ロジスティクス・レビュー

第235号荷主における物流コストと物流品質の現状(中編)(2012年01月12日発行)

執筆者 久保田 精一
公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)顧客サービス部
JILS総合研究所 副主任研究員
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1971年熊本県生まれ。
    • 東京大学教養学部教養学科卒。
    • (財)日本システム開発研究所(シンクタンク)等を経て、現職。
    • 物流コストやロジスティクスの指標管理等、物流や地域開発等のテーマでの自主研究、委託研究、コンサルティング等を主に実施。

前編(2011年12月20日発行 第234号)より
*サカタグループ2011年2月8日「第17回ワークショップ/セミナー」の講演内容をもとに編集しご案内しています。
*今回は3回に分けて掲載いたします。

目次

6.物流における品質とは何でしょうか?(2)

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 では、物流品質について、もう少し深堀りして考えていきたいと思います。この会場(秋葉原)の周辺にも電気屋さんがたくさんありますが、皆さんは日々買い物をする時に品質の評価というものを行なっています。物を売っているとき普通値段とか分量とかが表示されているわけですが、買い物をする時に値段と分量だけみて買いますという人はほんとに少ないんじゃないかと思います。もちろん値段も重要な要素です。ですが、値段だけで選んでしまうと安物買いの銭失いという諺がありますが、結果的に損してしまうんだというようなことになりますので、質の評価が必須になってきます。
 とはいっても、まさにその質とういうのはどこにも書いてないわけですから、いろんな要素を加味して品質はどうだろうということを日々考えているわけです。例えば商品を購入する上で、ブランド力のあるメーカー製なら大丈夫だとか、何とかマークがついてるから大丈夫だ、またはJASとか、そういうのがあるから安心だとか、大手の小売業さんが扱っているものだからとか、そういう点をいろいろ加味しながら、これは品質が高い商品じゃないかと日々判断しながら生活をしているのではないかと思います。
 そのように身近な活動でもある品質の評価ですが、整理すると3つのポイントがあげられると思います。
 1つは、先ほども申し上げたとおり、品質は原理的に評価が困難であり、明示的にはわからないものですから、あえて評価しようという主体的な意思がなければ、質は置き去りにされるのが普通であるということです。2つめは、悪意を持てば欺くことが可能である場合がある場合があると、従って、ちょっとこれも厳しい言い方かもしれませんが、委託先任せではダメであるということです。3つめは、長期にわたり露見しないことがあり、本当に致命的なミスが生じるまで露見しないという特性があり、つまるところやはり品質評価者の手腕が問われるということになると思います。この講演のあとに人材教育に関する講演がありますが、やはり人的な評価というのがキーになってくるのではないかと思います。

7.物流における品質とは何でしょうか?(3)

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 ではそもそもなぜ品質が重要なのかということをお話ししたいと思います。今日の参加企業の一覧を拝見していますと、荷主企業が多いかと思います。その際、委託元の荷主企業が物流品質に取り組む必要があるのかという議論もあるかもしれませんが、やはり委託先の品質は荷主企業自身の問題であると言えると思います。ここにかいてある吹き出しのコメントは一例なのですが、昨今はインターネット上に商品やサービスの評価が飛び交っているわけです。やはり、今、景気が厳しいことの影響かもしれませんが、個人のお客様にしても、法人のお客様にしてもミスの許容度が低いといいますか、これぐらいはいいんじゃないかと思えるようなミスが許容できなくなってきているような感じがします。しかも、昔はクレームなどのネガティブな口コミというのは、ある閉じた人間関係、家族とか学校とか、所詮それは閉じた世界でしか流通しなかったのですが、いまはインターネット時代ですので、こういったコメントが世界中を駆け巡ってしまうというような現象があるということになります。
 その結果、口コミ評価のデータベースがインターネット中にたくさんできてきて、それを通じて、お客様がどんどん特定のサービスに集まっていくと、どんどん良いお客さんが上位のサービスに集まっていくというような、そういう影響がいろんな業界にでてきていると言うことが言われています。これは一例ですが、物流品質はこのようなケースでも顧客からの選別につながる可能性があります。

8.物流品質はサプライチェーンの効率を大きく左右する

 少し違う角度から品質の重要性を確認したいと思います。それは何なのかといいますと、物流品質というのはサプライチェーン全体の効率を左右するということです。
 サプライチェーンとは供給の連鎖ですから、ご自身の会社の中だけではなく、取引先とか調達元とかそういった取引先とかを含めたトータルの効率性を左右するということです。物流の場合も同じですが、よりわかり安い例として旅客輸送を例にしてお話しします。ごく最近個人的に経験したことですが、1月20日から1月26日まで、営業日でいうと4日間で4回電車の遅延に遭遇しました。こういった遅延が頻発した場合に、どういう影響を及ぼすかということを考えますと、少し早めに会社につくようにしようとか、あるいは朝一番では重要な会議は開催しないようにしようとか、そういうような感覚が働くことがあると思います。さらに、これが同じ路線の全員が、30分前に会社にいきましょう、30分時間は大事な予定を入れないようにしようということになると、その社会経済的なロスは厖大な額になります。
 物流においても同じようなことが言えると思います。遅延とか誤出荷とかといった問題は、単にそのミスだけではなくいろんな意味で、機会損失をどんどん波及させていくという性質があると考えられます。輸送機関は、いまお話しした旅客の例でお分かりのように、そういう機会損失については原則的に補償はしないというのが基本です。それにより生じた30分の機会損失、これはサービスの利用者が負担しなければならないということになるわけです。
 先ほど申し上げたように、そういう損失というのは、えてして波及効果がありますので、厖大な額になりうるということですから、その品質の部分をあまり考慮せずにいると思わぬ損害を生じることもあると言えると思います。しかもそういうリスクが、中々見えづらいということが言えるかと思います。そういう意味でサプライチェーンの効率を大きく左右する可能性があります。

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 余談ですが、物流が生み出す価値は何なのか聞かれると、A地点からB地点に届けること、つまり空間の移動が物流の価値だと答えてしまいがちです。ただ、それが現代社会において本当に付加価値なんだろうかということを考えてみる必要があると思います。例えば富士さんの山頂では、ジュースが500円で売られているそうですが、このような人間が容易に到着できない場所であれば、たしかにA地点からB地点に空間的に移動させるという行為は、大きな価値を生むでしょう。しかし、現代における企業物流で、そういう価値、そういう役割が中心であるとは言えないと思います。現代の物流は、企業・消費者間でサービスや物を必要な時に必要なだけ、スムーズに流通させるバックボーンであると言えるかと思います。ですから、信頼性とか品質、こういうものが、トータルの付加価値の相当部分を占めているのではないかと思います。

9.日本は品質についてはトップランナーである

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 このように、ミスをなくして品質をあげていくことが重要だと考えられるわけですが、すでにそういう考え方は、日本の産業全体にいきづいているといると思いますし、日本産業の競争力はなにかといったらやはり品質の高さだと、皆さんにも同意していただけるんじゃないかと思います。物流についても欧米のデータと比べますと、この右のほうがヨーロッパのデータですが、欧米のデータと日本のデータを比べてみますと圧倒的に日本の方が物流品質が高いということがわかるかと思います。欧米の数値は、不完全な輸送の比率ということで、若干定義は異なると思いますが、誤出荷率と大きくは違わないと見て良いと思います。ヨーロッパにおけるミス率は大体6.2%いうことで非常に高いわけです。アメリカについても、同じような比率です。それらと比べてみても、圧倒的に日本の品質は高いのです。これは間違いなく、日本経済の産業の競争力にもなっているのです。
 では日本は昔から品質が高かったのかというと必ずしもそうではないと思います。やはり、バブル崩壊からの20年は非常に厳しい経済環境だったわけですが、この間、物流の市場規模がほぼ一定という環境下で、物流企業さん同士が既存の荷主さんをいかに囲いこむかというところを重視せざるをえなかったのです。つまりお客様からのクレームを極力なくなさければならない状況で、特に品質が改善してきたということがあるんじゃないかと思っています。
 一方で海外、欧米諸国を見ますとリーマンショックの前まで、アメリカの人口は、かつて2億数千万人だったものが3億人を超えるまで増加しているように、非常に高成長を維持しています。ヨーロッパも経済は同様に高成長だったのですが、その高成長の環境下では、どちらかというと、リスクを恐れるというよりは、むしろより市場を拡大する方向へ目がいくものではないでしょうか。拡大経済下では、例えばクレームがあって顧客を失ったとしても、代わりの新しい顧客を探してくるということが可能ですから、どちらかというとミスをおそれるよりも、顧客を拡大する方に目がいっていたものと思います。
 このように考えると、これから欧米が日本と同じように低成長になっていくとすると、欧米諸国でも品質改善に力を入れていく可能性があると思います。
 それに対して日本はさらに先をいっていて、縮小経済に入るのではないかと考えられます。先ほどの田中社長の講演のなかで、藻谷浩介著「デフレの正体」の書籍の紹介がありましたが、デフレの背景には人口減少があるということですから、物流の観点から見ると、物流量が増えるというストーリーは非常に描きづらいということです。そういう状況でどうなるかというと、冒頭からお話しているとおりコスト削減の要求自体は相変わらず続くだろう、それに対して市場自体が増えるわけではないので、その場合、ミスしてもいいのでコストをさげてくれということは考えづらいのではないでしょうか。やはりクレームがきてお客様が逃げてしまうとそれを取り返すのが非常に困難であるという状況は、今より強まると思います。そうすると、ミスを減らし、しかもコストを下げていく、この2つを両立させていくことが、
あい変わらず求められるのではと推測できるかと思います。
 ということで、それを両立させるためにどういう取り組みをすべきか、ということを4点ほど説明させていただいて最後のまとめとしたいと思います。




※後編(次号)へつづく



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