ロジスティクス・レビュー

第348号 データで見る最近の物流コストの動向(2016年9月20日発行)

執筆者 久保田 精一
(ロジスティクスコンサルタント)
    執筆者略歴 ▼

  • 著者略歴等
    • 熊本県出身
    • 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒
    • 1995~1996年 国土交通省系独立行政法人
    • 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所)
      産業振興、物流等の調査業務を担当
    • 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所
      物流コスト、物流システム機器等の調査業務を担当
    • 2015年7月 独立

目次

  人手不足、トラック不足等により、物流コスト上昇への懸念が強まっている。多くの荷主企業にとって物流コストが最重要のKPIであるが、入手できる統計情報が少ないため、業界や他社とベンチマークするのが難しいのが現状である。そこで昨年度に引き続き、統計データ等を横断的に整理することで、物流コストの状況を確認して行くこととする。

1)物流コストの動向~運賃等の上昇傾向が一服

  図表1は、物流コストに関する主要な統計データを整理したものである。ここでは、国の統計データの他、民間の調査機関・団体による主要な調査データを引用している。なお運賃料金などの価格動向については、下記に挙げた以外にも民間ベースで公表されている資料が色々とあり(例えば倉庫賃料の相場など)、参考とすることができる。

図表1 物流コストに関わる主要な調査結果の整理
(色のついたセルは期間中の最大値)


*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  図表2は、整理したデータのうち、主に輸送運賃と倉庫料金の価格指数を図示したものである。これから、最近の料金・コスト動向を確認してみよう。
  まず、昨年度(2015年度)までほとんどの指標が上昇傾向を示していたが、2015年度を境にいくつかの指標が下落に転じていることが分かる。例えば、運賃関係では、トラック不足の切迫化によって、WebKIT成約運賃などスポット輸送の運賃が顕著に上昇していた。これが、2015年度以降横ばい、ないし低下傾向に転じている。また、「積合せ貨物輸送」、「貸切貨物輸送」についても、横ばいか若干低下する傾向に転じている。倉庫料金についても同様であるが、情報サービス会社のレポートでも、直近では空室率が上昇するなど、やや賃料が下落傾向にあるとされている(図表2でもわずかに下落している)。
  一方、引き続き運賃の上昇が続いている唯一の分野が宅配である。他の価格指数が軒並み低調であるなか、1ポイント程度の伸びを続けているのは特筆すべきである。大手宅配会社による適正料金収受の活動が奏功しているものと見られるが、逆に言えば、宅配便を多用している通販企業などの収益が圧迫されることとなる。

図表2 運賃等の指数の比較


図注:基準年が異なるため、指数の絶対水準の比較はできない。出典については図表1を参照。

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

2)売上高物流コスト比率の動向~売上高比率は横ばいから上昇

  このように、物流コストの各要素費用は上昇傾向が一段落している。しかしながら、荷主企業にとって重要な指標となる「売上高物流コスト比率」は、低下しているとは言えない。図表1の指数(「売上高に対する物流コストの割合」の指数)が、2015年度以降もプラスを示しているほか、「売上高物流コスト比率」の分母となる物価指数が、2015年度以降に大きく低下している(図表2の「国内企業物価指数」の推移を参照)ことから、物流コストの「比率」には引き上げの圧力が生じている。為替の円高傾向への転換などにより、インフレ目標の実現が遠のいていることは既に報道されている通りである。

  なお、売上高物流コスト比率の動向を把握できるデータとしては、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)による「物流コスト調査」が良く利用されるが、その他にも利用可能なものがある。
  物流コスト全体を把握しているものではないが、「荷造運搬費」に限定して継続的にデータを集計している公的統計としては、経産省の「企業活動基本調査」と中小企業庁の「中小企業実態調査」がある。物流コストの包括的データではない点がマイナスであるものの、特に「企業活動基本調査」には毎年3万社近い企業が回答しており、時系列で業種別など細かい傾向を見るうえで有効である。
  図表3は、「企業活動基本調査」を元に製造業、卸売業、小売業という業種大分類別に荷造運搬費の割合を整理したものである。物流コスト全体ではないため、コスト比率がやや低い値となっていることに留意が必要であるが、時系列の傾向がクリアに現れている。
  即ち、製造業で見ると、2007年度まではコスト比率の低下が続いたが、2007年度を境にコストの低下が止まり、横ばいないし上昇傾向に転じている。卸売業、小売業については、2007年度以前からコストは下がっていなかったが、やはり2007年度ごろを境に、上昇傾向が強まっている。直近(2015年度)のデータは未公表であるが、傾向的にコスト比率が低下しているようには見られない。

図表3 業種大分類別の「荷造運搬費」割合


資料:経産省「企業活動基本調査」営業費用における「荷造運搬費」の額を加工。

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

3)荷主の業種別に見る傾向の違い

  このうち、製造業について、さらに細かく業種別に見たものが図表4である。なお、製造業でも、素材・重化学工業系の業種と、非耐久消費財系の業種では傾向が異なることから、前者の業種のみを抽出し、図表5に整理している。
  さて、図表5の各業種はいずれも類似した傾向を示しており、2007年度以前は長期トレンド的にコスト比率が低下している。そして、2008年度(リーマンショック発生の年でもある)以降、横ばいないし上昇傾向に転じている。これは前述の製造業全体の傾向とほとんど同じである。
  一方でその他の産業、例えば図表4の「食料品製造業」や「飲料・たばこ・飼料製造業」は傾向が異なる。長期的トレンドとしてもコスト比率は下がっておらず、「食料品製造業」の場合は過去20年程度の間、4.5から4.9のレンジの枠内での変動に留まる。これは図表3の卸売業の傾向にも似ている。
  データから見る限り、これら内需系の産業については、コストの長期的な下落傾向を確認することができない。従って、2007年度以前に見られるコスト比率の低下傾向は、素材や重化学工業系の産業(など)の大幅なコスト低下の影響によるものと考えられる。
  これらの産業は、①外需増大によって生産の海外シフトが進んでいる、②売上高が資源価格の影響を強く受ける、という特徴がある。前述の通りリーマンショックの前後でコスト比率の傾向が変化していることからは、特に②の影響が強く推定される。即ち、資源価格のインフレによってコスト比率が下落し、資源価格バブルの崩壊によってコスト比率が上昇したことが推察される。
  よってこれらの外部要因を除くと、物流コスト比率はこの間、傾向的に下落しているとは言えず、安定的に推移していたと推察される。

図表4 製造業業種別の「荷造運搬費」割合


資料:経産省「企業活動基本調査」営業費用における「荷造運搬費」の額を加工。

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

図表5 製造業業種別の「荷造運搬費」割合


資料:経産省「企業活動基本調査」営業費用における「荷造運搬費」の額を加工。

*画像をClickすると拡大画像が見られます。

4)今後の見通し

  中国経済の停滞や為替水準が円高にシフトしたことによって、景気の停滞傾向が強まっており、国内貨物量も減少傾向が強まっている。そのため、主として需給要因で上昇を続けてきた運賃・料金などについては、価格上昇圧力が低下している(近年のトラック運賃上昇は、燃料価格上昇などの「コスト・プッシュ型」ではなく、需給の逼迫による「デマンド・プル型」の値上がりであるため、需給による価格への影響が大きい)。
  ただし、ドライバー不足を主因としたトラック不足は、短期間で解消するものではなく、物流量が多少減少した程度で、輸送需給の逼迫がすぐに緩和する状況ではない。また、行政・業界が一丸となって適正運賃収受に取り組んでいることからも、運賃・料金の値下げ競争が再発するとは考えにくい。
  一方で企業の売上高は、外需、民需とも低調であり、インフレ期待が低下している。運賃・料金等が多少値下がりするとしても、円高・外需低迷による売上低下の影響の方を相殺するには至らないと考えられる。
  以上を踏まえると、当面、売上高物流コスト比率には上昇の圧力が続くものと予想される。荷主企業としては、コスト上昇を回避するため、世界的に見て低い輸送効率を改善することが急務であり、モーダルシフト、ISO規格コンテナ等の大ロット輸送の導入など、各種施策を実施することが期待される。

以上


(C)2016 Seiichi Kubota & Sakata Warehouse, Inc.


このページのトップへ戻る