ロジスティクス・レビュー

第302号 上野陽一著「購買管理及び倉庫管理」(2014年10月21日発行)

執筆者  吉本 隆一
(オフイス・ロン代表)
    執筆者略歴 ▼

  • 略 歴
    • 1980年法政大学大学院博士課程経済学単位終了。経済理論・財政論
    • 1983年から2005年まで(財)日本システム開発研究所。
    • 2005年から2013年2月定年退職まで日本ロジスティクスシステム協会、主幹研究員
    主な研究開発実績
    • 国際輸送システムの調査研究(基盤整備、パフォーマンス分析、国際陸送制度)
    • 物流情報システムの標準化・調査研究・技術開発(ITS、AIDC、輸配送システム等)
    • 公共事業整備に伴う社会経済的影響評価
    • 立体道路整備、道路一体型物流施設整備等の複合的事業手法開発
    • 物流拠点整備・共同配送等、物流効率化・高度化事業手法の調査研究等

目次

はじめに

  今年2月に、ベトナムのハイフォンで、6日間36時間にわたって物流概論の英語連続講義を行う機会があった。その準備のために、欧米や国内テキストの内容を再検討し、日本固有の物流管理ノウハウを整理する作業を行った。その際に、日本版の科学的経営管理手法のルーツについて、日本能率協会のホームページの「活動内容」内の「能率とマネジメント(知恵の箱)」で紹介している先人、伍堂卓雄、上野陽一および堀米建一の事績を勉強した。
  その内容には、今日でも参考になる指摘が多い。経営史のテキストでは過去の遺物扱いされている古典も含めて、多くの方に読んで欲しいものである。幸いにして、上野陽一の著書は、国会図書館の近代デジタルライブラリーに掲載されており、無料でダウンロードもできるので、その著書のうち1938年(昭和13年)刊の増補版「購買管理及び倉庫管理」から、いくつかの視点を紹介しておく。なお、引用にあたっては表記方法を修正している。

1 「購買管理及び倉庫管理」の構成

  同書は、書名の通り、工場の購買業務と、それに伴う倉庫管理の内容を説明しており、今日のような物流センターの管理手法ではない。
  全体は、四編からなり、序、倉庫、購買、組織に別れている(図1参照)。序編は、三章からなり、物の管理、常備品手持ちの標準、標準維持手段としての残高表に分かれている。常備品手持ち標準の計算式は、現在の在庫水準の計算式と同様である。倉庫編は、六章からなり、倉庫の位置および設備と、作業手順に沿った、検査および受入、保管の方法、倉出および配給の三章、そして、棚おろしと手持ちの補充の二章からなる。工場編は、五章からなり、購買、市場調査および売手の選択、品質の決定、購買価格の決定、購買の手続きからなる。わずか二ページであるが、品質についてふれている点が斬新である。最後の組織編は、六章からなり、工場組織、原材料倉庫の組織および所属、購買課の組織および所属の組織構成が三章、特殊倉庫の管理が一章、倉庫および購買管理組織の運用に一章、分類および記号に一章という構成である。
  保管対象の基本を原材料とし、部分品や製品保管を特殊倉庫の管理としている点に時代背景の違いを感じる。他方、分類や記号法を詳細に紹介している点は、まさに今日に通じる科学的管理の基本である。ここでは、分量の制約もあるので技術的な内容の紹介を除き、管理手法の視点として興味深い点を紹介しておきたい。

図1 「購買管理及び倉庫管理」の構成

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2 倉庫管理の考え方

  上野陽一は、当時の時代背景について、明治から大正にかけては「作る」ことが中心だったが、大正から昭和にかけては、人間の必要とする以上に品物が生産されるようになり、「売る」ことが問題になっており、昭和十年代に入ってから、「売る」問題の解決をみないまま、再び「買う」ことも問題になっているとしている(序文)。
  また、「人間の生活に必要なものは、カネではなく、モノであり」、購買にあたっては、「消費の目的にあった質のものを、必要最小限に手に入れる」ために、「いるとき」に「いるだけのもの」を度々仕入れる方法を示したとしている(増補版序文)。
  物資不足の時代に特に大切だとしたことが、物資が氾濫する今日の在庫管理の発想に共通している点が興味深い。
  倉庫編の第一章の倉庫概論では、「モノ」が「カネ」と同様に大切であるが、軽視されがちである点を指摘し、モノの管理が不適切であると、「買いすぎの損」、「買い足りぬ損」が発生する。このため、「工業において、経済的な生産を行うためには、生産の流れがなめらかに進むように、工場の作業を中断することのないように、必要な時に必要な原材料を、必要な分量だけ、必要な場所へ運んでやって、工人の手待ち、機械の遊びを避けることが肝要である」と指摘している。
  同様に、「保管している品物の所在が分からない」場合に、品不足と勘違いして買いすぎ、「管理が不適切で盗難」に気づかない問題や私的流用が発生しやすくなる問題を指摘している。
  工場では、倉庫は、生産に関係ないとして、その改善を無視している場合がみられることに注意を促している。倉庫の改善を無視すると、原材料の保管出荷の管理が不完全なことによる紛失・破損・変質による損失や、死蔵品の増加、手持ちの増加による資金の固定化、必要な材料の不足・不揃いによる生産への支障による膨大な損失を招くと指摘している。そして、モノの管理の仕方を八つの手順に整理している(図2参照)。

図2 モノの管理の仕方

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3 倉庫の設計・運用上のポイント

  上野陽一は、倉庫の要件として、「倉庫に品物を保管するのは、必要に応じて、いつでも速やかに取り出して役立たせるためであるから、保管の方法は、あくまで倉出が素早くできることを第一の要件と」すべきことを指摘し、分類整理と在庫品数量の把握が必要だとしている。
  倉庫の位置、搬出入口の位置、構内通路、庫内通路、倉庫内の配置等の施設設計・レイアウトに関する個々の留意点は、今日でも、大半がそのまま適用できる視点である(図3参照)。長距離輸送よりも小口の短距離輸送の効率化に心がけるべきであるといった内容も含まれている。
  倉庫内の品物の並べ方については、重いもの、カサ高いものは下に置き、大きさの似通ったものは一カ所にまとめ、「出入りのはげしいものは、受渡口近くに配置して、受渡の便を図る」べきであると指摘している。ABC分析の言葉は無いものの、物流現場改善の基本的視点は現代と共通である。同様にロケーション管理にあたる置き場の決め方や区画の決め方もまとめている。ここでも物流現場改善の現代的指導内容と同一の指摘がみられる。
  物流改善の入門書は、時代の変化に応じて適宜更新され、図表やイラストが分かりやすくなったものの、知見としては、76年前と大差がないともいえる。

図3 倉庫施設配置等のポイント例

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  大切なことは、先入先出方式をはじめ、今日の専門用語こそ利用されていないものの、初期の管理手法では、その必要性が丁寧に記述されていることである。言い換えると、最近の入門書は用語説明の辞書になってしまって、なぜ、どういう状況で当該手法が必要になるのかという理由の説明があまりに少ないという問題がある。
  もう一つ参考になる点は、今日的な情報通信システムが無い時代に、棚札による在庫管理のように、どういった手法で管理していたかを知ることができることにある。これによって、代替すべき情報通信システムの要件を再確認することができる。基本となる入出荷検品などは、受入と倉出の伝票と物的検査による詳細な手順が記載されている。購買における生産管理と同期化した部品補充の方法にも参考になる点が多い。いずれにしても、旧字が読めない方も多くなってしまった今日、活きている知恵は継承できるようにしておきたいものである。

以上



(C)2014 Ryuichi Yoshimoto & Sakata Warehouse, Inc.


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