一括物流センターの実際の運営は物流企業や卸売業などの3PLが代行する。3PLに支払う費用と、ベンダーから徴収するセンターフィーの差額が、チェーンストアにとっての新たな収入源になっている。  

  チェーンストアが専用センターを持つこと自体は欧米市場でも一般的だ。しかしセンター運営費をベンダー側が負担するという商取引は、日本以外ではまずあり得ない。その正当性については日本の公正取引委員もウォッチを続けている。それでもライバルが新しいマージンを獲得している姿を、黙って見ていられるチェーンストアは少ない。  

  本来チェーンストアが専用センターを構えるには、設備投資をカバーするための一定の取扱規模が必要になる。ところが実際には必要な規模を満たせない中堅以下のスーパーやドミナント制の緩いチェーンストアにまで、ドミノ倒しのように一括物流の導入が拡がっている。  

  しかもその影響はサプライチェーンを逆流する形で、従来のチェーンストアとベンダー間から、卸売業とメーカー間の一括物流へと拡大しつつある。食品卸の国分と菱食は2002年に合弁でメーカー同士の共同物流センターの運営を請け負う物流会社「フーズ・ロジスティクス・ネットワーク(FLN)」を設立した。  

  FLNの運営する倉庫にメーカーが共同で在庫を保管すれば、メーカー〜卸間の一括物流が実現する。もともとベンダーごとに商品を荷受けしている点でチェーンストアと卸売業者は変わらない。そして卸売業者はチェーンストアからの一括物流の要請に対応している。そうであるならメーカーもまた卸売業者の物流効率化の要請に対応すべきだという理屈だ。  

  国分と菱食はいずれも食品業界の盟主。両者の要請に正面からノーと言えるメーカーは少ない。しかし、その要請に応じればチェーンストアの一括物流センターに続き、さらに一段、川上の流通段階を増やすことになってしまう。メーカーが既存の倉庫を撤収しない限り、サプライチェーン全体の物流コストは、またもや上昇する。  

  大手メーカーと大手チェーンストアによる直接取引が当たり前の米国市場とは異なり、日本ではメーカーから直接チェーンストアに納品される物量が、卸売業に帳合いを残した形の直送を含めても、全体の1%に満たないと推測される。日本の場合、メーカーレベル、小売りレベルの双方で寡占化による上位集中が進んでいない。そのためトラックを満載にできるほど一回の取引量が大きくない。  

  日本のように多くの小さなメーカーと多くの小さな店舗がある場合、その中間に商品を店舗別に仕分ける物流センターを1カ所だけ挟む形が最も効率が良い。今日の一括物流による多段階化は、それに逆行している。多段階化したロジスティクスを、どうやって2段階に再構築するか。それが日本市場におけるSCMの最大の課題といえる。  

  市場環境の異なる欧米のモデルをそのまま日本に持ち込むことはできない。日本市場の実情に見合った日本型モデルを構築する必要がある。既に大枠は見えている。具体的には小売りの業態によって、サプライチェーンの形と、そこでリーダー的な役割を果たすプレーヤー、いわゆるチャネルリーダーは異なってくる。  

  百貨店チャネルの場合は、メーカーが店舗までのサプライチェーンを統合管理することになりそうだ。商品化計画から店頭販売、物流オペレーションまでの全てをメーカーが設計・運営する。百貨店は店舗に特化したブランディングと不動産開発をメーンとする業態にシフトする。  

  これに対して、コンビニと専門量販店はチェーン本部による垂直統合が顕著になる。ロジスティクスの設計だけでなく、マーケット情報を緻密に分析することでチェーン本部が需給調整から商品企画までを手掛ける。これによってナショナルブランドメーカーの商品でさえ実質的にプライベートブランド商品化していくことになる。  

  一般量販店と地域スーパーのサプライチェーンでは大手卸が主導権を握る。地域スーパーはもちろん一般量販店でもイオン、ヨーカ堂以外は取扱規模の点で大手卸に劣る。チェーンストアが独自のインフラを構えるより、大手卸のプラットフォームを利用するほうが有効だ。このチャネルにおける現在の一括物流はいずれ見直しを避けられない。  

  ロジスティクスのマネジメントは今や一つの企業内では完結しない。現在の多段階物流にメスを入れ、シンプルな小売業態別ロジスティクスを実現する。それに成功したサプライチェーンが勝ち残る。企業間競争を超えたサプライチェーン間競争が、既に日本でも始まっている。

以上



(C)2004 Masahiro Oya & Sakata Warehouse, Inc.


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